6-5 両アンデッド大戦
テラスティ一六一三年から三十三年間続いた第一次アンデッド大戦にあっては、それまでの発電素子理論に基づく光学兵装を主体とする大量破壊・殺戮兵器……上は宇宙戦艦から下は自律型対人兵器に至る各種の軍事用ユニット兵器と、テラスティ一〇〇〇年代に確立した魂魄子理論に基づき、一五〇〇年代にようやく量産化に至ったアンデッド兵器との戦いだったと定義できた。ほぼ地球圏での戦争だったため、テラ内戦とも呼ばれている。
約八百年ぶりの大規模戦争であり、どこが勝利したというわけでも無く、強いて云えば地球圏ではアンデッド兵器が主体の勢力が趨勢となった。地球圏各州と南極統一政府では、アンデッドをより効果的に利用し続けるのが人類発展の目標となった。
それから六十二年後のテラスティ一七〇八年から、何度かの休戦期間を含めて九十八年間続いたのが、第二次アンデッド大戦である。第一次大戦での急激な世界趨勢転換は矛盾を孕み、主に死の尊厳という観点からアンデッドとその利用を認めず敵対する勢力の反乱がテロや紛争として続いていた。南極統一政府内にもテロの手が伸び、ゆるやかにアンデッドコントロール機関の中枢が乗っ取られ、一部のアンデッド兵器が暴走。ユニット兵器は元より、アンデッド兵器同士の激しい内戦へと発展。月面でもテロと紛争が起き、地球圏と月面各都市、果ては植民惑星群を巻きこむ大戦争へと発展した。
統一政府から軍閥、大小民間軍事会社に到るまでアンデッド・ユニット両兵器が入り乱れ、戦争地域も前大戦の数十倍となった。しかも自律型のアンデッド・ユニット両兵器が人類を無視して戦ったため、非戦闘員犠牲者が非常に多く出た悲惨な戦争となった。
それを収束させたのは、オリジナルとして調整・製造された各種マエストラル・コンダクター達の活躍だ。従って、別名コンダクター戦争という。その後、各勢力の所有するコンダクター同士の戦いとなり、統一政府を中心とする勢力が勝利。
特に、戦争で活躍したネクロマンシス・コンダクターは「死者王」と呼ばれ、讃えられた。
戦後は各種のコンダクターは製造が禁止され、製造技術を含む全データが破棄されたため、その因子を受け継いで自然発生的にコンダクターとして産まれた者を集めるのみとなった。また、不思議なことにその自然発生したコンダクターをいくらゲノム及び魂魄子分析しても、コンダクター因子は特定されず、人為的に発生させる方法も再発見されていない。そして大戦末期に大量のネクロマンシス・コンダクターが製造されたため、現在でもコンダクターの約七割がアンデッド兵器を自在に操作するネクロマンサーとなっている。
その後、第二次大戦で破れた側から宗教にも似たアンデッド崇拝が同時多発的に勃興し、人類はアンデッドに「進化」してこそ救われるとする勢力が現れはじめた。それらが、植民惑星群を拠点にテロ組織として発展。現在に至り、地球圏にも進出してきたのだった。
さて……。
まだ西暦だった三三〇〇年代からテラスティ五〇〇年代にかけて、位相空間転移・次元反転法により、人類は一気に天の川銀河中に探索の手と殖民の足を広げた。それら殖民惑星は十八星に及び、再遠方はアンドロメダ銀河にまで人類は手を伸ばした。
しかし、他星間交易は経済的なうまみが少なく、次第に廃れた。今では、仮想も現実も、連絡が取れなくなった惑星もある。それらの星では、既に人類は撤退していることになっているが、もし万が一、まだ人間が残っていた場合、どうなっているのか全く不明だった。現在、連絡がある十一の殖民惑星群で「殖民惑星連合」という組織を作って南極統一政府、月面政府、火星政府と交渉し、各惑星間の交易路を護っていた。
その惑星連合で最も遠方に位置するのが、第十一殖民惑星バーデーンである。
ただ、バーデーンは第二次アンデッド大戦で主戦場の一つとなり、アンデッドとユニット兵器が大規模な戦闘を繰り広げたため、二千万の人口が数万まで減った過去があった。戦闘を終結するために何百というコンダクターが送りこまれ、戦後、民間人は全て引き上げた。そして数十年に一度、惑星連合の定期観測船が衛星軌道上まで訪れるだけとなった。
そこに、実は民間人が残っていたと判明したのは、既に戦争から百五十年余が経ったころだった。
バーデーンに残ったのは避難船の出航に間に合わなかった難民がほとんどだが、対アンデッド能力が特に高かったコンダクターが戦後処理として残った(あるいは派遣された)者、用心棒のアンデッド狩りに、軍用レアユニット屑屋、等々であったという。また、何処かから逃亡してきた者もいたらしい。