2-4 甲一型ドラゴン・ゾンビ
そのハイゾンビを三体同時にコントロールしているのだから、のんびりとした雰囲気のベリーは、実は一級ネクロマンサーだ。
どこの超高層都市でも、地上階におけるアンデッド退治は州政府直轄の重警備対アンデッド兵や、政府所属のコンダクターの仕事になる。が、あまり治安のよろしくない地下世界では、自治組織の一端として民間退治屋が活躍していた。
その退治屋で、もっとも活躍しているのが、ベリーのような市井のコンダクターだった。
ネクロマンサー以外にも、我々でいう超能力者や魔法使いのような攻撃能力を持つコンダクターがおり、物理攻撃などでアンデッドを退治している。
が、両アンデッド大戦の影響で、コンダクターで数が最も多いのが、ネクロマンサーだった。
アンデッドはアンデッドに退治させるのが、もっとも効率的なのだ。
マンオーク地下でも、ベリーの他に二十人ほどのネクロマンサーがいるとされた。登録制でもないし組織だっているわけでもないので、正確な数は不明だ。ただ、互いに噂くらいは聞き、情報として知っているというだけで。また、商売敵同士なので、あまり連携もしない。
軍の払い下げ戦闘ユニットによる民間のアンデッド退治会社もあるが、対アンデッド用戦闘ユニットの維持費が高いうえに、そもそも払い下げとはいえ高価な戦闘ユニットを購入できるような会社は地下には無く、全て裏社会を経由して入手した代物だった。必然、所持・維持・運用できる個人や組織は限られた。貧乏人の相手はしない。
そのようなわけで、ミュートの近所では、ポルカたちはバンド活動と野良アンデッド退治で、割と顔なじみかつ有名なのだった。
「ウイッス、昨日のライヴ、よかったよ」
「次の出番はいつ?」
「次も行くから!」
などと、気軽に声をかけられる。
笑顔で答え、手を振って愛想を振りまきつつ、三体はビルの合間を縫ってシュテッタの部屋とゾンのハンガーを目指した。ミュートから徒歩十五分ほどの、こじんまりとした建物だった。一階がハンガーで、二階にシュテッタの部屋がある。ベリーとポルカ達が店を引き継いで移る前にアンデッド専用ハンガーとしてミュートの前オーナーが所有していた建物だった。
勝手知ったるものでポルカが裏へ回り、空間キーを解除して中に入る。そのまま通路を通って二重のゲートを解除し、ハンガーへ入った。真っ暗だったが、思念感応で照明を点ける。
と、それは、天井の高いハンガーの真ん中に、機能を停止した大型の戦闘ユニットのように鎮座していた。
ゾンだ。
甲一型ドラゴン・ゾンビである。
「ゾン、仕事!」
腰に手を当ててポルカが叫ぶも、無反応。微動だにせぬ。
聞こえていないわけではない。
無視だ。
ポルカもそれを分かっており、
「シュテッタちゃんはどこ!? 学校!?」
ロンドが空間タブレットを起動し、ハンガーから上階の居住部へ連絡を取る。
応答がない。生体確認も反応なし。
「いない」
「学校かなあ……今日って、登校日だっけ?」
カノンを見やる。カノンが無言で首を振った。
「どこ行っちゃったかなあ」
「買い物だとよ。すぐ帰ってくらあ」
珍しく、ゾンがすぐに反応した。
口や舌の構造的に、そのままで人語を発話するのは物理的に不可能である。どこでどうしているのかはよくわからないが、機能的に「どこか」で話をしているとしか云いようがないし、どちらかというと霊的な機構による性能だった。
「お菓子でも買いに行ったのかな」
「昼飯じゃないか?」
振り向きもせず、野太い声が続く。
「発電素子の調子が悪いんだと。電気屋にいったみてえだ」
「え? 自分で直すの!?」
ポルカが驚いて、高い声を出した。
「すっごおい。十四歳なのに」
どこかのライヴハウス経営者とは大違いだ、と顔に書いてあった。
「そんなことより、仕事だと?」
ゾンがようやく巨体を動かし、三体へ振り返った。
「そおよお! たまにはあんたもやる気出さないと、主人が飢え死にしちゃうって!」
「カネに関しちゃ、心配いらねえよ」
「?」
三体が顔を見合わせるが、彼女たちに関与する余地はない。