4-3 フラウ
フラウを家に招き入れ、シュテッタがマンオーク産の緑茶を出した。上層階の農場に茶畑があるのだ。
「シュテッタの淹れたお茶は、いつもうまいな」
大きな身体を小さなテーブルと椅子に窮屈そうに納め、フラウが笑顔で茶をすする。この茶を飲みに、わざわざ来ていると云っても過言ではない。
「この前のアンデッド退治の仕事、うまくやったじゃないか。役所も感心してたぜ。報酬は、いつもの口座にもう入ってると思うよ」
しかし、シュテッタの表情は浮かない。
「……アンデッド・テロだったんだって?」
「うん……そうみたい」
「アンデッド・テロっていうのは、宇宙が本場でね……月面では、前からよくあったんだ。戦争で余ったアンデッド兵器が、地球より宇宙にわんさかとあるからな」
「うん……」
「宇宙で有名なテロ組織は、いくつかあってさ……『死者の国』『死こそ幸福』『デステルズ』『ザ・デス』……『自由アンデッド同盟』に『アンデッド解放連盟』……わっかりやすい名前だよなあ」
フラウが鼻で笑い、茶を飲み干した。
「……なんで、そんなことするんだろ……」
「狂信者だよ」
タン、とテーブルに湯飲茶碗を置いて、フラウが厳しい視線をシュテッタへ向ける。
「そもそも、戦争でアンデッド側についたような連中の生き残りさ。その『教え』を引き継いでるんだ。そのくせ、一枚岩じゃないのがご愛嬌というか……生意気に、微妙に主義主張がちがうんだ。それに、一部は宇宙軍閥みたいなのと手を組んでる。軍閥ってのは、裏で仕入れた軍用ユニットやアンデッド兵器を使って、海賊まがいのことをやってるやつらさ。マッチポンプなんか余裕。完全に、商売なんだよ」
さすがにくわしい。シュテッタが、ジッとフラウの顔を見つめた。その真摯な瞳を見つめ返してフラウ、
「そいつらが、地球にも手を伸ばしてきたのさ」
「お茶、お代わりする?」
「え? あ、ああ……」
フラウが湯飲をシュテッタへ渡し、シュテッタが流しへ向かった。
「各州政府や、統一南極政府も対策に乗り出すと思うけど、後手後手になるだろうね」
シュテッタは無言だった。湯冷ましで、ちょうど湯を八〇℃にする。一煎めは六〇℃だが、二煎めは少々高くてもよい。
「なあシュテッタ、これからのアンデッド退治は、テロに巻きこまれる可能性が増えると思うけど……今後、どうする?」
二煎めを淹れて戻って来たシュテッタへ、フラウが訪ねる。
「もちろん、やるよ!」
お盆から茶を置き、シュテッタがやけに明るい笑顔で答えた。
フラウも、満面の笑みとなる。
「そうか」
先程より少し熱い茶へ息を吹きかけながら、フラウが本題に入った。
「なあ、ベリーに頼まれてたバイトなんだけどさ……新しい、丁型を使った。区内で、ちょうどいい建物の解体工事現場があるんだ。やってみる?」
「うん」
「よし、きまった。これ、バイト先」
空間メモを開き、シュテッタへ飛ばす。シュテッタがそれを受け取り、ザッと目を通した。日雇いにしては、報酬もなかなかよい。
「じゃ、よろしくな」
「ありがと、フラウ」
シュテッタは、玄関までフラウを見送った。その玄関先でふと、振り返ったフラウが、
「あ……そうそう、シュテッタ。テロ組織のよ、死者の国と云えば……こんな言葉、知ってるか?」
「なに?」
「……『生は暗く、死もまた暗い』……」
ヵヒュ。
シュテッタの喉が詰まり、息が止まった。
一気に鼓動が激しくなる。
「古代詩と古代音楽の一節。死者の国のモットーなんだってよ。生意気だよな。知識人ぶってさ。テロリスト集団のくせに。……じゃ、バイトのほう、たのんだぜ」
「……ぅん……」
ドアが閉まるや、シュテッタは玄関で膝から崩れ落ちた。胸を強く押さえ、無理やり呼吸する。ヒューッ、ヒューッ、クバァー、クヒュバーと異様な呼吸音が続いたが、やがて少しずつ正常な息を取り戻す。
その眼が、恐怖と動揺と怒りと憎しみに見開いていた。