第3話:エケベリアと温泉
活法と魔法の練習を行い、自宅に戻ってきた6姉妹。そこで、テレーゼが図らずも日本からセフィロトに持ち込む形となった植物の話になります。
その後、テレーゼはお風呂に入りながら、6姉妹全員での旅行について計画を立て始めます。
11月10日 一部繰り返しの表現があった箇所を修正しました。
活法と攻撃魔法防御と合成魔法の練習が一段落ついたところで丁度日が暮れそうになり、全員自宅に入る。
「ところでテレーゼ姉さん、部屋に置いてある紫色の葉?花?は、何て言うんだ?」と、施術室の窓辺に置いてある鉢植えを見ながらアデリナが聞いてきた。
「それは「エケベリア」という植物よ。綺麗な色をしているのは葉で、花はもうすぐ咲くわ。植物の品種名は「パールフォンニュルンベルグ」というのよ」と、テレーゼ。
「姉さんが名前を付けたの?」と、ヘレナ。
「いいえ、名前は今から100年近く前に、ドイツでこの品種を生み出した人が付けたものよ」と、テレーゼ。
「テレーゼお姉さん、名前はどういう意味なんですか?」と、カトリナが質問する。
「パール(主に海に生息する特定の二枚貝から採れる「真珠」のこと)+フォン(ドイツ語圏の貴族の称号)+ニュルンベルグ(ドイツ南東部のバイエルン州北部にある、人口50万ほどの地方都市ニュルンベルクが英語的な読み方に訛ったもの。因みにドイツ最高峰の山ツークシュピッツェは、同州南部でオーストリアのチロル州と国境を接した位置にある)の組み合わせになるわ」と、テレーゼが答える。
「テレーゼさんって、本当にいろいろ詳しいんですね」
「テレーゼお姉ちゃん、すごい♪」と、ティアナ&イーナ。
「個人的にこの植物は好きなんだけど、名前がチグハグなのが玉に瑕ね・・・」と、テレーゼ。
「お姉さん、それはそういう意味ですか?」と、再びカトリナが質問する。
「この植物の名前って、一言で言えば2つの違う言語が混ざった物なのよ。具体的には「パール」は英語で、「フォン」と「ニュルンベルグ」はドイツ語になるんだけど、本来のネーミングで言えば全部ドイツ語で「ペルレフォンニュルンベルク」(ペルレはドイツ語のパール)だったのよ。それが「ペルレ」という言葉が「パール」という言葉に比べて世界的に意味が通じにくいという理由で、世界中に広まる過程でいつの間にか「パール」に変わっているし、都市名も何故かニュルンベルグと訛っているのよ。
「そうなんですね」
「じゃあ、姉さんのお母さんの国の言葉で、この娘を「ペルレフォンニュルンベルク」と呼べば良い」
「アタシたち姉妹と同じ言語の名前が由来って、いかにも仲間というか姉妹という感じがするな」
と、カトレナ、ヘレナ、アデリナ。
「まあセフィロトでは他所で見ることのない植物だから、元々の名前に戻しても別に構わないわね。但し、フルネームはエケベリアのことなのか区別が付きにくいし、毎回呼び掛けるには長い名前だから普段は「ペルレ」で良いと思うわ」
「ペルレ、アタシたちの一番下の妹だな」
「妹が増えた。嬉しい」
「イーナに妹ができてうれしいの♪」
テレーゼの言葉に、アデリナ、ヘレナ、イーナがそれぞれに気持ちを口にする。アデリナたちはペルレに話し掛けているが、本人ならぬ本植物であるペルレには、今のところアデリナたちに、意思を伝える手段がないことが残念な話である。
「そう言えば、この植物って「貴族」なんですよね」
「ここでいう「フォン」は、貴族の称号というよりも、純粋に植物の名前の一部ね」と、カトリナとテレーゼ。
「そういえば、午前中に面会したギルドマスターのジークリットさんのフルネームは「ジークリット・フォン・ケッセルリンク」だと聞いたことがあるんですけど、彼女も「フォン」は付いていても貴族ではないですね」
「カトリナ、ジークリットのフルネームを教えてくれてありがとう。「ケッセルリンク」というのは、ケッセル(ケトル(薬缶)のドイツ語)+リンク(リング(把手、指輪)のドイツ語)という意味だから、昔セフィロトにやってきたジークリットの遠い先祖は、苗字から察するに、調理器具製作とかの物作りを代々仕事にしていた、職人さんの家系だったのかも知れないわね。自分の仕事に纏わる事柄が苗字に用いられるのは、古今東西普遍的なことだから。
あと、昔のドイツの労働者階級で元々貴族だったとは考えにくいから、おそらくマルクトの街でツンフトマイスター(ギルドマスター)に任命されて社会的地位を獲得してから、「フォン」を付けた名前を名乗り始めたのだと思うわ」
「テレーゼさんって、いつも色々なことを深く考えているんですね。もし「妹」が本当に現れたら、今以上に賑やかになるので私も嬉しいです」
と、カトリナ、テレーゼ、ティアナ。
(これは、新しい妹誕生のフラグなのかしら?妹たちは半ば誕生を確信しているようだけど・・・)
当初はアデリナにエケベリアの名前を聞かれて名前を教えただけのはずが、思いがけない話の成り行きになったものである。
(もしかしたら植物の精霊でも出てくるのかしら?)などと、そうなったら楽しみだと思うテレーゼである。
ギルドから戻って午後からずっと活法と攻撃魔法防御と合成魔法の練習に充てたため、姉妹全員が相応に疲れていた。特にイーナは眠そうだったので、テレーゼは手早くお風呂の準備を行い、姉妹で順番にお風呂に入る。イーナが眠そうにしながらもテレーゼに抱きついていたので、椅子に座ってしばらくイーナを優しく抱っこしながら妹たちの入浴が終わるのを待っていた。
(人化魔法って、体重も人間の姿相応の軽さになるのね。人化するときに少なくなった身長や体重はどこにいったのかしら・・・)などと、イーナを抱っこしている間、自分が彼女に掛けた魔法ではあるが、疑問に思うテレーゼである。
(人化魔法は私も何回か使ったことはあるのですが、そう考えると確かに不思議ですね・・・)と、身体と心を共有しているティアナが頭の中に語りかけてきた。
2人の思案をよそに、母親と長姉に抱っこされているイーナは、大好きな2人の暖かさを感じて安心できるのか、本当に幸せそうな寝顔だった。
イーナの寝顔を見ていると、30分ほど経って妹たちが入浴を終える頃に、「あれ?テレーゼお姉ちゃんとティアナお母さん、イーナ寝てたんだ・・・2人にぎゅっとされてあったかくてすごく気持ちよかったの♪えへへ・・・」と、イーナが眠そうな目をこすりながら目を覚ました。
「イーナ、もう大丈夫?眠いならもう少しこうしているわよ」と、テレーゼが彼女に確認すると、「お風呂に入ってからみんなでごはん、楽しみなの♪」と、まだ少し眠そうな声ではあるものの今から入浴を希望するイーナ。
脱衣所で服を脱ぎ、そのまま浴室へ。早速、イーナの髪の毛と身体全体を洗ってあげる。先日熊の姿をしたイーナの全身シャンプーで散々疲れたことを考えれば、今日は身体が小さいので本当に楽である。今日は眠そうだったのでテレーゼが洗ってあげたが、イーナ自身が洗髪や洗身の練習をすることに前向きなので、遠からず自分自身で髪の毛や身体を洗えるようになる筈である。
次いでテレーゼも髪と身体を洗い、湯船に入る。
(テレーゼさんと一緒の身体になってから初めてお風呂は入ったんですけど、本当に気持ち良いですね)と、ティアナ。
「ティアナ、日本ではお風呂に入ることを「命の洗濯」という人もいるくらいだから。お風呂に入ると身体を綺麗に保てるし、リラックスして疲れも取れるから良いことずくめよ。あと日本人がお風呂好きな民族というのは、世界的に有名な話だけど、ティアナがそんな私に影響を受けているのかも知れないわね」と、テレーゼが説明する。
「イーナも、テレーゼお姉ちゃんとティアナお母さんと一緒のお風呂って気持ちいいの♪」と、イーナも2人の意見に同意する。
「ティアナやイーナは温泉って入ったことある?ティアナと出逢ったところにきれいな湧き水の池があったでしょう?それと同じように暖かいお湯が湧き出てくるところを温泉というのよ。温泉の中には砂浜にお湯が湧き出てくる場所があって、お湯で温められた砂を身体に掛けて「砂むし温泉」として利用しているところもあるわ」と、テレーゼは2人に説明する。
「「砂むし温泉」って、もしかして砂の中に埋められるんですか?」と、ティアナ。
「埋められるというか、そこの温泉がある砂浜には身体に砂を乗せる人がいて、浴衣という服を着たお客さんにその人が身体に砂を掛けてくれるのよ。まあ身動きが取れなくなるのが嫌だという人には普通の温泉のほうが良いわね」と、テレーゼ。
「イーナ、今日みたいにテレーゼお姉ちゃんや、ティアナお母さんや、お姉ちゃんたちとみんなで温かいお湯に入るお風呂が良いな♪」と、イーナ。
「だったら、姉妹だけで入ることができる貸し切りの大きな温泉にでも行きましょうか?」と、テレーゼが2人に提案する。
「テレーゼさん、それならみんなでゆっくりできそうですね」「イーナ、みんなとお風呂、楽しみなの♪」と、ティアナとイーナ。
「後で他の妹たちにも泊まる場所を提案しましょう」と、テレーゼ。
(姉妹で温泉が貸し切りにできて、料理も美味しい温泉宿って、確か市内にあったわね・・・他に行く場所も含めて、最終的には妹たち全員で打ち合わせて決めましょう・・・)と、テレーゼは大まかな旅行計画の叩き台を頭に描く。
(妹全員との旅行って、行く前の計画を立てるのすら楽しいわね・・・)今の時点で、楽しい旅行になることを確信するテレーゼである。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
テレーゼは幼少期より自然が好きだったことから、園芸農業やガーデニング全般が好きなのですが、施術室にペルレフォンニュルンベルクを置いていたのは、テレーゼが好きだということに加えて、患者様の心を和ませる効果を重視したことによります。
ペルレは、日本にいるとき、日々患者様がテレーゼに施術されて良くなっていくところを目の当たりにしてきましたので、元々テレーゼに強い敬慕の情を抱いていましたが、魔法や超自然的な力が存在するセフィロトにテレーゼと同じように転移して、その過程で精霊としての力を得ています。テレーゼや妹たちが作中で新たな妹の登場を予感していましたが、登場時期はともかくとして、登場はほぼ確定です。何と言っても、イーナが心底楽しみにしていますから。
作者も愛娘のテレーゼと同じで、この植物はとても好きです。ペルレフォンニュルンベルクを含むエケベリアは、特定の時期に咲く花だけでなく、可愛くて鮮やかな姿を年中楽しめるところが良いですね。
あと、ペルレフォンニュルンベルクは紫系統の綺麗な色をした観葉植物ですので、興味を持たれた方はぜひ画像検索などをしてみて下さい。
それと、6姉妹全員が待ちに待っていたテレーゼの故郷への観光旅行について、ようやく動き出しました。作中でテレーゼが感じたように、今からでも楽しい旅行になるのは確実でしょう。温泉宿は市内に関して言えば、施設の新旧はあっても、そんなに外れはないと思います(もっとも一部廃墟マニアのメッカと化した、温泉宿の廃墟があるのは残念ですが・・・)。なお、彼女たちが行く予定の温泉宿は、実在するものではなく、物語のものですので念のため申し添えます。
次回は、6姉妹の夕食後の旅行の打ち合わせ、テレーゼの新たな試みについての思索、イーナの洋服の試着会の話です。




