第2話:薬草問題再び
テレーゼ姉妹宅への訪問で、少なからずリフレッシュできたソフィア。その彼女の相談事について、テレーゼたちが丁寧に対応します。
テレーゼの自宅に宿泊して朝食まで済ませて十二分に英気を養ったソフィアとジークリットは、テレーゼとマーヤと一緒にマルクトの街のギルドに向かう。彼女たちへのおもてなしを手助けしてくれた妹たちには本当に感謝である。
マルクトの街に入り、街の中心部にあるギルドに入る。そして、そのままジークリットの執務室に。マーヤが全員分の紅茶を用意してくれた。
「テレーゼさん、昨日は本当にゆっくりできたわ。あと、美味しい料理をたくさん出してくれて本当にありがとう」
「喜んでもらえて何よりです。料理を作ってくれた妹たちには伝えておきます。ところで、今回マルクトにやって来たのは相談事があるとのことですが、どういうことでしょうか?」
「テレーゼさんたちがボアの群れを移動させてくれたお陰で、イェソドの街や周辺の村々の農作物や人的被害が激減したのよ。そのことでギルド全体がほっとしていたんだけど、つい最近のことかしら、ボアがいなくなったことから、これまで安全確保のため、休止していた初心者向け回復ポーションの原料となる薬草の常設依頼を再開したんだけど、原因は不明だけど再開前に比べて明らかに未達成の事案が増えているの。それで、テレーゼさんならその原因や解決策を知っているのではないか、と思ってやって来たのよ」と、ソフィアとテレーゼ。
「その件に関してはまず私から話そう。以前マルクトでも全く同じ事態に陥ってしまい、そのことを含めてテレーゼに解決してもらったんだが、それがきっかけでギルドの立て直し(改革)に繋がったんだよ。それはともかくソフィーア、薬草は、おそらく常設依頼を出しても「コブ」のない薬草ばかりしか納品されないんじゃないのか?」と、ジークリットが会話に加わる。
「ジークリット、まさにその通りよ。もしかして、ボアがいなくなったことが、薬草が採れないことと何か関係があるの?」
「少し前にテレーゼたちが貴重な情報を教えてくれたんだが、あの薬草のコブは、ボアが身体に付いた寄生虫を薬草にこすりつけてしばらく経つと発生するらしいんだ。つまり、あのコブは、ボアの寄生虫による虫コブなんだよ」
「嘘でしょう!?私もあの薬草で作られたポーションは前に飲んだことがあるのよ。酷く不味いとは思っていたけど、まさかボアの寄生虫を使ったものだったなんて・・・思い出しただけでも気分は良くないわね・・・」
「話を戻そう。それで、虫コブの付いていない薬草はどうしているんだ?」
「新人たちがせっかく採ってきてくれたから、一応ギルドで引き取ってそのまま保管しているわ。但し、倉庫内に相当保管されていて、しかも使い物になりそうにないから、あと1ヶ月ほど経ったら焼却処分しようと思っているのよ」
「ソフィーア、その薬草はきちんと原料になるから捨てちゃ駄目だ。あとは、回復薬の開発者であるテレーゼに説明をお願いするよ」
「薬草や回復薬の話に関してですが、私がツンフトマイスターから説明を引き継ぎます。まず、製造工程を実際に見ていただいたほうが話が早いと思いますので、今から作業室で、虫コブのない薬草を使って実際に回復薬の製造を行おうと思います。ツンフトマイスター、それで構わないでしょうか?」
「そこは全面的にテレーゼに任せるよ。製造方法を開発したテレーゼが構わないのなら、ソフィーアが率いているイェソドのギルドに製造方法を伝授することに否は無いからな」と、テレーゼ、ジークリット、ソフィア、マーヤはギルドの作業室へ。
「基本的な製造工程は、虫コブの付いた薬草とほぼ同じです。但し、全く同じようにポーション作成を行うと、薬草に含まれる薬効成分をほぼ半分しか引き出せません」と、テレーゼは虫コブのない薬草を使い、途中までは虫コブの付いた薬草と全く同じ製造工程で作業を進める。
「そこで、虫コブのない薬草を原料に使う場合、追加の作業が必要となります。便宜上「使用済み」と呼称しますが、実はこの使用済みの薬草には薬効成分がほぼ半分残っていますので、これを引き出すために使用済みの薬草をすり潰します」と、すり鉢で薬草を細かくすり潰すテレーゼ。
「ちょっと待って。何故テレーゼさんは使用済み薬草に薬効成分が残っていることが解るの?」と、質問を行うソフィア。
「私が以前開発した「鑑定魔法」という魔法を使って確認しました。また、新しい回復薬を製造した直後に、ツンフトマイスターとマーヤに実際に使用してもらい、改めて効果の確認も行いました」と、テレーゼが答える。
「鑑定魔法という魔法があること自体、初めて聞いたわ・・・というか、そんな魔法を創り出せること自体本当に凄いわ・・・」
「実験を続けます。すり潰した薬草をポーションの原料に加えて良く攪拌したら、その後は虫コブ付きの薬草でポーションを作る製造工程と同じですが、一番最後にこのポーションを目の細かい網で漉します。これを行わないと、ポーションの瓶にすり潰した薬草の繊維などが付着してしまい、飲用し辛いからです。この作業は、この後の粉薬の製造を行う前に不純物を取り除くためにも必要です」と、ポーションの濾過を行うテレーゼ。
「これでポーションは一応完成ですが、これまでの作業を見ていただいたように、従来品に比べて製造のための作業時間がより必要なため、販売に際しては、その分価格が上昇してしまいます。
そのため、新しい薬に何らかの付加価値を加えたうえで、価格も抑えられないだろうか?と思いました。具体的には、ポーションの水分を蒸発させて粉薬にすれば、ポーションに比べて保存性や携帯性が格段に向上するうえ、服用に際して基本的にポーションの瓶が不要になるため、従来品のポーションと同等以下に価格が抑えられるのではないかと考え、これを試してみました。
水分の蒸発・乾燥に関しては、私は魔法を使いましたが、ポーションを火に掛けるなり、風のない場所で天日干しにするなりしても十分に可能です」と、テレーゼ独自の合成魔法であるドライヤー魔法を使って水分を蒸発させ、ポーションから粉薬を作成するテレーゼ。
「以上で虫コブのない薬草を使った新しい回復薬の完成です。ソフィアさん、もし良ければこの薬を試してみて下さい」と、作成したばかりの回復薬を薬包紙に包んでソフィアに手渡すテレーゼ。
「それではいただくわね・・・この薬って、こんなに美味しいの!?あと、確かに効き目も実感できるわね・・・後味も爽やかだし、凄く良い薬ね。ジークリット、この薬をぜひイェソドで取り扱わせてもらえないかしら?条件はそちらの言い値で構わないわ」と、薬の品質が劇的に改善していることに驚くソフィア。
「ソフィーア、この薬の製造方法は、開発者のテレーゼが、マルクトの冒険者や薬師たちが困らないようにと、一切の報酬を受け取ることなく、マルクトギルドに権利を譲渡してくれたんだ。だから、君が他所にレシピを流出させず、イェソドのギルド管内だけで販売すると約束してくれるのなら、薬のレシピはタダで譲渡するよ」
「ジークリット、本当にありがとう。ギルドマスターである私が、いいえ、イェソドのギルドとして堅く約束させていただくわ。この件に関しては後日早馬で正式な書面を届けさせるわね。
あと、テレーゼさんは、これほどの凄い薬を創り上げたのに、その権利を無償で譲渡するなんて・・・先日のボアの群れを移動させてくれたときもそうだったけど、あなたって本当に豪胆で優しい人なのね。もし許されるのなら、あなたをこのままイェソドまで連れて行って、私の代わりにギルドマスターをお任せしたいわ・・・」
「おいおい、回復薬はともかく、テレーゼをイェソドに連れ帰られたら本当に困るよ」と、ジークリット&ソフィア。イェソドでの回復薬の製造販売を快諾してくれたジークリットに感謝するとともに、テレーゼが回復薬の権利をマルクトギルドに無償で譲渡した経緯を知り、心底驚嘆するソフィア。何はともあれ、ソフィアの相談事が無事に解決できたことに安堵するテレーゼである。
昼食休憩の時間になり、ソフィアは用意された昼食を口にしたあと、マルクトギルド内で職員たちが興じているボードゲームを興味深そうに見ていた。
「マーヤさん、たくさんの職員が遊んでいるあの白と黒の丸いコマをひっくり返すゲームって初めて見たんだけど、何かしら?」
「私たちはリバーシと呼んでいます。このゲームは、テレーゼ代理が作り上げてギルドに販売を委託してくれているのですよ。今ではマルクトまでやって来た商人が、ギルドでこのゲームを仕入れて、王都以北でも販売しているらしいです。ゲームのルールは簡単ですので、すぐに覚えられると思います。もし良かったら2セットほどルールを書いた紙と一緒に差し上げましょうか?」
「新しいゲームがセフィロトで流行しつつあるというのは聞いたことがあったんだけど、イェソドではなかなか手に入らないらしく、実際に見たことがなかったのよ。だから、とても嬉しいわ。というか、このゲームもテレーゼさんが作ったの!?本当に多芸多才なのね・・・彼女が制作者なら、このゲームは相当な腕前よね?」
「もちろんです。私やギルドマスターやギルドの職員たちが時々テレーゼ代理と対戦するのですが、これまでの相当な数の対戦でも、手加減なしの場合は全く誰も勝てないくらい強いです」
「マーヤさん、もし良ければ私に少しこのゲームを教えてくれないかしら?」と、ソフィア&マーヤ。初心者でも十分楽しめるこのゲームに、ソフィアはすっかり夢中になっていた。
「ソフィーア、今日は私の家に招待するよ。久しぶりだから、2人で飲み明かそうじゃないか。あと、マーヤからリバーシを教わったそうだから、飲みながらでも一緒にやろう」
「いつも夜通し飲んでいるのはあなただけでしょ・・・ジークリットももうそんなに若くないんだから、深酒は控えたほうが良いわよ。一緒にリバーシで遊ぶのは楽しみだけど」
「流石に明日の勤務に支障が出るくらいの痛飲はしないさ。ソフィーアは明日の乗合馬車でイェソドに帰るんだろ?送別会というのは大げさだが、友人との最後の夜なんだから少しくらい良いだろ」
「もう、しょうがないわね・・・テレーゼさん、マーヤさん、今日は本当にありがとう」
「こちらこそお役に立てて何よりです」
「明日の出立のときは、テレーゼ代理と一緒にお見送りさせていただきますね」と、ジークリット、ソフィア、テレーゼ、マーヤ。ややもすると痛飲癖があるジークリットが心配であるが、ソフィアがいっしょにいるのなら、そこまで面倒なことにはならないだろうと、遠ざかる2人を見送りながら思うテレーゼである。
「それじゃ、マーヤ、私たちも帰りましょうか」
「はい、テレーゼお姉さん」と、家路を急ぐテレーゼとマーヤである。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
ソフィアの相談事が無事に解決できて良かったですね。それと、知る人ぞ知る、今セフィロトで注目されているボードゲームを手に入れて嬉しそうなのは何よりです。明朝までのジークリットとの酒盛りがどうなるのか解りませんが、抑え役のソフィアがいるのですから、滅多なことにはならないでしょう(多分)。
この話で70話となりました。途中、プロットの見直しなどを行ったり、話が行き詰まりそうになりましたが、熱心に読んで下さる読者様のお陰で何とか続けられています。本当にありがとうございます。次は80話を目指したて頑張っていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。




