4-6 四股
野良スケルトン七体など、シュテッタ……そしてポルカの敵ではない。すぐさまコントロールしようと、ポルカが下位アンデッド支配プログラムを起動する。
ズシ!!
作業員たちには少し地面が揺れた程度だったが、アンデッドは地面を伝わった特別な霊波攻撃が全身を貫いた。ポルカですら全身に悪寒が走り、震え上がって歯の根が鳴った。アユカはひっくり返って気絶……機能停止した。
まして、スケルトンなど。
一撃で霊鎖が崩されて六体がバラバラに砕け散った。最も後方にいた七体めだけが麻痺して振動し、ガタガタガタ……と全身の骨が鳴っていた。
シュテッタが振り返ると、いつのまにか現場へ入ってきていたゾンが、両膝に両手を当て、腰を下ろして踏ん張っている。
四股を踏んだのだ。
「……!!」
ポルカは、時間が止まったようにゾンを凝視した。いくら甲型とはいえ、一型にこんな機能……干渉系霊圧攻撃能力があるなんて……!? ゾンは、甲一二型なのか?
「ヘッ……やっぱりな」
「!?」
「おい、ポルカ……あいつが犯人だ。とっ捕まえろ」
一同の視線が、ゾンの四股に耐えて細かく震えている七体めのスケルトンへ向く。
野良ではない。コンダクターに率いられたアンデッド兵器……つまり、これは、紛れもなくアンデッド・テロだ。
「ッ…!」
あわててポルカが迫ったが、スケルトン、いきなり全身バラバラとなり、一斉に散らばって逃げ出した。
「あっ……!」
という間に、骨が分散して建物の隙間や物陰、さらには瓦礫の影に消えてしまった。
「……あ、あっ……と……」
「ケッ……使えねえ」
カチン。ポルカが眼を吊りあげてゾンへ振り返ったが、何も云い返せなかった。
「ゾン!」
シュテッタが、素直な笑顔をゾンへ向ける。
「……準備運動以下だぜ、あんなもの」
「それでも、スゴイよ」
「ケッ……」
ゾンが照れ隠しのように、首を振ってシュテッタの視線を外した。
「シュテッタちゃん、ちょっと、アユカを……」
「呼んでるぞ」
「うん」
シュテッタがアユカへ駆け寄り、ゾンは改めて白骨の見つかった現場を見やった。
(しかしまあ、案の定、シュテッタを狙ったテロが起きやがったぜ。だが、様子が違え。即席にすぎらあ。それに……いってえ、どこのアンデッドとコンダクターだ? 『死者の国』でもねえ。ったく、余計なことしやあがって……)
そしてゾンは、シュテッタがその額や胸に手を当ててネクロマンシス・コンダクツで霊鎖修復をかけているアユカへ視線を移した。
(……ってえことは、あの丁型は、関係ねえのか……。やれやれ……相手が見えねえんじゃ、ゲート展開テストはしばらく中止したほうがよさそうだな……)
まだざわついている作業現場で、再びゾンが置物のように動かなくなる。
5
「こいつが、甲一型ドラゴン・ゾンビ……」
マンオーク地下三二階、タハカラ地区。
ここに、地下街でも珍しく、アンデッド格納用施設と人間居住区が一体となっている物件がある。
かなり大きい。高級マンションだ。家賃も高いが、別に彼らが払っているわけではなかった。
そこに、四体のアンデッドと、三人のコンダクターがいた。ダイニングとリビングが一体となった、かなり広い部屋だった。
コンダクター達は、リビングにいる。ダイニングではテーブルに三体のアンデッドが座っており、一体はテーブルの側で腕を後に組み、微動だにせず立っていた。
空間タブレットを広げ、工事現場で撮影されたゾンを見ている群青色の髪をした青年は、マーラルだった。
ということは、アンデッドのうち二体は甲一型エンシェント・ヴァンパイアのリリと、甲一型チァンシーの琵琶行だ。ワイングラスで深紅の液体を優雅に飲んでいるが、もちろんワインではない。培養血液である。別に飲まなくても機能停止しないし、飲んだから強くなるわけでもない。単なる嗜好品……潤滑油のようなものだった。