2-3 アンデッド兵器の分類
「いや……そんな……情報は……どこにも……上がってない……」
カノン、バサバサと髪をいじりながら、小さな声を発する。ニュースにもなっていないどころか、三体の中で特に情報収集能力が強化されているカノンも、知らない情報だった。(従ってカノンは、一部二型機能も有する一型であり、正確には乙一二型となる。)
「報道規制がかかってるみたい……。けど、フラウが裏で仕入れたから間違いないよ」
「フラウが……」
いわゆる、情報屋だった。この時代は人種という概念が薄い代わりに、出身地で区別する。従って、フラウは月面人ということになる。どういうネットワークを使っているのか、とても秘匿情報に詳しい。そしていつも、野良アンデッド狩りの情報を優先的に回してくれる。
「……で、テロがどうしたってえの? まさか、マンオークでも?」
「その可能性あるかも。有名ないくつかのテロ組織が、いよいよ各地の高層都市に手を伸ばし始めてきたかもね」
最近、確認されている幾つかのアンデッド・テロ組織は、月でも植民惑星でもこの地球でも、比較的アンデッド警備の緩い田舎の小都市で一般の人間を襲っていた。地球にあっては、各州軍のコンダクターを含む対アンデッド特殊兵が派遣されているが、相手のテロリストもコンダクター。手が回りきれていないのが現状だ。
「でも、なんで地下なんだ? 狙うんなら、上層だろ?」
ロンドも、不思議そうにその切れ長の目を細めた。
「それは知らない。そんなことを調べるのは、依頼されてないし」
ベリーの言葉に、ポルカが肩をすくめた。
「で、出撃は?」
「明日、午前中からシュテッタとゾンといっしょに、お願い」
「ええ、ゾンと!?」
また、ポルカが目を見開いた。
「だめ?」
「だめじゃないけど……あいつ、この半年、やる気ゼロなんですけど」
同意を求めるように、ロンドと見合う。ロンドもうなずいて、
「そうだ、この前なんて、けっきょくハンガーから出なかっただろ」
ベリーが眉をよせる。肩をすくめ、
「なだめすかしてでもなんでもいいから、仕事させてちょうだい」
「あいつが、なだめすかして動くと思う? 自分のマスターの云うことすら、聴かないじゃない……」
「そこをなんとか……このままじゃ、シュテッタの収入が、さ」
ベリーがポルカを拝み、片目をつむった。
シュテッタのためならば仕方がない。しぶしぶ、ポルカとロンドが諒承する。
「よかった。じゃ、お願いね。シュテッタには伝えておくから。詳しくはここに」
空間メモを開いて、ベリーが投げてよこした。そのまま笑顔で踵を返す。
「……まさか、ベリーは行かないつもり!?」
振り返って、ベリーはさも当然というように、
「え、だって……来月の出演バンドの調整を、あさってまでにしちゃわないといけないんだもの」
「はああ?」
ポルカ、三度、目を丸くする。
「あたしたちのコントロールはどうすんのよお!」
「シュテッタに委任しまあす」
軽い調子でそう答え、足どりも軽く、ベリーは出て行ってしまった。
三体が、同時に肩を落として嘆息する。
「まったく、やる気ゼロなのは、どっちなんだか……」
「ハイゾンビ」は、云うなれば中隊長格のゾンビで、丙型以下の兵卒あるいは総じて丁型に分類される単純労働を含む雑役用アンデッドを管理・統率する権限と能力を与えられている。性能にもよるが、一体につきだいたい四十から最大で百体をコントロールできる。とうぜん、ゾンビとしての戦闘力も強化され、ポルカ達のように自由意思も有し自律型である。今は戦争が終わり、配下のアンデッドが設定されていないだけだった。
なお、旧大戦時から引き継がれているアンデッド兵器の役割と分類は、以下の通り。
甲型:主力兵器、決戦兵器
乙型:軽戦闘、強行偵察、諜報、その他汎用兵器
丙型:一般戦闘、通信運搬、工兵等後方支援
丁型:軍需労働他多目的用途兵器
一型:主戦闘機能
二型:補助戦闘含む汎用、通信、諜報機能
三型:魂魄子戦等特殊戦機能
なお、基本、丁型に数番はない。
それらを組み合わせて分類しているが、これらは、必ずしも「強さ」の分類ではない。あくまで用途分類であるし、中にはこれ以外の特殊分類もあるという。