2-6 一級「相当」ネクロマンサー
(じゃあ、シュテッタちゃんは、少なくとも月面か火星……もしかしたら、どこかの植民惑星の出身なんだ……!?)
「お待たせ、ちょっと、素手だとうまくいかなくて……」
はにかんだ笑顔で、シュテッタがポルカ達へ近づいた。チョコレート系の濃金髪を肩の後まで伸ばし、背も低く実年齢より少し幼く見える。日焼けをしたような薄褐色の肌に、エメラルド色の眼をしていた。安くもなく、高価でもない淡い黄色のブラウスと、年相応の黒いスカートが、いかにも思春期の地味学生だ。
マンオーク地下の学校は公立ではなく全て私立の塾のようなものであり、行っても行かなくてもよいのだが、シュテッタは安い私立学校へ週の半分ほど通っていた。
そんなことより……既に、シュテッタは発電素子システムの修理技術を有していることになる。学校どころか、いますぐ独立して発電素子技術士として働ける。
いや、そもそもコンダクターなのに、どうしてそのようなナノマシン手術を受けているものか。
「あの……」
ポルカがアンデッド兵器の分を超えて、コンダクターに素性を訪ねようとしたとき、
「そんなことよりよお、仕事だってよ」
ゾンから珍しく話しかけてきた。
「仕事?」
「だけどなあ、ザコ退治なら、オレは行かねえからな」
シュテッタが肩をすくめた。
「今回はどうしたの?」
「え、ええ……ええと、なんだっけ……」
ポルカが焦って、ロンドを見た。ロンドがシュテッタに、
「ベリーから聴いてないのか?」
「聴いてない」
「伝えておくって、云ってたんだけどなあ……」
ベリーの云うことを信じ、空間メモ情報をインプットして来なかった。
「わたし……分かってるから」
カノンが手を上げ、二体とも胸をなでおろす。
カノンから全員へ情報が思念通信で行き渡り、把握する。地下九二階トラン地区で、三十体もの野良ゾンビが現れたという。
「確かに、三十体は多いわよねえ。いっつも、数体だし」
「アンデッド・テロかもって、ベリーは云うんだ」
「アンデッド・テロ!?」
シュテッタがいきなり大声を出し、目を見開いたので、三体が驚いた。
「ど……どうしたの?」
「い、いや、なんでもない。……で、その、ベリーは?」
シュテッタの問いに、ゾンビシスターズが困って変な笑い声を発した。
「ちょっと……来れないの」
「ええっ?」
「私達のコントロールは、シュテッタに委任すると云っていた」
ロンドの言葉に、シュテッタも驚きを隠せず、
「……やったことないよ、そんなの」
確かに、ゾンと他人のアンデッド兵器三体の計四体を同時制御とは、生半可なコンダクターでは無理な相談だ。
「ごめんねえ。でも、シュテッタちゃんなら、きっと大丈夫よ」
「そうかなあ」
「そうだとも。コイツを扱っている時点で、一級なのは間違いないし」
そう云って、ロンドが親指でゾンを指す。理由は不明だが、シュテッタはネクロマンサーとして未鑑定で、何級なのか分かっていなかった。従って、一級「相当」ということになる。
「あとは、コイツがやる気を出すかどうか……」
ポルカが、片眉を上げてゾンを流し見る。
「よし。オレも出張るぜ」
ゾンが初めて自分から出動すると云ったので、三体はおろかシュテッタまでびっくりして固まってしまった。
「ど……どうしたの、急に!」
「うっせえな。なんだっていいだろ」
「気が変わらない内に行こう、行こう!」
「そうそう、シュテッタちゃん、急いで準備して!」
慌ただしく、出動準備に入る。
ゾンが、そんな中で悠然と立ちすくんでいた。
(クク、ク……ベルティナの野郎……シュテッタに、ゾンビの姉ちゃんたちまでコントロールさせようってか……。フン、やるじゃねえか……こういうのなら、オレが動く価値があるってえもんだ……!)
ハンガーの扉が、ゆっくりと開いた。