第2話:お風呂の完成
浴槽を完成させたテレーゼは、次に浴室の水回りや建屋の整備に取り掛かります。
作成作業を行う中で、テレーゼは、お風呂をただ作るだけではなく、妹たちとの思い出作りにも心を配ります。
テレーゼによる白磁浴槽の作成が、意図しない形ではあったものの、白磁作成というギルドへの新技術アピールの場となり、テレーゼ姉妹が、自ら白磁製品生産を行わずとも、今後安定的な収入が約束されたことは、姉妹の生活基盤が更に強化されたことを意味し、とても意義深いことであった。
「少し前にも地震があった。姉さん、怖い」
「ヘレナ、大丈夫よ。すぐに収まるはずだから」
「テレーゼさんは、本当に落ち着いていますね。あなたが日本で住んでいた場所は、火山の噴火による地震が頻繁にあったと前に聞きましたけど、それを差し引いてもあなたは本当に肝が据わっていますね、流石です」
「日本は世界的に有名な地震大国だから、慣れは大きいのかも知れないわね」と、ヘレナ、テレーゼ、ティアナ。
妹たちの白磁浴槽に対する嬉しさの余韻がまだ残っている翌日のことであるが、早朝の姉妹全員の鍛錬中に小さな地震があった。前回は活法や魔法の訓練中に起こったことを、テレーゼは思い出す。
地震はともかくとして、現在作成中の風呂であるが、建屋、浴槽と解決してきて次の課題は給湯である。これを普通に全てを日本からの水道、電気、ガスだけで賄っていたら、光熱水道料は途方もない金額になることは目に見えているうえ、そもそも浴槽への給湯には今のままでは湯量が全然足りない。現実逃避というわけではないが、先に、身体を洗うためのシャワーなどを確保することを検討した。
検討の結果、大きめのプロパンガス瞬間湯沸器を4台、洗い場に設置することにした。決め手は、着火に電気配線が不要(単一乾電池を使った火花放電で着火する)であることと、何よりも水道の分岐水栓やガス管接続を含めて、借家入居時に瞬間湯沸器を、台所に全て自分1人で設置した経験があったことである。
早速以下の物を、テレーゼが住んでいた市内のホームセンターとプロパンガス事業者より購入した。手持ちの工具を事前に確認したが、過去の使用によりそろそろ交換が必要な糸鋸の替刃と、ホワイトセメント用の道具以外は、過去に揃えていたものがそのまま使えそうで幸いだった。
・元止め式(本体にシャワー吐水口が付いている)タイプのプロパンガス瞬間湯沸器4台、単一乾電池8個(予備を含む)
・可撓管(柔らかい材質で作られたガス機器接続用のガス管)、シール材(ガス漏れを防ぐために使用)
・樹脂製の水道管・排水管、継手、接着剤(水道管及び排水管用。但し、排水管には水道管よりも大口径の管を使用。昔のように金属製の水道管でないため、作業が容易いのが幸いである)、糸鋸の替刃(管の切断用)
・蛇口、継手、止水テープ、散水用ホース(蛇口は水道管と繋いで洗い場と浴槽に設置し、入浴中の水分補給や清掃などに使用。散水用ホースは蛇口に接続して洗い場や浴槽の掃除などに使用。止水テープは蛇口と水道管の接続の際、継ぎ目から漏水が発生しないように使用)
・排水口カバー(風呂の洗い場の排水口に設置)
・淡いピンク色の可愛いタイル多数及び接着用のホワイトセメント(洗い場の床に使用)、仕上コテ及びコテ板(どちらも、タイル貼り付け時にホワイトセメントを床に塗りつけるとき使用)
・防水カーテン及びカーテンレール(脱衣所と洗い場の間に設置)
・木製のすのこ、籐の脱衣籠、タオルや入浴時の用具を収納するための木製棚(いずれも脱衣所に設置。すのこは入浴前後で裸足でも汚れないように脱衣所全体に敷き詰め、入浴者には、この手前で履物を脱いでもらう。すのこと篭と棚が安価な樹脂やスチール製でないのは、テレーゼのこだわりである)
・洗面器及び風呂椅子(身体の小さいペルレ用は、後述の洗身用タオル、バスタオルを含めてテレーゼが自作)、リンスインシャンプー、ボディソープ、掃除用のデッキブラシ、スポンジ、風呂用洗剤を各10個、洗身用タオル、バスタオルを各30枚、足拭き用の大きなバスマット5枚(全て予備を含む)
・プロパンガスが充填済みの小型ガスボンベ8本と分岐金具4個(ガス瞬間湯沸器1台当たりガスボンベを2本設置)
購入後の運搬には、流石にこれだけの品物を日本からセフィロトへと違う世界に物質転移魔法(第9章第2話参照)で転移させるのは厳しいため、一度自宅内部を移動させる目的でティアナの魔石の魔力で空間魔法を使い、セフィロトまで運搬した。
買い出し終了後、倉庫にて、まず脱衣所と洗い場の作成と配管の設置を行う。施術室の排水用の配管から、樹脂製パイプを延長して倉庫の洗い場まで埋設する。施術室との高低差は倉庫の方が若干高いので、排水に好都合なのが幸いである。同様に、浴槽を洗い場の奥に高さ30センチほど残して埋め込み、洗い場と同様に浴槽の排水口まで樹脂製パイプを延長する。
そのあと、姉妹全員で発泡スチロール板をスチロールカッターで切断して切断面の面取りを行い、最後にテレーゼが堅牢化と防カビの付与魔法を施して、数枚に分割するタイプの浴槽の蓋を作成した。
なお水道管は、施術室にある洗面所(手指消毒用の設備は、接骨院には必須である。詳細は、「柔道整復師法施行規則」第十八条の四に、その旨が明記されている)の洗面ボウル下部にある配管を洗い場と浴槽まで伸ばし、どちらも途中の部分は埋設する
「イーナ、アンナ、ペルレ、私と一緒に床にタイルを貼ってくれるかな?」
「テレーゼお姉ちゃん、イーナたち頑張るの!きれいなタイルを並べて床をきれいにするの♪」
「イーナちゃんやペルレちゃんと一緒に、アンナも頑張る!テレーゼお姉ちゃん、白いお風呂にきれいなピンク色の洗い場って可愛い!」
「姉さま♡お風呂作りをお手伝いさせてもらえるなんて、自分たちのお風呂という実感がして凄く嬉しいです♡」
給排水の配管終了後、洗い場を土魔法で水を通さないよう硬化したあと、床にタイルを貼り作成した。タイル貼りは、今回の洗い場の作成を年少者たちの良い思い出にして欲しいとの思いから、テレーゼ、イーナ、アンナ、ペルレの4人で行った。浴槽や洗い場には、蛇口を設置したことに加えて、魔法で抗菌や防汚や硬化の効果を永続的に賦与しているので、耐久性は抜群で掃除も楽である。
タイル貼りが終わった後、土魔法で洗い場より15センチほど盛り上げて脱衣場を作成し、木製のすのこと籐の脱衣篭を設置、両スペースの間にカーテンレールを設置して、防水カーテンで間仕切りする。脱衣所の一部は倉庫地下室の入口を兼ねている。これらを全て収めるには本来かなり広大な建屋が必要であるが、アリーナ一家の倉庫は元々商売を行うことを前提に作られた大きな別棟だったため、何とか全て倉庫内に配置できた。
倉庫全体の採光に関しては、元々設置されていた天窓と壁の窓に、テレーゼが以前住んでいた市内のガラス屋で加工してもらった透明な強化ガラスを設置した。このため、日中であれば、光魔法は不要である。あと、倉庫全体の補強として、前述の通りテレーゼが地下室と同じく永続的な防御魔法を施したので、耐水・防腐などの効果は抜群である。
次に、ガス湯沸器の設置は、倉庫の外に置いた、給湯器1台当たり2本のガスボンベから可撓管を、施術室の水道から分岐水栓を設置した水道管を、それぞれ延長させてガス湯沸器に接続した。
ガスボンベが2本なのは、使用中にボンベが空になったときに、慌てて日本まで買いに行く事態を避けるためである。これは、テレーゼが以前借家に住んでいたとき厳寒期に数日の間遭遇した、ガス切れの苦い実体験からの配慮である。
(このガス切れは、毎月のメーター検針時にガスボンベ確認を怠ったプロパンガス小売業者の失態であり、ガス事業法にも明確に抵触している。その後、通常ではあり得ないレベルの失態で、真冬に店子に不自由を強いる事態に激怒した不動産屋の担当者主導で、借家のガス業者変更という顛末になった)
ガス湯沸器は、2台が洗面器への給湯用、残りの2台はシャワー用であり、それぞれ高さを変えて設置した。
最後に、浴槽への給湯であるが、水道、電気、ガスを使っての給湯があまりにも現実的でない以上、当面はテレーゼが毎回水魔法と火魔法を併用して温水を浴槽に給湯することにした。給湯絡みでふと思いついたことであるが、 テレーゼの自宅の周辺は森林で山麓でもある。そして、山自体は噴火はしていないが、最近の地震を考えると、どう見ても死火山ではなく火山自体は活動しているようだ。そうなれば考えることは一つで、温泉の存在の可能性である。将来的には、温泉掘削や浴槽への給湯を是非検討したいと思っている。
今後に向けての課題は残っているものの、テレーゼは、何とか年が変わる前日の夕刻までに風呂を完成させた。
「テレーゼ姉さん、姉さんはたった独りで、あっという間にこんな誰も見たことがないような風呂を作り上げて、本当に凄いよ!アタシたちは、姉さんの作業をただ見てるだけだったから、何も手伝えなくて本当にゴメン。アタシたち、風呂の完成を祝って、せめて全員で姉さんの苦労ををねぎらいたい!そして、アタシたちのために一生懸命作ってくれた風呂に、みんなで入りたい!」と、農場の作業を汗を流して頑張っていたアデリナが、風呂の完成を心から喜んでくれて、みんなでのお祝いと入浴を提案する。
「テレーゼお姉さんの持っている数々の知識や技術や魔法は、私たち妹には全く想像もつきませんが、私たち妹をいつも笑顔にしてくれます・・・そんな凄い人を、自分のお姉さんと胸を張って呼べる私は、本当に幸せです・・・」と、テレーゼにの胸に縋り付き、こらえきれず嗚咽するカトリナ。
「カトリナ、羨ましいです!私もテレーゼお姉さんと触れ合いたいです!」
そう言いつつ、アリーナがテレーゼにくっついたのをきっかけに、妹たち全員がテレーゼのところに。妹たち全員がテレーゼ謹製の、姉妹全員が一緒に入浴できる風呂の完成を、心底嬉しく思ってくれたようだ。
「ちょっと、カトリナ、泣かないでよ・・・でも、そんなにみんなが喜んでくれて、あなたたちのために頑張った甲斐があったわ。あと、アデリナは見ているだけって言ったけど、そんなことないわ。みんなが最初に倉庫を隅々まで掃除や片付けをしてくれて、作業が凄くやりやすかったし、その後も、魔物の骨を浴槽の材料として使えるように綺麗にしてくれたり、浴槽の蓋を丁寧に組み立ててくれたり、洗い場の床にタイルを綺麗に貼ってくれたわ。それに、みんなは私の代わりに農作業やギルドの依頼などを、本当に一生懸命頑張ってくれてたじゃない。みんな、こちらこそ本当にありがとう」
「お礼を言うのはアタシたちのほうだよ。姉さん、本当にありがとう!早速全員で風呂に入ろう!それでみんなで、年越しと風呂完成のお祝いと行こうぜ!」
「賛成。今日もアデリナは良いことを言う」
「イーナ、みんなでお風呂、楽しみなの♪」(テレーゼさん、新しいお風呂に入るのが本当に楽しみです・・・)と、テレーゼ、アデリナ、ヘレナ、イーナ、ティアナ。早速テレーゼは水魔法で洗い場と浴槽を清掃したあと、浴槽に魔法でお湯を作り出して浴槽を満たす。それを見て妹たちが服を脱ぎ、タオルを片手に、我先に完成したばかりの新しい風呂に向かっていく。テレーゼは、そんな妹たち全員に、取り急ぎガス湯沸器の使い方を教えるのだった。
(完成するまでに、いろいろ課題はあったけど、日本では大晦日の今日までに、お風呂が完成して本当に良かったわ。あと、今度両親がセフィロト観光をするときに、このお風呂にも入ってもらいたいわね・・・」と、妹たちの興奮したような会話や笑い声を耳にしながら、風呂が完成したことへの安堵と、今度はぜひ両親にも、完成したばかりの風呂を味わって欲しいと思うテレーゼである。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
テレーゼ姉妹待望のお風呂が完成して何よりです。アデリナはお風呂作りに関して、自分たちの働きの少なさを申し訳なく思っているようですが、作業は全員がお手伝いできるわけではありませんし、アデリナたちが農場などの仕事をしてくれているからこそ、テレーゼは安心して作業に取り組むことができたのです。
あと、お風呂作成のエピソードは、作者自身が以前経験した、借家暮らしや自宅リフォームなどのことを思い出しながら綴りました。借家で真冬にプロパンガスが止まったときには、正直な話、いろいろ辛かったのですが(そのため自宅では、ガスボンベのガス切れが生じないように都市ガスを選びました)、この連載を始めてから、自宅が台風で停電になったり、光ケーブルが断線したり(これは、残念ながら隣家の剪定作業中の断線で、ネットや電話やテレビが復旧まで丸3日間使えませんでした・・・)と、ライフラインの大切さを改めて痛感しています。
次話は、テレーゼが妹たちと一緒にセフィロトに来て初めての新年を迎える話です。




