第3話:みんなで過ごす新年
セフィロトで初めての新年を妹たちと迎えるテレーゼ。
両親を自宅に招いて和やかに過ごしていたところに、思わぬ人たちが新年の挨拶に訪れたようです。
姉妹全員での入浴を満喫したテレーゼ姉妹は、そのまま年越しの宴を行った。
(ここに来たばかりの頃は、とてもこんな事になるとは思ってもいなかったけど・・・自分を心底慕ってくれる妹たちと、こんなにも賑やかに年越しを迎えることができるなんて、本当に嬉しいことだわ・・・)と、テレーゼはセフィロトに来てからの1年足らずを振り返りつつ、セフィロトに来て初めての年越しに心から満足していた。
新年を迎え、マルクトの街の商店やギルドは休みである。カトリナの話では、マルクトの街の領主たちは数日間に及ぶ新年の盛大なパーティーを開催しているとのことだが、街の住民の大半は、新年の挨拶回り以外は自宅で新年をゆっくり過ごすことが多いらしい。新年の過ごし方はどこの世界でも大差はないようだ。
前回の父母の訪問で、ゆっくりもてなすことができなかったこともあって、テレーゼは電話で事前に連絡した後で、両親の剛史とテレージアを自宅に招待することにした。父母の滞在中に、そのままマルクトの街の観光案内も行おうと思ったのである。
テレーゼは父母の予定を確認した上で、車で実家まで両親を迎えに行き、自宅に招待した。初めて出逢ったときに、自分たち妹全員を娘として心から受け容れてくれた剛史とテレージアは、妹たちにも大人気で、双方が用意したおせち料理を食べながら、日本とセフィロトという全く違った世界の話で盛り上がった。
「テレーゼ姉さんの父さん、母さん、ぜひ酒を注がせてくれ」
「相当に酔っているようだが、無理して返杯しなくても良いんだぞ」
「アデリナちゃん、さっきから大丈夫なの?剛史さんの言う通り無理したら駄目だからね!楽しくお話ししましょう」
「父さんと母さんはアタシたち全員のことも本心から娘だと言ってくれた。それを聞いて、アタシは涙が出るくらい本当に嬉しかったんだよ。他の姉妹だってきっと同じ気持ちだと思う。テレーゼ姉さんと一緒でホント懐が大きいし、何だか姉さんが増えたように感じるよ・・・」
「アデリナ、ちょっと大丈夫?回復魔法を掛けるからしっかりして。あと、私たちでこの前新しいお風呂を作ったから、お父さんとお母さんには、ゆっくりお風呂を楽しんで欲しいな」
「テレーゼちゃんたちがお風呂作ったの?剛史さん、早速入らせてもらいましょう。凄く楽しみだわ!」
「テレーゼが自分たちで作った風呂を勧めてくれるなんて、言葉にできないくらい嬉しいものだな。テレージア、ここはテレーゼの言葉に甘えさせてもらうか」と、アデリナ、剛史、テレージア、テレーゼ。
先日顔を合わせた剛史とテレージアの豪胆さに、姉の場合と同様に心底惚れ込んたアデリナは、自分が酒が弱いのに、昨年購入した切子を手に、2人にお酌をして反対に酔い潰れる有様であったが、彼女が翌日の二日酔いで苦しむことを心配したテレーゼが彼女に回復魔法を掛けたため、事なきを得た。
また、剛史とテレージアは、大晦日に完成したばかりの風呂に夫婦で入浴し、一般家庭とは良い意味で大きくかけ離れた娘たちの力作を、心ゆくまで堪能したようだ。
そんな中、マルクトの街のギルドマスターであるジークリットと、テレーゼや妹たちの専属担当であるマーヤから、思いがけず自宅にて新年の挨拶を受けた。ギルドマスターというセフィロトでも一廉の人物が、新年早々領主館ではなく一介の冒険者宅に真っ先に挨拶に出向くのは相当異例のことであり、それだけテレーゼに多大な恩義を感じている証拠と言える。
彼女たちは、農産物出荷や白磁の契約を経て、テレーゼの自宅が隠蔽魔法で隠されている秘密やテレーゼがセフィロトから遠く離れた島国からやってきた(後述のように全てではないものの、2人が納得するに足るような説明は行った)ことを明かされている、姉妹以外の数少ない人物(というよりは、この2人のみ)である。
2人は、テレーゼの両親が来ていると知ってぜひ挨拶をしたいということだったため、剛史とテレージアに確認した上で挨拶を受け容れることにした。あと、日本と直接繋がっている勝手口は、自宅以上に強力な隠蔽魔法と防御魔法を常時掛けているため、テレーゼが解除しなければ壁にしか見えず、加えて万が一にもドアが開かないようになっており、今回のように突然の来客を自宅に上げても安心である(流石に日本の話はギルドの2人にも話していない)。
ところで、剛史とテレージアは、つい最近、肉体的に実年齢の半分以下程度まで一挙に若返っているのだが、娘のテレーゼも同様に若返っているため、親娘として違和感が少ないのは幸いであった。
流石にギルドの2人に、現時点でテレーゼと父母の若返りや、もっと根本的な3人が違う世界の住人であるという話をするのは、将来的に可能性はあるにしても時期尚早であるというのが、テレーゼ姉妹とテレーゼの両親の共通した見解である。
また、ティアナやペルレのことは、現時点でテレーゼ姉妹と父母の総意として、存在を明かすことに関しての方針が決まっていない(加えてギルドの2人は存在に気付いていない)ので、今回の対応は現状維持である。イーナの人化魔法に関しては、他人に話そうものならティアナの正体を含めて、セフィロト中の大騒ぎになることは請け合いなので、現状ではテレーゼ姉妹と父母だけの秘密である。
妹たちのことが心底大切なテレーゼ的には忸怩たる思いであるが、ティアナとペルレには、ギルドの2人がいる間は、テレーゼとの会話を控えてもらうことにした。2人はその間、別室でイーナとアンナとワーちゃんとのままごと遊びに付き合ってくれることになった。ティアナがテレーゼと一心同体の現状でも、テレーゼと心の繋がりのある娘のイーナとも五感を共有できるのは本当に幸いである。
「剛史さんとテレージアさん、お二人の娘さんのテレーゼには、常々ギルドも本当に世話になっているんだよ」
「ギルドマスターの言う通り、私たちは、テレーゼさんが新しいことを始める度に、いつも良い意味で驚かされっ放しです。お仕事を抜きにしてもテレーゼさんには期待しかありませんし、今年も私たちに何を見せてくれるのかと今から本当に楽しみです」
「娘をそこまで評価してくれていることに本当に感謝する。これからもお二人には娘との末永い厚誼をお願いしたい」
「ジークリットちゃんとマーヤちゃん、私たちの娘たちと仲良くしてくれて本当にありがとうね」と、ジークリット、マーヤ、剛史、テレージア。自分たち姉妹以外で、違う世界同士の4人が互いに会話している状況をテレーゼは好ましく感じていた。
「テレーゼ、そう言えばこの前作っていた風呂が完成したそうじゃないか。ぜひ私にも入らせてくれないか?」
「テレーゼさん、新年早々、ギルドマスターが無理言って申し訳ありません。もしよろしければ、私も入浴させてもらえないでしょうか?」
「それは別に構わないですけど、2人とも新年早々他に挨拶に行くところはないんですか?」
「私とマーヤは領主のパーティーに招かれているんだが、新年だけでも数日間開かれるパーティーは後回しにしてでも、私にはテレーゼたちとの時間が大切なんだよ。娘のジークリンデも連れてくれば良かった」
「領主のパーティーを後回しにしても、神出鬼没のギルドマスターがどこに行ったかなんて、先方には知りようもありません。もしそれで問題になったとしても、テレーゼさんたちには、決して迷惑を掛けたりしませんので安心されて構いません。あと問題が発生した場合の対応は、全面的に張本人のギルドマスターに対応していただきますので」
「マーヤ、流石にそうなったら助けて欲しいんだが」
「2人が構わないのでしたら、少し待っていて下さい。すぐにお湯を温め直してきますから」と、ジークリット、マーヤ、テレーゼ。
ジークリットとマーヤは、以前目の前でテレーゼが作成した浴槽が風呂として実際に使える状態であると聞いて、入浴を懇願してきた。そのため先に火魔法で浴槽のお湯を温め直した後、2人を風呂に案内してバスタオルと洗身用のタオルを渡し、ガス湯沸器の使い方を説明するテレーゼである。建屋こそ倉庫の転用であるが、設置された浴槽や洗い場・脱衣所の設備を見た2人は、骨灰磁器の浴槽が目の前で出来上がったのを見た直後と同等以上に驚きを隠せないようだった。
風呂から上がったジークリットとマーヤは、そのまま自宅に泊まることになった。そのお礼として、翌日の剛史とテレージアへのマルクトの街案内を2人が買って出てくれた。領主への挨拶は、街案内の翌日に行くとのことで、テレーゼ姉妹を含めて全員でマルクトの街に出掛けることになった。
テレージアは、マーヤと会話が盛り上がっていた。
「テレージアさん、テレーゼさんって、私たちが誰も知らないようなことをさらっと完成させるんですよ。冒険者パーティーのリーダーになったばかりだというのに、最初の調査復命のときに、とてもよくまとめられた報告書をギルドに提出して下さったのには本当に驚きました。正直な話、テレーゼさんをギルドに本気で引き抜きたいくらいですよ」
「マーヤちゃん、うちのテレーゼちゃんをそこまで買ってくれて本当にありがとう。そう言えば、マーヤちゃんって新年早々ギルドマスターの補佐をやってるくらいだから、相当ベテランだと思うんだけど、いくつなの?」
「もうすぐ21歳になります。ギルド勤務は6年目です。私は、ギルドマスターの娘のジークリンデと幼なじみでしたので、その縁でギルドに勤務することになりました。以前はアリーナさんやアンナちゃんも近所に住んでいて、年齢は違いますが2人と誕生日が同じ日ですので、3人でお祝いをしていました。誕生日は新年になって7日目ですから、あと6日後ですね」
「それなら、今年はみんなでお祝いしましょう。テレーゼちゃん、ちょっとこっちに来て。マーヤちゃんとアリーナちゃんとアンナちゃんが6日後に誕生日だそうよ。みんなでお祝いするのはどうかしら?」
「お母さんたちはその日は大丈夫なの?」
「今のところは何も用事はなかったと思うから、大丈夫よ。もし今後何か用事ができても、可愛い娘たちの誕生会が最優先に決まってるじゃない」
「それなら問題ないわ。そう言えばマーヤさんはギルドのお仕事は大丈夫なんですか?」
「その日は何としても休みます。良いですよね、ギルドマスター」
「それは構わないよ。私もその日は、是が非でも仕事の都合を付けて最初から同席させてもらいたいね。きっとまた我々が見たことも聞いたこともない珍しい物を見せてくれる筈だし、ツンフトマイスターとして自分の視野を広げることは、言うまでもなく非常に有益だからな」
「それじゃ決まりね。娘たちの誕生会って私も今から楽しみだわ♪」と、テレーゼ、テレージア、マーヤ、ジークリット。
(3人の誕生日か・・・何かサプライズをしてあげたいわね・・・)と、妹たちの誕生会を盛り上げるための思索に耽るテレーゼである。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
テレーゼ姉妹と両親、ジークリット&マーヤとの交流が平穏に行われたようで何よりです。ギルドの2人が義理堅い人たちなのは間違いないのですが、話を綴っていて、特にジークリットはテレーゼへの義理もですが、それと同じ以上にテレーゼ姉妹が作った新しいお風呂に早く入りたかったから、マルクト領主の新年パーティーを後回しにしたんじゃないの?などとつい思ってしまいましたw
あと、アリーナ、アンナ、マーヤの3人が揃って6日後誕生日だということで、あまり時間的余裕はありませんが3人の誕生会を開催するという企画が動き出しました。何を行うのか楽しみですね。
次話は、テレーゼ姉妹と剛史&テレージアが、ギルドの2人によるガイドによりマルクトの街の観光を行いますが、その待ち合わせまでの間に両親のある事実が明らかになります。




