3-3 陽動
相手とは、ゾンビ達ではなくもちろん相手のコンダクターだ。その支配を奪いポルカ達の制御下に置くには、この場合、ポルカ達の仮マスターであるシュテッタの力と相手のコンダクターとのパワーバランスによるところが大きい。
(ゾンみたいなのを使ってるんだから、丙型ゾンビのマスターとは雲泥の差だとは思うけど……!)
なにせ、コンダクターとのアンデッド戦は、おそらくシュテッタは初陣だ。しかも、丙型ゾンビが三十体ということは、常識的に考えると、少なくとも敵コンダクターは三人から五人はいる。
「ね、ねえ、シュテッタちゃん……もし……もしなんだけど……あたしたちのコントロールが、負担だったら……その……」
「おい! いつまでごちゃごちゃ話しこんでやがるんだ! 気配に気づいて、向こうさんからお出迎えだぜ!」
入り口から顔をのぞかせて叫ぶゾンの声に、一同に緊張が走った。
真っ先にシュテッタが表へ出る。ポルカ達も続いた。
「みんなは、ここから出ないで!」
云われなくても出ないが、見送る顔も不安に満ちていた。
ポルカ達とシュテッタが建物から出ると、道の両方向から十体ほどずつ、整然とゾンビが歩いてきている。まるで古代の戦列歩兵だ。
「……確かにこりゃ、野良の動きじゃない!」
「懐かしい動きだ」
ロンドとポルカは、先の大戦で実戦経験がある。製造から百八十年を経ていた。カノンだけ、戦後の製造だった。と、云っても、百年は経っているが。
「シュテッタちゃん、あたし達が二手に別れるから、命令を!」
「う……うん! じ、じゃ、ポルカとロンドで、ゾンビを……カノンとゾンは待機……」
「オーケー!」
さっそく、ポルカとロンドが動き出そうとしたが、その二人の前に、ゾンが立ちはだかった。
「な……!?」
「あんなザコども、オレ様一人でお釣りが来るってんだよ! すっこんでろい!」
「ななななな……!!」
歯を食いしばったポルカの眼が、見る間につり上がる。
「あ、あ、ああああ、あんた!! マスターの云うこと聴かないって、いったいぜんたい、どんなプログラミングされてんの!!」
「ばーか、ありゃあ陽動だ。わかんねえのか」
ゾンの思念通信が、一同の脳内に響いた。
「……陽動!?」
ということは、本命部隊が他にいる。狙うはもちろん、こちらのコンダクターであるシュテッタに他ならない。
「オレがなるたけハデに暴れっから、おまえらはシュテッタを護ってろ。たぶん、上だぜ。そして、敵のコンダクターを一人でもいいからとっ捕まえろ。聴きてえことがある」
ポルカ達が、あっけにとられてゾンを凝視した。
「シュテッタ」
「な、なに……?」
「対コンダクター戦だ。相手は複数だが、こりゃ、お前の敵じゃあねえ。落ちついて……相手の思念コントロールを逆探しろ。それから位置を把握して妨害だ。そうすりゃ、ハイゾンビのこいつらが配下に置ける。わかったな」
「うん……!」
「じゃあ、命令を出せ」
シュテッタが大きく息を吸い、実声を張り上げる。
「ゾン! 前方のゾンビ群を駆逐しろ! ポルカは私の直掩! ロンドは伏兵に対処、カノンは、私がこれから探し出す敵コンダクターの捕獲! ……行け!!」
無言で、アンデッド達が動いた。
まず、ゾンが道路に出て、右側のゾンビ達へ走り寄った。いつもノタノタと面倒くさそうに前かがみに歩いているが、まるで獲物を見つけた肉食恐竜だった。ゾンビ群も、一気に速度を上げてゾンヘ向かった。対応としては、対重アンデッド戦のセオリー通り、半数が大ジャンプで上空から攻撃し、半数がそのまま地上を走ってゾンヘ突進した。
だが、相手が悪い。
主力重戦車に、歩兵が銃剣突撃するようなものだ。
「この、クソザコが!!」
数百体、数千体もいるならともかく、十体やそこらではお話にならぬ。
ゾンが横殴りに右拳を振り回しただけで、ゾンビの二、三体がくの字にひしゃげてぶっとび、肉体と霊鎖を破壊されて地面に転がった。そして返す裏拳でもう、二体だ。そして上空から降ってくるゾンビ達に対しては、グッと膝を曲げて身を低くしてから、小ジャンプぎみに半回転してその太く長い尾を振り回した。
鈍い不気味な音を立ててまた三体のゾンビがひしゃげ飛び、枯れ木めいて地面へ転がって動かなくなる。着地するゾンヘ二体がとりつくも、二体ではどうにもならぬ。