第4話:復命とネーミングの理由
ギルドに到着したテレーゼたち。
テレーゼは前職で培った(但し、セフィロトでは殆ど前例のない)スタイルで復命を行います。
6姉妹はマルクトの街の中心部に近いギルドに到着した。ウエスタンドアの向こうには、午前中の早い時間ということもあり、依頼を受ける冒険者たちがたくさんいるのが見えた。テレーゼたちはドアを押してギルドに入る。受付では丁度マーヤが手が空いていたので、彼女の所に向かう。
「カトリナさん、みなさん、お疲れ様です。ギルドで依頼していた調査の復命ですか?」と、マーヤが挨拶をしてきた。
「ええ、そうです。このたびパーティーのリーダーを変更しました」「私が新しくリーダーになったテレーゼです。今後よろしくお願いします。早速ですが、依頼調査の復命をさせていただいても構いませんか?」と、カトリナ&テレーゼ。
「カトリナさん、今までお疲れ様でした。そしてテレーゼさん、今後よろしくお願いしますね。今回の復命は、当マルクト支部のギルドマスターも同席しますがよろしいでしょうか?今回のキラーグリズリーの件についてはマルクトの領主様も関心を持たれているようで、ギルドマスターから領主様への報告が必要なんですよ」と、マーヤ。
「それは構いませんよ」「ありがとうございます。これからギルドマスターのところに皆さんを案内しますね」と、テレーゼ&マーヤ。
テレーゼたちはギルド2階の応接室のような部屋に案内される。部屋には30代後半と思われる女性がいて、彼女がテレーゼたちにソファーへの着座を促す。
「やあ、みんな。私はマルクトのツンフトマイスターをやっているジークリットだ、よろしくな」と、テレーゼたちに話し掛けてくる。
「私はパーティーリーダーのテレーゼです。よろしくお願いします」
(「ツンフトマイスター」って、ドイツ語でギルドマスターのことよね・・・わざわざ肩書きをドイツ語のものにしているのは何か意図があるのかしら?流石に一筋縄では行かない人物のようだけど、少なくともここで何かを悟られるような反応は論外ね・・・)と、テレーゼ。
「マスター、「ツンフトマイスター」と言っても何のことか解りませんよ。「ギルドマスター」と名乗って下さいと何度も言っているじゃないですか」
と、ジークリットの隣に座っていたマーヤがツッコミを入れる。どうやらこの肩書きの名乗りは、いつものことのようだ。
「マーヤ、そこまで言わなくても良いじゃないか。テレーゼ、すまないね。私の先祖が由来は知らないが、ギルドマスターに就任したときにこう名乗ったらしいんだ。その先祖に倣っているという訳さ。あと私の娘はジークリンデと言って君たちと同じく冒険者をやっているんだが、私と娘の名前も、何代か前の先祖が使っていたものなんだよ。もっともマルクトの街や近隣の村の、特に女性の名前は他所の街とは違う独特なモノが多いんだが、先祖が使っていたという以外の由来は不明なんだ」
と、ジークリットは肩書きや名前のことを説明してくれる。
(それって・・・私と同じくドイツ系の女性が、昔セフィロトにやってきたんじゃ・・・その人が目の前にいるジークリットや娘のジークリンデの先祖で、マルクトの街でツンフトマイスターに任命されるほどの大きな功績を挙げて、有名になったんじゃないの?そりゃ女性でツンフトマイスターに上り詰めた凄い人なんだから、それに肖りたいと、女の子にドイツ系女性の名前を付ける親が多くなるのは道理よね・・・そして時代が下って、ネーミングの由来は忘れ去られても、ドイツ系女性の名前を自分の娘に付ける風習は伝統として残った・・・あくまでも勝手な推測だけど、史実と大きく外れていないと思うわ・・・帰宅したら妹たちにも話した方が良いかも知れないわね・・・)
図らずもドイツ系女性の名前が、マルクトの街で多かった理由が何となく解ったテレーゼである。
(テレーゼさん以外にも、セフィロトに来た人っていたんですね。ビックリしました・・・)
(知らなかったの・・・でもイーナは他の人じゃなく、テレーゼお姉ちゃんが良いの♪)
心の繋がりのあるティアナとイーナが頭の中で会話してきた。2人には他所でこのことを話さないように伝える。
「テレーゼたちは、キラーグリズリーが森からいなくなったことの調査復命だよな。一緒に聞かせてもらうよ」と、ジークリット。
テレーゼは復命を開始することにした。
まず、事前に用意していた調査結果の概要を記したA4サイズのリサイクルペーパー(自宅のプリンターで使っていたもの。セフィロトの文字は、当然ながらパソコン入力ができないため手書きである)3枚を、内ポケットから出してジークリットとマーヤに渡し、それに補足する形で、ティアナから事前に聞いていた、キラーグリズリーは基本的に群れを作らず、先住者がいた痕跡のある場所には、仮に先住者がいなくなっても最低数年は入って来ないことと、それ故に(ティアナが住んでいた)マルクトの街周辺の森には、他のキラーグリズリーは存在しないことを、証拠であるティアナの魔石を手に説明する。
そして、戦利品であるティアナの魔石は、テレーゼ自身がお守りとしてずっと身につけておくため、提出はしないことを伝えて説明を終える。
「テレーゼ、実に理路整然とした説明でとても助かった。冒険者たちの復命は、これまで口頭での説明のみで、それが往々にして要領を得ないものばかりなんだ。後からそれをマーヤたちが苦労して紙にまとめるのだが、その手間が馬鹿にならん。この説明書きはもらっても良いか?ほぼこのままでマルクト領主への説明に使えるだろうからな。あと、できればキラーグリズリーの魔石は欲しかったんだが・・・テレーゼはこれが初の依頼達成とのことだし、その時に得た戦利品は取り上げないのが冒険者たちの不文律た。魔石はそのまま持っていても構わないよ」
「ありがとうございます。今回提出したものは、領主様への説明に使っていただいて構いません」
テレーゼはジークリットから、復命への賞賛と魔石所持のお墨付きをもらい、それに対して謝意を示す。
「こんな解りやすい復命って、正直な話、私たち以上に簡潔かつ丁寧にまとめられていて、本当に凄いですよ。いっそのことギルドに転職して私たちを助けてもらえませんか?テレーゼさんが書類や事務の仕事が得意なのは、この文章を一目見ただけでもすぐ解りますから大歓迎しますよ」
そうマーヤも賞賛してくれる。冒険者復命後の事務処理は担当した受付の仕事なので、それがほぼ要らなくなったことがとても有り難いようだ。
もっともテレーゼにとっては、転職前の総合職でこのレベルの復命はむしろ当たり前のことだったので、内心で少し簡潔すぎたかな?と思うくらいだったが・・・いずれにせよ無事に復命が終わりそうで何よりである。
「私は早速マルクト領主に報告に行くことにしよう。今回の件は面会予約は不要とのことだったから、今からでも報告してくるよ」と、テレーゼが渡した説明書きを片手に、「テレーゼ、今日は君と知り合えてとても良かったよ。本当にありがとう」と、立ち上がって握手を求めてくるジークリット。テレーゼも立ち上がって握手を交わす。ジークリットは慌ただしく応接室を出て行った。
「今日は本当にありがとうございました。これが今回の報酬です」と、マーヤが両手くらいの大きさの革袋をテレーゼに渡してくれる。
「こんなたくさんもらって良いんですか?」
「今回の調査依頼はいくつかのパーティーに出していたのですが、文句なしに、テレーゼさんたちのパーティーが一番内容の整った良い復命でした。ですから、それを評価させていただいての増額となります。増額分は、マルクトの領主様からの報奨金なんですよ」
テレーゼの疑問にマーヤが答え、テレーゼはその言葉に納得して腰に付けていたポーチに革袋をしまう。
「他には何か要件がありませんか?」と、マーヤ。
「この子、イーナのギルド登録と身分証の作成、あとパーティーメンバーとしての登録もお願いします」と、カトリナ。
「少し待っていて下さいね」マーヤはそう言って応接室を出て行き、書類一式と石版などを持ってテレーゼたちの所に戻ってくる。書類は猛勉強の末にセフィロトの文字を覚えたテレーゼが記していく。前述の復命での説明資料を含め、文字の筆記は十分に実用レベルに達している。
「石版に変化がありませんので、登録可能です。イーナさん、職業は何にしますか?」とマーヤ。それに対して「斥候でお願いします」とイーナ。事前に打ち合わせていた通りである。最後に、可哀想ではあったが、消毒した針でテレーゼがイーナの左母指を刺して血を出し、身分証にくっつけた。そのあと、机の下でイーナの左手を握って無詠唱で回復魔法を使った。
(イーナ、ごめんね・・・)(テレーゼお姉ちゃん、イーナ大丈夫なの!)テレーゼとイーナは、従魔魔法による心の繋がりが人化後もそのまま残っているため、2人の頭の中での会話である。
「以上でギルドとパーティーの登録、そして身分証の作成は終わりです。イーナさん、これから頑張って下さいね」と、マーヤが手続きが終わったことを伝え、「うん、イーナ、テレーゼお姉ちゃんたちと一緒に頑張るの!」と、答えるイーナ。
「テレーゼさん、イーナさんにもの凄く慕われているんですね。それでは、皆さん、お疲れ様でした」マーヤの労いの言葉に促され、テレーゼたちは応接室を出て、ギルドを後にする。
「テレーゼ姉さん、あの復命はホントビックリしたよ!姉さんって事務仕事も一流なんだな!」
「あんな復命、初めて見た。流石姉さん」
「テレーゼお姉さん、いつあんなのをまとめたんですか?報奨金の増額は、間違いなくあの説明資料のお陰ですよ」
「テレーゼお姉ちゃん、すごいの♪あと、イーナもパーティーに入ったからこれから頑張るの♪」
「テレーゼさん、本当に何でもできるんですね・・・」
と、アデリナ、ヘレナ、カトリナ、イーナ、ティアナ。マルクトのギルドで、というよりセフィロトで殆ど前例のない復命スタイルだっただけに、テレーゼが朝から復命資料をまとめていることを知っていたティアナを含めて、妹たちの驚きは大きいようだ。
「そんな、大したことはしていないわ。日本にいたときに、復命というか報告が多かったから少し慣れていただけよ。ところで、カトリナ、助けてくれてありがとう」
「ほぼ全てテレーゼお姉さんがやったんですから、逆に妹として申し訳ないです」
「そんなことないわ。これからも私を助けてくれると嬉しいわ」
「テレーゼお姉さん、私で良ければいくらでも言って下さい」 と、テレーゼとカトリナ。
(これでようやく、妹たちを連れて日本に行けるわね・・・)と、腰に報奨金の重みを感じつつも、懸案だった調査復命とイーナのギルド登録が無事に終わったことを、心底安堵するテレーゼである。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
冒険者ギルドは、ある意味、官僚組織に近しいものがあります。霞ヶ関の官庁街ではないですが、残業は日常茶飯事で、毎夜遅くまでいわば冒険者の仕事の後片付けに追われています。特に日々発生する書類や事務の仕事には、ギルドマスター以下全員が正直辟易していますので、テレーゼのような自らの仕事を大幅に軽減してくれる冒険者には、感謝しかないというのが偽らざる心情です。
ジークリットの祖先は、高校の世界史に出てくるツンフト闘争があった頃のドイツの都ベルリン=ケルン(ドイツの首都ベルリンの前身で、2つの都市が合併している)から、セフィロトに来た時代は不明ですがいきなり飛ばされてきて、その後故郷に戻れなかった彼女は、艱難辛苦の末に本文にもあるように、後世に数多の名残を残した傑物です。あと、この話では名前のみですが、別の物語の人物が出て来ました。皆様はお気付きになったでしょうか?
この話で第5章は終わりです。次章は、攻撃魔法防御を含めた魔法や活法の練習を挟んだあと、いよいよ姉妹全員が待ちに待った、テレーゼの故郷に観光に行くための打ち合わせや準備を行う話になります。
次章も一生懸命頑張りますので、今後ともよろしくお願いします。




