6-9 シェルター
(せめて……何か聴こえないかな……)
休みがてら耳をすましたが、自分の荒い呼吸しか聴こえぬ。
いや……。
(なんだろ……何か聴こえる……!)
どこからともなく、振動音がした。揺れは感じなかったが、何かが非常に硬い物体を叩いている音だ。
分かった。
アンデッドが、シェルターの頑丈な扉を破壊しようとしているのだ。
「マズイ……!」
ここで聴こえるということは、さきほど自分が入った入り口をこじ開けようとしているのだろう。
シュテッタは再び走り出した。
(ママ……パパ……!!)
両親がどうなったか、考えたくもなかった。そして、母親の放ったプラズマ炎弾の光が、何度も脳裏に浮かんだ。
(コンダクター……ママが……コンダクター……アンデッド戦争の英雄……死者王……きっと、きっと勝ってるよね……あいつらをやっつけて……いるよね……!!)
そう思いながら、涙が止まらなかった。
そして、それから三十分も走ったころ。
ついに、通路は行き止まりとなった。
汗と涙でグシャグシャになった顔で、シュテッタは34番と書かれた行き止まりへ倒れかかった。ほぼ同時に、パートフの全住民が登録している生体コードを思念で送ると、壁が開いて大きな避難所へ転がりこんだ。
「シュテッタ!!」
「お……っ……おじさ……っん!!」
「水を!!」
そこは、百二十人が入れる避難所だったが、二十人ほどしか避難していなかった。父親の兄である伯父がたまたまいて、すぐにシュテッタへ駆けよった。
「ママはどうした!?」
「マッ……」
息が止まりそうで、答えられなかった。差し出されたボトルを、一気飲みする。
「マ、ママ……ママは、ママが……コンダ……!!」
それだけ云うと、その場の大人たちはみな理解して顔を引き締めた。
「そうか……」
伯父のトーオンは、無言でシュテッタに銃を渡した。光子銃だ。全体につるんとしているが、小脇に抱えて使うもので、どことなく我々で云うサブマシンガンに近い形状をしている。
「……?」
受け取ったはよいが、持ったまま茫然とするシュテッタへ、
「何か所かで、シェルターの入り口が破られた。ワイトがいる」
「……?」
シュテッタはとうぜん、全く意味がわからなかった。まだ荒い息をして周囲を見ると、大人が老若男女合わせて十人少々、子供が何人かいる。が、自分と同じほどかもう少し年上の少年も、みな似たような銃を持っていた。
「おばさんもやられた。クラウもおそらく、空港でやられている。クルムスやアデラも、生きてはいないだろう」
従兄姉たちだ。
「アデラは、ネクロマンシス因子が発現したばかりだったんだけどな……相手が悪い」
「え……?」
「あいつらはな、おそらく……死者の国だ」
「死者?」
「アンデッド・テロリストだよ」
「テロリ……!?」
その時、破壊音と共に24番通路の入り口が吹き飛んで、二体のゾンビ兵が飛びこんできた。
後から、ゾンビ化した町の住民たちがゾロゾロと続く。
ほぼ同時に、生き残った町民たちが光子銃を乱射した。町民ゾンビはその攻撃で霊鎖を破壊されて次々にひっくり返ったが、丙型ゾンビ兵器たちは携帯用の軽光子銃ではビクともしなかった。
「ひゃああ!」
シュテッタはショックで腰が抜け、銃も撃てずに震えあがった。
そんなシュテッタをトーオンが抱えあげ、98番ゲートを開けると中に入れた。
「奥へ行け! シュテッタ、そこで声を聴くんだ! おまえなら、絶対に聴こえる!!」
云うが、ゲートを閉めた。
(…………!!)
その行為にも驚いたが、閉まるゲートの隙間からシュテッタが見たものは……。