7-2 狙いはシュテッタとゾン
「どう? ロンド、腕の調子は」
ロンドがすっかり元通りになった右腕を動かし、
「変わりない」
ぶっきらぼうに答える。
「でもこれで、ようやく姉さんやポルカ達の手伝いができるな」
そこで、ロンドに笑顔が出た。
「それもありがたいけど……やーーーっと保険がおりることになったんだからああ」
疲れ切った表情を隠さずも口元に笑みを浮かべたベリーが、安堵の息をつく。基本的にほとんど火災の無い時代なので、火災保険というものが無い。盗難や、客が暴れた際の損害保険で火災損害が認められるかどうか、三週間ずっと保険会社と交渉していた。
「裁判所が現場状況で放火だって認めて証明書を出してくれたおかげで、警察も事件化したし、それでやっと……ね。事件なら出る保険だったから」
「なんにせよ、これでミュートを復旧できるね」
シュテッタも笑顔を見せる
「ホントにね。でもこれから復旧なんだから、まだ一か月はバイトしてもらわないと……」
「まかせてちょうだい!」
ポルカとロンドが力強くうなずいた。
ちなみに、カノンとアユカはこの時間もバイト中でここにはいない。
「全員がそろったんなら、野良退治も再開しないとね。なんだかんだと、それがいちばん稼げるし」
ベリーの言葉に、みなうなずいた。
「オレぁ、野良退治なんざ行かねえからな」
「おまえなんか、誰も期待して無いっつーの!」
ポルカはゾンを蹴るのは止めて壁みたいな腰の辺りへ足を当て、ぐりぐりと踏みにじった。
「そんなことよりよお」
ゾンが振り返ったので、大股を開いてポルカがバランスを崩す。
「ベルティナ、けっきょく、あの連中はなんだったんだ? 調べはついたのか?」
嫌でも、みながベリーへ注目した。
「えっ……と」
ベリーは片眉を上げ、
「まだ確証が無い」
「メドはついてんのか」
「あ……うん。まあ」
「メドで充分だぜ。あらぁ、テロってレベルじゃあねえぞ。もっとガッチリした組織だ。連携の仕方で分からあ」
ベリーが内心、舌を打つ。しかし、遅かれ早かれ、だ。
「まあその、たぶん……『ミュージアム』だわ」
ドグン。
シュテッタの心臓が、ありえない鼓動を打った。
「なんでえ、そりゃあ。どこのどんな組織だ?」
「バーンスティールの、コンダクターばかりを集めた都市政府直轄諜報工作機関」
「都市せぇふのぉ? そんなん……前からあった?」
「戦後にできたの。ホラ……って、アンタは知らないでしょうけど、戦争が終わってコンダクターが大量に失業したうえ……一般人から、迫害された時期があってさ……」
「ハア、戦争の英雄が、戦争が終わったら人殺しか。いつの時代にも、よくある話だぜ」
「そう。それで、コンダクターを保護したのが始まりで……そのうち、その力を政府機関として正式に利用しはじめた。でも、コンダクターは戦後に製造が禁止されたから……四、五十年もしたら、いなくなり始めた。不思議なことに、コンダクター因子は人為的な発現法が今だ特定されていないうえに劣性遺伝が多くて……どんな凄いコンダクターの子供でも、同じ力はほとんど産まれなかった。いまは、世界……いや、月や火星、植民惑星からも、たまたまコンダクター因子の発現した人をスカウトしたり、拉致して洗脳したり……と、これは余談ね」
「余談じゃねえ。てことは、連中、シュテッタを狙ってるっちゅうことか?」
「シュテッタと、アンタでしょう」
「オレか」
そこで、ゾンがピタリと黙って動かなくなる。
いつものことなので無視して、ベリーやポルカ達がシュテッタを見た。今の話にショックを受けているだろうと思ったのだが、ショックどころではなかった。
「げふぉおえ……」
いきなり吐き戻して涙をボロボロこぼしながら腹を押さえてうずくまったので、慌てふためいて対処した。
吐瀉物を処理し、二階へ上がって簡易医療デヴァイスで診断したが、心理的な影響ではないか……という、あやふやな結果しか出なかった。物理的な身体異常が認められなかったので、とにかく寝かせて落ちつくのを待った。
「どうしちゃったんだろ、シュテッタちゃん」
ポルカやロンドも驚いて、ダイニングテーブルで消沈していた。