6-7 モットー
アルンド、そう答えたが、アンデッドなんか喰ってもうまくもなんともないし、何の喰い応えも無い。まだ生きている人間を捜さなくては。
「モットーを掲げよ!!」
アルンドの合言葉で、上陸艇の操縦員がプログラムを発動。町中に空間サイレンで「生は暗く、死もまた暗い」という文字が浮かびあがり、古代音楽の一節が延々と流れ始めた。
そこに、上空偵察のゴーストから霊感通信。人間の姿を保っていない、ぼろきれのような、もはや妖怪に近い外観だ。
「アルンド様」
「どうした」
「生き残りどもが、地下に逃げこんでおります。地下に大規模なシェルターがある模様」
「地下に……?」
大戦当時の、対アンデッドシェルターだろうか。だとしたら、少し面倒だった。
よい暇つぶしを見つけたアルンドが、楽しそうに笑う。
シュテッタは一人っ子で、父親のクラウは農家兼宇宙港の管制官兼ユニット技師だった。
技師と云っても、騙し騙し使っている戦前の機体をメンテナンスする程度で、連合との非公式接触後にもたらされた最新の機体は手出しできない。
母親のイヴゲーニャは、専業農家をしている。バーデーンの気候に合わせて改良された、バーデーン米をメインに栽培していた。水田ではなく、陸稲だった。
祖父母は、母方の祖父が一人だけ遠方の町に住んでいた。その他、父方の親戚が町内にいた。
未確認船が港に急接近しているというので、農作業をしていたクラウは緊急呼び出しを受け、一輪バイクに乗ってすっ飛んでいった。
そのわずか十五分後、作業中のイヴゲーニャの空間タブに、
「逃げろ、シェルターに行ってシュテッタと合流して!」
と、クラウより緊急通信があり、切れたので慌てて折り返しても全くつながらなかった。
ほぼ同時に大音量と共に不審船が強行着陸し、爆発が起きたので、イヴゲーニャも驚いて学校へ向かった。
戦争の記憶が生々しく残っている土地とはいえ、戦後百五十年以上も経っているのだから、アンデッド兵器が襲ってくるというのも伝承の域に達し、避難訓練や戦闘訓練をしてもまるで実感がない。
じっさい、宇宙港で衝突警報は鳴ったが、アンデッド襲撃警報のサイレンは鳴らなかった。
町にゾンビ兵とゾンビ化した町の人々が溢れかえるに至り、ようやく一部の人々が対アンデッド光子銃を取り出して反撃を始めた。
だが、遅きに失した。
古い対アンデッド用戦闘ユニットも、起動準備中に発見され、破壊された。
生き残った人たちは、避難訓練通りにシェルターに逃げるのが精いっぱいだった。
「シュテッタ、シュテッタ!」
「ママ!」
作業服で一輪バイクユニットに乗ったイヴゲーニャが混乱の中シュテッタを見つけたのは運がよかったし、シュテッタが変に近道をせずに通学路を通って家に向かって走っていたのも幸いした。
「乗って!」
一輪バイクの後方に二人乗り用の補助席が飛び出て、シュテッタがスカートを翻してまたがるや否や、イヴゲーニャが急発進させる。
「パパは!?」
髪を風になびかせ、宇宙港を振り返ってシュッテタが叫んだが、イヴゲーニャは無言だった。
シュテッタもその意味を悟り、口を引き結んでもう宇宙港を振り返らなかった。
そのとき、大音量で不思議な音楽と共に古代語でなにやら歌が流れ始めた。空間そのものを響かせる特殊な空間サイレンプログラムだ。そして、町中に古代語と共に、何種類かの彼らの言葉でメッセージが浮かび上がった。
生は暗く、死もまた暗い
(……なんなの……!?)
シュテッタは、上は天空から下はそこらの建物の壁や道路にまで浮かび上がって流れる無数のその不気味な言葉を、嫌でも反芻した。
そして、てっきり、家に帰るものだと思っていたが、イヴゲーニャがとある建物の前で止まったので、驚いた。
「ママ、どうしたの!?」
「ここからシェルターへ」
シュテッタが飛び下り、建物に入ろうとする。が、イヴゲーニャがバイクから降りないので、
「ママ、早く!」
「ママは、ここであいつら食い止めるから。先に行ってて」
「…………」
一瞬、硬直する。
「はあああ!?」
あわてて駆けよったが、イヴゲーニャはシュテッタを押し退けた。