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テレーゼ院長のセフィロト見聞録  作者: 西風の剣
第14章:初めての遠出と出逢い
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第1話:隣街ギルドからの単独指名依頼

 以前マルクト周辺にいたある魔物の群れが移動したことで大きな問題が発生している隣街ギルドより、テレーゼのパーティーに単独指名依頼が届きます。

 農場の護りの強化や、その後のマルクトの街の防御壁普請工事が終了して数日後、テレーゼのギルドマスター代理としての勤務中、ツンフトマイスター(ギルドマスター)のジークリットが彼女のそばにやってきて話しかけてきた。


 「テレーゼ、いつも本当に申し訳ないのだが、ある単独指名依頼を引き受けてもらえないだろうか?」


 「一体何があったんですか?」


 「テレーゼには以前、マルクト周辺にいたボアの群れが、イェソド方面に大挙して向かったという話(第12章第2話を参照のこと)をしたと思うのだが、実はそのイェソドのギルドマスターが、街の周辺でボアが跳梁跋扈している現状にとうとう音を上げてしまい、昨日うちのギルドに手紙で泣きついてきたんだよ。


 これが早馬で届けられた彼女からの手紙だな。内容はさっき話したとおりだが、彼女は私とは、お互い数少ない女性のツンフトマイスターとして長い付き合いだから流石に放ってはおけなくてね。うちのギルドはテレーゼの奮闘のお陰で危機を脱したばかりか、改革途上中の現状ですらセフィロトでも屈指の有力ギルドと目されるほどに劇的に状況が改善したから、今度は彼女を助けて欲しいんだよ。


 これはツンフトマイスター代理としての他ギルド支援業務でもあるから、依頼を受けている期間中の賃金も支払うことになるだろう。もちろんテレーゼには指名依頼を断る権利もあるのだが、もし良ければ引き受けてもらえないだろうか?」と、ジークリットから手紙を渡されるテレーゼ。


 「具体的には何をすれば良いんですか?」と、手紙に目を通しつつテレーゼはジークリットに質問する。


 「そこはテレーゼが自由に裁量してくれて一向に構わないのだが、さし当たってはボアの被害を少しでも減らして欲しい、ということだな。この件が軽減すれば、アイツなら何とかうまくやれるだろうし」


 「ボアは、以前ティアナに教えてもらった話からすると最低でも100頭単位の群れがいることになりますよね。もしそれを全部駆除するのであれば流石に一筋縄では行かないでしょうし、駆除ができたとしても、そんなに大量の魔物が一度にいなくなったら、ギルドへの討伐依頼や初心者向けポーションの原料である虫コブ付きの薬草が激減して冒険者たちが困るのではないですか?」


 「流石にボアの群れを駆除なり追い払うなりした後の討伐依頼や、虫コブ付きの薬草が激減することへの対策までは、こちらで責任を丸抱えと言うことはできないが、場合によっては、テレーゼが開発してくれた、虫コブのない薬草を原料にした回復薬のレシピを彼女に提供しても構わないだろうか?何にせよボアがイェソド周辺からいなくなってくれれば良いよ」


 「回復薬のレシピはツンフトマイスターが信頼している人であれば、提供してもらって一向に構いません。あと、今回は方法はどうあれ、ボアがイェソド周辺から減少すれば良いんですね」


 「その通りだ。駆除にせよ他所に追い払うにせよ、方法はテレーゼに任せるよ。有り体に言えば、マルクトやイェソドの人里近くに戻って来なければそれで良いよ。あと、レシピのことは快諾してくれてありがとう」


 「解りました。私で良ければこの依頼を引き受けさせていただきます」


 「それは有り難い。アイツも喜ぶだろう。マルクトからイェソドまでは馬車で3日ほどの距離だが、早速馬車を用意させるから、明日のギルド業務開始時間にギルドから出発で良いだろうか?あとイェソドのギルドにはテレーゼの腹心のマーヤも道案内として同行させよう。残りのテレーゼの同行者選びは君に任せるよ」


 「今回の依頼に関して、少しでもテレーゼ代理の助けになれるように精一杯頑張らせていただきますので、よろしくお願いします」と、マーヤが会話に加わる。


 「解りました。あと、マーヤ、こちらこそよろしく頼むわね。ツンフトマイスター、マーヤは今後冒険者としては私たちのパーティーメンバーという扱いになるのですか?」


 「今後のことも考えると、そのほうが良いだろうな。マーヤは現在冒険者としてはフリーだから、テレーゼパーティーへの加入に関しては何の問題もないよ。マーヤもそれで良いかな?」


 (作者注釈:マルクトギルドの職員は、全員が冒険者でもある。ジークリットの遠い先祖がツンフトマイスター(ギルドマスター)に就任したあと、冒険者や依頼の内容を知らなければギルドの仕事は勤まらないから、という理由から全職員に対してギルド入職直後の冒険者登録と、定期的な冒険者研修をギルド内で実施している。なお他所のギルドでは冒険者でない職員も存在する)


 「了解です。テレーゼ代理、今後同じパーティーの一員としてよろしくお願いします」


 「それは良かったわ。あと、今回の依頼については妹たちと話をして、他に誰を連れて行くのかをこちらで決めさせていただきますね」


 「急な話で本当に申し訳ないが、よろしく頼むよ」と、ジークリット、マーヤとの話し合いを終える。丁度勤務時間も終わり、職員たちも勤務を終えて帰宅する様子が窺える。今回はいろいろ決めることが多いので、テレーゼとマーヤもギルドを出ていつも以上に家路を急いだ。






 「と、いう内容のギルドからの指名依頼をジークリットから伝えられたのよ。100頭以上のボアを全滅させることは、闇魔法(第6章第1話を参照のこと)などを使えばそんなに難しくないとは思うけど、無駄な殺生そのものだし、その後が色々と大変だろうから、なるべくなら他の地域に移動してもらうのが一番問題が少ないと思うわ。但し、ジークリットはおそらくネツァクかホドの方面に追い払えば良いと考えているようだけど、また戻って来る可能性があるし根本的な問題の解決にはなっていないから、理想を言えばボアにとって安住の地を探してそこに移動してもらうのが最善だと思うのよ」


 「テレーゼ姉さんが、ボアの大群を全滅させること自体は難しくないと言っている時点でアタシたちには想像すらできないけど、流石に大群を全滅させたら姉さんの言う通り、その後に行う素材の剥ぎ取り作業や後片付けが物凄く大変そうだな。アレって大きいうえに毛皮も硬いから、1頭でも面倒なのに・・・」と、アデリナがかつて行った面倒なボアの解体作業を思い出したのであろう。しみじみ実感の篭もった口調でテレーゼに同意する。


 「テレーゼお姉ちゃん、すごい♪」と、イーナ。ボアのことに関しては、客観的な自分の現在の能力を基準にした発言であるが、妹たちに賞賛されると素直に嬉しく感じる。


 「姉さんには何か考えがあるの?」と、ヘレナ。


 「従魔魔法を使って群れのリーダーと話をして、人里離れた山にでも移動してもらうのが良いと思うのよ。場所としては、マルクトの南側にある領主が統治していない森林地帯(テレーゼ姉妹の農場に近接する場所)とかどうかしら?街や村から離れた森林だったら街道で人を襲ったり畑を荒らしたりしないでしょうから、ボアがいても問題は少ないと思うわ。もちろん私たちの農場は、つい先日護りを強化したばかりだからその点も安心だわ。但しボアの群れが移動した付近では初心者向け回復薬用の薬草採取は難しくなる可能性があるけど、そうならないように定期的な駆虫が必要になるかも知れないわね」と、テレーゼがボアの群れの移動計画の方針と、それを行った事による影響を妹たちに伝える(薬草とボアの関係性に関しては第12章第1話を参照のこと)。


 「あまり健康でないボアには寄生虫が寄生しやすいので、身体の不快感から薬草を使って駆虫することが多いみたいですね。それはともかくとしてテレーゼさん、群れさえ見付かれば私がリーダーに気付くことができると思いますので、少しはお役に立てると思いますよ」と、ティアナがテレーゼの身体を借りて、今回の依頼に協力してくれる意向を口にする。


 「ティアナ、それはとても助かるわ。よろしく頼むわね」


 「わかりました」


 「姉さん、今回の依頼には姉さんとティアナ姉さんとマーヤ以外に誰を連れて行くの?」と、ヘレナが再度テレーゼに質問する。自分も連れて行って欲しいようだ。


 「今回はアデリナとヘレナとペルレにお願いしたいと思うわ。理由はこれから説明するわね。まず、私たちが留守中のまとめ役をカトリナとアリーナにお願いしたいのよ。2人がいてくれれば、農場関係や妹たちのこと全てにおいて安心だわ。あとイーナとアンナは遠く知らない場所でどんな危険があるか判らないのと、農場を長く留守にしたらヘナフたちが悲しむから、そばであの子たちを護って欲しいのよ。そして、今回は極力戦闘は避けるつもりだけど、私とティアナ、槍術士のアデリナ、斥候のヘレナ、多彩な魔法を使えるペルレが同行してくれれば、もし仮にボアの大群と不測の事態が発生しても何とか切り抜けられると思うのよ。あと、さっきも話したようにイェソドまでの道案内としては、今日パーティーに加入してくれたマーヤも私たちに同行してくれるから、道中も滅多なことにはならないと思っているわ」と、妹たちの適性などを踏まえてテレーゼが自らの考えを伝える。


 「確かに農場の留守番のまとめ役は、私とアリーナが適任かも知れないですね」


 「テレーゼお姉さんたちの留守中、私たちの家はしっかり護りますから安心して下さい」


 「イーナ、アンナと一緒にヘナフちゃんたちを護るの♪」


 「イーナちゃんと私で、庭鳥さんたちのお世話をしっかり頑張るの!」


 「テレーゼさん、あなたのことは私にも護らせて下さい。そしてみんなで無事に私たちの家まで帰りましょう」


 「テレーゼ姉さん、アタシ精一杯頑張るよ」


 「私も全力で頑張る。たとえ何があっても姉さんには指一本触れさせない」


 「ペルレを姉さまと一緒に同行させてもらえるなんて、本当に嬉しいです♡」


 (ヘナフもみんなといっしょに、テレーゼおねえちゃんたちがかえってくるのをまってるの)


 「私もお姉さんの手助けを精一杯頑張りますね」

 と、カトリナ、アリーナ、イーナ、アンナ、ティアナ、アデリナ、ヘレナ、ペルレ、ヘナフ、マーヤ。全員テレーゼの提案に賛成してくれるようだ。


 「みんな、私の案に賛成してくれてありがとう。私も精一杯頑張るからみんなよろしくね」


 「「「「「「「はい!」」」」」」」 「「「うん!」」」


 話し合いが終わり、夕食の準備を行うテレーゼ姉妹。今夜のメニューは、験を担ぐということから豚肉のカツ丼、いわゆるトンカツである。最近テレーゼたちと一緒に暮らし始めたマーヤは今晩初めてカツ丼を口にしたのだが、その美味しさとカツ丼に込められた想いを知り、しっかり味わうように口にしていた。


 (こうやってカツ丼を口にするのはとても美味しいんだけど、駆除のためだけにボアの命を奪うのはやっぱり避けたいわ・・・)と、夕食を口にしながら思索に耽るテレーゼである。

 最後まで読んでいただき、ありがとうございます。


 本章は章タイトルの通り、テレーゼにとって初の遠出になります。これまでマルクト周辺と日本のみが話の舞台でしたが、マルクトを離れて、まだ見ぬセフィロトの地で愛娘たちがどんな活躍を見せてくれるのでしょうか。作者もとても楽しみです。


 あと、ボアは、最強の魔獣であるキラーグリズリーには及ばないものの、日本にも生息するイノシシ以上に身体も大きく強力な魔獣ですので、その群れが街の近くにいるというだけでも住民にとってはかなりの脅威です(但し魔獣は突然変異の種族なので、普通の獣に比べて総じて数が極端に少ないです)。本文にもあるように、テレーゼはこれを魔法で一掃できる実力があるのですが、今回はボアの群れを平和的に移動させることを考えています。上手く行くと良いですね。


 次話はイェソドへの旅路の話です。

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