2-5 ナノマシン用簡易ブースター
「それに、仕事ったってよお、アイツの実力がアップするようなヤツを回してくんねえかな。野良やそこらじゃ、ハナシになんねえんだよ、ハナシに」
「トレーニングじゃなくて、本番なんですけど!」
「ばーか。原則、甲型は甲型の相手をするために存在するんだぜ。主力兵器なんだからな。丙だの丁だのは、おまえらでなんとかすれや」
「有象無象を蹂躙するのも、甲型の役目なんですけどお!!」
ポルカが目を吊り上げて抗議。
「…………」
ゾンがまた無視をキめた。基本的に無表情なので、どうにも考えが読めない。
「まったく……いい加減にしなさいよ、アンタ!」
ポルカ、ゾンを蹴飛ばそうと足を振り上げたが、そのまま我慢して下ろす。足が折れたら修理が面倒だからだ。
そのとき、いきなり照明が落ちた。もちろん、再び真っ暗だ。
「あっ……どうしたの?」
「だから、発電素子の調子が悪いっつんてんだろ。明かりなんか点けやあがって……」
暗闇の中にゾンの声。三体の、マジかあという空気感が伝わってくる。
「なんで最初に云わないのよ、アンタ!!」
「云う前に点けるからだろ」
「カノン、ここ、非常用素子無かったっけ?」
今度はポルカがゾンを無視し、闇の中で三女へ声をかけた。以前、住んでいたとき、カノンが建物全体を管理をしていた。
「あるけど……素子自体じゃなくて、制御盤が調子悪いみたい」
盤は建物の建築から三十年間、何もしていないはずだった。もう寿命か。
「姉さん、ハンガーを開けよう。外光を……」
「ばーか、だから電気が死んでるんだっつーの」
ロンドにも、ゾンの悪態。思わず、ロンドが声を荒らげた。
「手動で開ければいいだろう!」
「ヘッ! ざー~んねんでした。オレが格納されるようになってから、ゲートが作り替えられて、お前らのパワーじゃビクともしねーんだよ」
また、三体の驚きの気配が。
「……知ってた? 二人とも」
「い、いや……」
だいたい、そんな改修費用はどこから出たのか。ベリーが出したとも思えぬ。
(どうも……シュテッタとゾンは、よく分からないことが多いんだよね……ベリーは何か知ってるのかな……)
ポルカは時々そう思うが、思ったところでどうにもならない。彼女たちに、詮索する権限は無い。
そのとき、
「あれ? 誰かいるの?」
少女の声がして、手持ちの明かりと共にシュテッタがハンガーに入ってきた。
「シュテッタちゃん、お帰り! 待ってたんだからあ」
「ポルカ! 二人もいるの?」
「いるぞ」
「いる……」
「ちょっと待ってて……」
シュテッタが、そのまま明かりを持って移動した。小型発電素子内蔵のペン型ランタンだった。ハンガーの隅へ向かうと、建物全体の電気の元である地下中型発電素子の制御盤がある。シュテッタが物理認証で掌を当てると、独立した超小型発電素子によって生体波動関知が働き、盤が開いた。
そしてシュテッタはランタンを口にくわえ、買ってきたばかりの道具を鞄から出そうとしたが、うまく出ない。
「わたし、持つ……」
カノンが駆け寄り、ランタンを受け取った。
「ありがと」
シュテッタが出したのは、指輪付の手袋のようなものだった。
それを見て、ポルカとロンドが驚きを隠さない。
「姉さん、あれは……」
「うん……」
シュテッタはそれを右手にはめ、一見するとただののっぺらぼうな燻銀の盤にかざした。
すると、盤が所々鈍く明滅して光りはじめる。それだけを見やると、まるでヒーリング系コンダクターのようだった。
ハイゾンビ達が見守る中、シュテッタはしばし右手をかざしていたが、やがてハンガーを含む建物全体の通電が復活し、照明も点灯した。
(やっぱり……! あれは、ナノマシン用の簡易ブースターだ……!)
すなわち、シュテッタは技術系のナノマシン手術を受けていることになる。十六歳以下の技術系ナノマシン手術は、地球では違法だった。