4-4 現場のバイト
涙が、止まらなった。
その翌日は学校で、翌々日、朝からポルカとアユカがシュテッタを迎えに来た。
「シュテッタちゃあん、起きてる?」
相変わらず置物みたいに佇んでいるゾンを余所に、ハンガーからポルカが二階のシュテッタへ連絡を入れた。
なおアユカは、まだゾンにびびって大きな身体をすくめている。
「いま行く!」
溌剌とした声がして、アンデッド退治のときと同じく薄いピンクのツナギ姿で、シュテッタがおりてくる。
「おはよ」
「おっはよー、シュテッタちゃん。じゃ、行こっか」
「うん」
「おう、待てや」
いきなりゾンがそう云い、三人……いや、一人と二体を見下ろした。
「なによ」
ポルカが眉をひそめて口を尖らせ、ゾンを見上げる。
「オレも行くわ」
「はあああ!?」
これにはポルカはもちろん、シュテッタも驚いた。
「ア、アンタなんか来たって、むしろ役にたたないっつーの!」
「まあ、そんなこと云うなや。五〇トンだぜ、五〇トン」
ゾンが、右腕をポンポンと叩いた。
「なぁにくっだらないことで張り合ってんだっつーの! アユカはね、元々工作部隊所属で重作業用プログラムが組まれてるんだって! 作業現場でどっちが役にたつかなんて、検証以前の問題でしょーが!!」
ポルカが踊りみたいに手足を振り上げて怒りをぶちまけたが、ゾンは無視。
「なあ、いいだろ、シュテッタ」
「えっ!? ええ、と……うん……まあいいけど」
コンダクターがそう云うのなら、ポルカやアユカに断る権限は無い。
「へっへ、決まりだ、決まり。さあ、出発出発。トラック出せや」
ボンボンと太鼓腹を叩き、偉そうにゾンが指示を出す。ポルカが激烈に渋い顔でトラックを用意し、アユカは不安げに顔を曇らせた。
「うわっ、なんかすっごいのが来たな!」
工事現場でアンデッド達を出迎えた作業員が、まずゾンを見やって目を丸くする。この時代、現場作業などは、ほぼ全て工事用・作業用全自動ユニットが勝手にやる。が、地下は別だ。高価な作業ユニットを運用できる会社は、ほとんど無い。
したがって、未だに前時代的な人の手作業で工事が行われる。
さすがにパワードスーツや万能的な工作機械を駆使するし、中には違法改造である肉体強化型の作業員もいるが、それでも作業用ユニット類を使用する全自動工事の、十分の一以下の効率だった。
そこに、アンデッドの作業員が加わるとやはり、ちがう。休みがいらないし、眠りもしない。ましてアユカのような作業労働用乙型自律式となると、性能は高級ユニットに匹敵するうえに、メンテもほぼいらないと来ている。コンダクターさえいれば、ユニットより使える。
そこで、現場としては喜んで来てもらったのだが……ゾンは想定外だった。
「このでっかいのは!?」
意外に若く見える四十歳ほどの監督に云われ、ポルカもしどろもどろ。
「いぃや、あのそのぉ……ちょっと、予定外でね……」
そこで素早く耳打ちする。
「単価に数えなくていいから、なんか、重いものでも運ばせておいてちょうだい」
「ええ……?」
監督も困ったが、とりあえず待機となった。狭い現場を動かれても邪魔だからだ。
「警備ぐらいには使えるか……」
確かに出入り口付近に立たせておいたら、無断で野次馬やクズ拾いが入ってくるのを防げた。
「よーし、作業再開! 丁型のお姉ちゃんは解体のほう入って! お前ら、指示してやってくれ。乙型のあんたは、あっちで土砂を運んでくれるかな。ええと……お嬢ちゃ……コンダクターさんは、事務所でアンデッドの管理を」
ツナギ姿のシュテッタが、しかし、前に出て、
「あ、あの、わたし、発電素子工事の二級を持ってますんで、軽電なら扱えます」
「え! コンダクターさんが!?」
監督も驚いた。
「でも、二級ならうちの現場にもいるし……いまは解体段階だから、まだ電気屋さんの出番はないんだよ」
「そうですか……」
消沈し、仕方なく、仮設事務所へ入った。