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テレーゼ院長のセフィロト見聞録  作者: 西風の剣
第8章:友人宅への訪問と出逢い
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第2話:母娘の引っ越し

 回復魔法でアリーナの病気を完治させたテレーゼ。

 アリーナとアンナの苦境を知り、2人のことがどうしても放っておけないテレーゼは、2人にある提案を行います。

 「アリーナさん、今のお仕事を続けていては、早晩病気が再発してしまうと思います。そこで、私からアリーナさんたちに提案したいことがあります」と、テレーゼ。


 「それって・・・一体何でしょうか?」と、アリーナ。


 「私たちは、近々農業を始めようと思うんです。最初は家庭菜園から始める予定ですが、それだけでも、ここにいる全員が食べるのに困らないくらいの野菜が手に入ると思います。その後は生産が軌道に乗れば、マルクトの街の市場などで収穫した野菜を売ろうと思うんですが、その場合私たちだけでは正直な話、病害虫は魔法で対応できるとしても、その他の畑を耕して、種や肥料を撒き、除草して、野菜を収穫して、その後、出荷・販売するという一連の作業で人手が足りません。そこで、私たちの手伝いをして欲しいんです。ただ、申し訳ないのですが当分の間の賃金は、野菜などの現物支給が主になると思います。もちろん、無理にとは言いませんが、できれば私たちに力を貸してもらえないでしょうか?」と、テレーゼは綺麗事だけでなく事実を正直に伝えた。大きなお願い事をするのに、誤魔化すことはしたくないと思ったからだ。


 「どうして先生は、私たちにそこまでしてくれるんですか?」と、アリーナ。


 「我が儘かも知れませんが、お友達であるアンナちゃんやそのお母さんが、こんなに苦労しているのを放っておくなんて、絶対に嫌だと思ったからですよ。回復魔法で完治させたアリーナさんの病気が、二度と再発するようなことは絶対にさせません。もちろん純粋な善意だけでなく、私たちと一緒に働いてくれる労働力を手に入れたい、という気持ちも事実です」と、テレーゼ。


 「テレーゼ姉さん、無理に自分のことを悪く言わなくても良いと思うよ。アリーナ、アンナ。姉さんは本当にお人好しだから、心から2人を助けたいと思ってるんだよ」と、アデリナが話に加わる。


 「イーナ、テレーゼお姉ちゃんやお母さんたちと一緒に暮らしてるけど、毎日あったかくて楽しいの♪アンナもイーナと一緒にお姉ちゃんのお手伝いができればきっと楽しいの♪」と、イーナが友達のアンナとの新生活への期待を口にする。


 「姉さんって、自分はもの凄く無理するのに、私たち妹にはもの凄く良くしてくれる。そんな姉さんを私たち以外の人にも助けて欲しい」と、ヘレナは2人にもテレーゼの手助けをして欲しいと話に加わる。


 「今みんなが言ったとおりですけど、私たち妹は全員、姿が見えない姉のティアナも含めてテレーゼお姉さんが大好きです。そんなお姉さんが大事にしたいと思った人たちと、私たちも仲良く一緒に過ごしたいんですよ」と、カトリナも話に加わる。


 「アンナ、イーナちゃんたちやお母さんと一緒に、テレーゼお姉ちゃんのお手伝いをしたい!お母さん、お願い!」と、これまでの話を聞いて、母親の説得に回るアンナ。


 「わかりました・・・私たち母娘のためにそこまで言って下さって本当に嬉しく思います・・・あの人が病気で亡くなってから、私はアンナさえ無事でいてくれたら・・・と思っていましたが、私たち母娘も皆さんの仲間に入れてもらっても良いでしょうか?」と、アリーナ。


 「アリーナさんとアンナちゃん・・・いいえ、アリーナ、アンナ、2人のことを心から歓迎するわ。正直な話、お金はたくさんは無理だけど、2人が食べることだけは絶対に苦労させないから」と、テレーゼは、母娘を長姉として強く歓迎する意向であることを伝える。


 「先生、それだけでも十分過ぎるくらい有り難いです。ただ、この家は、もう家賃が支払えないので立ち退かないといけないんですけど、野宿でも何でも構いませんので私たちを置いてもらえないでしょうか?」と、アリーナ。どうやら母娘は病気以外でも差し迫った問題があるようだ。


 「アリーナ、それなら、私たちと一緒に暮らしましょう。うちはまだ部屋があるから、2人に野宿なんて絶対にさせないわ」と、自宅で一緒に暮らすことを持ちかけるテレーゼ。


 「先生、何から何まで本当にありがとうございます・・・」「アンナ、ホントにお母さんと一緒に、テレーゼお姉ちゃんやイーナちゃんやお姉ちゃんたちと一緒に暮らせるの?ありがとう!」アリーナとアンナは、テレーゼたちとの同居に対して、強い感謝と同時に期待もしてくれているようだ。


 「こちらこそ、これからよろしくね。あと、2人に、私の心と身体の中で一緒に生きている妹のティアナを紹介するわね」と、テレーゼ。


 「アリーナ、アンナ、初めまして。次女のティアナです。私は元々キラーグリズリーだったんですけど、命を落とした後、縁あってテレーゼさんの心と身体の中に受け容れてもらって、それからずっと娘のイーナと一緒に、本当に毎日幸せに暮らしています。2人とも、これからよろしくお願いしますね」と、テレーゼの身体を借りてティアナが2人に挨拶する。テレーゼとは口調と雰囲気の違いから、明らかに別人であることが2人にはすぐ理解できたようだ。


 「イーナちゃん、キラーグリズリーだったの!?人間にしか見えない!イーナちゃんすごい!」と、アンナ。自分の友達が、誰もが知る最強の魔物であるキラーグリズリーだとは、思ってもいなかったようだ。


 「ティアナさん、私と同じ母親同士なんですね・・・こちらこそよろしくお願いします。あと、こんな大事なことを私たちに話してくれるなんて・・・私たち母娘をここまで信じてくれていることを、絶対に裏切ったりしませんから・・・」「うん!イーナちゃんたちのことは、テレーゼお姉ちゃんたちやお母さんとの秘密にするね!」アリーナとアンナは、自分たちを信じて秘密を打ち明けてくれたテレーゼたちの気持ちを、心底意気に感じたようである。


 「2人とも、ありがとう。あともう2つ、妹たちも知っている私の秘密を話すわね。1つは私の年齢なんだけど、妹たちから姉と呼ばれていることで気付いたかも知れないけど、みんなの中では一番年上なのよ。丁度50歳よ」と、テレーゼが自分の年齢を話す。


 「えー!?テレーゼお姉ちゃんって、とてもそんな年齢には見えないよ・・・アンナは6つだけど、テレーゼお姉ちゃんって妖精族エルフなの?」と、アンナは相当驚いたようである。あと、アンナはイーナと(人間の年齢換算で)ほぼ同じ年齢のようだ。


 「ここでもう1つの秘密なんだけど、私は、日本っていう別の世界からセフィロトに来た、向こうではごく普通の人間だったんだけど、そのときに理由はわからないけど、寝ている間に身体が見た目で30歳くらい若返ったのよ」と、テレーゼがもう1つの秘密を話す。


 「だからなんですね・・・先生・・・テレーゼさんがごく普通の人間だったというのは、ちょっと信じられないんですけど・・・見たこともない道具で私の身体のことを丁寧に調べてくれたり、たった一度の魔法で、あれほど苦しかった私の病気を完全に治す凄い先生なんて、教会や病院ですら見たことも聞いたこともありませんから。そんな凄い先生なら、魔法の力で若返っても何も不思議には思えませんし、言われてみると納得です・・・それと私は22歳です」と、アリーナは今のテレーゼの説明で、いろいろと合点がいった様子である。あと、アリーナはカトリナと同じ年齢であることがわかった。


 「おいそれと他所で口に出せることじゃないから、ここにいるみんなだけの秘密にしておいてね・・・そういえば、アリーナ、この家の引き渡し期限はいつなの?」と、テレーゼが尋ねる。


 「明後日です。薪はとても持って行けそうになかったんですけど、せっかくアンナが拾ってきてくれたので・・・」と、アリーナ。


 「それなら、今からこの家の品物を全部持ち出しましょう。家1軒分くらいなら、私の空間魔法と、私がいつも持ってるリヤカーで運べるから、今日割った薪も含めて全部持ち出せると思うわ」と、庭の外にリヤカーを出すテレーゼ。リヤカーにはその場で堅牢化(防御魔法を物に対して使うこと)と軽量化の魔法を掛ける。


 「テレーゼ姉さん、それなら早速やろうぜ。アリーナ、アンナ、荷造りや荷物の持ち出しを始めても良いよな。荷物はリヤカーに積み込む前に、とりあえず薪を割ったところに置いておこう。芝生が生えてるから直に地面に置いても大丈夫だろうし」

 「姉さん、私も頑張る」

 「了解です、テレーゼお姉さん。みんなで頑張りましょう」と、アデリナ、ヘレナ、カトリナ。信じるに足る新しい仲間、というよりは新しい姉妹の誕生が、妹たちはとても嬉しいようだ。


 「まず荷造りの作業スペースを確保するため、タンスみたいな大きな物を家の外に持ち出すわね。アリーナとアンナは、荷物をまとめて表のリヤカーに積めるようにしてね」と、テレーゼが家財搬出作業の指示を出す。


 「イーナ、アンナの荷物を運び出すの手伝う!」「イーナちゃん、アンナのお部屋はこっちだよ」と、イーナとアンナ。一緒に暮らすことになって、更に仲良くなったようだ。


 それから2時間ほどで、倉庫に収納した薪まで(というよりは倉庫ごと解体することなく)テレーゼが空間魔法で持ち出した。

 倉庫はアリーナの旦那でアンナの父だった故人が作ったとのこと。倉庫というよりは母屋とほぼ同等の別棟と言っても良い大きさで、家主より退去時の撤去を要求されていたとのことだが、造りがしっかりしていて、いわば母娘の形ある故人との思い出である。

 土台から建物を外すとき、持っていたスマホで写真を撮りながら作業を行ったことで土台の構造がよく理解できたので、後からの移築も何とかなりそうである。地面に設置されていた土台の部材も、全て魔法で掘り出して持ち出した。設計に関しては、テレーゼがかつて大学の講座(自由選択科目)で農機具倉庫などの設計を若干学んでいたことと、自分の接骨院の内装時にも独学を行ったことで、その心得があったことは幸いであった。


 また、家財道具の大半はリヤカーに乗せ、積みきれなかった残りをテレーゼが空間魔法で収納した。彼女が空間魔法のコツを、大量の荷物や倉庫を収納する過程で会得できたのも大きかった。家からは、全ての家財道具を持ち出した後、簡単に掃除を済ませて家財搬出は完了である。最後にテレーゼは、家主宛に家財搬出と倉庫の撤去を終えた旨と、簡単な挨拶を紙に認めて戸締まりした家の入り口の扉に貼り付ける。そして家から出立した。


 帰宅途中、ギルドに立ち寄る。受付のマーヤに、アリーナ母娘の家の立ち退き期限が明後日のため、荷物を運び出して引っ越すことになったという旨の、マルクトの街からの転出挨拶を行った。マーヤは、「引っ越しが一段落したら連絡を下さい」とのことだった。


 マーヤへの挨拶を済ませ、次にギルド内の魔物解体場で魔石を数個入手する。魔石にはカトリナが紛失物を見つける魔法(第2章第1話参照)をかけて、使い方を説明してアリーナとアンナに渡す。マルクトの街の入り口で全員身分証を提示(アリーナはもちろん、今は亡き父親の計らいで、年齢的には本来身分証が不要なアンナも身分証を持っていたのは、今後を考えると幸いだった)して街を出て、日没になる前に自宅に帰り着いた。


 運び出した倉庫を自宅の隣に移築して、アリーナとアンナの母娘を自宅の空き部屋に案内する。セフィロトの住宅とは全然違う日本という他所の世界の建物が、渡された魔石の効果で忽然と現れたことや、建物の中の様子が自分たちが知る家の中の様子とは全然違うことに、母娘は相当びっくりしたようだった。

 いきなり生活環境が激変して大変かも知れないが、2人には、この家や自分たち姉妹との生活を、徐々にでも慣れていって欲しいとテレーゼは思った。






 (いろいろ予定外のことはあったけど、本当に切羽詰まっていたアリーナとアンナを自宅に迎え入れることができて本当に良かったわ・・・)と、心底信頼できる妹たちが増えた今後の生活に、ますます強い期待と楽しみを感じるテレーゼである。

 最後まで読んで下さり、ありがとうございます。


 テレーゼ姉妹がアリーナとアンナの母娘宅を訪問したのが、家の退去前だったのは本当に幸いでした。また、テレーゼたちにとっても、新しい家族が増えたことは、何より嬉しいことであったようです。


 次話は、イーナが熱望していた(以前後書きで触れさせていただきました)ある人物?が登場します。

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