第4話:模擬戦の余韻と誕生会
自らの格闘能力を披露したテレーゼに驚嘆するギルド関係者。
そんな余韻が色濃く残る中、誕生会が始まります。
模擬戦が終わり、テレーゼの一撃必殺とも言える柔道技に驚嘆していたジークリット、ジークリンデ、マーヤは、テレーゼがジークリンデに回復魔法を掛けた直後くらいに我に返ったようだ。
「テレーゼ・・・君って魔法使いなのに体術もとんでもなく強かったんだな・・・母親の贔屓目じゃないが、ジークリンデも曲がりなりにも一端の冒険者なんだよ。それを一瞬で、しかも使った魔法はおそらく視力向上の魔法だと思うが、それ以外は全く使っていなかったから、さっきの体術は掛け値なしに君の素の実力じゃないか・・・マルクトの街の冒険者たちでは、たとえ数人掛かりでも間違いなくテレーゼに歯が立たないだろう。それどころか、今と同じ条件でセフィロト屈指と噂される、娘以上に剣術に長けたマルクト領主の懐刀とも言える街の騎士団長と戦っても、同じように瞬殺できるだろうな」
「完敗だよ・・・あんな流れるような体術は今まで見たことも聞いたこともなかった・・・私の斬撃をあっさりと躱された挙げ句、あっという間に地面に叩き付けられたときは訳がわからず本当に怖かったよ・・・ここまで力の差があるのなら、むしろ清々しさすら感じるよ・・・あと、回復魔法を使ってくれてありがとう。古傷まで全て良くなっているように思えるのは、気のせいではないな。攻撃魔法なしでもこの有様なのにこれで魔法の方が得意なんて、同じパーティーで壊れスキル持ちの壁役クヌートですら一対一だと互角に持って行けるかどうか・・・何にしても、模擬戦は別にしても友人のテレーゼとは絶対に戦いたくないよ」
「テレーゼさんって格闘は不得手なはずの医者ですよね・・・なのに、たった一度の体術だけで熟練の魔剣士を文字通り倒すなんて、あまりにも凄すぎて思わず息をするのも忘れたくらいです・・・加えて強力な魔法まで操れるんですから、はっきり言ってテレーゼさんに勝てる人って、誇張抜きで誰もいないのではないか?とすら思いますよ。こんな最強とも言えるテレーゼさんがマルクトのギルドに所属してくれているのは、この上なく心強いですよ・・・」と、ジークリット、ジークリンデ、マーヤ。特に、元々は魔法使いとしてギルドに認知されているテレーゼが、殆ど魔法や武器を使わずとも体術だけで模擬戦を制したことに、3人とも心底驚愕しているようである。
「テレーゼちゃん、こんなに柔道が上手かったのね。本当にびっくりしたわ・・・」
「テレーゼ、演武のような綺麗な大外刈だったな。しかも、「崩し」(柔道における「崩し」については第3章第2話を参照のこと)は、自分から働きかける直接的なものよりも、相手の行動に乗じたほうが「後の先」(ごのせん:いわゆる「返し技」や「カウンター」のこと)を狙えるし、特に武器を持った相手ならそれを無力化してからの反撃は理に適っている。左組みも全く違和感は感じないし、間違いなく以前よりも強くなったんじゃないか?」と、テレージアと剛史。娘たちの誕生会にやってきて、しっかり娘の模擬戦を観戦していたようだ。
「剛史さんとテレージアさん、お二人の娘さんであるテレーゼの強さを見込んで、私の娘が模擬戦での手合わせをお願いしたのだが、ご覧の通り、テレーゼにあっという間に負かされてしまった。正直な話、戦う前は双方の体術と剣術の技量がほぼ互角だと思っていたのだが、攻撃魔法を抜きにしてもこれほどまでに2人の技量の差があるとは、流石に想定外だったよ・・・」
「初めまして。ジークリットの娘のジークリンデです。テレーゼとは昨日知り合って友達になったんですが、今日彼女と戦ってみて、私は魔剣士としてまだまだ自惚れていたようです・・・貴重な体験をさせてもらった彼女には、早速体術の教えを請いたいと思っています」
「ジークリンデちゃんね。テレーゼの母のテレージアよ。これからよろしくね♪」
「テレーゼの父で剛史という。娘と友人になってくれたとのことで、親として嬉しく思う。娘共々今後よろしく頼む」と、ジークリット、ジークリンデ、テレージア、剛史がお互いに挨拶や自己紹介を行う。(異世界人交流と言うのかしら?こういう平和的な交流なら戦争とは違って大歓迎だわ・・・)と、4人の様子を見ていてそんなことを何気に感じるテレーゼである。
出席者全員が揃ったことから、テレーゼ姉妹は出席者にも設営を手伝ってもらい、誕生会の開始時間を早めることにした。最初に、以前の接骨院に折りたたみ式のテーブルと椅子を置き、テーブルクロスをテーブルに敷いて部屋の飾り付けも行う。
そして、テレーゼが空間魔法で保存していた料理や飲み物をテーブルに並べていく。時間経過のない空間魔法の効果により、料理は出来たて直後の、いかにも美味しそうなもので特にジークリットとジークリンデの母娘が待ち遠しそうにしていた。
全員の協力により思った以上に早く設営は終わり、早速誕生会の開始である。
「今日は、お忙しい中をアリーナ、アンナ、マーヤさんの誕生会に集まっていただき、ありがとうございます。3人ともお誕生日おめでとう。3人には一息に消せれば願いが叶うという言い伝えがある、ケーキの蝋燭の火を消してもらいましょう」と、テレーゼ。お手製の苺ケーキに蝋燭を立てて、3人に蝋燭を消してもらう。
「みんな、おめでとう」と、テレーゼは拍手を贈ると、全員が拍手しながら、口々に3人を祝福する。そこから先はテレーゼ姉妹による心づくしの料理や飲み物の数々に全員が満足しつつ、まさに無礼講のひとときだった。
マーヤ、ジークリット、ジークリンデは、テレーゼにルールを教えてもらった直後からリバーシに夢中になっているようである。ジークリンデは、テレーゼに対して熱心に体術に関しての質問を重ねていた。
「テレーゼさん、私はテレーゼさんのことを大切な友人だと思っていますので、仕事の時はともかく、今は私のこともジークリンデと同じように名前だけで呼んでもらえないでしょうか?」
「わかったわ、マーヤ。今日はお誕生日おめでとう。誕生会が終わったら、このリバーシのゲーム1セットをプレゼントするわね。もし良ければ遊んでもらえると嬉しいわ」
「このボードゲームをいただけるんですか?これって、全部テレーゼさんたちの手作りですよね・・・こんなゲームは初めて見ましたけど、ルールが簡単ですし、やっていて凄く楽しいです。テレーゼさん、本当にありがとうございます。ギルドに持って行ってみんなで有り難く使わせてもらいますね」
「このゲームはテレーゼが作ったのか?私の拙い体術に関する質問に対しても惜しげもなく解りやすく教えてくれるから、強いだけじゃなく気前が良くて頭も良いんだな」
「ジークリンデ、以前私もテレーゼのギルドの調査復命に同席したんだが、とても理路整然とした説明で、マーヤが彼女に心底惚れ込んでギルドの職員になって欲しいと切望しているくらいだからな。あとマーヤ、このゲームをもらえるなんて凄く羨ましいぞ。まあそれはともかくテレーゼ、このボードゲームもギルドで販売させてもらえないだろうか?こんなにルールが簡単なのに面白いゲームは今まで遊んだことがなかったよ。条件はそちらの言い値で構わないから」
「それでしたら、1セット予備がありますので、それを差し上げます。今後の製造のための見本にされるなり、ジークリンデと2人で楽しまれるなりしていただければと思います。あと、このゲームの駒は陶磁器製ですから、契約の条件は白磁器と同じく今後の総売り上げの1割ということでどうでしょうか?」
「テレーゼ、ゲームを無理におねだりしたようで悪かったな。条件はそれで良いよ。早速明日にでも契約書類を用意しよう。というか、今までもギルドは本当に大きく稼がせてもらっているのに逆に申し訳ないな・・・ところでジークリンデ、最近一緒に食べたイチゴや甘い焼き芋をはじめとした美味しい野菜や、我が家で最近使い始めた白い食器があるだろう。あれもテレーゼたちが最初に作ったものなんだ。彼女がギルドに販売を一任してくれているお陰で、ギルドは近年にない黒字で運営資金は本当に大助かりなんだよ」
「私の友人は、文武両道を地で行く本当に凄い女だったんだな・・・」
テレーゼはリバーシ勝負に熱が入るギルドの2人とジークリットのところから、今日の主役のうちの2人であるアンナ&アリーナのところに移動する。アンナはイーナと2人で五目並べをしており、アリーナ、カトリナ、テレージアもそれを見ながら一緒にみんなと楽しそうに話していた。
「テレーゼお姉ちゃん、みんなでお家に遊びに来てくれたあの日、病気だったお母さんをお姉ちゃんが魔法を使って助けてくれて、お母さんとアンナをお姉ちゃんたちのお家に連れ帰ってくれた・・・アンナ、お母さんやイーナちゃんやみんなと一緒ですごく楽しいの!本当にありがとう・・・」
「テレーゼお姉さん、アンナの言う通りです。お姉さんと出逢えて本当に良かったと毎日嬉しさを実感しています・・・」
「アンナ、アリーナ・・・あのときの私にとっては、大切な友だちを、いいえ、妹を助けたかっただけなのよ・・・でもそう言ってくれて本当にありがとう。私もアンナやアリーナと毎日一緒に過ごせて本当に嬉しく思うわ。私は向こうでは一人っ子だったけど、今は私のそばにたくさんの妹たちがいてくれる・・・そのことがたまらなく嬉しいのよ」
「アリーナ、アンナ。私もあなたたちと毎日一緒に暮らすようになって、いつも笑顔で賑やかな姉妹が、さらに笑顔で賑やかになって・・・これは間違いなくテレーゼお姉さんの人徳です。そしてお姉さんにいつも護られている私たちは本当に幸せです・・・もちろん、お姉さんに護ってもらうだけでなく、妹全員でお姉さんを今以上に幸せにしてあげたいです・・・」
「私もカトリナと同じ気持ちです・・・テレーゼさんと一緒だからこそ、娘共々いつも幸せに暮らせているんですから・・・」
「イーナは、ティアナお母さんを生き返らせてくれた、いつも優しくて暖かいテレーゼお姉ちゃんが大好きなの♪」
「アンナちゃん、アリーナちゃん、お誕生日おめでとう♪これからも一杯楽しいことがあるわよ。何故ならテレーゼちゃんは、カトリナちゃんやティアナちゃんやイーナちゃんもだけど、あなたたち妹全員のことが大好きで、何度でも妹たちの喜ぶ顔が見たいからよ。もちろんこれからも、私も剛史さんも可愛い娘たちと楽しい時間を過ごせるように、機会があればどんどん参加させてもらうわよ♪」
「「「「「お母さん、本当にありがとう(ございます)・・・」」」」」
テレーゼは、リバーシに興じるアデリナ、ヘレナ、剛史、ペルレの所に移動した。いつもヘレナにリバーシで完敗してしまうアデリナは剛史にゲームの相談をしていた。ペルレも一緒にアデリナたちのプレイを観戦して楽しんでいるようだ。
「父さん、何でアタシはいつもヘレナにゲームで勝てないんだろう?」
「アデリナは最初に駒を取るのを、もっと我慢したほうが良い」
「アデリナ、今ヘレナも言ってたけど、最初は全滅しないように、但し相手に駒を多く取られてもあまり気にせずに、自分の色の駒を相手の駒で取り囲ませるようにすると、それだけでも結果が違ってくるんじゃないかな?」
「父さん、教えてくれてありがとう。アタシ、いつも最初からたくさん取ることだけ考えていたよ」
「お父さん、姉さんと同じ戦い方をしている。見ているだけでも本当に強いと感じる」
「お父さまは接骨院の待合で患者様と時々このゲームで遊んでいましたけど、負けたのを見たことがありません。お母さまもですけど、正直な話、姉さまよりもかなり強いんじゃないですか?」
「ペルレ、それは私も同感よ。今ここにいる人たちの中では、間違いなくお父さんが別格に強いわ。今では相当に強いお母さんも、最初にお父さんと真剣に対戦したときは手も足も出せずに完敗したと聞いたわ」
「今は、テレージアやテレーゼとも、そんなに力の差は離れていないと思うのだが・・・そう言ってもらえるのは素直に嬉しいよ」
(みんな楽しそうで本当に良かったわ・・・今日のようにみんなが笑顔でいられる幸せがずっと続いてくれるよう、これからも精一杯頑張るわ・・・それと、つい先日試作した会話不要で意思が伝えられる魔法を、近いうちに試してみたいわね・・・)と、テレーゼは一息入れるために少しだけ家の外に出て、考え事をしながら日本とは違う星空を見上げる。
(テレーゼさん、あなた1人だけで無理しないで下さい。いつもそばにいる私にも、その役目を背負わせて下さい・・・あと、魔法のことも含めて、みんなで助け合って今以上に幸せになりましょう)
(イーナも頑張るの♪そして、これからもテレーゼお姉ちゃんやみんなとずっと一緒なら、きっとあったかくて楽しいの♪)
(ティアナ姉さまとイーナ姉さまの言う通りです。ペルレも頑張りますから。あと、姉妹全員でいられることが本当に幸せです・・・)と、テレーゼ、ティアナ、イーナ、ペルレ。イーナとペルレはいつの間にかそばにやってきてくれたようだ。家の外なので、全員が言葉を使わずに頭の中での会話である。自分を心から慕ってくれる健気な妹たちがいつもそばにいてくれて、本当に幸せだと実感するテレーゼである。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
普通に考えれば、魔法使いは格闘戦よりも、パーティーの後方からその卓越した頭脳でパーティーの指揮官的な役割を担うことが多いと思いますので、単騎でも十二分に戦える医者(冒険者としてのテレーゼの職業)である彼女のような存在は、模擬戦を戦ったジークリンデや、ギルドのジークリット&マーヤには心底驚嘆に値することだったようです。
そして、テレーゼの父親の剛史は特に明記はしていませんが柔道有段者です。その彼から見ても愛娘の戦い振りは演武のように華のあるものだったようです。
その後の誕生会はボードゲームが良いレクリエーションになっていることを含めて、参加者全員が心から誕生会を楽しめたことは何よりです。
この話で第11章は終わりです。連載を開始してほぼ1年経ちますが、熱心に読んで下さる読者様の存在は本当に心強く、また嬉しく感じます。
次章は、マルクトのギルドでかなり大きな問題が発生します。そのためジークリットとマーヤはテレーゼに相談を持ち掛けるのですが、テレーゼが自らの経験を活かして問題に対処します。ここまで読んで下さった読者様であれば、次章もきっと楽しんでいただけるものと自負しております。
今後も一生懸命頑張りますので、よろしくお願いします。




