3-4 対アンデッド戦
右肩口の一体がゾンへ咬みついたが、歯が折れた。それを左手で鷲掴みにし、いともたやすく引き剥がして地面へ叩きつけてから踏みつぶす。もう一体が背中にいたが、無視してそのまま左側のゾンビ群へ突進した。
その突進力は、ボーリングのピンにぶち当たるボールのようだった。
「どっせーい!!」
ショルダーアタックで、ゾンビどもが弾けるようにしてぶっ飛んだ。
ただの力ではない。霊圧攻撃だ。
物理的なパワー差もあるが、基礎霊力が根本からケタ違いなのだ。
そのまま、まだ動くゾンビどもを文字通り千切っては投げ、千切っては投げ……。
瞬く間にゾンビ部隊を壊滅せしめた。
「すっご……!」
ポルカが驚愕して固まった。この半年間で二回ほど、ゾンが野良ゾンビをデコピンでぶっとばしたのを見たことはあったが、これらは野良ではない。コンダクターに率いられた、丙一型攻性ゾンビ兵器だ。いくら甲型とはいえ、あの攻撃力は異常だ。
「姉さん、ゾンの云った通りだ、来たぞ!」
ロンドの声に振り返ると、いつの間にかビルの壁に複数のゾンビが逆さまに貼りついており、ヤモリめいて迫ってくる。
「ロンド、建物の中に入れないで!」
「合点承知だ!」
とたん、ゾンビ達が壁を蹴って降ってきた。ロンドもジャンプして迎撃。強力な空中回し蹴りで一体を地面に落とし、そしてもう一回転して一体を壁へ蹴りつけた。
六体がシュテッタと建物の間に着地。ポルカも戦闘に入る。同じく着地したロンドが入り口を護りつつ、後からゾンビを襲った。カノンが、すかさずシュテッタの護りに入った。
そのカノンへ、ふいに霊圧が襲いかかる。
「うわ……!」
シュテッタも分かった。ゾンビにまぎれ、丙一型のゴーストがいる。
「カノン、霊視!」
通常の一型ゾンビ兵器に、霊視モードは無い。二型機能も有するカノンが現実視から霊視へ切り換えると、すぐ近くに怨みと狂気に満ちた触手と目玉だらけに、落ち武者めいたザンバラ髪の物体がいた。もはや、人間の形状を有していない。わけの分からぬうめき声と共にどす黒い怨気が滲み出て、墨をこぼしたように地面を濡らしていた。
ゾンビとゴーストの連携とは、テロにしては手が込んでいる。
(こんな近くまで……気づかなかった……!)
すぐさま、カノンが二型能力である霊波攻撃を放つ。ゴーストが押し返されてたじろいだ。
ゴースト系の霊鎖を崩すためには、純粋な打撃はあまり効果がない。打撃にしても、霊波を乗せなくては。甲型の霊出力ならまだしも、乙型であるポルカ達では、かなりの手数を必要とする。
「カノン、わたしも手伝うよ!」
シュテッタが指令を出したが、
「……いや、シュテッタは、こいつらを使うコンダクターを……そっちのほうが……たぶん早い……!」
「そおよお、シュテッタちゃん! こっちが終わったら、わたし達もすぐカノンを掩護するから!」
ポルカにも云われ、シュテッタはゾンビ達をコントロールしている敵コンダクターの思念を丹念に探った。すぐに分かった。雑な操り方をしている。
(……三人……見つけた……! 一人はビルの向こう……一人は……ずっと遠い……こんな遠くから……? 丙型だから、遠隔操作が可能なんだ……! ……そして最後は……え、すごく近い……?)
シュテッタが息をのむ。
「中にいる!!」
トランの住民に、まぎれているということか!?
ゴーストと押し合いつつ、カノンの目つきが変わった。
「……どれ?」
「ど、どいつ……ええと、どいつだろ……」
ここにきて、思念が弱まった。逆探に気づいたか。必然、一部のゾンビの動きが鈍った。
(ヤバい……どうしよ……!)
焦るシュテッタに、
「シュテッタちゃん、無理しないで! ぜんぶやっつければ、それでいいから!」
ゾンビ共をねじ伏せながら、ポルカが思念通信。
「で、でも……!」
「野良狩りじゃなく、対アンデッド戦の初陣で、これだけできれば上出来だって!」
「バカヤロウ、この!!」
突然、ゾンの思念が割りこんだ。ポルカがびっくりして動きが止まり、危うく敵の攻撃をくらうところだった。
「なにを……!?」
「上出来ごときじゃ、すまされねえんだよ!」