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テレーゼ院長のセフィロト見聞録  作者: 西風の剣
第3章:4人パーティーと出逢い
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第3話:名前と5姉妹の誕生

 テレーゼにすっかり懐いた小熊。

 自分と一緒にいてくれることになった新しい仲間に、テレーゼは名前をプレゼントします。

 テレーゼと小熊とは、まさに一瞬の攻防だった。

 但し相手は、日本に生息するヒグマやツキノワグマほど横幅はないものの、体高は成獣並みの大きさだったため、肉体的にも精神的にも相応の疲労感はあったが、テレーゼは無意識に腹式呼吸で息を整えていた。


 柔道の授業や道場での練習で、「肩で息をすると、相手に自分が弱っていることを悟られ、その機に乗じて一方的に攻め立てられるから」という理由で、極力避けるようにと教えられていたからである。

 これは、武道に限らず個人戦競技における鉄則と言える。






 「テレーゼ、あんな技を隠し持ってたのかよ・・・ホント凄すぎるよ!というか魔法使わなくても、素手の格闘戦ですら、そこらの冒険者や騎士なら瞬殺できるだろ・・・」


 「カトリナ、今回の依頼はキラーグリズリーの生息確認だったから、この熊をテイムすれば依頼完了じゃないの?」


 「そうですね。わざわざ倒す必要もないですから。テレーゼさん、その小熊、すっかり懐いていますので、テイムできるかも知れません」

 テレーゼの想像以上の格闘能力と、それがもたらした大戦果に驚きを隠せない3人。


 「カトリナ、テイムって何?」


 「大人しくなった動物や魔物を、従魔魔法を使って自分に従わせることです。従魔魔法は人によって呪文が違うのですが、やり方は首の後ろに手を当てて、仲間になって欲しいという意思を込めて念じれば良いと思います」

 テレーゼの疑問に答えるカトリナ。


 「わかった、やってみるわ。「お願い、私と友達になって!」」

 そう強くイメージしながら口にすると彼女と小熊との間に、お互いの心臓を結ぶような光が現れ、10秒ほどで消えた。

 従魔魔法の効果だろうか、自分と小熊の心が繋がったような感じがした。


 (上手く行ったのかな?)と思うテレーゼの頭の中に、(おねえちゃん?わたし、おかあさんといっしょにいたんだけど、おかあさんうごかなくなっちゃったの・・・それでおなかがすいてたべるものをさがしていたんだけど、まるでおかあさんみたいな、あったかいけはいをもったおねえちゃんたちがいたから、わたしあいたくなってちかづいたの・・・)

 と、小熊の気持ちが伝わってきたような気がした。


 (そうなんだ・・・もし良ければこれから私たちがずっと一緒にいてあげる)

 (おねえちゃん、ほんと?おねえちゃん、おかあさんみたいにあったかくてつよいからうれしいな♪)

 どうやらテイムが成功した相手とはテレパシーのように頭の中で会話ができるようだ。しっかり気持ちが通じ合うのが嬉しかった。


 (あと、さっきはごめんね。頭を地面にぶつけたのは大丈夫?(脳震盪が心配ね・・・)「この娘を完全に癒やして!」)と小熊の全身に回復魔法を掛け、小さな傷も含め小熊は完治した。

 (あったかい!おねえちゃんありがとう!)と、小熊にお礼を言われる。


 「みんな、この娘、母熊と死に別れちゃったみたいなの。それでこれからは私たちと一緒にいてくれるみたい。あとこの娘お腹空いてるみたいなのよ、何かないかな?」と、テレーゼ


 「テレーゼさん、従魔士じゅうまし(魔物や動物を、自分の仲間にできる魔法使い)の素養もあったんですね・・・」


 「目の前で見ていてビックリした・・・さっきテレーゼがキラーグリズリーに隠蔽魔法使えばそれで終わると言ったけど・・・まさかこんな形で終わるなんて思ってもいなかった・・・」


 「キラーグリズリーと戦って実力で従魔化するなんて・・・テレーゼ本当に凄いよ!それとコイツの食べるモノ、早く何か探してやろうぜ。森の木に絡んでるツルに甘い実が生ってたからそれで良いんじゃないか?」と、3人。


 「アデリナ、何でそんなに嬉しそうなの?」

 「だってコイツ、女の子だっけ?可愛いじゃん、何かアタシたちの妹みたいで」

 ヘレナのツッコミにアデリナは答えつつ小熊の頭を撫でている。小熊は大人しくじっとしている。


 「私、木に登ってくる。アデリナも一緒に来て、荷物運びで」


 「ヘレナ、どこの木に登るんだよ?」ヘレナは返答する時間が惜しいとばかりに、無言でスルスルと近くの木に登り、薄い紫色の果実をちぎって慎重にアデリナに落とす。

 それをアデリナが受け取り、持っていた口を紐で縛るタイプの袋に入れていく。


 2人で袋一杯分の果実を取ってきて「これ、「ンベ」という植物の実で、森の中では年中生ってる。色が紫色になってるのを皮を割って、中身を食べる。甘くて美味しい」と、ヘレナが説明してくれる。


 (父方の祖父宅の裏山で食べたことがある「ムベ」みたいな果実ね・・・)

 「2人とも取ってきてくれてありがとう。これ食べて?」と、小熊を促す。

 (おねえちゃんたち、ありがとう♪)と、小熊はお礼を言って、皮ごと果実を美味しそうに食べ始めた。






 「ところで、この子に名前を付けてあげた方が良いかも知れません。従魔士が魔物を従魔化したあとギルドに登録が必要ですから」と、カトリナ。


 「わかったわ。どんな名前が良いかな?女の子だから「イーナ」ってどう?」

 (わたしのおなまえ、「イーナ」?テレーゼおねえちゃん、ありがとう♪)

 テレーゼの言葉に凄く嬉しそうな小熊のイーナ。心の繋がりがあるテレーゼが言葉を声に出すと、イーナにもきちんと伝わるようだ。


 因みに、名前は、パーティー全員がドイツ系の女性の名前なので、そこを踏襲しつつ他の3人と同じように末尾が「ナ」になるようにチョイスした。


 なお、テレーゼの名誉のため補足するが、間違っても、イーナがモフモフして可愛くて良いな、などという駄洒落ではなく、あくまでも普遍的なドイツ系女性の名前である。


 「それ良い。可愛いし、最後が「ナ」で私たちと同じだから妹みたい」


 「イーナちゃん、可愛い名前ですね。テレーゼさんって、他人に何かを選ぶセンスがいつも抜群ですね。流石です」


 「イーナ、アタシはアデリナ姉さんだからよろしくな!あとテレーゼ姉さんが一番上の姉さんだからな!」と3人。


 アデリナ、カトリナ、ヘレナのイーナへの会話は、本人ならぬ本熊であるイーナには、心の繋がりのあるテレーゼが会話を聞き取れれば、イーナも会話の内容を認識できるようである。

 イーナは、3人が自分の名前を誉めてくれたり、話し掛けてくれていることを嬉しそうにしている。


 (そういえばアデリナが、「テレーゼ姉さんが一番上の姉さん」って・・・)

 「アデリナたちは、私もみんなの姉妹だと思ってくれてるの?」

 「当たり前だろ、「テレーゼ姉さん!」」

 「姉さん、今更」

 「テレーゼお姉さん、お姉さんが私たちの所に来てくれて、私たちが日々お姉さんに護られていることを感じられて凄く幸せなんですよ。私たちがお姉さんにお返しもできないうちに、勝手にいなくなったりしないで下さいね・・・」

 「イーナ、テレーゼおねえちゃんがいなくなっちゃいや!」


 テレーゼに想いを伝える妹たち。向こうの世界で一人っ子だったため、妹が4人もできた幸せに、こらえきれずこみ上げてくるものがあった。


 「テレーゼ姉さん、泣くなよ・・・」

 「アデリナ、逆。これからも姉さんを一杯嬉し泣きさせる」

 「みんなにとって代わりのいない、頼りがいのあるお姉さんなんですから、これからもずっとそばにいて下さいね」

 「イーナ、テレーゼおねえちゃんたちとあえてすごくよかった♪」


 年齢を重ねて涙もろくなっているのは、肉体が若返っても変わらないんだな・・・と、感じるテレーゼだが、自分を心底慕ってくれる妹たちのそばが暖かくて心地良くて・・・今まで自分の身体的変化や接骨院廃業のことを含めていろいろあったけど、セフィロトに来て彼女たちに出逢えたことは本当に良かった・・・と、強く確信するテレーゼだった・・・






 (このときから、「妹」たちがみんな、私のことを「姉」と呼んでくれるようになったのよね・・・)

 テレーゼにとっては、今後折に触れて振り返ることはあっても、一生忘れることなんてできないに違いない、宝物に等しい大切なメモリーズである・・・

 最後まで読んで下さり、ありがとうございます。


 母熊と死別してしてしまって寂しい思いをしていたイーナですが、これからはテレーゼたちとずっと一緒です。テレーゼは過去の自分が大切な人との死別を経験していた事も相まって、イーナを絶対に1人にしたくありませんでした。


 間違ってもイーナを討伐することにならずに済んで、作者も4人と同じく心底ほっとしています。今後は5姉妹で末永く仲良く暮らしていくことでしょう。次話以降も、砂糖菓子のような幸せな話はまだまだ続きます。


 最後にテレーゼがプライベートで涙もろいのは、彼女が人一倍深い情愛の持ち主であることの裏返しですが、妹たちはもちろんそんな姉のことが心底大好きです。天の配剤というほど大仰ではないかも知れませんが、テレーゼは特にセフィロトに来て以降、「いい人」と出逢える運命にあるようです。

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