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テレーゼ院長のセフィロト見聞録  作者: 西風の剣
第14章:初めての遠出と出逢い
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第4話:指名依頼の復命と帰宅

 指名依頼をほぼ終わらせたテレーゼ姉妹はイェソドのギルドで復命を行います。その後、群れの移動におけるボアたちの負担を危惧したテレーゼは、ある魔法を開発します。

 テレーゼ姉妹とエーファは身体強化魔法と体力回復魔法を使いつつ、夕方になる少し前にボアの群れのいる場所からイェソドの街に到着した。街が見える少し手前でテレーゼはエーファに隠蔽魔法を掛けた。エーファには従魔と解るように綺麗な目立つスカーフを首に巻いているものの、大きなボアが街に近付けば、たとえ従魔でもボアの被害に苦しむ街の人たちに余計な心配をさせるかも知れない、という懸念があったからである。


 門番にイェソドのギルドで受け取っていた身分証を提示して姿を隠しているエーファ共々街に入り、そのままギルドに向かう。


 ギルドにて、流石にエーファを建物の中に入れるわけにはいかない(加えて、大きな彼女には入り口が狭くて入れそうになかった)ため、テレーゼはギルド裏の訓練場にギルドマスターのソフィアを呼んでもらい、そこで復命を行うことにした。それと合わせて、マーヤとヘレナには馬宿のチェックアウトと、宿に預けた馬車を引き取ってくるようにお願いした。


 ソフィアは丁度他の案件で取り込み中だったようで、テレーゼはその間に簡単ではあるが、復命の概要を取りまとめることにした。接骨院の院長時代から愛用しているリサイクルペーパーとボールペンを挟んだ決裁板(用箋鋏)を空間魔法から取り出し、手際良く文章を綴るテレーゼ。その間、アデリナとペルレとエーファは親睦を深めるべく、ペルレがアデリナとエーファの会話を通訳する形で3人で会話を行っていた。ソフィアが来る前に、何とか復命の取りまとめを終わらせることができたので何よりである。


 受付にソフィアを呼んでもらうようにお願いして30分ほど経った頃に、彼女は1人の受付嬢を伴ってやってきた。


 「テレーゼさん、待たせてしまって本当にごめんなさい。指名依頼に関して何か進展があったのかしら?」


 「ソフィアさん、イェソドの街近郊で、夫婦で300頭ほどの群れを率いていたボアのリーダーを本日従魔にしたのですが、そのまま連れてくると街中で大騒ぎになってしまうので、彼女には隠蔽魔法を掛けています。もし良ければ今から魔法を解除しますけど良いでしょうか?彼女を確認していただいた後に、今回の指名依頼の復命をさせていただきたいと思います」


 「300頭の群れのリーダーの片割れですって!?構わないわ。すぐに魔法を解除してちょうだい」


 テレーゼが魔法を解除すると、一目見てリーダーだと冒険者やギルド関係者であれば誰もが納得できる立派な体格をした、首に従魔の証であるスカーフを巻いたエーファが現れた。


 「テレーゼさん、あなたたちはたった半日ほどで依頼を完了させたの!?従魔になった大きなボアが目の前に証拠としているのだから、依頼を完了させたということは否定しようがないんだけど、依頼を開始したその日に従魔を従えて復命にやって来るとは、流石に驚いたわ・・・あの辣腕のジークリットが自分の右腕だと深く頼りにしているどころか、本人がその気ならいつでもテレーゼさんの部下になっても構わない、と公言するだけのことはあるわね・・・正直な話、こんな規格外な切り札がギルドマスター代理というマルクトのギルドが羨ましいわ・・・」と、驚きを隠せない様子のソフィア。


 「本当に簡単で申し訳なのですが、今回の指名依頼に関しての概要をまとめておきました。補足する形で口頭での説明をさせていただきます」と、テレーゼが復命を開始した。今回エーファを従魔(テレーゼ的には、自分と友達になってくれたエーファを従魔と呼ぶのは、彼女の首に巻いた従魔の目印であるスカーフを含めて好きではないのだが、今回はイーナのように人化魔法を試みる時間的余裕がなかったため、やむを得ないところではある)にして、マルクトの南方にある人里離れた森林に群れを移動させることで、今後は完全とは言わなくとも人的・物的被害が間違いなく激減するであろうことと、ボアの群れの移動はこの復命直後にすぐ行う予定であるが、移動が完了するまで最大1週間ほどの間、イェソドのギルドでボアの討伐依頼を出さないで欲しい旨を伝えて復命を終える。


 なお、テレーゼが以前マルクトのギルドで行い、その後同ギルドで定着させた説明資料を用意しての復命はイェソドのギルドでまだ行われていないものだったが、ギルド職員による復命内容の整理・取りまとめがほぼ不要のいわゆる「テレーゼ方式の復命」はとても有り難かったようで、受付嬢から深く頭を下げられた。


 「テレーゼさん、そして皆さん、本当にありがとう・・・」と、パーティーのメンバーに深く頭を下げるソフィア。イェソドのギルドで喫緊の課題であったボア関連対策であるが、テレーゼたちが初日で決定的な成果を挙げたことに心底感謝してくれているようだ。


 「本来なら、イェソドのギルドであなたたちの慰労会を行わせて欲しい所なんだけど、確かにボアの群れを誘導するのは待ったなしでしょうから、本当に申し訳ないんだけど、後のことはよろしくお願いするわね」


 「わかりました。先程説明したように群れにはもう1頭リーダーがいてエーファの旦那さんとのことですけど、街外れの森林地帯で群れに待ってもらっているので、すぐに迎えに行くことにします」と、テレーゼが口にしたところで、馬宿に馬車を引き取りに行ったマーヤとヘレナが馬車に乗って戻ってきた。2人にはマルクトに帰るまでの道中で必要な物資の買い出しもお願いしていたのだが、手際よく片付けてくれたようで何よりである。


 丁度同じ頃ギルドの受付嬢数人が訓練場までやって来て、今回の依頼の対価として大きな木箱に入った報酬(指名依頼の説明があったときにジークリットとマーヤに確認したところ、イェソドのギルドの約半年分相当の予算とのこと)を渡されるテレーゼ。


 ボアの大群による被害対応に追われているイェソドで、それだけの覚悟をしてテレーゼに指名依頼をしてきたソフィア以下イェソドのギルドだが、そのことを強く意気に感じていた彼女は今回報酬を辞退することにした。これは、依頼を引き受けることを決めたその日の夜に妹たち全員にも話したことであるが、姉の強い意思を妹たちは尊重してくれた。報酬はボア被害に対してのギルドや街へのお見舞いに加えて、今回のボアの大移動により万一今後何らかの問題が発生したら、そのお金で補償をして欲しいという意図をソフィアに伝えると、物凄く恐縮されたが受け取ってもらえて何よりである。


 (大移動と言えば、中学の世界史で習った、遊牧民族であるフン族の圧迫により4世紀に民族大移動を余儀なくされたゲルマン民族(ドイツ系住民の多くがこれに含まれる)のことを思い出すわ・・・)などとふと思いつつも、今回自ら企画立案したボアの移住計画を必ず完遂しようと改めて決意するテレーゼである。


 「それでは、ソフィアさん、皆さん、失礼します」


 「今回のテレーゼさんたちの働きによる成果は、イェソドのギルドだけでなく、街や村に住む人たち全員にとってずっと待ち望んでいた何よりの朗報です。しかも危険極まる、もう1頭のボアリーダーとの力比べや、今回の依頼を無報酬でして下さったことも含めて、テレーゼさんたちの多大な働きとその豪胆さはギルドを預かる者として、またイェソドの住民の1人としても決して忘れません。今回の件が落ち着いたら、必ずテレーゼさんたちの所に挨拶に伺わせて下さい。改めて、本当にありがとうございました・・・」と、お互い挨拶を交わすテレーゼとソフィア。ソフィアの挨拶は、テレーゼたちへの強い謝意と敬意をにじませたものである。テレーゼは再びエーファに隠蔽魔法を掛ける。そして、多くのギルド職員たちに見送られてイェソドの街を出るテレーゼ姉妹とエーファである。






 馬車を走らせて、途中でエーファに掛けた隠蔽魔法を解除したり彼女や馬たちに回復魔法を掛けたりしつつ、日没までにエーファの伴侶が待っている森林地帯に到着した。テレーゼたちはここで野営を行うことにした。当初はボアを翌朝からこのまま移動させることを考えていたテレーゼであるが、その場合、ボアたちに道中の食べ物を確保することの問題や、何よりもボアの子供たちにはあまりにも長い移動距離なので、急遽編み出したある新しい魔法を使わせてもらうことを考えていた。もし不具合があると困るので、ボアたちに魔法を使う前に自分自身で実験することにした。


 因みに魔法のイメージは、テレーゼが幼少の頃に毎週見ていた、女の子の主人公が色の付いたキャンディを食べて、小さくなったり大きくなったり動物になったり人間に戻ったりするアニメ(なお、初回放送時にはテレーゼがまだ生まれておらず再放送)である。


 まず、テレーゼが自分にその魔法を掛けるとだんだん小さくなって、最終的にはペルレの身長(約20センチ)よりも相当小さくなった。テレーゼが小さくなった途端、ペルレが前から抱きついてきて、まるで愛しい我が子のように彼女の胸元に抱きあげられた。ペルレから抱きあげられるのはこれまでなかったことなので、今回図らずもその機会を得てテレーゼのことが心底大好きな彼女の感情が抑えきれなくなったのであろう。


 その後、ペルレはテレーゼを抱きあげたまま、とても嬉しそうに他の妹たちの身長くらいの高さを少しの間飛翔していた。テレーゼもペルレが飛行することで身体が小さくなったときの目線をより体感できた(加えて、体重が小さくなった身体相応にまで減少することが確認できた。もっとも、それを差し引いてもペルレの飛翔力が相当強いことにも驚かされた)ことと、何よりペルレが物凄く喜んでくれたので、今後も彼女のために時々この魔法を使おうと思う。


 彼女が落ち着いたところでもう一度魔法を掛けると、元の大きさに戻った。自分自身で魔法の完成度を確認したあと、エーファに今回の魔法を群れの全体に使わせて欲しいとお願いするテレーゼである。その上で妹たちには、復路の道中は往路以上に休息時間を入れることを話した。


 「今の魔法、姉さんがいきなり小さくなったり大きくなったりして、本当にびっくりした・・・」


 「姉さま♡さっきは姉さまを抱きあげることができて、そして一緒に空を飛ぶことができてペルレは物凄く嬉しかったです♡さっきの姉さまの魔法を使えば、ボアたちの群れを全員馬車に乗せたり、少しの食べ物でも全員でお腹いっぱい食べることができますから、移動が物凄く楽になりますね。あと、道中の休息はボアたちのトイレ休憩ですよね。きめ細やかな心配りは流石姉さまです♡」


 「そういうことか・・・確かにこの魔法があれば食べ物もだけど、ボアたちの移動中に他の人とか畑の作物とかに被害は発生しないな・・・ボアたちのトイレは、姉さんの言うとおり度々馬車を停めて済ませてもらうことにして、その後はアタシの火炎放射魔法とかで後片付けした方が良さそうだな」


 「テレーゼお姉さんがどうやってボアたちを移動させるのかと思っていましたが・・・こんな魔法を創り出すなんて、本当に凄いです・・・」


 (想像力は無限の武器・・・テレーゼさんが、以前妹たちや娘との活法や攻撃防御や魔法の練習を行った日に話していましたけど、まさにその通りですね・・・)


 (いまテレーゼがつかったまほうをわれらにもつかうのなら、なかまたちがべつのところにむかうときにくるしまなくてすみそうだな・・・かんしゃする)と、ヘレナ、ペルレ、アデリナ、マーヤ、ティアナ、エーファ。妹たちの中でテレーゼとの付き合いが一番長いペルレや、頭の回転が速いアデリナがテレーゼの意図を即座に理解していたのは流石である。


 テレーゼはボアの群れ全体に小さくなる魔法を掛けて全員が小さくなったあとで、次に明日からの移動に備えてボアたちに浄化魔法と回復魔法を掛け、寄生虫の駆除と体力・怪我の回復を行う。そして空間魔法で保管していた唐芋を焼き芋にして冷ましてから、水魔法で作った美味しい水を底の浅いお皿に入れたものと合わせてボアたちに与えた。セフィロトで栽培されている芋は甘みのない芋なので、甘くて美味しい唐芋を初めて食べたエーファを含めたボアたち全員から物凄く喜んでもらえた。何よりである。そんなボアたちを見ていると、「簡単な話ではないだろうけど・・・もしいろいろな状況がクリアできれば、農場でずっと一緒に暮らせないかしら?」などという思いがふと頭をよぎるテレーゼである。






 翌朝、ボアたち全員を馬車に乗せ、マルクトの街に向けて出発するテレーゼ姉妹。道中、度々ボアたちのために「トイレ休憩」を挟んだので移動はゆっくりだったが、それでもイェソドを出発して5日目の午後にはマルクトに到着した。先にボアたちを農場で下ろし、食べ物と水を与え、身体を元の大きさの1/4くらいまで大きくして(馬車で移動中の大きさのままだと、地面の小さな石などで怪我をしたり、昆虫や小動物などに捕食されかねないため)から、農場内の空き倉庫に寝床を用意して長旅の疲れを癒やしてもらう。そしてテレーゼたちは、エーファを連れてマルクトのギルドに向かい、馬車を返したあとでジークリットに訓練場まで来てもらい復命を行うことにした。


 「テレーゼ、イェソドからの早馬で、今回の指名依頼が無事に終わったことを聞いたよ。しかもそれだけの大仕事を無償で引き受けるなんて、テレーゼの豪胆さにはいつも驚かされるよ・・・本当にありがとう。ところで、連れてきたボアの群れはどうしたんだ?」


 「縮小魔法という身体が小さくなる魔法を使って、群れ全部を馬車に乗せて連れてきました。今は農場で休んでもらっていますが、マルクト南部の人里から遠く離れた森林地帯に連れて行くか、もっと良い安住の地があればそこで過ごしてもらうようにすれば、マルクトで彼女たちの群れによるボアの被害が発生することはないはずです」


 「300頭のボアの群れ全てに縮小魔法・・・そんな魔法を使えることも含めて、相変わらずテレーゼの魔法は常軌を逸しているな・・・流石は、我らがマルクトギルドが誇るテレーゼだな。ボアの群れの行き先が決まったら教えて欲しい。あと、一応確認なんだが、統率されたボアが人里に戻ってくることはないんだよな?」


 「ボアのリーダーであるエーファを紹介します。彼女を通じて群れ全体に指示していますので、そこは安心です」と、エーファを元の大きさに戻してからジークリットに説明を行うテレーゼ。


 「確かにこの大きさは、大きな群れを率いるリーダークラスのものだな・・・今回の指名依頼の達成は本当にありがとう。ソフィーアの分も礼を言わせて欲しい」


 「(ソフィアの名前をドイツ風にソフィーアと呼ぶのはジークリットの口癖なのね・・・)お役に立てたのなら何よりです。それでは失礼します」と、妹たちと隠蔽魔法を掛けたエーファを連れてギルドを出るテレーゼ。そしてそのまま街を出て自宅に戻る。自宅では留守を護ってくれていた妹たちが苦労をねぎらってくれた。






 (無事に指名依頼が終わって本当に良かったわ・・・あとはボアたちの移動があるけど、とりあえず長旅でみんな疲れているからゆっくり休んで、明日エーファたちの意向を確認した上で行動ね・・・でも正直な話、折角出逢えたエーファたちを別の場所に移動させてそれでお終い、というのは絶対に何か違うと思うわ・・・)と、これからの方針を考えるテレーゼである。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 本話で60話となりました。遅筆かつ拙い話ですが、ここまで熱心に読んでいただいた皆様に深く感謝します。皆様の応援という話を綴る大きなモチベーションがあってこそ、何とかここまで話を続けられたと思っています。次は頑張って70話を目指したいと思います。


 テレーゼ姉妹による指名依頼が無事に終わって良かったですね。テレーゼが参考にしたアニメは話を読まれた皆様であればすぐに解ったと思うのですが、アニメは20年以上前にリニュアルされていて、テレーゼや作者が見ていたオリジナルのものが見られないのは少し残念に思います。それはともかくとして、新しい魔法は、特にペルレには物凄く嬉しかったようです。今後もこの魔法は登場する予定です。


 この話で第14章は終わりです。次章は、エーファたちの群れにとっての安住の地が決まります。それとテレーゼが編み出して使用している魔法に関して、いろいろ検証や実験を行います。ここまで読んでいただいた皆様であれば、次章もきっと楽しんでいただけるのではと思っています。


 次章も一生懸命頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。

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