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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■イエマチ編
79/81

桜色のレース(5)

「サワカさまのお家に、黒い天塔まであるとは。これぞ一石二鳥ってやつです」

 魔女が黒絹のローブを揺らして、意気揚々と白い屋敷に近づく。


 スプリング・ネストの地主、桜野サワカの屋敷は、屋根も壁面も真っ白なペンキで塗られたウッドハウスといった形状。ほかの地主たちの屋敷と比べると、ただの一軒家といったサイズ感で、むしろナッツの家とほぼ同等である。


 しかし作りは凝っている。屋敷の入口周辺はウッドデッキになっており、花々の鉢植えが並べられ、洒落た造形の椅子やテーブルが置かれたテラスもある。

 家主はそこで、午後のお茶をささやかに楽しんでいたのだろう。


 小気味のいい足音を響かせるウッドデッキの階段を上がると、桜の花びらを模した金色のドアベルが目に入った。建物の二階部分には、朝の目覚めとともに開けば一日の気分もよくなりそうな台形の窓ガラス。

 外観としては、避暑地のこじんまりとした別荘といった趣きである。

 とはいえ、家の後ろ部分に重なって天に伸びる、黒い塔の存在は異質だ。


「おかしくねえか? こんなデケえ塔が家にめり込んでるのに壊れた形跡がねえ」

「黒い天塔は、実体ではないのでしょうか? 近くで見ると影みたいですね」


 家と塔とが重なっている部分は"家の形状"が優先されているが、破損した様子はない。塔側にせよ、家屋がめり込んでいるものの融合した形跡がない。


 永久鋼土の外からでは距離があり、しっかりと視認できなかったが。黒い天塔はプロジェクションマッピングの投影映像のように実体感がない建物であった。


「シーズンズ・スクエアに生えてた白い天塔も、こんな感じだったのかもな」

「たしかに。つまり天塔とは、特別な位置を示すだけの目印なのかも」

「こんなクソデケえ目印、目障りなだけだぜ」

「ふふっ。でも、おかげで私の家からでも目にできたんですよ?」


 さあ、行きましょうと勢いづいて……カンカン。

 ナビは玄関扉で桜のドアベルを鳴らし、家主の在宅を確認する。

 けれど、待てども待てども屋内からの返事はない。


「不在なのでしょ……ちょっとレッドっ。勝手に入るなんてぶしつけですよっ」

「時間のムダだ。行くぞ」

 行儀正しく突っ立っていたナビの脇で、レッドが勝手に扉を開ける。

「むー」「クスクス」


 扉の先には、まだ見ぬサワカの人柄を表しているかのような、温かな木の色合いのリビングが広がっていた。一階は椅子や机、キッチンなどが置かれたオープンな一部屋で、小さめのドアが一つと、二階へと続く階段もある。


 全体的に生活感の薄い、モデルルームのような清潔さ。

 スローライフの夢方面だけを見せるゲームとしては、限りなく正解だ。


「変わったところもねえな。ただの一般人の家だ」

 室内をぐるりと見回すも、桜野サワカらしき人影はない。

「すみませーん。桜野サワカさまー、いらっしゃいますかー」

 二階まで届かせる声量で、室内に呼びかける。

 それにも返事はない。


 入ってしまったものは仕方ないと、ナビが屋内を歩きはじめる。コンコン。リビングの先のドアをノックするも、やはり返事がないので勝手に開く。

 ドアの先にはベッドやタンスなど、この家で暮らすための必需品が置かれていたが、やはり桜野サワカは不在。物音の一つも聞こえてこない。


 やけに遠慮なく、ズケズケと室内を物色しているレッドにアンバランスな礼節のなんたるかで義憤に駆られるが、ナビもナビで目についたものがあった。


「これは、絵でしょうか? ものすごく精巧に描かれていますが……」

「んだそりゃ。ほんとに絵か? 空間を切り取ったみてぇな代物だ」

 ベッドの脇。小さな手が握ったのは真四角の木枠。品名的にはフォトフレーム。

 そこに収められていたのは、見たこともないほど精巧な絵こと、写真が一枚。


 写真のなかには、スプリング・ネストで見られるような桜の木を背景に、白のセーラー服と紺のスカートを着用した少女たちの姿。中心に立っているのは、サラサラと風にそよいでいる黒髪を片手で押さえている少女で、春満開とばかりの目いっぱいの笑顔を見せながら、隣にいる同じ姿の少女たちとじゃれている。


「っ、この服……オッ金えちゃん@煌めきSPさまが着ていたものに似ています」

「ぁん? 誰だ、そりゃ」

「これに似た衣服をまとった、耳まで届くほど大きなお口をされていた令嬢です」

「グゥッ!? あの、クルジィンの指をひたすらかじろうとしてた蛮女かッ!!」


 オッ金えちゃん@煌めきSPは、例外処理になる言葉を受けると「そ、そこに触れるな……~~ッッ」と羞恥を顔にさらけ出してくれる蛮女たちのおもちゃこと、皇騎士十二皇クルズィン=フォン=プリンシュヴァリエに執着していた万命の令嬢の一人で、サービス中は好んでセーラー服型のドレスで身を包んでいた。

 なお、音楽の話をすると、ヒットチャートは十五年ほど時代がズレていた。


「ここに描かれている少女の誰かが桜野サワカさまだとすれば……オッ金えちゃんさまと似た民族衣装を着用しているサワカさまは、やはり万命の令嬢たちと同じ世界、もしくは近い世界からやってきた存在だと考えるのが妥当なはずです。やっぱり、やっぱり……サワカさまは、令嬢たちと近しい存在なのです」


 どこか違う世界であろう場所からやってきていた、万命の令嬢たち。

 ここゴールドスカイナーにいる桜野サワカも似たような境遇だと聞いた。


 凰華の言うところ、サワカはプレイヤーなる存在ではないらしいが、令嬢とサワカが酷似した衣服を身にまとっていることで、関連性が浮かんでくる。


 確証はないが、桜野サワカは立場が違えど、やはり万命の令嬢……プレイヤーたちと同じ世界からやってきた存在だと、ナビは一人で結論づけた。


「頭がこんがらがってくるぜ……世界ってなあ、何個ありゃ気が済むんだか」

 ずっとサッドライク皇国にいれば、レッドの頭ももう少し強固だったが。

 実際に違う世界にやってきてしまった身の上では、想像ができてしまう。


「ふふっ」

「なに笑ってんだ」

「いえ、もしかしたら外の桜の木も、彼女たちが持ち込んだのかもしれませんね」

 写真の背景にある桜を指でなぞり、楽しげな想像を膨らませる。

 また一つ知って、また一つ疑問ができてしまった。


 それを楽しめるのもまた、ヘルプヤクの魔女だ。


 コトン。写真立てを静かにもとの場所に戻して、部屋を出ていく。

 知己ではないレディの寝室でこれ以上の物あさりしては、無礼だと判断して。


 そこまでは知性的であったナビだったが、サワカの自室であろう部屋から出たとき、それまで見えていなかった角度から、リビングのテーブルを目にして。


「あっ……」

 テーブルの上。なにかに気付いた。

 入口から入ってきたときは、花瓶の裏に隠されていて見えなかった小皿。

 そこに、小さな四角形の物体がいくつか置いてあった。


 それらは上部が桜色で、下部が黒色。一口でつまめそうなサイズ感。

 その物体から漏れ出ている甘い香りを受けて、魔女は直感で把握した。

 まさに、彼女が想像していた味覚そのもののフレグランスだったゆえに。


「チョ、チョ、チョ…………」

「どうした。イカれたか」

「チョコレイトだっっっ!!!!!! 絶対チョコレイトですっっ!!!!!!」

 イエマチにやってきてから、最大の速度で走り寄る。


 ナビは己の礼節を無意識で虐殺し、四角形の物体を山賊のごとき乱暴さですべてつかみ取った。それはナッツが教えてくれた、スプリング・ネストの名物スイーツ「桜チョコレート」であり、桜風味のフレーバーを想起させる食べ物だ。


 イエマチはゲームスタート時、四つのネストのどこに降り立つかを選択するが、春の大地を選んだ移住者は桜野サワカに向かい入れられ、同作のALR体験の品質をすぐに体験させるべく、この桜チョコレートを手渡される。


 なお命ゴイと同じく、包装紙などがなかろうとチョコは手指で溶けることなく、地面に落とそうが汚れることのないオブジェクト属性のため、彼女がいきなり口に入れても支障がないとだけは補足しておこう。実際、ナビはすぐ食べた。


「はむっ……あ、あまっ、え、なに甘い、あまいっ! これがチョコっ!!!」

 こうなってしまえばもう、空き巣そのものである。

「おまえ……勝手に人ん家のもん食うなよ……」

「クスクス」

 立場的にはお互いさまであるが、より下に立ったのがどちらかは明白だ。


 スプリング・ネストの桜野サワカに会うことばかりが目標に置き換わっていたが、もともとナッツに釣られた目先の宝物は、こちらの桜チョコレート。

 もっと言えば、大好きなチョコレイトの味を知りたいという欲求だ。


 とくにウィンター・ネストの山小屋を出発してから今まで、ナビはいっさい食事をしていなかったのも相まって、味覚と食欲は限界ギリギリ状態にある。

 つまるところ、今が最もおいしく食べられるステータスとあり。


「あま、まっ、あば、あばば、あまま、あわっ、わっ、わぁーーー!!!」

 彼女は今、バグったと言っても差し支えないほどの幸福に満たされている。

 好きなものは花とチョコレイト。味のほどはパーフェクト。


「おいこらテメェ、全部食いやがったのかよ……クソがよ」

 レッドもお腹が空いてきていたが、蛮女は無慈悲だ。

 ヘルプヤクの魔女はそうして無事に、人ん家のチョコをすべて平らげた。


「げぷぅ……なんてこと……チョコがもうない……これが世界の終わり……?」

 小皿の桜チョコはまたたく間に空になり、絶望顔をさらす。とんだ強盗である。

「サワカさまに会ったら、お礼を言わねばなりませんね……げぷぅ……」

「礼の前に謝罪だろボケ……で、うまかったかよ?」

 恥ずかしいから言わないが、レッドだってちょっとは食べてみたかった。


「コホン。言葉では語り尽くせませんが、信じられない、信じられないほどおいしかったです。まさかこんなにも甘く芳醇でおいしいだなんて、目で味わっていた気になっていたあのころの私を引っぱたいて説教してやりたいくらい……! ああ、なんておいしい……これがチョコレイトの味……おいしい……すごくおいしい……あまい……おいしい……あとでファアキュウの万命書に書き加えますっ……」


 恍惚とした表情で、一人ご満足のナビが落ち着きはじめる。

 なお、プレイヤー向けのFAQ機能であるファアキュウの万命書はサービス提供状態になっていないため、今は彼女個人のメモ帳にしかならない。


「もし、次の世界にチョコがなければ、私はこの先生きていられるのか……」

「クスクス」

「アホ言ってんじゃねえぞ。ケッ、いいから次いくぞ次」

 ズカズカと歩き出したレッドが、残された二階に上がっていく。

 階段は、体躯のある青年が踏みしめるごとにキィキィと小さな音が鳴った。


 満たされた幸福感におぼつかない足取りながら、ナビも相棒の背を追って二階に行くと、少しの通路と、その先に設けられた大きなドアが目に入った。


 扉の色は黒。表面には金色で不思議な紋様。それも塗料ではなく金属のような、それでいて材質の見当もつかない、シーズンズ・スクエアとも異なる未知の雰囲気を醸し出している。いずれにせよ屋敷の雰囲気はガラリと変わった。


「妖しげな呪いみてぇな扉だな」「クスクス」

「失礼ですよ。まあ、言っていることは分かりますが」

 ここまできて様子見しても仕方ないため、ナビが率先して扉に手をかける。

 黒と金のドアは鍵もかかっておらず、押すだけで自然と開いた。

「……おいおいおい、おい。こりゃあ、あれか」

「……ええ、たぶん、あれです」「クスクス」

 そして二人と一匹は、室内に入る前に踏みとどまる。

「黒い渦巻き…………永久鋼土にもあったものでしょう」


 妙に妖しげな扉の先、そこにも桜野サワカの姿はなかったが、部屋の中央にポツリと、黒い水を螺旋に吸い込んでいるような渦巻きのオブジェクト。


 それは、碧い波に絶体絶命のギリギリまで追い込まれていた二人の窮地を救い、命ゴイの世界から、イエマチの世界に飛ばしてくれた謎の物体だった。


「外から見た感じ、ここが黒い塔の内部あたりだろ? やっぱ実体がねえのか」

「みたいですね。黒い天塔とは、あるいはこの渦巻きの場所を示していたり……」


 彼女らが見つけた黒い渦巻きこと、コネックで提供されているゲーム、そのひとまとまりの「セル群」のなかを自由に移動できるオブジェクト「コネクトゾーン」は、命ゴイでは未実装であったが、イエマチでは長らく実装済みだった。


 そしてイエマチにおけるコネクトゾーン「移住天路」が桜野サワカの屋敷にある理由は、彼女がプレイヤーに親近感を与えるべく、現実世界から迷い込んでしまうも天然の性格ですぐになじんで楽しく生活できてしまって、ひょんなことから春の地主に任命され、ゴールドスカイナーと現実世界とを行き来して休日スローライフを楽しんでいる人物像――といった背景にちなんでのことである。


 単純な話、サワカは"メインビジュアルの中央にいるタイプ"でもある。


 実際のプレイ動向としても、移住者たちがイエマチからほかのゲームにプレイヤーアバターをコネクトさせるには、この白い家にくる必要があった。

 そうした他所への玄関口の一つであったことで、スプリング・ネストは機能性も利便性も優れていて、移住者たちの居住地が集中しがちだった。

 夏秋冬のファンはこの仕様に対して、よく文句を言ったものである。


「サワカさまは、もうお家にいらっしゃらないみたいですね」

 そもそも生きているのか、死んでいるのか。

 レッドも無粋な口出しこそしないが。

「ケッ、蛮女たちの同郷だ。どうせ一人でケツまくって逃げたんだろうよ」

 悪口は健在だ。

「むっ」としつつも、ナビが黒い渦巻きに近づこうとすると。

「クスクス――」ポンッ。

「えっ……ハ、ハナリナさまっ!?」突然、ミニリナが消えた。


 アニマルポンの時間制限はまだまだあったが、ペットが消えたのはコネクトゾーンにおける動作処理の仕様だ。一般的なゲームで「町中では戦闘できない」といったのと同じように、コネクトゾーンでは同機能が強制終了となる。


「も、萌ゆる落ち葉よ――招き招けっ!」

 すぐに呼び出そうとするが、クールタイム中のため出てこない。

「……ハナリナさまが消えちゃいました。お腹が減ったのでしょうか」

「テメェじゃあるまいし。なぁに死んだわけでもねえだろうさ、クックク」

 彼も多少は心配しているが、毛嫌いが勝っているので好都合だった。


 まずはレッドが黒い渦巻きに近づき、触れる。動作はしなかった。

 続けてナビが黒い渦巻きに近づき、触れてみる。それでも動作しない。

 次いで、黒絹のローブから綿花輝石を取り出し、渦に近づけると。


 ゆったり渦巻いていた黒潮が淡く発光し、金色の渦に変化。エンジンがかかったように高速で鳴動しはじめる。強烈な引力もあのときと同じ。

 ナビは安心した。シーズンズ・スクエアを飛び出てやってきたのはいいが、この一手が通じなければ危なかった。すべてサッドライク大陸での経験に即してなぞってはみたものの、再現性があったかは怪しい賭けだったのだ。


「ふぅー……どうにか、今度も碧い波からは逃げられそうですね」


 コネクトゾーンの起動には、各ゲームで専用アイテムが求められる。どのゲームも顧客がすぐに別タイトルに移ってしまわないよう、満足と不満のボーダーラインを見極めた入手クエストを設け、それ以降は「それ一つあればどこでも別のとこに行けますし、いつでも帰ってきていいですよ」とコネクト機能を開通させる。


 しかし、各ゲームごとの専用アイテムを確保するのは面倒……というより、移住先が肌に合わないタイトルだと、せっかく育てたプレイヤーアバターがそこに閉じ込められてしまい、悪い意味での人離れが加速してしまう。

 実際問題、コネックは提供当初にそれで失敗した。遊んでいたゲームから興味本位で違う作品に移住し、そこが合わなかったが、コネクト専用アイテムの入手まではやらないとその世界から出ていけない……といった苦痛があったのだ。

 気軽な相互送客で複数タイトルに触れてもらうのが目的の機能が、まさにリアル住宅の引っ越しのごとし大事になり、仕様をあらためることになった。


 以降、コネックでは「どのゲームのコネクト専用アイテムでも、一種を有していればコネクト機能は共通利用可能」となる。

 つまり、イエマチの専用アイテムを持っていれば命ゴイからでもコネクトでき、ナビたちのように、綿花輝石さえあればイエマチからでも別の世界に行ける。


 もし、この仕様変更が行われていなければの話だが……通常、コネクト専用アイテムはレベル20達成で配布だったり、ストーリー二章クリアで贈呈だったりという、プレイヤーに優しいゲームデザインが主流であったなかで。

 ラスボスよりも強いエンドコンテンツの最強エネミー「いにしえの鋼騎士王、プリベリオンシュヴァリエ」を倒さないとコネクト専用アイテムを入手できず、しかもプレイヤー層もコンセプトも合わなければ最悪の環境で、コネクトしたキャラクターはまず確実に捨てるほかない監獄――といった状況になりかねなかった命ゴイは、セルF群の一見さんたちから非難囂々を浴びて、それに万命の令嬢たちが愉快で過激な反応を示す地獄が広がっていたことだろう。


 幸い、命ゴイはコネクト機能が未実装で終わり、同作からの移動も、他作からの送客も行われぬまま、従来型の閉じたサービスで終わった。

 その原因の多くは、コネック提供ゲームの原則である「コネックエンジン採用によるタイトル制作」から逸脱し、ナビをはじめとする独自仕様を盛り込み、それでいて万命の令嬢たちが強すぎるなどの問題が山積みであったからだ。


 なお、コネクト時は移住元のA世界でのキャラクターステータスを保存しつつ、移住先のB世界の仕様に合わせて、一部要素のコンバートやパラメータリセットが適用され、そのゲームにおける正しいプレイヤーアバターに変換される。

 そのあたりで、万命の令嬢たちのスペックはあまりに高すぎるとされた。


 別タイトルへの移動は問題ないものの、コネックの母体コミュニティスペース「コアホーム」におけるコンテンツでは"出自の魅力を発揮できる"よう、プレイヤーアバターの要素コンバートなどを介さず、タイトルごとのキャラクター特徴やシステム特性をそのまま持ち込める遊びがあった。

 そして、これらにおいて令嬢たちの存在が支障しかないと判断された。


 コネックの人気ゲームは、ALRらしさを生かした体感動作を楽しめるタイトルである。肉弾戦でも魔法戦でも銃撃戦でも、アクションの中心は人の動きと判断にあるものだ。そんななか、範囲も距離も関係なしの必中攻撃である万命術は、共闘だろうが対戦だろうが、キャラクターもシステムも単純なまでに有利がすぎる。


 なにより、アクションをするたびに遊び場を汚す暴言が吐かれるのだから、楽しいエンタメ空間の風紀を鑑みると、令嬢はいてはいけない存在だった。


「どうする。碧い波はまだきちゃいねえだろうが、春の地主を探しにいくか?」

 現状、二人が取れる選択は二つ。


 一つは、ギリギリまで桜野サワカを探すか。

 一つは、すぐに金色の渦に身を投げるか。


「……正直、もう別の世界に行くべきかもと思っています」

「へえ、俺はてっきり地主を探すもんかと思ってたがよ。どういう心境だ」

 これまでのナビを踏まえると、レッドには意外な返答だったが。

 ヘルプヤクの魔女はこれでもリアリストだ。


「私も、ついさっきまではサワカさまを探しにいこうと考えていました。もしサワカさまが存命でどこかにいるのであれば心苦しくもありますが、ハナリナさまが消えてしまいましたので……外に出ようにも、またアニマラーたちと遭遇してしまっては危険です。ほら、その、レッド一人では…………ねぇ?」


 それは心配しているようで、とても感じの悪いニュアンスだった。

 身命を賭して自分を守ると誓ってくれた皇騎士に対して、戦力不足という、どこか憐憫が混じっているような、最高に感じの悪い視線が向けられた。


「テ、テんメェッ!! ナメやがってよぉ……!!」

 これにはレッドもお冠だが、反論はしづらい。

 事実、ミニハナがいなければ、自身もナビも危険に違いないのだ。


「それに凰華やナッツ、外騎士二皇はすでに旅立っているかもしれませんし」

「あとを追うべきってか」

「合流を目指すのであれば。ただ、行く先が同じかどうかは分かっていませんし」

「結局、スプリング・ネストに来たのは骨折り損かよ」

 目的の桜野サワカがいなかったのだから。けれど。


「でも、手がかりは見つけられました。サワカさまは万命の令嬢たちと同じ世界からやってきたのかもしれないと。つまり、令嬢たちの手がかりは違う世界でも見つかるかもしれないのです。それにサワカさまだって、すでに渦の先に逃げている可能性がありますし、万命の令嬢たちの足跡はまだまだ探れるはずです」


 そう言って、ナビがレッドの手のひら……は恥ずかしいので避けて。

 左手首あたりをギュッと握り、先へと引っぱる。


「ったく、どんだけ遠くまで行かなきゃなんねえ旅なんだかよ」

「ふふっ。私の歩幅、ナメないでください」

 両腕に力を入れた銀髪の魔女が、鼻息交じりに渦の前で意気込む。

「それに、骨折り損じゃなかったです」

「ぁん?」

「だって、チョコレイトがあんなにもおいしかったのですからっ」


 ナビが突き出した手を、金色の渦巻きはすぐに巻き込みはじめ、力強い吸引力で二人の体をまたたく間に吸い込んだ。

 そうして「とんでけ、イエローマーチ ~春夏秋冬のんびりライフ~」のゴールドスカイナーからは、最後のNPCがいなくなった。


 それから誰もいなくなった世界を、四季が移ろうように、碧い波がゆるやかに塗り替えていく。その光景はもう、誰にも預かり知れぬものだ。


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