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テレーゼ院長のセフィロト見聞録  作者: 西風の剣
第1章:出逢いと魔法
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第3話:街の中で

 辺境の街マルクトのギルドに向かう4人。

 テレーゼは偶然女の子が受傷するところを目撃します。

 昨夜、アデリナに使った回復魔法の効果を確認するため、朝食後アデリナに骨折の疼痛の有無を確認してから昨日作ったばかりのシーネを切り開いた。


 「アデリナ、手首見せてくれる?少し触るわね」とテレーゼが骨折した部位の視診と触診を開始する。正直な話、魔法の効果に半信半疑だったが、昨夜の回復魔法はアデリナの骨折を完治させていた。


 「ちょっと左腕、動かしてみて。痛くない?」


 「テレーゼ、何ともないよ。凄いよ、たった一晩で骨折を治すなんて。でもテレーゼは昨日全治2ヶ月とか言ってなかったっけ?」


 「テレーゼさんが覚えたばかりの回復魔法使ったんですよ」「アデリナが酔っ払って寝た後の話」カトリナとヘレナが驚いているアデリナに説明する。


 「しかもテレーゼさん、全属性の魔法を杖なし、無詠唱で連発しても魔力切れをしなかったんですよ」

 「うん、あれは普通の人間ができることじゃない」とカトリナ、ヘレナが説明を続け、それを聞いたアデリナは「テレーゼ、ぜひアタシたちのパーティーに入ってくれ!全属性持ちなんて頼もしすぎる!」とテレーゼを勧誘していた。


 「アデリナは酔って寝ていたから知らない話ですけど、テレーゼさんは他所の国から理由は解りませんが飛ばされて来たみたいですから、今日はギルドで身分証を作ってもらうことになったんですよ。怪我を治してくれた恩人に、無理強いしちゃ駄目ですよ」と、カトリナが今日の予定を説明する。


 「そうなんだ、とにかくテレーゼ、ホントにありがとう。これですぐにでも討伐依頼を受けられるよ」


 「テレーゼさん、準備が出来たら街に行きましょうか?」戸締まりを済ませた後、4人は街に向かった。


 「カトリナ、そういえばマルクトの街ってセフィロトの国の辺境なのよね?王都はダアトで、マルクトからはかなり離れているって教えてもらったけど・・・」

 (「セフィロト」っていう名前でまず思い浮かぶのは、キリスト教の宗教改革を行った中心人物である、中学の世界史にも出てくる有名なドイツの神学者がいたけど、彼の手による旧約聖書の翻訳版に出て来た「生命の樹」の別名だったわよね・・・もし旧約聖書に出てくる生命の樹の配置そのままなら、マルクトって一番下側だったかな?というか、カトリナたちから国の名前を聞いたのに、いつまでも「知らない場所」という表現も何か変ね・・・)


 「そうですね。マルクトって魔物から国を護るための最前線ですね。ですからギルドも賑やかですし、新しい戦力はいつでも大歓迎なんですよ」


 「私は昨日初めて魔法を覚えたばかりだから・・・戦力と言ってくれるのは嬉しいけど正直自信はないかな?」


 「無理にとは言いませんから。そこはギルド登録してゆっくり考えてもらって構いませんよ。今日はギルドへの討伐完了の報告と、テレーゼさんへの恩返しなんですから」


 街の入り口にいた門番にギルドの身分証を提示し、身分証のないテレーゼの分の通行税(銅貨5枚、日本円で500円くらい)を支払って、そのままギルドに向かう。


 4人のそばを馬車が通過して行くが、少し前にいた女の子が馬車の接近に気付くのが遅れ、母親が咄嗟に左腕を引っ張った。

 馬車はそのまま走り去っていったが、直後から女の子が激しく泣き出した。左腕の肘を痛がるような仕草を見せており、どうも様子がおかしい。母親は突然泣き出した娘にオロオロしている。


 「ちょっと行ってくるわ」テレーゼは女の子のところに駆け寄る。


 「どうしたの?ちょっと見せてね」とテレーゼは女の子の左腕、特に肘を重点的に視診と触診を行う。


 「もしかして先生ですか?娘が突然泣き出して・・・どうしてなのかわからないんです・・・」と心配そうな母親。


 (さっき馬車を避けるために、お母さんが娘さんの左腕を思いっきり引っ張ったけど、そのときに肘関節が肘内障ちゅうないしょうになってしまったんだわ・・・)

 肘内障とは、橈骨が肘関節から抜けてしまう「亜脱臼」(一応自分で整復できるような脱臼を指すが、実際にはまず無理である)の一種で、幼少期は肘関節がまだ成熟していないため好発しやすい外傷のことである。

 「お母さんがさっき娘さんの腕を引っ張ったとき、肘関節の骨が元の位置から少し抜けてしまったんですよ。すぐ治せますから大丈夫ですよ」テレーゼが母親に説明する。


 「そうですか・・・でも治療してもらうお金が・・・」

 この世界の教会や医者の治療費は、昨日アデリナたちから聞いていたように相当高いようだが、そんなことより痛くて泣いている娘さんを早く何とかしてあげたいとテレーゼは思った。


 「目の前で痛がってる子供からお金は取れませんよ。今から施術を始めますね」

 そう言って、テレーゼは女の子を近くにあったベンチのような平らな石の上に座らせる。


 次に、左手で女の子の左肘を把持し、右手で左前腕の中央部付近を把持しつつ、前腕を「回内かいない」「回外かいがい」(この場合、女の子の左前腕を手の甲の方向に回すことを「回内」、掌の方向に回す事を「回外」という)を繰り返しながら橈骨を優しく肘に押し込むように整復する。

 施術のとき、橈骨が元の位置に整復された感触があり、女の子は泣き止んだ。


 整復後、女の子に左肘を曲げたり伸ばしたりてもらい、整復されたことを確認した後、最後に昨夜覚えたばかりの回復魔法を掛けて軟部組織なんぶそしき(筋肉、腱、血管、神経などのこと)の治療を行い、施術完了である。


 「終わったわよ」テレーゼは女の子に話しかける。


 「手が痛くない!私、アンナ。お姉ちゃんありがとう。お名前何て言うの?」


 「テレーゼよ、よろしくね。アンナちゃん、痛かったのによく頑張ったわね。これあげる」テレーゼがポケットに入れていた飴をアンナに渡す。


 「甘くておいしい!テレーゼお姉ちゃんありがとう!」


 「先生、アンナを治して下さってありがとうございました。それにお菓子までいただいて、何とお礼を言って良いやら・・・」


 「気にしなくて良いですよ。それより、今回はアンナちゃんの左腕を強く引っ張って肘が亜脱臼したので、これから道を歩くときには、なるべく馬車が走る反対側をアンナちゃんに歩いてもらって、腕を引っ張ることがないようにしてあげて下さい。あと肘の亜脱臼は本来完治に3週間程度必要で、その間は腕を固定するのですが、施術後に回復魔法を使って完治させています。ところでアンナちゃん、おいくつですか?」


 「6歳です、先生」


 「そうですか。肘の亜脱臼は、だいたい7歳以上になると(日本やドイツだったら、小学校やグルントシューレに入学して、最初に誕生日を迎えたくらいよね・・・)腕の骨が成長して起こりにくくなりますが、それ以降であっても大人に比べると亜脱臼が起こりやすいので気をつけてあげて下さい」


 「先生、本当にありがとうございました・・・」「テレーゼお姉ちゃん、ばいばい・・・」テレーゼは母娘と別れた。






 「テレーゼって、ホント良い女だよな・・・」

 「あんな丁寧な治療、教会や医者でもできない」

 「しかも最初から治療費受け取るのを断ってますからね・・・あれを彼らが治療しようとしたら、怪我人そっちのけで、最初に治療費の話を始めるでしょうし、たとえ治療が成功して良くなっても、金貨2枚(日本円で約20万円)は最低でも要求されると思いますよ」


 アデリナ、ヘレナ、カトリナは、改めてテレーゼの柔道整復師(セフィロト的に言えば回復魔法が使える医者)としての実力と懐の深さを強く認識したようである。

 最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

 当たり前のように無私の心でサラッと人助けができるテレーゼに、作者は強く痺れますし憧れます。

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