第1話:ギルドマスターたちの来訪
両親たちとの本当に有意義な時間を過ごしたテレーゼ姉妹のところに、イェソドの街のギルドマスターがジークリットと共に挨拶に訪れます。
変身魔法を開発した翌日、テレーゼは両親を実家まで車で送り届けた。転移魔法の開発者であるテレージアと剛史は自力で実家まで瞬時に移動できるのだが、今回は農場で採れた農作物や、飲用可能な温泉水などお土産が多かったので、テレーゼが実家まで配達することにしたのである。なお、今回のお供は、テレーゼと一緒に日本からやって来たペルレと、ギルドに出勤したマーヤを除くと、今まで日本に行ったことがないエーファである。
「エーファ、また何かあったら、独りで悩まずに、誰にでも遠慮せず自分の気持ちを伝えると良い。娘たちやテレージアもだけど、絶対にその気持ちは無碍にしないから」
「父君、母君・・・此度の心温まる恩義を我は、いや我らは終生忘れぬ。衷心から感謝する・・・」
「エーファちゃん、大げさよ。私たちこそ可愛い娘のために何かできたことが嬉しく思うわ♪ティアナちゃん、テレーゼちゃん、みんなにもよろしくね。また遊びに来るわね♪」
「お父さん、お母さん、本当にありがとう。せっかく魔法が出来たんだから、いつでも遊びに来てね。もちろん、なるべくこっちからも行くから」
「剛史さん、テレージアさん、私やイーナやエーファもですが、本当にありがとうございました」と、剛史、エーファ、テレージア、テレーゼ、ティアナ。今回の両親の滞在は、テレーゼ姉妹たちにとって本当に濃密で、計り知れない大きな意義を持つものであった。テレーゼの自宅から同じ団地内にある実家は2キロも離れておらず、通信魔法もあるのでいつでも会話が、もっと言えば転移魔法でいつでも逢うことすら可能なのだが、物理的な距離以上に別れの寂しさを感じる5人だった。
両親を実家に送り届けて自宅に帰ったテレーゼたちは、1日クールダウンを設けることにした。いろいろなことがあったので、一度落ち着いた方が良いというテレーゼの判断である。
そして翌日の夕方前のことであるが、まるでテレーゼたちの休み明けを待っていたかのように、ギルドに出勤していたマーヤから、自宅にジークリットとソフィアを連れて帰りたいが構わないだろうか、という伝送魔法による連絡があった。
マーヤの話によると、イェソドの街のギルドマスターであるソフィアが、ギルド内の状況が一段落したことから、7日間の旅程で、国境のマルクトまでお礼のために挨拶にやって来たとのこと。加えて若干の相談事もあるらしい。
そこで、マルクトの街のツンフトマイスター(ギルドマスター)であるジークリットは、マーヤ経由でテレーゼに自宅への訪問(ソフィアが強く希望したとのこと)と、自分の知己であるソフィアの相談事に乗ってもらえるよう打診してきたようだ。
(明日は、ギルドマスター代理としての出勤日だったわね・・・どちらかと言えば今夜はソフィアの歓迎会で、彼女の相談事については明日の出勤日に受けた方が良いかも知れないわね・・・)と、テレーゼはソフィアへの対応についての考えをまとめて、マーヤには伝送魔法でソフィアたちの訪問を歓迎する意向を伝え、他の妹たちには夕食などの準備を行うよう通信魔法でお願いした。なお、ギルドにいるマーヤに伝送魔法で連絡したのは、マーヤからテレーゼへの連絡もだが、通信魔法のことがジークリットたちに伝わらないようにするためである。そして、ギルドへの連絡を行って1時間ほど経った頃に、マーヤがジークリットとソフィアを連れて帰ってきた。
「テレーゼ代理、無理を言って申し訳ありません」と、マーヤはテレーゼの部下としての会話である。
「マーヤ、連絡ありがとう。あと、お二人とも、遠路はるばるお疲れ様です。大したことはできませんが、歓迎します」
「テレーゼ、いつもすまないね。ソフィーア(ソフィアのこと。ジークリットが彼女のことをドイツ風にソフィーアと呼ぶのは、ジークリットの口癖である。第14章第2話及び第4話を参照のこと)がどうしても君にお礼が言いたいということだったから、こっちに連れてきたんだ」と、ジークリットが会話に加わる。
「テレーゼさん、先日のボアの群れは、あなたが農場内で保護していると聞いてビックリしたわ。お陰でイェソド周辺でボアによる被害は激減して本当に助かったわ。改めて本当にありがとうございました。ところで、少し気になることがあったものだから、ぜひあなたに相談に乗ってもらえないかなと思って」
「相談事に関しては、明日ギルドへの出勤日ですから、そこで伺います。それで、今夜くらいは少しでも仕事から離れてゆっくり過ごして下さい。とりあえずお風呂でもいかがですか?既に準備は終わっていますので、こちらにどうぞ」と、ソフィアたちを案内するテレーゼ。
「この風呂には先日入らせてもらったけど、ちょっと見ない間に、新しい設備が増えているんだが・・・」
「こんなに大きくて白いお風呂は、初めて見たわ・・・それにお湯がこんなにふんだんに使われているなんて・・・ダアトの王城ですらここまでのお風呂なんてなかった筈よ・・・」と、先日増設が終わったばかりの、温泉を利用したお風呂に驚くジークリットとソフィア。
「つい先日、近くで地面からお湯が湧き出ている場所を見つけたので、そこのお湯をお風呂に引いてきました。身体に良いお湯ですので、ゆっくり寛いで下さいね。あと、設備の使い方はさっき説明した通りですが、もし解らなければマーヤに聞いてもらえればと思います。お風呂が終わったら自宅まで戻ってきて下さいね」と、テレーゼ。
「テレーゼさん、あのお風呂、とても気持ちが良かったわ。特に打たせ湯、って言うのかしら?お湯が身体の凝った部分に当たると、凄く気持ちが良いのね・・・」と、ソフィア。
「それは良かったです。折角ですので、こちらのベッドにどうぞ。身体をほぐしますね」と、かつての施術室にソフィアを案内して、彼女の身体の施術を開始するテレーゼ。多少温泉でリラックスしたとはいえ、身体中が凝っているようだ。丁寧に全身を上半身から下半身に向かってほぐしていく。30分ほど念入りにほぐして回復魔法も使ったので、見違えるように身体が楽になったようだ。ジークリットが羨ましそうに見ていたので、彼女にも同じように施術を行うことにする。
「テレーゼさん、このマッサージという治療は初めて受けたけど、物凄く気持ちが良いわ。お陰で身体が目に見えて楽になったわ。ジークリットにあなたの職業はお医者様だと聞いたんだけど、あなたのような上手な人は、教会の回復魔法使いを含めて見たことも聞いたこともないわ。本当にありがとう」
「テレーゼが医者だというのは前々から知っていたんだが、ソフィーアの言うように凄腕の医者だったんだな・・・ソフィーア、既に知ってるかも知れないけど、彼女は魔法や体術も凄腕だし、うちのギルドを短期間で改革した手腕や、うちのギルドの新事業としてマルクト周辺で定着した、安価で良心的な置き薬事業などを挙げるまでもなく、物凄く頭も良く豪胆だけど、物凄く義理人情に篤く優しいんだよ。本人がその気なら、喜んでツンフトマイスターの地位を譲るという、私の気持ちが強く理解できるだろ。本当にうちのギルドの、というよりはマルクトの街や周辺の村々を含めた地域全体の宝だよ」と、ソフィア&ジークリット。過分すぎる自分への評価はともかくとして、2人が施術の効果を体感して凄く喜んでもらえたのは何よりである。
テレーゼによる2人のギルドマスターへの施術が終わり、妹たちによる夕食の準備が既に終わっていたので、一緒に上の階に向かう。ソフィアは、施術室や自宅に置いてあるセフィロトで見たことがない品物が珍しいのだろう。階段を上がる途中にも、テレーゼに質問をしていた。
部屋に入ると、ソフィアたちの歓迎の宴のために心尽くしの料理を、妹たちが頑張って用意してくれていた。今夜の料理食材の大半は、農場で採れたばかりの無農薬野菜だったため、テーブルの上には、それらの野菜をふんだんに使った、とても新鮮で美味しい料理が並んでいた。早速料理に舌鼓を打つテレーゼ姉妹とギルドマスターたちである。
「テレーゼさん、このイチゴって初めて食べたけど、とても大きくて綺麗だし、物凄く甘くて美味しいわ。あと、この唐芋の焼き芋も物凄く大きいし甘くて美味しいわね。どちらも本当に野菜なの?」
「そうです。野菜は、葉や茎を利用する葉菜と、実を利用する果菜と、土の下で成長する根や茎を利用する根菜に分けられます。イチゴは果物ですが、同時に野菜(果菜)ですね。唐芋は根菜になります」
「それなら、大豆や麦は果菜になるのかしら?」
「大豆などの豆類や、稲、麦、粟、稗といったものは穀物ですが、野菜には含まれません。穀物は成熟して固くなった種を脱穀して食べるものですが、野菜は、まだ成熟していない柔らかいものを食べます。ですから、野菜には成熟した種だけ食べるものはありませんし、基本的には穀物が採れる作物と、野菜が採れる作物は違うものです。
例外として、例えば豆類に含まれる大豆は、成熟していない状態では枝豆という野菜(果菜)ですが、成熟して固くなると大豆という穀物になり扱いや分類が変わりますので、同じ作物でも収穫時期によって、野菜と穀物という違いがあります」
「テレーゼさんって、本当に農業に詳しいのね・・・」
「テレーゼ、私も初めて知ったよ・・・流石は自分たちだけで未開の地を切り開いて、ここまで大きな農場を営んでいるだけのことはあるな・・・」
「えっ!?ここの農場は、テレーゼさんたちが、自分たちだけの力で作り上げたの?」
「姉妹全員で食べていく糧として農業を始めたのですが、お陰様で何とか軌道に乗せることができました」と、ソフィア、テレーゼ、ジークリット。思い返すとセフィロトに来て、妹たちと一緒に生活する中で農業を段階を踏んで少しずつ規模拡大を行ってきたが、妹たちの助けを得ながら頑張ってきたことが自分たちの大きな助けになってくれていることを改めて実感できて、そのことをとても嬉しく感じるテレーゼである。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
イェソドのギルドマスターであるソフィアは、以前テレーゼに伝えていたようにマルクトまで挨拶に訪れますが、そこで温泉やテレーゼの施術、料理に使われている高品質の野菜を堪能して、本当に驚きの連続だったようです。
あと、野菜の分類や、穀物との違いについてテレーゼが説明していますが、学生時代や以前の仕事の関係で学んだことを思い出しながら綴りました。一度深く学んだことはそうそう忘れないものだなと、作中のソフィアやジークリットとは違う意味で作者的には驚きを感じます。
次話は、ソフィアの相談事に関して、テレーゼが丁寧に対応します。




