第4話:両親の魔法とマルクトの街の観光
ギルドのジークリットとマーヤのガイドにより、テレーゼ姉妹と一緒にマルクトの観光に出掛けることになった両親の剛史とテレージア。
2人には、本人たちが気付かない間に新しい能力が芽生えていたようです。
テレーゼ姉妹宅に宿泊した剛史、テレージア、ジークリット、マーヤ。一夜を過ごし、姉妹と一緒の朝食である。姉妹が農場から収穫したばかりの新鮮な野菜をふんだんに使っての料理を全員で美味しくいただいたが、特にジークリットとマーヤは、日頃マルクトで口にしているものとは違う料理を熱心に味わっていた。
ジークリットに至っては、「本当にジークリンデを連れてくれば良かった・・・」と口にする有様で、そんな彼女の独白にテレーゼは、「今後機会があればぜひそうして下さい。歓迎しますよ」と快諾していた。もっとも、娘のジークリンデは冒険者稼業がかなり多忙であるらしく、なかなか帰宅しないことをジークリットは母親として寂しく感じているようだ。
朝食が済んだあと、ジークリットとマーヤは本来年始には開いていないギルドの建物を開けてくるとのことで、後刻マルクトの街の門前で待ち合わせをすることになった。
2人との待ち合わせまでの間、テレーゼたちは、両親への紹介を兼ねて自宅の裏側にある姉妹が運営している農場に向かった。
剛史とテレージアはどちらも実家が農家であり、娘のテレーゼ同様に農業には明るい。そのため、無農薬で地野菜やイチゴや唐芋を栽培している圃場や、テレーゼが成長魔法と冷蔵魔法(イチゴに擬似的な冬の寒さを感じさせ開花させるために必要。第8章第4話参照)の実演を行い超巨大イチゴを収穫したことに感嘆していた。
「テレーゼちゃんの使う成長魔法って、本当に凄いわ!私にもできるかしら?」と、テレージアは隣接する圃場に植えられていた地野菜の小さな苗の1本に手をかざして「お願い、大きくなって♪」と口にした。すると、魔法の行使に慣れたテレーゼやペルレほど急速ではないものの、目に見えて地野菜が大きくなり、程なく収穫可能な大きさに成長した。これには、剛史だけでなくテレーゼ姉妹も驚愕した。
「剛史さんもやってみて。苗に手をかざして大きくなるように願えば良いと思うわ♪」と、テレージア。半信半疑で剛史が成長魔法を試みると、テレージアの時と同じように小さな苗が収穫可能な大きさまで成長して、再びテレーゼ姉妹は驚愕することとなった。
「おそらくですけど、昨年姉さまがご両親を若返らせたことで姉さまと同等の魔法が使えるようになったんだと思います。若返りの過程で、姉さまが以前、アデリナ姉さまとヘレナ姉さまを魔法が使えるように治療したのと同じ効果をもたらしたのではないでしょうか。
魔法に関しては姉さまのご両親だけあって元々の素養は申し分ありませんので、イメージ次第で成長魔法や病気の治療すら可能な回復魔法のような、姉さまが現在使っている魔法が使えるのはもちろんですし、魔法が本来存在しない日本でも、魔力さえあれば魔法を使える可能性は十分ありますね。
セフィロトにいる間は体内の魔力を地力で回復できますから、姉さまみたいに大きめの魔石をご両親がいつも持っていれば、意識しなくても体内で回復した魔力の一部を魔石に蓄えることもできると思います」と、ペルレがテレージアと剛史の魔法について説明した。
「ペルレちゃん、今の話本当なの?アニメや漫画に出てくる魔法少女みたいで凄いわ!テレーゼちゃん、若返らせてくれたこともだけど、本当にありがとうね♪」「テレーゼ、改めてありがとう。愛娘からせっかくもらった病気すら治せる力なんだから、今後大切に活かしたいものだな」と、テレージア&剛史。
「テレーゼ姉さんの父さんと母さんって、魔法のない日本から来たのに凄いよ!2人とも姉さんと同じく全属性持ちだろうし、姉さんと同じくパーティーに入ってもらいたいくらいだよ」と、アデリナ。
「姉さんのお母さんは両利きだと前に姉さんから聞いた。だから試しにライトの魔法を両手で魔法を使ってみて欲しい」と、ヘレナはテレージアを促す。
「ライトって灯りの魔法かしら?ヘレナちゃん、やってみるわね。灯りを思い浮かべれば良いのよね・・・あら、両手に灯りが点いたわ♪剛史さんも試しに両手で魔法を使ってみたら?でも娘たちの前でならともかく、他所でこんなにホイホイ魔法を使って大丈夫かしら?」
「私もやってみよう。思い浮かべるだけで良いんだな・・・両掌から光が出てるな。これなら懐中電灯は要らないな。但し、この魔法の力は、迂闊に人前で使うものではないな」と、テレージア&剛史。
その後、テレーゼにアドバイスを受けた2人が全属性の魔法を試したところ、魔力切れもなく問題なく使用できた。2人とも日本で使ったことがない魔法が使えて楽しそうであるが、流石に思慮深く聡い2人だけあり、他所で魔法の力を使用することの問題点を察したようだ。
「流石テレーゼお姉さんのご両親ですね。2人とも、杖も使わず無詠唱であっさりと魔法を両手で発動させたのには本当に驚きました・・・ペルレ、日本からやって来た人は、誰でもこんな感じで王都の宮廷魔導師レベルで魔法が使えるんですか?」
「カトリナ姉さま、それはないと思います。まず、姉さまが魔法に目覚めたこと自体、姉さまから話を聞く限り、再現性が皆無に近いレベルでありませんから、たとえ今後日本人がセフィロトに来たとしてもそれだけでは魔法は身に付かないはずです。加えて魔法発現の鍵となる姉さまの魔力を全く警戒せずに受け容れられる人、言い換えれば魔法が使えるようになるための治療効果がある人は、姉さまのことを心から信じられる私たちを除いたら、姉さまのご両親であるお2人だけでしょうから」
「それなら魔法が使える人が急に増えてセフィロト国内で騒ぎにならなくて済むわね。ところで、お父さんがクロスドミナンス(交差利き。用途に応じて利き手を使い分けること)なのは知ってたけど、元々が両利きだというのは知らなかったわ。魔法を両手で使えるのは両利きであることの証拠だから」と、カトリナ、ペルレ、テレーゼ。テレーゼは今後も姉妹で一緒にセフィロトで平穏に暮らしたいと心底願っているため、万が一にも魔法使いの大量発生で騒動にならないのなら何よりである。あと、ギルドの2人が今この場にいないことも、偶然ではあるが幸いだったと感じたテレーゼである。
農場で剛史とテレージアがどちらも全属性の魔法を使えることが確認できたため、テレーゼは、以前アリーナ&アンナ母娘の引っ越しのときにギルドの魔物解体場で手に入れた手持ちの魔石のうち、なるべく大きいものに紛失物を見つける魔法(第2章第1話参照)をカトリナに掛けてもらってから両親に渡すことにした。テレーゼの自宅に掛けられた隠蔽魔法を解除するための魔石の使い方や、前述の魔力の貯蔵庫を兼ねているため、いつも携帯して欲しいと説明して剛史とテレージアに渡した。もし後から更に良い魔石が手に入ったらそれをメインに使ってもらい、今日渡した魔石は予備にしてもらう予定である。
剛史とテレージアの魔法に関して一段落つき、今からマルクトの街に出掛ければ、ギルドの2人との待ち合わせ時間に丁度良い頃合いである。テレーゼたちは全員で街に向かい、街の門前で待っていてくれたジークリット&マーヤと合流する。
ギルドの2人には存在を認識できないティアナとペルレを除いても全員で11人の大人数で、かつ街の名士であるジークリットや受付嬢のマーヤが一行にいることもあり、新年早々で人通りはいつもより少ないものの、マルクトの街に入ってから道行く人々、特に同業の冒険者たちから注目を浴びることとなった。その様子に、(去年、私の故郷への観光で最初に人工島に行った時を思い出すわね・・・)などと思うテレーゼである。
一行は主にマーヤの説明を受けながら街の主要施設を見て回った。特にテレージアにとっては、どことなく中世ドイツ風の懐かしさを感じる街並みが気に入ったらしく、靴を通して伝わる石畳が敷かれた道の感触を楽しんだり、マルクトの領主館や教会の前で持っていたスマホで記念写真を撮ったり、市場や雑貨屋や武器防具屋で売られている品物を興味深そうに見たりして、とても楽しそうにしていた。そして、ギルドに到着し、全員建物に入る。
ギルドにて、ジークリットとマーヤの勧めで、剛史とテレージアにギルドの身分証を発行してもらうことになった。書類はテレーゼが代筆して、職業は例外的に空欄で(ギルド関連全般に詳しいカトリナによると、登録時に職業を決めずに身分証を発行することは、時々あるとのこと)後日適性を見て決める運びとなった。
登録可能な職業としては、剛史とテレージアのどちらも魔法が全属性持ちであるため、農場でペルレが指摘したように魔法使いとしての素質は十分すぎるほどで、魔法を使えるようになって間もない現時点ですら「導師」としての適性を持っている。
導師とは、攻防両方の魔法を使いこなせる魔法使い系の最上級職で、全属性持ちが登録の絶対条件であるが、現在のセフィロトでは、後述の通りテレーゼたちを除くと全属性持ちは皆無である(因みに、妹たちの中でテレーゼに次ぐレベルで魔法に長けたカトリナとペルレは、あともう少しで手が届きそうであり、残りの妹たちも各自力量を伸ばしており、近い将来大いに期待できる)。
と言うのも、不得手な魔法は発動に要する魔力消費が総じて膨大であり、無理な習得は命取りになりかねないため、得意分野をとことん伸ばすことで「尖った能力」の持ち主は多いものの、全部の魔法を満遍なく修練するという練習スタイルが元々存在しないことも相まって、例えば俊英と噂される国王直属の筆頭宮廷魔導師ですら、回復魔法が使えず資格を満たしていない。
もし仮に導師としてギルドの職業を申請する場合、原則として職業選択の自由がほぼ全面的に保証されているギルドではあるが、例外的に厳格な確認作業が申請者に対して行われる。そして登録された途端、そんな逸材を野心家として有名な現国王が在野のまま放置するはずもなく、早晩国王に半ば強制的に召し抱えられることは確実である。
正直な話、魔法の発達したセフィロトといえども、過去はともかく、現在の有資格者はテレーゼを除くと剛史とテレージアのみで、名称こそ似ているもののセフィロト各地に在籍している、攻撃魔法のみ使える上級職の「魔導師」とは全く別の職業である。因みに、防御・回復系の上級職は「司教」であり、その頂点が王都の教会に在籍する大司教であるが、前述の筆頭宮廷魔導師と大司教は、セフィロトではほぼ同格とされている。
このように実在することすら疑わしいレベルの職業に2人も一度に登録した日には、マルクトのみならずセフィロト中の大騒ぎになることが目に見えているため、以前カトリナたちから導師という職業について話を聞いていたテレーゼは、今回の書類提出で両親の職業登録を見送り、魔法適性のことも当面ギルドには伏せておくことにした。
ジークリット&マーヤによる観光案内と身分証の発行が終わり、テレーゼ一行は二人に礼を言ってギルドを出て、そのまま市場などに行き、そこで剛史とテレージアにセフィロトのお土産を買ってから街を出て自宅に戻り、全員で楽しい夕食のひとときを過ごした。
「テレーゼ、今日はいろいろありがとう。テレーゼにもらった魔法の力は、自宅でも練習するつもりだから、色々教えて欲しい」
「テレーゼちゃん、私が魔法が使えるようになったなんて、リアル魔法使いで本当に素敵だわ♪あと、たくさんお土産も買ってもらって本当にありがとうね。近いうちに可愛い娘たちの誕生日があるから、また2人で遊びに来るわね」
「父さん、母さん、今日はまた逢えて嬉しかったよ」
「2人とも、今日は来てくれてありがとう。今度また来てくれるのを楽しみにしているわ」と、剛史、テレージア、アデリナ、テレーゼ。今回の剛史とテレージアの訪問を受けて、特にアデリナはすっかり2人に懐いたようだ。両親が勝手口から帰るのを姉妹全員で見送った。
(今度両親に逢えるのはアリーナ&アンナとマーヤの誕生日ね。何をしようかしら?)と、3人の誕生パーティーについて考え始めるテレーゼである。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
剛史とテレージアの全属性の魔法発現は、正直な話テレーゼ姉妹と同等以上に作者もびっくりです。それはともかく、病気を治す回復魔法をはじめとした魔法の力は、今後2人が日常生活を送る上でも、大きな力になることでしょう。
あと、セフィロトという日本や海外と違う世界を両親が満喫できたのは何よりです。中世ドイツ出身のツンフトマイスター(ギルドマスター)の影響が今なお色濃く残るマルクトの街は、2人には、特にテレージアには本文で触れたようになじみ深いものだったようです。
この話で第10章は終わりです。次章は、アリーナ、アンナ、マーヤの誕生会がメインですが、新たな人物が登場します。これまでは名前のみの登場でしたが、今回(違う世界線から)正式に登場します。
次章も精一杯頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。




