3-2 退治屋
シュテッタが素直に驚きの声を発したので、トランの住民たちが苦笑した。
「だけど、いきなり野良ゾンビがいっぱい出てきてさあ」
「いつからですか?」
これはポルカだ。
「三日前かなあ」
「よく、いままで持ちこたられえましたね。だって三十体くらい出たんでしょ?」
「さすがに、すぐ役所に連絡して……」
ここで云う役所とは、州政府やマンオーク市政府ではなく、地下階層の行政をマンオーク市から区分けして委託されている民間会社の一つのことだった。
「退治屋に来てもらったんだ」
「えっ、あたしたちの前にも、他のコンダクターに?」
「そうなんだけど、こてんぱんにやられちゃって……中にいるよ。話を聞いてみる?」
「もちろん」
ゾンを表に待機させ、シュテッタとシスターズが古いビルへ入る。
「おーい、新しい退治屋さんだ!」
ホールのような場所があり、かつては商業ビルだったことがわかる。そこが避難所になっていて、何十人かが集まっていた。
その中に、三人の男たちがいた。二人は奥で寝かされており、一人がそれへ付き添ってうなだれている。
その三人の前に案内されたシュテッタとシスターズが状況を問うと、みな不思議そうにシュテッタを見上げ、かつ驚きを隠さなかった。
「き、君がコンダクターなのか……? え、まさか、一人で、この三体を!?」
「外にも、でっかいのがいるんだから」
シュテッタの代わりに、ポルカが答える。退治屋達は信じられないといった顔で、シュテッタを見つめていた。
「みなさんは、どこのコンダクターなんですか?」
シュテッタが、さすがに不安げな表情で訪ねた。
「あ……ああ、オレたちは、シャマイ地区から来たんだ。三人で、それぞれノーマル・ヴァンパイアを使って、野良アンデッドを退治してるんだが……ここの依頼を受けて、返り討ちにあった」
シュテッタが息をのむ。ポルカがその話を聞いで、
(ノーマルってことは、あたしと同じ、乙一かな……それが三体じゃ、いくら数が多いとはいえ、野良ゾンビなんか余裕だと思うんだけど……)
何かウラがある。そう判断した。
「できれば、状況を教えてほしいんだけど」
通常であれば、商売敵にそういった退治情報は教えない。が、こうなったら非常事態だ。
「ゾンビどもが、連携して襲ってきてな……正面の十体ほどを相手にしていたんだけど、後や横から挟撃されて……」
明らかに野良の動きではない。すなわち、
「やっぱり……向こうもコンダクターがいるってこと……か。それも、戦い慣れしてる。これ、アンデッド・テロじゃない?」
その言葉に、三人の退治屋が大きく息をついた。
「ウワサには聴いてたが……まさか」
マンオークでそれが行われようとは、だった。
「油断したってことか」
ロンドの発言に、三人は返す言葉も無かった。
「シュテッタちゃん、図らずともこうなっちゃったけと……どうする? よかったら、わたしたちに自由戦闘の権限を……」
ポルカが隣を見やると、シュテッタの様子がおかしい。
「…………!」
口を引き結び、目を見開いて虚空を見つめ、両拳も握りしめて小刻みに震えていた。脂汗もすごい。
「……シュテッタちゃん!?」
ポルカが、思わずシュテッタの肩を揺らした。
シュテッタが、ハッと我に返った。
「ちょっと、だいじょうぶ?」
「う、うん……大丈夫」
その表情に、先ほどの動揺や恐怖は無かった。
「できるの?」
「もちろん」
だが、気合はよいが、しょせん十四歳だ。いかに才能があろうと、圧倒的に実戦経験が無いのは明白だった。それを男たちも察し、
「き、君たちは、ハイゾンビだろ? 連中のコントロールを奪えるか?」
「うーん……どうだろ……相手の力次第かな……」