3-5 死者王
ゾンは陽動部隊を難なく駆逐し、最後の暴れる一体の喉元を鷲掴みにして持ち上げている。それを一気に握り潰し、道路沿いの廃墟へ放り投げて、
「シュテッタは、死者王になるんだからな!」
「死者王ぉ!?」
ポルカ、身を沈めて兵卒ゾンビの右手の掌打を左腕で受け、
「死者王って……戦争はもう、とっくのとうに終わってるっ……つーの!」
下段からの抜き手を放ち、ゾンビの胸板を貫いた。
「いいから、こんな超ザコヤロウの思念なんかとっとと遮断しろ!」
シュテッタが、眉に皺を寄せた。脳をフル回転する。まるで、シュテッタの頭部にスパークが走ったように見えた。
ガクン、と残ったゾンビ達の動きが止まる。ゴーストも、一気に霊圧が弱まった。
敵コンダクターのコントロールを断ち切ったのだ。
すかさず、カノンが全身から稲妻を発するように干渉系霊波振動を浴びせ、ゴーストを粉々に消し去った。
そのまま、建物の中に走る。
ポルカも、ハイゾンビの能力で残ったゾンビの制御を奪った。
「あ……あれ……あたし……」
その内の一体の大柄な女性型ゾンビが、洗脳から解けたように我に返った。
「え……なあに、この子……丙型なのに、自律式なの……?」
「珍しいな……」
ロンドとポルカの二人に挟まれ、そのゾンビは恐怖に震え上がって腰を抜かし、座りこんでしまった。
そして……。
シュテッタが、建物の中に入ったカノンへ敵の居場所を教えた。
人々は固唾を飲んで外の戦闘を見守っていたが、いきなりカノンが入ってきたので静まり返っている。トラン居住区の避難民が四十人ほど。そして、先行していた退治屋のコンダクターが三人……。
分かってみれば、その挙動は怪しい。
みなカノンへ注目しているし、着の身着のままといった感じだが、一人で毛布のようなものをひっかぶって、場の隅に座っている。しかも、いかにも動くに動けないといった緊張感が、如実に滲み出ていた。
「あの人……どなたか分かりますか?」
カノンがその毛布を指さしたので、みないっせいに見据えた。
「いや……」
確かにトラン地区は流れ者の街で、横の繋がりはほとんどない。が、それにしても総人口は百ちょっとだ。顔くらいは知っている。
「おい、毛布をとれ、最近来たやつか?」
と、その者が、いきなり走って逃げ出した。取りすがった近くの男へ毛布を投げつけ、捕手をかわす。三十代ほどの女に見えた。
そのまま建物の奥へ向かって進み、ホール裏側の通路へ入ろうとした。
が、もう床から天井へ飛び上がって天井を蹴り、カノンが女の前に立ちふさがった。ハイゾンビの、準超高速行動だ。
「こいつ……!」
女がダメ元でカノンの支配を試みたが、シュテッタの強力なコントロールの前に、為す術無し。カノンが掴みかかり、怪力で押さえつけた。
「テロリスト……つかまえた」
思念通信に、真っ先にゾン、
「よし、表に引きずり出せ、自爆させるなよ!」
「えっ……自爆?」
みながそう思った瞬間、カノンだけがその特殊な思念によるスイッチと、女テロリストの体内信号を感知した。
カノンが女の胸ぐらをつかみ、生身の人間を連れているのもかまわず連続で準超高速行動に入る。
そのまま女が逃げようとしていたドアに突進し、頭突きでドアをぶちやぶってホールから裏側の通路へ入ったところで、女の頭部が爆発した。
「カノン!」
シュテッタやポルカ達も、急いでホールから裏へ回る。
衝撃で壁に叩きつけられたカノンだが、無事だった。煙の中、首と胸部から上が炸裂した死体を確認し、しようがないのでそれを持ってそのまま裏手へ出た。ホールの中の何人かと、退治屋の男も裏手へ出てきた。シュテッタ達も、そのままカノンを追って裏から出る。
「大丈夫? カノン……」
「うん……」
シュテッタが、カノンの身体を調査する。服の一部が焼け焦げて破れているが、身体に損傷は無い。
「じ、自爆ってすごいなあ……」