第2話:人化魔法とお母さんの名前
テレーゼは、妹たちにある想いを語ります。
姉であるテレーゼの想いを受け容れたイーナにテレーゼは魔法を使います。
イーナと一緒に暮らすようになって2日目の朝、全員の朝食が終わってから、テレーゼはギルドに調査完了の復命に行く話と、イーナの人化のことについて切り出した。
テレーゼの胸元には、今朝彼女が早起きして作った、お守りを少し大きくしたような袋が、首から紐で提げられていた。
中にはイーナの母親の魔石が入っている。元々母娘が一緒にいられるように、という願いから最初イーナに渡そうとしたものである。
(テレーゼおねえちゃんが、おかあさんをまもってくれるとうれしいな♪)
(もし良ければテレーゼさんと同行させて下さい。イーナに人化の魔法を使うとき、テレーゼさんの強い魔力を借りることができますし、何より母親に抱かれているようで心強いですから・・・)
そんなイーナと母親の意向により、袋の紐の長さをテレーゼ用に調整して、彼女が母親の魔石を身につけることになった。
「昨日調査が終わったから、その復命が必要なんだろうけど、私は、妹のイーナを従魔登録するのは、うまく言えないけど何か違うと思うのよ」と、テレーゼ。
「テレーゼ姉さんの気持ちはわかるよ。従魔登録って、結局魔物扱いすることだし」
「姉さんに同意。イーナは妹」
「優しいテレーゼお姉さんなら多分そう言うと思っていました。みんなも同じ気持ちです」
(テレーゼおねえちゃんたち、わたしをいもうとにしてくれて、ありがとう♪)
(イーナのことをそこまで想ってくれて、本当にありがとうございます)
アデリナ、ヘレナ、カトリナ、イーナと母親、全員テレーゼの想いに賛同する。
「ありがとう。それで、イーナのお母さんに人化魔法を使ってもらったあとでギルドへの復命をした方が良いんじゃないかと思うのよ。もちろん、イーナやお母さんの気持ちが第一だから無理強いはしないわ」テレーゼが提案する。
(イーナ、テレーゼおねえちゃんみたいになれるの?うれしいな♪)
(テレーゼさん、ぜひお願いします。そのほうが娘の為になると思いますから)
2人が人化の魔法を使うことに同意してくれた。
「ありがとう。それで、お母さん、どうすれば良いんですか?」
(テレーゼさんがイーナが人間になった姿を思い浮かべながら私に触れて下さい。それがイーナに伝われば上手くいく筈です)
テレーゼの問いかけに母親が答える。
「そんな強い魔法って、お母さんに負担にならないんですか?」
(実際にはテレーゼさんの身体や魔力を使って、私が魔法を使うような感じですから、大丈夫ですよ。それに、テレーゼさんの胸にいつも抱かれていますので、私の力はテレーゼさんの魔力で強くなっていますから・・・)
母親を気遣うテレーゼだが、どうやら心配はないようである。
「お母さん、わかりました。あと、イーナは希望したときに元に戻れるんですか?」
(それは大丈夫ですが、あまり考えなくても良いと思いますよ。多分イーナはテレーゼさんたちと一緒にいるためなら進んで魔法を受け容れるでしょうから)
イーナがもし熊の姿に戻りたいときにはいつでも可能なようだ。それを確認してテレーゼはイーナに人化の魔法を使うことを決めた。
「イーナ、こっちに来て」テレーゼはイーナを呼び寄せる。そして左手で胸元の魔石に触れ、右手でイーナの身体に触れながら、(お願い、私たちと同じ姿になって!)そう強く念じる。
魔石とテレーゼとイーナが暖かな光に包まれ、イーナは身長が120センチほどで、見た目がほぼ6歳児くらいのサラサラで白銀色の短髪をした可愛い姿に変身した。
但し、キラーグリズリーの魔力はその身に纏ったままらしく、全身から強い存在感を感じる。
テレーゼはイーナを隣の自室に連れて行き、姿見で自分の姿を確認してもらう。
「お母さん、イーナ人間になれたよ!お姉ちゃんたちといっしょ♪テレーゼお姉ちゃん、お母さん、ありがとう♪」
イーナが辿々しい口調ではあるが、嬉しそうに話しかけてきた。人化により人間と同じように意思疎通ができるようになり、また子熊の頃よりも知能的に成長しているらしく、小熊の姿でのテレパシーによる会話よりも口調が大人びていた。
(イーナ、良かったわね。とても可愛いわ)「イーナ、身体がきつかったりしない?」「うん、大丈夫♪」と、イーナの母親、テレーゼ、イーナ。テレーゼたちは居間に戻る。
「イーナ、すごく可愛いじゃん」「人化魔法凄い。完全に人間」「これでイーナをギルドに連れて行っても騒ぎにならずにすみそうですね」と、アデリナ、ヘレナ、カトリナ。
「魔法がうまく行って良かったわ。ただ、ギルドへの復命は明日にしましょう。まず、イーナの服や靴を買わなきゃ」
「それなら姉さん、ちょっとマルクトまで行って適当な服と靴を買ってくる」と、ヘレナ。
「私はちょっと向こう(日本)に行ってイーナの服とかを買ってくるわ。靴も含めて普段着とお出かけ用の、両方があった方が良いと思うから。あと靴と言えば、みんなとお揃いの運動靴も必要ね。イーナには申し訳ないんだけど、私たちが服を買ってくるまでは、このバスタオルを身体に羽織っていてくれるかな?」
テレーゼはそう言いながら、柔らかいバスタオルを重ねて安全ピンで止めた簡易的な服を用意して、イーナに渡す。
「ふわふわしてあったかくて気持ち良いの!テレーゼお姉ちゃん、ありがとう♪」と、イーナ。
(あの、テレーゼさん、お願いがあるんですけど・・・)イーナの母親が、テレーゼに語りかけてきた。
「どうしたんですか?」
(テレーゼさん、もし良ければ、私にも名前をいただけないでしょうか?)
「それは構いませんが、私が名前を考えて良いんですか?」
(テレーゼさんにぜひ決めて欲しいです。私にとって母親というか姉というか・・・一緒にいて凄く安心できる人ですから・・・)
テレーゼから名前が欲しいという気持ちが強く伝わってきた。
「わかりました。みんな、イーナのお母さんが私に名前を付けて欲しいって言ってくれたから、考えるわね・・・」(ドイツ系の女性の名前で・・・お母さん、「ティアナ」でどうでしょうか?)
(「ティアナ」・・・娘とお揃いみたいで良い名前ですね。本当にありがとうございます、テレーゼさん・・・これからもよろしくお願いします)
(お母さん、いえ、ティアナさん、こちらこそよろしくお願いしますね)
とても気に入ってくれたようだ。同時に、テレーゼとティアナの心の結びつきが明らかに強くなったように感じる。
自分の近しい存在に名前を与えることは、例えば親が名付けを通じて子供の健やかな成長を願うように、いわば原初の祈りともいうべき強い力を相手に付与するものなので、実はティアナだけでなくイーナとの間にも、決して何者からも切り離せない強い結びつきが生まれている。
他のみんなにもティアナという名前が決まったことを伝える。
「ティアナ、よろしくな。テレーゼ姉さんの妹で、カトリナの姉になるのかな?」
「よろしく、ティアナ。イーナのときもだけどテレーゼ姉さんって名付けが上手」
「ティアナって、良い名前ですね。こちらこそよろしくお願いしますね」
「ティアナお母さん、良かったね♪」
妹たちにも好意的に受け容れてもらえたようで、何よりである。
イーナの人化とティアナへの名前のプレゼントが終わり、ヘレナとテレーゼたちはイーナの服を買いに行くことにする。
「ちょっとマルクトまで出掛けてくる」
「行ってきます。すぐ帰って来るからみんな、少し留守番頼むわね」
「「「行ってらっしゃい」」」
イーナの服を買いに行くヘレナ、テレーゼ、ティアナを送り出すアデリナ、カトリナ、イーナ。
(イーナにどんな服や靴を買ってあげようかな?)と、今から楽しみなテレーゼである。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
イーナの人化魔法が上手く行ったことで、今後は姉たちと同じものを食べたり、同じことをしたりすることができるようになりそうです。良かったですね。
テレーゼがいつも身に付けることになった、イーナの母親ティアナの魔石は、テレーゼから継続的に魔力を与えられるようになり、また、彼女から名前をプレゼントされたことで、ティアナは実質的に6姉妹の次女となりました。
イーナやティアナにとっては、頼りがいのある長女テレーゼといつも一緒というのはとても心強いことで、それはティアナに、そしてテレーゼたち5人にとっても必ず大きなプラスとなることでしょう。




