4-2 荷重試験
「じゃ、もうちょっとあげてみよっか」
簡単に云い、ベリーがどんどん荷重をかける。
八トン、九トン、一〇トン……。
「あたしたち超えたわ」
ポルカが、口をひん曲げた。
「ふんぎぎぎぎググ……!!」
アユカが歯を食いしばり、渾身の力を発揮する。
「一五トンいける?」
アユカが目をつむって、ぶんぶんと首を振る。
「むり……むり……ごわれまず……ごわれぢゃいまずぅ……!!」
「じゃ、一四.三トンね」
一気に荷重が消え、反動でアユカはつんのめって転び、床に両手をついて喘いだ。
「すっごおい、甲型に匹敵するんじゃない? 特製なだけあるわあ」
ポルカが感心し、ロンドとカノンもうなずいた。
「ばーか、甲型が荷重試験の一五トンやそこらで済むわけねえだろ。オレなんか、片腕で五〇トンは余裕だぜ」
「オマエが規格外すぎるだけだっつーの!! 黙ってろ!」
「…………」
ポルカに突っこまれ、即座にゾンが黙る。
「たぶんねえ、人間の死体を食べたら、二〇は行くと思うんだよね。グーラだから。でも、平時だし、まあこんなもんでしょ」
満足げに云い、ベリーが荷重測定機プログラムを閉じる。
アユカを立たせてロンド、
「街中じゃあ、一五もあれば充分だ。アンデッド退治以外にも、バイトができるな」
「そういうこと。丁だから、ポルカ達で管理できるしね。ポルカの管理でいい?」
「いいよ。よろしくね、アユカ」
ちなみに、他に三体のゾンビをハイゾンビの支配下に置いたが、みな地下街行政委託会社に引き渡した。野外ならまだしも、非自律式のゾンビばかり何体もいても、街中では扱いきれないからだ。そのまま、マンオーク・アンデッド管理法に基づき処理される。
「フラウに、何かいいパワー系のバイトが無いか、聴いておくから。よかったらシュテッタ、ポルカとアユカを連れて、仕事してきて」
ベリーは、シュテッタに優先的に仕事を回すようにしていた。
「うん、ありがと」
「じゃ、またあとで」
ベリーとシスターズ、アユカがライヴハウスへ戻り、またこの広いハンガーと家に、シュテッタとゾンだけになる。
ふう、とシュテッタが大きく息をついた。
突如として、脳神経操作療法により消去していたはずの記憶がフラッシュバックで蘇る。
「う……」
額に手を当て、よろめいた。
爆発が見える。宇宙港がまずやられた。脱出できない。町に、様々なアンデッドがあふれた。住民が次々に襲われてアンデッド化し、阿鼻叫喚となった。逃げまどい、一部の人は戦ったが、アンデッドの波に呑みこまれた。
町はアンデッド・テロで、壊滅した。
いや、それはもうテロと呼べる規模ではなかった。
かつて行われた、アンデッド戦争の再現だった。再現実験だった。
「うぉぶぇ……」
ベシャベシャといきなり吐き戻し、シュテッタはブルブルと震えて床に膝をついた。
「うぐぉぇ……えぐぉ……」
胃が痙攣し、全て出してもまだえづいた。
そんなシュッテタを、白濁した片目でチラリとゾンが見下ろした。
(フ、フ、ヘッヘ……憎め憎め……怒れ怒れ……もっともっと、テロリストどもを憎むんだ……そうすりゃあ、するほどよう……オレ様が……強くなるぜえ……!!)
白濁した眼が、一瞬だけ黄金の生きた眼に変わった。
「もしもし、シュテッタ?」
「あれ、フラウさん」
翌日、誰が訪ねてきたのかと思ったら、珍しく情報屋のフラウだった。
いつもデータだけでやりとりをしているが、ときたまフラリと現れる。
月面人の全てがこういう身体的特徴があるわけではないが、地球ではかなり目立つ外見をしている。女性だが、まず背がやたらと大きい。ゆうに二メートルを超えている。正確には、二〇八センチだった。ただ大きいだけではなく、古代の戦士のように筋肉質で、かつ豊満だった。
そして、肌が真っ白だ。かつて存在した白色人種とか、先天性色素欠乏症であるアルビノというのとも異なる。乳白色なのだ。漆喰のように肌理細やかに白い。そして時おり光を反射してラメが入ったように煌めく黒鉄色の髪に、不気味な空色のパステルカラーの瞳をしている。地下街を含むマンオーク全市でも、このタイプの月面人はおそらくフラウを含めて何人もいないのではないか。地球年齢とはまた微妙に数え方が異なる……というより、成長の仕方が異なるのだが、二十五歳になるという。