第1話:武器と狩猟免許
テレーゼの新たな特技が明らかになります。
道中では、自分を高めることに、とことんストイックな彼女の一面が見られます。あと、4人が会話の中でパーティーとしての絆を深めていきます。
9月25日 一部句読点を修正しました。
ヘレナが引き受けたギルド依頼のため、目的地に出発する直前のこと。
「テレーゼさん、これ、良かったら使って下さい。パーティーで保管していた予備の片手剣ですが、軽いですから呪文を唱えるときにも邪魔にならないと思いますよ」
と、カトリナから時代劇で出てくる「脇差」くらいの長さの両刃剣を鞘ごと渡された。
「みんな、ありがとう。大切に使わせてもらうわ」
「こっちこそ、昨日テレーゼにもらった運動靴と靴下っていうんだっけ?今までアタシたち、何を履いてたんだろうと思うくらい足が楽だよ」
「靴が軽い上に水が中に入らない防水っていうの?だから使いやすいし、今まで以上に斥候がやりやすい」
「私たちこそ、テレーゼさんから日本で売られている服だけでなく、日々の冒険者の仕事にも使える良い靴をいただいて、本当にありがとうございます」
テレーゼの感謝の言葉に対して、3人から改めて昨日のプレゼントに対しての謝意を示される。因みに運動靴と靴下はサイズこそ3人とは違うものの、テレーゼを含めて全員同じメーカーのお揃いである。彼女が使用感が気に入って元々使っていたモノを、3人にも昨日購入してプレゼントしたのである。
テレーゼはカトリナから剣を受け取り、自分の左腰の高さに鞘が固定されるよう、鞘に付いている革紐で自分の身体に固定する。
試しに鞘から抜いてみると、スムーズに抜くことができた。
彼女にとって軽くて使いやすそうな剣だった。
(カトリナの言うように、とても使いやすそうな武器だわ。プレゼントしてくれたみんなのためにも精一杯頑張らないと・・・)と、気持ちを新たにする彼女であった。
4人で依頼の目的地に向かう。
「そういえばヘレナ、昨日話してくれた、引き受けた依頼ってどんなのかな?私が戦力になれるんだったら良いんだけど・・・」と、尋ねるテレーゼ。
日本では魔物はいないので、当然テレーゼは討伐した経験はない。
いくら魔法が使えるとは言っても、正直な話、余り自信がない・・・
「昨日テレーゼが日本に行ってる間、ギルドに行って良さそうな調査依頼を引き受けてきたけど、テレーゼがいたら余裕で戦える。ところで、テレーゼの部屋に鍵付きの大きな入れ物があったんだけど、武器でも入ってるの?」
「もちろん私たちは勝手に触ったりしていないですけど、頑丈そうな作りで気になりました」と、ヘレナとカトリナ。
「日本で今は亡き父方の祖父が果樹園をやっていて、今は父がそこを引き継いでいるんだけど、度々野生の動物が収穫前の果実を荒らしたりするから、それを退治するときなどに使う猟銃という道具よ。但しこっちだったら魔法を使った方が確実に威力が大きいわ。あと一応は武器にもなるけど、日本では法律でその使い方が禁止されているのよ」と、テレーゼ。
「日本では、「ワシントン条約」とやらで動物は倒しちゃいけないんじゃなかったっけ?」と、アデリナが聞いてくる。
相変わらず一度手に入れた情報を組み合わせて物事の本質を鋭く見抜く彼女の聡明さに、テレーゼは心底感心していた。
「あのね、アデリナ。「ワシントン条約」って元々「向こうの世界」で、世界的に絶滅が心配される動植物に対しての保護を目的としたものなのよ。それでさっき言った退治する動物は、具体的には例えばこっちで言う猪なんだけど、絶滅するような動物じゃないから条約の対象になっていないのよ。あと狩猟鳥獣は毎年狩猟できる時期が決まっていて、猟期の数ヶ月前に、セフィロトで言えばマルクトの領主(マルクトが都道府県に相当する、という理解で説明している)の担当部署にあたるところから狩猟者登録という許可を得るための申込書を送ってくるから、それで手続きをした人が狩猟できるのよ。箱罠や足罠を仕掛けたり、猟銃っていう道具を使って捕獲するのよ」
テレーゼは、アデリナたちに少しでも理解してもらえるよう、セフィロトのことを織り交ぜながら説明する。
「そうなんだ、流石テレーゼ、何でも詳しいんだな」
そう言葉を返すアデリナに「私はほんの一部のことしか知らないし、世の中には私が知らないことを知る人のほうがもの凄く多いわ」と、テレーゼ。
テレーゼは大学時代に恩師である学長の勧めで狩猟免許を取得している。
「スポーツで狩りをやって仕留めた数や大きさを誇るのではなく、育てている作物を護るための手段があった方が良いですよ」という理由である。
狩猟免許には、「銃猟」、「罠猟」、「網猟」の3種類が存在する。
なお、「銃猟」には更に「第一種」と「第二種」に分類される。
彼女は「第一種銃猟」、「罠猟」及び「網猟」免許を同時取得している。
第一種は、散弾銃とライフル銃を扱える免許で、最初は散弾銃しか所持できず、散弾銃を10年以上所持し続けるとライフル銃を所持できる。あと、第一種は第二種の上位互換免許であるため空気銃の所持・使用も可能であるが、第二種は空気銃のみを扱える。
彼女は大学時代から連続して散弾銃を10年以上所持し続けていたことから、ライフル銃の所持許可を警察から得ており、今彼女が使用しているのはライフル銃である。
因みに、彼女が免許取得のための講習会に行ったとき、銃猟免許を持っている農家の方が、猟銃を使うことが少なくなったという理由から、新たに罠猟を取得するために仲間数人と一緒に講習会を受講しており、知り合う機会があった。
そして、狩猟免許試験合格後、その方が使わなくなった散弾銃やガンロッカー(銃保管庫)を、無料で譲渡してもらえた。使わずに放置しておくのはもったいないから、せめて誰かに使って欲しかった、とのこと。
但しテレーゼは流石に無料でもらうのは気が引けたので、地元住民でも手に入れにくいとされる、県内の酒蔵から販売されている高級芋焼酎を2本、父の伝手で取り寄せその方に渡したら、とても喜んでもらえたのは余談である。
閑話休題。前述の通り、テレーゼは魔物討伐こそ未経験だが、セフィロトに来る以前から、狩猟なり有害鳥獣対策なりで相応の狩猟経験を積んでいた。
その意味では、本人が意図しない理由ではあるものの、既に冒険者の斥候(ヘレナの職業)として最低限の技量は備わっており、そのことにアデリナ、カトリナ、ヘレナが改めて驚かされていた。
「アタシたち、テレーゼに教えられる事ってないんじゃないか?むしろ逆に教わった方が良い気すらする」と、アデリナが口にするが、テレーゼ的には、接骨院の院長として慢心することが如何に怖いことであるかを、骨身に染みるレベルで痛感しているつもりであり、道中、3人に疑問に思ったことを何度も質問して経験不足を補うことに努めていた。
「前々から思ってたけど、テレーゼ、妖精族みたい。狩りや魔法が上手いところとか。それに私たちの倍以上の年齢なのに、みんなの中では一番若いし」
「確かにそうですね。妖精族ってちょうどテレーゼさんみたいに50歳くらいで、私たち人間族の20歳くらいの見た目ですから。もしかして妖精族とのハーフとかじゃないんですか?」と、ヘレナとカトリナ。
「あっちの世界には妖精族っていないのよ」「えっ?テレビにこの前出てきたぞ?」「あれって作り話だから」「そうなのか?本当にいるのかと思ったよ」と、テレーゼとアデリナが、つい先日一緒に見たテレビの話をする。
「私の場合、父と母が元々違う国に住んでいたのよ。前にみんなに教えてもらったことだけど、セフィロトのマルクトとケテル(セフィロトで互いに一番遠い2つの都市)までの距離よりも、多分両親の出身地間の直線距離(約9300キロ)のほうが離れているわ。母がエンジニア兼通訳として来日して、同じ職場で働いていた父と知り合ったらしいわ。お互いに相手の母国語はある程度理解できていたみたいね。それはともかく、親戚に私みたいに若返った人はいないし、それに若返ったのはこの前話したけど、3人に出会ったその日に鏡を見て気が付いたくらいだから1ヶ月も経っていないわ」と、テレーゼが3人の質問に答える。
「テレーゼ、お父さんとお母さんのどっちに似てるの?」
「黒い髪の毛と肌の色(テレーゼは黄色人種寄りの肌の色である)は父、碧い瞳の色と両利きは母、顔立ちや体格や性格は両方かな?そういえば、みんなの年齢、良ければ教えてくれない?」と、ヘレナ&テレーゼ。
「アタシは20だよ。というか両利きって地味に凄いな」
「18歳。テレーゼは、胸もお母さん似だと思う」
「私は22歳です。テレーゼさんは両利きだから魔法を両手で使えるんですね。そもそも魔法は利き手に杖を持たないと使えないのですが、テレーゼさんのように杖が不要で、おまけに両利きの魔法使いなんて、見たことも聞いたこともありませんから」と、アデリナ、ヘレナ、カトリナ。
「教えてくれてありがとう。私、4人の中では一番おばさんだわ」
「そんなことないよ、テレーゼ。アタシ年齢なんて全然気にしないし」
「同感。テレーゼの年は、それだけ日本で長く経験を積んだ証拠」
「アデリナとヘレナの言うとおりですわ、テレーゼさんの年齢を知って、私たちには尚更頼もしく感じますよ」
テレーゼの言葉にフォローを入れてくれる3人。
「ありがとう、みんな。一番年上なのに経験不足でみんなの役に立てないのは、不甲斐ないにも程があるからもっと頑張るわ」
「テレーゼさん、もっと自信持っても良いと思いますよ」
「カトリナに同意」
「だいたいテレーゼが自信ないんだったら、アタシなんてどうすれば良いんだよ?テレーゼってホント美人でスタイル抜群で、女のアタシから見ても惚れ惚れするくらい格好良いし、初対面でアタシのことを助けてくれた時なんて、今もだけど性格まで凄く男前だったからな」
「アデリナ、女の人に「男前」って変」と、3人。
「みんな、ありがとう。これから役に立てるように頑張るわね。あとヘレナ、アデリナの言いたいことってちゃんと解るつもりだから大丈夫よ」「わかった」と、テレーゼとヘレナ。
道中の会話で、お互いの「心の距離」が更に近づいたことを嬉しく感じる4人である。
最後まで読んで下さり、ありがとうございます。
テレーゼは、自分の魔法の力は、あくまでもセフィロトで得た借り物であるため、その力に溺れてはいけないという戒めのような強い思いがあります。自惚れは柔道整復師として、もっとも忌避すべきことだと強く認識しているからですが、3人はそんな彼女に、もっと自惚れるくらいで良いのでは?と感じているようです。
もっとも、テレーゼって魔法に目覚めなかったとしても、今までストイックに磨いてきた素の力だけで十分強いんじゃないの?とすら思いますが、次回はそんな彼女の真骨頂とでも言うべき話です。




