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死者王とゾン  作者: たぷから
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8-3 非常事態



 午前七時半に次元反転でニヴフン区へ入ったマーラル達、シュテッタの家を包囲するべく散会して歩き出し、何分もせぬうちに揺れに遭遇した。


 アンデッドも含め彼らとてこれほどの大地震は生まれて初めての経験であり、混乱を隠せない。


 特にアルトナは、完全にパニックとなった。


 揺れの中、道路に亀裂が走って周囲の建物が倒壊。恐怖と動揺で泣き出し、ドミナンテへ抱き着いたまま腰を抜かした。昼間の時間帯なので、ドミナンテがスケルトン形態だったのが幸いした。バンシーだったら、二人して大泣きしていたところだ。


 「ちょっとマーラル、助けて!! 助けてマアアアラルゥううう~~!!」


 号泣しながら、突き刺さるような霊感通信を発する。少し揺れが落ち着いたのち、リリが再び次元反転を行い救出に出た。


 その時、大きな余震が起きて、トゥールーズもさっそく怖気づく。

 「た、隊長、いったん作戦中止しましょう!」


 マーラルは断固として、

 「ダメだ。続行する」


 だが、急に地下都市の天候照明が落ち、真っ暗となった。それから非常灯が立ち上がったが、まばらにしか点かず、夜より暗い。


 「隊長ォ!!」

 「むしろ、チャンスだ」


 トゥールーズは気が気で歯ぎしりを隠さなかったが、仕方がない。

 そこへ、リリから通信。


 「マスター、何か妙です……次元が……何か、未知の効果が干渉しておりまする。アルトナのところへ近づけませぬぞ!」


 「なんだって!?」

 マーラルが、ピーパを見る。ピーパは分からず、首を振った。


 「走って行って!」

 「かしこまりました」


 そこで、流石のマーラルも不安に襲われた。未確認の力による、次元干渉が観測されたからだ。予測不可能な事態が進んでいる可能性がある。


 (どうする……)


 素早く状況を観察する。暗がりの中、各種の緊急ユニットや有人警察車両、救急消防車両のサイレンがそこかしこから鳴り始める。


 「ドミナンテ、ドミー!」

 「ハイ、マーラル様」

 カタカタと歯の鳴る音に交じって、ドミナンテの返信。


 「いまリリが行くから、アルトナを頼む。その間、緊急情報にアクセスして、情報を」


 「分かりましたわ、しばしお待ちを」


 そして、数千年前の戦争による地殻破壊兵器の影響残滓と、数百年に一度の直下型地震が偶然・・重なった可能性が高いという情報を得た。


 「た、隊長、早く撤退の指示を!!」

 「うるさい!!」


 珍しくマーラルが怒声を上げ、トゥールーズが震え上がった。マミー形態のシベリュースが闇の中で包帯の合間から、黒真珠めいた眼を主人へ向ける。


 ほんの数秒、考え、マーラル、


 「作戦は続行する。ただし、目標の状況を確認し、最終判断はそこでする。以上。所定の位置へついて」


 (そんな……!)


 トゥールーズは、震えて足が出なかった。こんな地下大深度で、いつ都市区画ごと崩壊するかもしれない状況なのに、アンデッド戦を行うとは……! 正気の沙汰ではない。


 「グランド・マスターの命令です。もしよろしければ、私の管理権限をマーラル様へ委譲し、マスターはどうぞ脱出を」


 優しさの中にも無情を秘め、シベリュースがトゥールーズへ云い放つ。


 トゥールーズは、非常灯の淡い光の中でその月面人の血の混じったクリームイエローの目を向け、


 「そんなことができるか! わ、私はミュージアムのコンダクターだぞ……!」


 両手で頬をパンと叩き、瓦礫を避けて決然と歩き出す。

 「行くぞ!」


 シベリュースが、包帯の奥で無機質な目を緩ませた。

 「了解であります!」

 だが、トゥールーズは憎々しげに奥歯をかむ。


 (こんな状況でこんなところから、一人で戻れるか! 分かって云いやがって……! 厭味ったらしい、役立たずの能無しアンデッドめ……!)


 リリもアルトナと合流し、ドミナンテを連れて作戦開始位置へ急いだ。ドミナンテによる霊波妨害は、中止された。

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