8-2 異様な揺れ
アンデッドは、別に眠る必要は無い。が、人間の居住地に配置されている場合、特に何もすることが無いときは、スリープモードとなることが義務づけられている。その間、空間中の魂魄子を取りこんで補充する。
「…………」
アユカが目覚めてから三分後、シスターズ達も次々に目覚めた。
いつも通りに起きあがり、台から降りようとしたとき……。
三人同時に尻が滑って、台から落ちた。
「……!?」
アユカも驚いて眼を丸くした、瞬間。
空間そのものから音がするようにして地鳴りが轟き、次いで部屋全体が真下から突き上げられて四体が浮き上がった。それから、とんでもない縦揺れがマンオークを襲った。
「うわうわうわうわ!」
「なななにこれえ!?」
「姉さん、じ、地震だ……!!」
この時代にも、当然、地震はあるし、この土地は多発地帯だ。しかし、マンオークほどの巨大高層都市となると、マグニチュードの7や8程度では重力制御式の免震構造が完璧に働いて、大幅に揺れを減衰させる。マンオーク建設から三百五十年、最大震度は二だ。
それが、この揺れは一体全体、どういうことなのか!?
「ととっ、と、とにかく、外へ!」
思念波でゲート開放を指示したが、ショックで思念が乱れているのか、それとも物理的な障害がおきたのか、開かなかった。ロンドが拳で非常用強制開放手動スイッチを叩きつけるも、やはり動かぬ。
そのうち、海面が時化でうねるような、妙な揺れが襲ってきた。建物が捩じられ、トリアングロス構造の壁にヒビが入った。
「ど……どうなって……!?」
「強制脱出だ!」
ロンドの叫びを合図に、三体が準超高速行動へ移行し、体当たりでゲートを力任せにぶち破った。
……かに見えたが、うねりにバランスを崩したアユカがぶつかってはね飛ばされ、壁に激突。大穴を空けて外に転がり出た。その時、建物の変なところを破壊したようで、ミュートの入っているハウスビルの一階が斜めにひしゃげて崩れ、ベリーのいる二階が落ちてきた。
「…………!!」
数十秒後、どうにか揺れが収まり、瓦礫の下からシスターズが現れる。
喧騒と悲鳴、怒号が響き渡り、緊急警報が鳴っていた。あちこちで倒壊が起きていて、土埃が煙となって立ちのぼっている。すぐに大きな余震があって、その中でポルカが空を見上げて叫んだ。
「見て! 天蓋に亀裂!」
空色の天に、巨大な裂け目が走っていた。あらためて、ここが地下だと気づかされる。
「マンオークの躯体そのものに、深刻なダメージが入ったのか……!?」
ロンドが、信じられないものを見たようにつぶやいた。まさか、地下構造体が崩れないだろうな。誰も恐ろしくて口に出さなかったが、充分に考えられた。いや、そんなことはあり得ない。理論上、あり得ないのだが、考えずにはおられない。
余震が収まり、階下が倒壊して真下に崩れた住居部から、這う這うの体でベリーが出てきた。まだ寝ていたようで、すっぴんだし、髪もグチャグチャだ。
「いや……ちょっと、どうなっ……みんな……無事い!?」
「なんとか、無事!」
ポルカ達を確認した後、ベリーも、呆然と町の状況を見やる。
「これは……!」
絶句し、眉をひそめて口に手を当てた。
「カノン、状況分かる!?」
すぐさまカノンがマンオーク管理局危機管理室にアクセスし、情報を得る。
「……大昔の地殻破壊兵器の影響残滓と、数百年に一度の直下型地震が偶然重なったっぽい。マンオーク全体の約17パーセントに深刻な被害、特にニヴフンに被害が集中してるって……」
「そんなことって、ある!?」
「運が悪いってレベルじゃないぞ」
その時、なんと広大な地下空間が明滅して、真っ暗となった。すぐに非常灯が点いたが、それも一部で、まるで深夜のように……いや、真夜中以下の暗さとなった。地下を地上と同じ環境に保ち、現在時刻午前七時三十七分であれば、昼間と同じ明度にしている気象及び環境維持システムが落ちたのだ。
さすがに、行政委託管理会社から警備、救急、消防を兼ねる汎用ユニットがわらわらと出動して見回り・点検を始めた。
ハッとしてベリー、
「ポルカ、ロンド、アユカは遭難者の救出を! カノンはシュテッタと合流して!」
アンデッド達が、動く。