第2話:姉妹の決意と魚料理の試作
テレーゼは、妹全員や両親と話を行い、あることを決意します。
あと、誕生会当日に用意する料理に関して、テレーゼが練習を兼ねて妹たちに魚料理を作って振る舞います。
ボードゲームの作成が終わった翌日のこと。テレーゼは誕生会を開催するにあたって考えていることがあった。
新年早々にジークリット&マーヤが自宅に訪れたとき、いきなりの訪問だったこともあり、2人が気付いていなかったティアナとペルレのことを紹介しなかった。しかし、今回は姉妹全員参加での誕生会であり、ティアナやペルレのことを隠すようなことはしたくなかった。
このことはテレーゼが姉妹全員と、父母である剛史&テレージア(2人には電話で相談した)で入念に話し合いを行い、何より当事者であるティアナとペルレの心情を確認した上で、テレーゼ的には、大切な妹たちをギルドの2人にいつまでも隠し続けるなど論外であるため、誕生会という好機に時間を設けて(後述の理由からイーナを含めて3人の)妹たちを改めて紹介することにした。
日本であれば特にティアナとペルレは、たとえ他人に2人のことを話したとしても、存在を信じてもらえないか精神疾患扱いされること請け合いであるが、カトリナ曰く、テレーゼに憑依して2人で仲良く共存するティアナや精霊であるペルレのような存在は、セフィロトではある程度一般常識として古くから広く知られている事柄らしいので、知己であるギルドの2人にはきっと好意的に受け容れてもらえるだろうという理由である。
もう1つ、ティアナやイーナが元々はキラーグリズリーだったことは、明らかにすればテレーゼ自身や妹たちが、権力者の野心の対象とされ干渉される危険性(第3章第4話参照)が増すだけなので、現在このことは妹たちと両親だけの秘密であるが、薄々そのことを察しつつも触れないでいてくれる節があるギルドの2人を信じて、人化魔法に関しても一緒に話すことにした。それらを含めて3人に話したところ、全員自分の言葉で想いを伝えたいとのことだったので、長姉として妹たちの決意を尊重することにした。
「テレーゼさんが私たちのことを本当に大切に想ってくれていることが改めて実感できて幸せです・・・」
「イーナもテレーゼお姉ちゃんのことを信じてるの♪」
「姉さま・・・ペルレもティアナ姉さまやイーナ姉さまと同じ気持ちです。セフィロトで生活するのであれば、他の人たちに対して私たちの存在は隠し続けたほうがずっと楽だと思います・・・なのに、姉さまはいつだって自分の苦労なんて全然考えずに、私たち妹のことだけを衷心から想ってくれて、私たち全員をいつも心から幸せにしてくれます・・・そんな誰よりも凄く優しい姉さまがペルレは心の底から大好きです♡」
「ティアナ、イーナ、ペルレ、そして他のみんなもだけど、私のことを心から信じてくれて本当にありがとう。ギルドの2人であれば、ここ最近だけでも相当深い付き合いだから、あなたたちのことを話しても決して悪い結果にはならないはずよ」と、ティアナ、イーナ、ペルレ、テレーゼ。
テレーゼが妹たちに語ったように、ギルドの2人のことは人間的に相当信頼しているが、3人を紹介したあとで(もしくは今回紹介を先送りしても)、残念ながら今後不測の事態が発生しない保証はない。そうなったとき、(正直考えたくもないけど・・・今後大切な妹たちが引き離されたり悲しむような、そんな理不尽なことから必ず妹たち全員を護れるように、私がこれまで以上に頑張らないといけないわね・・・)と、改めて強く覚悟を決めるのだった。
ティアナとイーナとペルレのことに関しての方針が決まり、次に姉妹全員で誕生会の準備を行うための思索に耽るテレーゼ。
当日出す料理は、テレーゼ姉妹全員が一緒に暮らすようになって普段食べている食事に近い物をメインにすることにした。特に鶏の唐揚げ、ハンバーグ、ポテトサラダ、苺のケーキやアイスクリームといったメニューは、妹たちにも大人気である。極端な話、「唐揚げは飲み物」とまではいかなくても、色々な料理をぜひたくさん用意しようと考えている。妹たちや両親だけでなく、きっとギルドの2人にも喜んで食べてもらえるだろう。料理は空間魔法で保存しておけば出来立ての状態で用意できるから、誕生会の3日くらい前から準備を始めたいと思う。
あと、両親向けに魚・地鶏の刺身、魚のあら炊き、枝豆、茶碗蒸し、冷奴、揚げ出し豆腐、卵焼き、つけあげ(地魚のすり身を主原料にした揚げかまぼこの一種。第7章第2話参照)、県内産の高級芋焼酎といった和食系のメニューや、テレージアが好きなドイツ産のソーセージ、黒ビールなども用意しておきたい。いっそのこと、魚は天然マダイなどを丸ごと買ってきてテレーゼ自ら刺身や汁物にするのも一興かも知れない。
魚料理は、主に父の剛史から基本を教えてもらい(父の実家から徒歩10分程度で遊泳や釣りが可能な海岸があり、学童の早い時期から曾祖父に連れられて海釣りを行い、釣った魚を持ち帰る前に下拵えしていた父に比べると、母のテレージアはドイツの内陸部出身で丸ごとの魚を料理する機会そのものが少なく、今でも時々剛史から教わりながら魚料理を一緒に作っているようだ)、その後前職の新採時に配属された職場のレクレーションで船釣り大会が毎年あったことに加えて、テレーゼ自身、海釣りに一時期熱中していたことから、自然と身についたスキルである。
幸い愛用の出刃包丁、刺身包丁、アジ切り包丁(何れも市内の刃物鍛冶直売所で30年ほど前に購入した安来鋼白紙(伝統ある高級鋼の一種であるが、ステンレス包丁に比べて非常に錆びやすいため、こまめな手入れが必要)の刃物で、時々テレーゼ自ら砥石で手入れしながら永年愛用している)、大型のまな板、砥石といった魚の解体及び調理に必要な道具は一通り揃っているので.今日の夕食で肩慣らし的な意味を兼ねて魚料理を作り、妹たちに振る舞うことにした。
(まず、包丁を使う前に砥石で軽く研いだほうが良いわね・・・)
テレーゼは新聞紙に包んで大切に保管していた包丁を取り出し、使用前の手入れを行う。
(今日は良い天然物マダイが手に入って良かったわ・・・刺身は皿に並べた仕上がり具合が全てだから腕の見せ所よね・・・)
練習のために市内のスーパーで買ってきた大きなマダイ(テレーゼにとって天然物と養殖物は、鑑定魔法を使わずとも色の濃淡や鰭の欠損の有無などで比較的容易に見た目で区別が可能であり、解体されて刺身にされていても食べたときにある程度は解る)であるが、まず包丁を使って鱗を取る(確実にうろこが飛び散るので、後述の生臭い鰓や内臓を取り除くことと合わせて、もし可能であれば、ここまでは台所ではなく屋外の「外流し」などでやったほうが良い)。次に頭を落として鰓を取り除き、お腹に包丁を入れて内臓を取り除き、両方とも取り除いた部分を洗う。そして、三枚おろしにして腹骨をそぎ落としてから皮を剥ぐ。皮を剥ぐときは、尾鰭の近くの身に皮との境目まで包丁を入れ、そのまま包丁を立て気味にまな板に押しつけるようにして、皮をもう片方の手で引っ張る。新鮮な魚であれば案外簡単に皮が剥げる。そして、中骨を取り除き刺身に引く。
(作者補足:魚や肉は包丁を手前に引いて切る「引き切り」なので、「引く」とはこの場合、(魚を切って刺身に)調理するという意味である。上手く切れないからと何度も包丁で切り付けると、その分確実に見た目や味が落ちるので極力避けること。なお包丁が大きすぎる場合は上手く切れないことがままあるため、そのときは使いやすい大きさの包丁に換えるのがお勧めである。あと、テレーゼは鱗取りに包丁を使っているが、要は綺麗に剥がせれば良いので、包丁が苦手であれば他の道具を使うのも一つの手である。但しマダイの鱗は、油断すると手を怪我するくらいにはしっかり皮にくっついているので、鱗取りの道具は相応に良い物を使うこと)
(次は兜割りね・・・魚の額や上下の唇の真ん中を通る正中線に刃を入れて・・・線を外れると刃が滑って手を怪我しかねないから用心しなきゃ・・・背骨は鍋に入るくらいに切り分けて・・・あとは鍋を火に掛けて丁寧に灰汁を取ってから、白味噌を入れて小口切りにした小ネギを散らして仕上げだわ・・・)
刺身以外の部分は、頭は兜割り(上手く刃を入れることができればそこまで強い力は要らない)にして背骨と腹骨(骨の間には身が若干残っている)、皮、卵巣(今回捌いたマダイは子持ちだった)と一緒に白味噌仕立てのあら炊きにする。テレーゼがあら炊きを作るときは、醤油よりも白味噌での味付けが好みであるが、これは主に魚料理を教わった剛史の味付けと同じ(いわゆる「家庭の味」)である。
(次は小アジの下拵えだけど、姉妹全員分だと流石に必要な数が多いわね・・・頭ごと内臓を取り除いてからアジ切り包丁でゼイゴを削ぎ落として、火に掛けていたサラダ油で色が変わるまで揚げる・・・今回の小アジは三杯酢に漬け込むから、身体が小さいペルレは別としても、イーナやアンナでも十分骨ごと食べられると思うわ・・・時間が経つと油の温度が上がって揚がるのが早くなるから、揚げすぎないように用心して・・・あとは油を切って三杯酢に漬けて少し時間を置けば完成ね・・・)
あら炊きを煮込んでいる間、手早く刺身用の薬味を揃えた後、今度は小アジの内臓とゼイゴ(稜鱗:魚体側面のエラ上端~尾びれ付け根まで連なる硬いうろこのこと。丸ごと揚げる場合、特に尾びれのゼイゴを取り除くと、うろこを気にせず美味しく食べられる)を手早く取り除き、素揚げにして三杯酢に浸して、小アジの南蛮漬けの完成である。
これで、今日テレーゼが予定していた魚料理3品が準備できた。
「姉さん、その魚って、姉さんの故郷への旅行で食べたものと同じ。こんな大きな魚を簡単に料理できる姉さんって凄い」
「テレーゼお姉さんがお料理が上手なのは知っていましたが・・・このお刺身や天ぷらは、いつも以上にとても美味しそうです」
「姉さん、この魚の骨や頭を煮たスープ、凄く美味そうな匂いがするから食べるのがホント待ち遠しいよ」
「わーい♪前にみんなで食べたお刺身だ♪イーナ、今から食べるのが楽しみなの♪」
「イーナちゃん、お魚食べたことあるの?テレーゼお姉ちゃんが作ってくれた今日のお料理、アンナも楽しみ!」
「お姉さんって本当に何でもできるんですね・・・アンナもですが海のお魚って見たことすらありませんので、夕食が本当に待ち遠しいです・・・」
「ペルレよりも何倍も大きい魚が、あっという間にお刺身になりました・・・あら炊きや小アジの南蛮漬けも美味しそうですし、流石姉さまです♡」
「テレーゼさんと一緒にいると本当にいつも驚かされてばかりです・・・旅行の時に食べた魚料理と同じ以上に美味しそうです・・・」
「みんな、あと少し経ってあら炊きや小アジの南蛮漬けに味が染み込んだら、夕食にしようか。あら炊きは骨付きの身を食べるとき、間違って骨を飲み込まないように気を付けてね。小アジの南蛮漬けは骨ごと食べられると思うけど、もしも魚の骨が気になる人は無理しなくても良いわよ。刺身とあら炊きと小アジの南蛮漬けは今度の誕生会でも作る予定だから、何か気になったことがあったら教えてね」と、ヘレナ、カトリナ、アデリナ、イーナ、アンナ、アリーナ、ティアナ、テレーゼ。
料理中、台所に集まった妹たちは、魚料理を作るテレーゼの手際の良さや、綺麗に大皿に盛り付けられた刺身やその他の魚料理を見て夕食が待ち遠しいようだった。その日の夕食が大好評で妹全員の食が進んだのは言うまでもなかった。食べる人を選ぶかも知れないと内心思っていたあら炊きと小アジの南蛮漬けも、(身体が小さなペルレにはテレーゼが小さく切り分けてあげたものの)妹全員が美味しそうに食べてくれたのでひと安心である。
(妹たち全員が3つの料理とも喜んで食べてくれて何よりだわ・・・誕生会当日は苺のケーキやアイスクリームもだけど、魚料理を頑張って作らなきゃ・・・)と、妹たちの賑やかな食事の様子にほっこりしながら、当日までの料理を頑張ろうと思うテレーゼである。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
ティアナとイーナとペルレのことを仲間はずれのように隠したままというのが絶対に嫌だという愛娘テレーゼの心情は、作者には強く理解できるつもりです。もし同じ立場だったら、間違いなく彼女と同じ行動を取ると思います。
あと、魚料理を作っているときのテレーゼの心の声は、作者自身が魚料理を行う際の留意点でもあります。作者が曲がりなりにも魚料理が出来るのは、作中でも触れていますが、父が料理するところを見て覚えた(いわゆる「見取り稽古」です。また、他の料理については母から多くを教わりました)ことが大きく、その機会が自分にあったことをとても有り難く感じます。
次話は、テレーゼ姉妹が誕生会の準備を頑張ります。あと、テレーゼが意を決してあることを行ったり、新キャラクター(この物語では)が登場します。




