4-1 アユカ
トラン区の男性住民が戦慄した様子でつぶやき、肩ほどから上が砕け散った女の死体を見下ろした。ノーマル・ヴァイパイアを倒された退治屋も、感慨深げに見下ろしている。
「アンデッド・テロリスト……か……。いったい、何の目的で……」
それは、もちろん誰にも分からない。それを聞き出そうとしたのだろうが、結果は自爆だ。
「自爆するほど、正体を知られたく無かったってこと?」
ポルカが独り言のようにロンドへ訪ねたが、ロンドに分かろうはずも無く、首を振って肩をすくめるだけだった。
「そいつあ、『死者の国』の工作員だぜ、シュテッタ」
シュテッタがビクリと身をすくめた。そのゾンの声は、シュテッタにだけ聴こえるように飛ばしてきた声だった。
「……こんなとこまで」
「ああ」
「…………」
シュテッタが目をつむって黙りこみ、カノンが逆に心配そうに見つめた。
ゾンはゾンビどもを一掃した後、道路で彫像めいて佇んでいる。
4
「丁型重労働工作用特製グーラ……ピアグランド社製……製造番号は……長いので略……繊細なパワー制御を行うため自律式……その他、特に不審な点は無し……野良だったところをテロリストに拾われて、プログラム修正されていたと推測される……っと」
ベリーが空間パネルを開いて、思念及び言語入力で記録をとる。調査及び計測機器のあるゾンのハンガーで、皆がそろって先日トランで確保したアンデッドを検査していた。
「丙でもゾンビでもなかったんだ」
ポルカが、やや驚いてそのモジモジする大柄なアンデッドを見つめる。丁型グーラというのは、確かにレア機だった。
ちなみにグーラとは、グールの女性形である。
「個体名は?」
「ア……アユカです」
日焼けしているのか腐りかけているのか判然としない灰色がかった小麦色の肌に、ショートの黒髪のグーラはそう名乗った。素っ裸にされて機体チェックを受け、さらに履歴も調べられ、ようやく服を着ることを許された。
確保したときに来ていた衣服はズダボロだったので廃棄し、シュテッタが新しい服を買ってきていた。
「ごめん……こういうのしかなかった。だって、おっきいんだもん」
アユカは身長が一八四センチあり、ここにいる人間二人及び人間型の三体の中で最も大きい。ロンドですら、一七八センチだった。
さらに、重労働型というだけあり、かなりがっしりしている。
シュテッタが買ってきた服は、ローライズのデニム風ホットパンツに、同じくデニム風の上着にタンクトップに近いインナーだった。靴は頑丈な軍用ブーツだ。やたらと胸がデカイので、インナーが引っ張られてへそが出ている。これはシュテッタがショップに身長データしか提供しなかったためだ。
「こ……こんなかっこうするんですか……」
体格の割にシャイで、大きな体を縮めて長く筋肉質な脚をくねらせている。
「じゃ、そのパワーを計測しますか」
「ゾン、出番よ」
ポルカが云うも、ガン無視。それにアユカが引きつって、
「む、むむむムリですよ、こんなのと力比べなんて……!!」
「あ!? 『こんなの』だあ!? ふざけやがって、ひねりつぶすぞ、コノヤロウ!!」
「ヒィイ!」
アユカが震え上がり、ガタガタと震えだした。
「やめなさいよお、冗談だってば……なんでこんなときだけ、すぐ反応してんの」
腰に手を当てたポルカが眉をひそめ、ゾンがまた黙りこんで動かなくなる。
「さすがに、ゾンとやり合うわけにはね。あ、こっちに荷重測定機あるから」
ベリーがいざない、おずおずとアユカがゾンの横を通った。
疑似重力発生式の測定機で、特に錘などがあるわけではない。
「やったことある?」
「い、いえ、このタイプは……」
「じゃ、ここに立って。重しみたいに荷重がかかるから、両手で持ちこたえてみて」
「はい……」
アユカがベリーに示された場所に立った途端、
「ぐぉ!」
とんでもない「重さ」が圧しかかってきて、がっしりと抱えるように両手を上げて「空中」を支えた。
「すごいな、いきなり六トンだ」
ロンドが驚いて、切れ長の目を見開いた。
「丙型標準を軽く超えてるわあ。あたしたちに匹敵するんじゃない?」
ポルカも感心する。