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死者王とゾン  作者: たぷから
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5-6 シベリュース

 地下だが、通風と広空間による空気対流の関係で、地上ほどではないが自然に風はある。


 が、その風は異様に熱く乾いており、感触が異なっていた。

 ふと、気がつくと、道路の真ん中に人が立っている。

 「包帯人間」だ。全身を太い包帯でくるんでいる。


 この時代、医療はほぼすべてゲノムレベルの再生治療になり、外傷者は全身や部分カプセルで治療し、緊急治療にあってもゲルカプセルで傷を覆うため、布の包帯というものが存在しない。少なくとも、博物館に収蔵されているレベルの古代のアイテムだ。従って「白く布状のものを全身に巻きつけた人」という認識になる。


 それも、どう見ても全裸の上に包帯を巻いている。


 背が高く、手足も長い。筋肉質な身体のラインが、まる分かりだった。腰も張っているし、腿もスポーツ選手のように引き締まっている。


 なにより、バストが異様にでかい。シュテッタですら初見で、

 「オッパイでかっ」

 と、思った。


 頭部からはところどころ街灯に白く光る濃い金髪がはみ出て、目の部分には泉のような碧眼が見えた。その視線が、氷のように冷たくシュテッタを射抜いている。


 「え……なに、あの人……どういうスタイルなの?」

 「変態か?」


 他の通行人も、ざわついている。

 シュテッタが視線を射抜き返し、厳しく口を引き結んだ。


 アンデッドだと分かったからだ。

 「……アンデッド攻撃です! 下がって、逃げてください!」


 シュテッタが声を張り上げ、ギョッとした通行人たちが転がるようにその場を離れた。


 包帯女……マミーのシベリュースが、ゆっくり右手を上げる。

 すると、普段は次元の裏に隠されている真っ黒い両手持ち剣が現れた。

 見た目は、古代の古めかしい剣そのものだ。


 が、長い束に内蔵されている六重連超小型発電素子が回り、光触媒を動かして剣身を超急速冷却する。恒星間航行宇宙船の骨格にも使われるヴァグネリ鋼製のその黒い剣身が、たちまち水蒸気が凍りついて真っ白になった。理論上は絶対零度まで冷却するが、物理的な制約がありマイナス二〇〇℃ほどで冷却は止まる。


 銘を、その能力ちからに反し「魔の炎フォイア・ツァオバー」という。


 両手持ちにした剣をやや右半身の中段に構えて脚を大きく広げ、シベリュースが軽く腰を下ろした。


 「……ドラゴン・ゾンビを、呼びなさい」

 メゾソプラノの端整な声が、夜道に響く。


 シュテッタもグッとスカートのまま両足をふんばり、両拳を腰の辺で握ってシベリュースをにらみ返した。


 「少し、怖い目を見ないといけないですか!?」

 シベリュース、一気に距離を詰めてシュテッタへ走り寄った。

 ドガ!!


 シベリュースの脳天に、とんでもない衝撃が走った。剣もぶっとびそうになって万歳し、ブリッジめいてそっくり返る。大股を開いてバランスをとって、なんとかひっくり返らずに踏みとどまった。


 「ッ…!!」

 体勢を立て直し、驚愕の表情でシュテッタを見据える。

 影より見ていたピーパも驚いた。

 (い、今のは……!?)


 ピーパが霊符に隠されていない血走った右目でシュテッタを見つめ、それから攻撃されたシベリュースを見やる。シベリュースは身構えたまま固まって、目を見開いてシュテッタを凝視した。そのシュテッタが、三重にぶれて見えた。


 (しっ、視覚がおかしい……スピルが崩れて……!?)

 ぶんぶんと頭を振り、なんとか自己修復する。


 (ピ、ピーパ殿より護符をもらっていなかったら、危なかった……なんというターン・アンデッドの威力……!)


 ネクロマンサーがそのコンダクツをアンデッドに直接ぶつけて攻撃することを、俗に「ターン・アンデッド」という。あくまで俗称だが、正式名称があるわけでもない。なぜならば、非常用の攻撃方法であり、効果もあまり無いからだ。一級ネクロマンサーでも、数体の丙丁を打ち倒すのが精いっぱいなうえに消耗も激しいという非効率な攻撃であり、緊急脱出用の側面が強い。


 それが、厳重に防護された乙一型攻性兵器を、一撃で行動不能寸前まで追いこむとは……!


 (さすが、主殿に匹敵するというだけある……)


 ピーパが思わず建物の影より出て行こうとするも、まだゾンがいるわけではない。様子を見る。


 シベリュースは、動いていない心臓が爆裂するほど鼓動を打ちこんでいる感覚に襲われ、しばし機能回復を待った。数十秒ほど、シュテッタとシベリュースが対峙したまま硬直する。


 その間、とうぜん、シュテッタはゾンを召喚している。

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