8-4 胸くそ悪い攻撃
直したばかりのゲートを再び内側から蹴り破って、ゾンがノシノシとハンガーから道路へ出る。流石にゾンを封印する扉は、地震などでは破壊されない。が、いまゾンが再び破壊した。
既に、ニヴフン区を中心にマンオーク地下都市の一部に非常事態宣言が発令されていた。
もちろん、アンデッド出現によるものではなく、地震によってである。
(なんだ……気配が妙だ、な……)
ゾンが小首を傾げ、真っ暗な空間の臭いを嗅いだ。
(イェブクィムの流れが妙だ……しかも、一部がダークマター化していやあがる……)
自然現象でそれが起きる確率は、現実問題、ゼロだ。だからと云って、人為的に起こせる現象なのか、ゾンにも分からなかった。
(まさか、アンデッド攻撃なのか? どんなアンデッドだ? 三型か? それにしたって、こいつあ、なかなか強烈だぞ……!)
そのゾンの頭の上に、天井から崩落したトリアングロス部材の塊が激突した非常に運の悪い警戒監視ユニットが落ちてきた。数メートルはある、統率機能付の大きなものだ。
ゾンがそれをひょいと避けたので、地面に落ちて真上にはねかえり、またゾンヘ向かって突っこんだ。ゾンはそれを右手で払い落とし、さらに踏みつぶして、シュテッタを呼んだ。
「シュテッタ、おい、シュテッタ! 聴こえっか!?」
「……ン……え……ま……!」
雑音のようなものが入り、かつ、凄まじく声が遠い。
(ただの霊波妨害じゃねえな……次元干渉か……!?)
すなわち、時空がゆがんでいるのだ。
(仕方ねえ……こっちから行くか。近づきゃあ、なんとかなるべ)
周辺住民も、ゾンやシュテッタのことは知っている。ゾンが一体でノシノシ歩いていても、珍しがられることはあっても不審には思われない。
だが、状況が状況だ。
「ゾン、あんた一人かい!? シュテッタは!?」
ホコリまみれの小太りの中年女性が、小型発電素子内蔵のランタン片手に、息せき切って駆け寄ってきた。
(だれだあ?)
立ち止まってチラリと見下ろすが、誰だか分からぬ。
「ちょっとこっち来て……助けてちょうだい!」
(ハア?)
女性の行く先を見やると、半壊の建物の周囲に明かりと人が集まっている。
「ゾン、助けてくれ!」
「この建物を、どかしてほしいんだ!」
「何人か生き埋めになってるんだ!!」
「救急ユニットがこないんだよ!」
(ナニ云ってやがるんだ、コイツら)
ゾンでなくとも、基本的にアンデッドはコンダクター以外の指令を受けつけないようにプログラムされている。
例外は、起動中にコンダクターと物理的に引き離された場合の、自衛モードだ。
(ま、そういうことにしてやっか)
やっぱり、シュテッタがいないとダメだ……と、諦めかけた住民の前にいきなりゾンが現れて、傾いでいる建物を両手で支え、持ち上げた。
「ゾ、ゾン……!」
みなが息をのむ。
「いまだ、急げ!」
ゾンが持ち上げている隙に、十人ほどが建物の下に這いつくばったり屈んだりして入り、瓦礫の中に取り残された人を救出し始める。
「いたぞ!」
「おじいちゃん、しっかり!」
暗く見づらいうえにケガをしており、急激には動かせない。
そこへ、最悪的なタイミングで、大きな余震が来た。
「うわあ……ッ……!」
ゾンが支えていた建物が音を立てて砕け、人々の上に降り注ぐ。
一分半ほどの後、支えていた両手のかっこうのまま、瓦礫や土砂に下半身が埋もれたゾンだけがその場にいた。ゾンヘ救出を求めた中年女性も、倒れてきた隣の棟の下敷きとなって息をしていない。
ゾンが、瓦礫を押し退けて、道路へ出た。
そのまま歩きだす。
「……なんかだ知らねえが、胸くそ悪ィな、この攻撃はよ!!」
感情にまかせ、大仰に歩きながら思い切り地面を踏みしめた。
その瞬間、プラズマ流めいて霊波の稲妻が走り、四股と同じ「祓い」の効果が出たものか……?
シュテッタから、霊感通信が届いた。