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テレーゼ院長のセフィロト見聞録  作者: 西風の剣
プロローグ:「知らない場所」と若返り!?
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プロローグ4:行動開始

 本話は、第1章第0話として、既に投稿していたものを2分割して、両方をプロローグに移し替えた後半部分になります。

 前回に引き続き、「知らない場所」でのテレーゼの思索回になります。


 自分の身に降り掛かった不可解なことの数々から立ち直ったテレーゼが、「知らない場所」での行動を開始します。

 テレーゼ自身が「若返り」という、とんでもない状況を受け容れるための「再起動中」がようやく終わり、今度はそもそもの始まりである転移のことについて振り返ることにした。


 (骨折や脱臼の「転位」を整復する私が「転移」するなんて、まるで駄洒落だわ・・・それよりも、昨日まで身に着けていたブラジャーが全部使えなくなったのはどうすれば良いのよ・・・)

 駄洒落はともかく、現在使用可能なブラジャー皆無の状況は地味に困る、というテレーゼである。


 テレーゼは昨夜から自分に重ねて降り掛かった、これ以上ない理不尽とも言えるレベルの怪異を評して、マグカップに注いだ朝食後のお茶を口にしつつそうつぶやいた。


 「洒落の濫用は駄洒落と言って敬遠される」

 ドイツから日本に帰国するにあたり、日本語を学習するために読み込んだ、父の高校時代の現代文の教科書にそんなことが書いてあったことを何気に思い出すが、自分に起こったことがあまりにも荒唐無稽な出来事で、いくら人並み以上に思い切りが良い彼女といえども、自分が全ての怪異を完全に飲み干すためには、もう少し時間が必要だったと言うことかも知れない。

 そして今は、紛れもなく時間を欲するそのときである。


 帰国の経緯であるが、まずドイツの場合、義務教育の年数こそ9年(一部の州では10年)と日本の中学卒業までの年数と同じであるが、内情は全然違うという説明が必要であろう。


 初等教育の「グルントシューレ」は4年間、その後の中等教育は日本的に言えば、小学4年生終了時の学力や本人の希望によって進路が変わってくるが、大学進学を目指すための中等教育である「ギムナジウム」は、小学校高学年の2年間に加えて、中学・高校の全期間に相当する(従って中高一貫教育よりも更に長い)年数である。

 テレーゼはギムナジウムに進学が決まっていたが、もしそれ以外の中等教育から大学を目指そうとしても、制度上かなり難しい。


 テレーゼの両親は、日本的に言えば、小学生で進路の大半が決まってしまうドイツよりも、幼少から自然が好きだった娘に選択肢を増やしてあげたいという理由から、高校卒業までは(学力を別にすれば)大学選択への自由度が比較的高い日本への帰国を、遅くともギムナジウムの「7年生」(グルントシューレからギムナジウムに「編入」する形であるため通算年数での学年であり、日本の中学1年生に相当)開始までには実現すべく会社に転勤を願い出て、何とか母娘は希望通り、中学校入学に間に合う形で、日本で独り暮らしだった父のところに戻って来られたという次第である。


 先ほどの現代文教科書であるが、テレーゼが帰国前に日本語に接する機会がほぼ母親のみで、日本語にいささか難があったテレーゼのために、父親がかつて使っていた中学・高校の国語の教科書を送ってきたうちの1冊である。


 なお、彼女の先生は、日本語がネイティブと同等レベル以上で流暢な母親であったが、テレーゼが母のあまりのスパルタ教育ぶりに音を上げそうになったとか・・・


 日本的に言えば、中学校入学前に高校現代文の一部まで叩き込まれたのだから、その厳しさは推して知るべしである。もっとも、それに付いて行けたテレーゼも、父母の頭の良さは色濃く受け継いでいる。


 特技の英語に関しては、グルントシューレ3年から授業があったことに加え、交流の深かった隣家のイギリス系ドイツ人の一家と英語で会話することが多く(テレーゼの母親が娘の英語教育のために、あえて一家に頼んだとのこと)、一家の長女がテレーゼと同級生だったこともあり、自然と実用レベルのクイーンズイングリッシュを身に付けることができた。まさに「習うより慣れろ」である。


 結果として彼女は日本に帰国した時点で、母親の母国語であるドイツ語を含めた3ヶ国語を会話・筆記とも普通に使えたが、それは現在に至るまで彼女の大きな特技であり、大学時代に選択していたフランス語も含めて、前職時代には通訳業務が増えることとなった。


 閑話休題。(猫や人間が、間が持たなくなったとき頭や身体を掻く仕草を、セルフグルーミングと言うけど、私のさっきまでの現実逃避的な一儲け話や、たった今口にした駄洒落?なんかは似たようなモノね・・・)


 そう思いつつも、いつものように仕事用の白衣に着替えながら、やれることをやっていこうと気持ちを切り替える。

 ブラジャーの代わりに関しては、接骨院に用意していた新品のサラシを成長?した胸に巻くことにした。


 サラシは例えば腰痛患者など、広範囲の患部固定に重宝するため、置いていたのが不幸中の幸いだったが、自分の身体なのに、違和感ありすぎである。

 そういえば、30年ほど前に一時期流行した、任侠団体がテーマの映画とかで登場する、和服を着たいわゆる「あねさん」が使っていただろうか?






 まずは外に出て、もし多少離れていても「ご近所様」がいたら、引っ越し?の挨拶をすることにした。

 昨夜は、謎の光線の出現以降は空に星も出ていないような有様で、建物が周辺に全く存在しないということ以外はロクに周囲の確認ができていなかったので、改めて確認したいテレーゼである。


 もしかしたら、「知らない場所」で柔道整復師として患者様のために働く機会があるかも知れないし、そうでなくてもご近所様への挨拶は、世捨て人のような引きこもりをやるのならともかく、自分はそんなことなど欠片も考えていないのだから、挨拶は人としておろそかにしてはならない、大切なことであると確信している。


 あと、こんなトンデモ体験した人なんて、オカルトなどにも人並み以上には興味があるテレーゼであるが、今まで半世紀生きてきて見たことも聞いたこともない。

 そうは思うものの、改めて考えると、「知らない場所」で今回体験したことは、むしろ歓迎すべき事かも知れない。肉体年齢が推定30歳も若返るのであれば、極論すれば年老いた大富豪の中には、全財産すら差し出す人がいるのではないだろうか?そのぐらいたまさかな(滅多にない)事であろう。


 正直な話、「知らない場所」か「謎の光線」か、あるいはその他の未知の力が、残り寿命や身体の全器官にどのような悪影響を及ぼすのか皆目不明であるが、今更心配したところで取り返しが付かないのなら、現状を肯定的に受け容れたほうが良い。


 今は亡きある有名人が座右の銘にしたとされる、「迷わず行けよ、行けばわかるさ!」という言葉がふと頭に浮かんだが、時には毒を自ら飲み干すことすら躊躇わないかのような故人の豪胆さも相まって、今の自分を発憤させるための言葉として、この上なく相応しい気がする。


 そう思い、一度思い切り深呼吸をして、次に両頬を両手で張って気合いを入れた。

 更に「ラストゥンス・ポズィティーフェス・デンケン!」(レッツ・ポジティブ・シンキング!のドイツ語版)と、大きく声に出した。

 彼女にとっては、周囲にドイツ語を理解できる人が、前職でごく僅か存在した以外は、ほぼ両親だけである。

 相手が知らない言語は、下手をすると会話で誤解を招きかねないので、人前でドイツ語を使うことをなるべく避けているが、医療用語以外では、やや久しぶりに母の母国語であるドイツ語を口にしたテレーゼである。


 自らを激しく鼓舞して心情的にスッキリしたテレーゼは、接骨院から外に出た。

 最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

 元々の話から殆ど手を加えずに、話を綺麗に2分割できたことに、作者自身が驚いています。

 次話からは、新しく本編(第1章)のスタートになります。


 この話を綴っているとき、間違いなくテレーゼが自分と一体化したと思えるくらい彼女への「思い入れ」が抑えきれなくなりました。物語という枠を超えて、彼女という存在を心底愛おしく感じました。無論、作者の大切な愛娘です。


 気付かれた方も多いと思うのですが、テレーゼは人間的に凄く重く濃い女ですが、それ以上に凄く真摯かつ優しい女です。好き嫌いはあるかも知れませんが、そういう人は間違いなく情愛が深く、作者的に凄く好ましいとすら感じます。


 作者的に人間の値打ちの多寡とは、有事において、たとえいくら見苦しくても、泥水を啜ってでも、足掻き続けることができる心の強さの差だと思うのですが、他人に、特に大切な人にはもの凄く優しい反面、自分にはどこまでもストイックな、テレーゼという女が作者は大好きです。

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