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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■イエマチ編
80/81

その日の二人(1)

「ひゅひひっ、ひゅひっ、ひゅひひひひっ」

「その死にかけのカエルみたいな笑い声やめてくれません。先輩」

「だって、ひゅひっ、今朝のあれ見たでしょ? ひゅひひひっ!」

「イケルさん、いまだに箸が転ぶだけで笑う女子高生のつもりですか」

「まー見た目はね」

「ウッザ……」

「良美っちは子供のロマンを忘れた擦れた大人になっちゃったね。かわいそ」

「哀れまれるいわれはないんですが」

「っぱ朝からお米食べないやつはダメ。ダメダメだね。ダメダメダメ女だね」

「私が世界で二番目に嫌いなのは、胃下垂マウントする女子なんですよね」

「ごめんねぇ。生まれ持っての才能を光らせちゃってぇ、ってアイタッ!」

「殴りますよ?」

「殴ってんじゃん!」

「今のは引っぱたいただけです」

「コッッワ。その考えコッワ。良美っちあんた魔王かよ……」


「イエマチの進捗はどうですか」

「んー、消去はじめたとこー。くっふー、夢の楽園がグイグイ消えておるわー」

「なにキャラですか、それ」

「まさかイエマチが終わるなんてねー。うちもマジヤバイ可能性ありけりじゃん」

「だいたい命ゴイのせいですけどね」

「ちょっとー。サービスの下り坂を新作のせいにしないでくださーい」

「あら、ナンバリング天国でロンダリング地獄なゲーム業界でそれ言います?」

「それ、ADACの講演とかで口にしたら関係者にコロコロされるよ?」

「人と場所は選びますよ」

「くっふー、どんだけ私に気ぃ許してんだか。かわいい後輩めっ」

「それ今後一生言わないでもらえますか。こっちのキャリアに響くので」

「なんだとーっ、私は疫病神かっ!」

「そうでしょ?」

「そうではある」


「そういえば、先週の帰りに言ってた異常って見つかりましたか」

「異常? あー、あのデータ混入かぁ」

「サーバー内でデータがごちゃ混ぜになってたって、言ってましたよね」

「うん。命ゴイのなんかのデータが移動しちゃったみたい。べつに問題ないけど」

「それ、イケルさんがLANぶち抜いたりしたせいですよね?」

「いやいやいや、コネックのせいでしょ。セルがつながっちゃってるんだもん」

「区域分けがしっかりできていないんでしょうか」

「生めや増やせやに特化しすぎて、サ終のための仕組みがなってないんだよ」

「単セルはまだしも、セル群ごとのクローズは前例ないですし」

「だーから、私がこれから得たノウハウを教えてやるってわけ!」

「人気がなくならないゲーム作りのやり方を教えてもらうべきでは?」

「チッチッチ。この世のすべての物はいつか滅ぶのだよ、ワトソンちゃん」

「生きてる間くらいは生き永らえてみせろって話です」

「おっ、それちょっとカッコいい。今度インタビューとかあったら使うわ」

「ウッザ」

「だいたい、綿花天路は未開通だったじゃん」

「でも設定はしたから、スクラップがセル間を行き来したんじゃないですか」

「それでどーなるもんでもないでしょ? ぜーんぶ今から消すんだし」

「逆流入は怖いですよ。最後に防げずコアホームに迷惑かけたら訴訟もんですし」

「だいじょーぶだってー。良美っちは心配しょーだなー」

「あんたが楽観的すぎんでしょ」


「良美っちってさあ、最終的にウィンター・ネストも作ってたっけ?」

「ええ。オータム・ネストとウィンター・ネストは」

「あんときはまだ素直だったのにねぇ。今じゃこれかよ」

「先輩のご指導ご鞭撻ご迷惑のたまものです」

「一言余計だぞ」

「そこが一番大切なんですが」

「もー! 私のおかげでインターンシップ取れたくせに生意気ぃー!」

「あれはまあ、感謝はしてますが」

「ほらほら! ふっふーん! 敬いたまえ!」

「あれ、人員不足で急募しても誰も来ないからいいように言っただけですよね」

「うっ」

「当時は感謝しましたけど。先輩のやったことはただの人身売買ですからね?」

「うっせー! 後輩ってのは先輩の奴隷なんだよー!」

「ハイハイ……ああそっか、凰華の屋敷も消えちゃうんですね」

「良美っちのあれ好きー。いまだに自分の部屋もああしたいもん」

「人ん家に居候の身で、ナメてんですか? 先月の家賃もらってませんよ」

「……こ、今月中には」

「今月分はいつ払ってくれるんですか?」

「……ら、来月中には」

「この金欠メスガキが」


「最後くらい、凰華と霜割りの君のラブラブハッピーエンドやりたかったなあ」

「イエマチはイベントストーリーがゴミでしたしね。あと二十回は必要でしたよ」

「凰華が良美っちみたいじゃなく、私みたいだったら余裕だったのに」

「よく言う。イケルさんじゃ顔でアウトですよ」

「オマエー! ざけんなーっ!」

「未成年にしか見えないけど成人っていう、18禁のやり口にしか見えませんし」

「えへへぇ」

「褒めてないですよ?」

「あ、桂さんと沢村さんのアニマラーのデザインもかなりツボだったよねー」

「桂先輩のタイダイタルシャークは最悪でしたけどね。足がキモすぎる」

「えー、ちょーカワイイじゃん!」

「子鬼リスや歯ウサギも、安易にブサカワ狙ってただのブサイクでしたし」

「誰かが聞いてたら炎上するよ? 今や世界の桂さんなんだから」

「ライバルって言い張るので構いません。それにあの人、私に気ありますし」

「クソビッチ悪女め……」

「先輩もイエマチのころは、本当にちゃんと天才プランナーだったのに」

「んー、でも通報とか刑務とかって、大昔のMMOにあったシステムだし」

「それを知っていて、この時代に落とし込んだのはやっぱりセンスでしたよ」

「てへへぇ……ってゆうか、さっきからなんで過去形?」

「その理由、聞きたいです?」

「やめろし。どーせ悪口でしょ!」


「イエマチ、全消去まであとどれくらいかかりますかね」

「今日中は無理だね。セキュリティ込みでネスト二つ分が関の山じゃない」

「それだと、予定よりだいぶ遅れそうな」

「それがゲーム業界ってやつよ!」

「威張らないでください」

「ま、残ったケツブラもドルエラも中身大して詰まってないし――」

「だぁから! 女性がケツブラ言わない!」

「ひぃっ! 机叩きはやめろってんだろっ!」

「下品な略称は嫌いなんです」

「なら、なんならいんだよー」

「それは……」

「ほーら。略したらケツブラか、ケツネタか、ブラネタしかないじゃんかー」

「うっ……だからそもそも、略称にするのが間違いというか……」

「不謹慎だったら、命ゴイだって負けてないよ?」

「かわいくないですか? ほら、命恋なら」

「そういうダブルミーニングでもあったはずなんだけどぉ……」

「恋要素が腐ってましたし。それ以前に名称以外が全部アレだっただけですし」

「んだとてめー!」

「そういうのいいですから」

「ハイ」


「例のデータ混入さあ」

「はい」

「もしかして、プレイヤーだったりしないかな」

「はい?」

「いやだって、よくあるじゃん。サ終世界を旅する転生もの? 的なやつ」

「ああ、なるほど。そういう」

「それで今ごろイエマチでハーレムしてたりして。サワカとか凰華とか侍らせて」

「ハーレムって、命ゴイから混入してるんなら強制的に令嬢なんじゃ?」

「うわぁ百合かー。私そっちより、ディアルスとアイゼンに世話されてーのにー」

「私なら、四皇ヒュンフですかね」

「へーーっ! ニヤニヤ」

「……なんですか」

「だってヒュンフって、調子屋のトリックスター的なやつじゃん?」

「まあ」

「かーっ! いいからそういうの。婉曲的に私みたいなのが好みとかそういうの」

「……よくもまあ、イケメンに自分を重ねられますね」

「だって四皇の制作のとき、私みたいなので! って注文したし」

「……うっとうしい」

「ニヤニヤ」

「それで、もしプレイヤーが迷い込んでたら、これって傷害なんでしょうか」

「ハー?」

「もし人がいて、データを消したから生き延びられなかったら、殺人ですよね」

「んー、もしいたとしても時代先取りの脳みそAI化人間だろーし」

「ううん、それ以前に、学習指導型AIの消去も考えてみるとちょっと怖いですね」

「人道的にも倫理的にも問題はないよ。だってNPCなんだから」

「感情的にですよ」

「意外と優しいじゃん」

「生まれつきです」

「もー、んなこと言われると心優しき先輩の立場が台無しじゃーん」

「立たれると邪魔だからずっと座っていてくださいって話です」

「しっかし良美っちにそんな繊細な感情があったなんて驚き、アイタッ!」

「イケルさんって、以外と人でなしですよね」

「まっさかぁ。心を殺して涙を見せずに悪と戦うダーティヒーローなだけ」

「ウッザ。心が優しいのか死んでるのかどっちなんですか」

「――きな、クレバーに抱いてやるぜ」

「いいから。思考停止していられるうちに準備だけでもさっさと終わらせますよ」

「へいへい。これ終わってもまだケツブラかぁ――」

「だぁから! 女性がケツブラ言わない!」

「ひぃっ!」


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