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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■イエマチ編
68/81

絶寒(5)

 イエマチはスローライフをうたう生活シミュレータであるが、求めるものは人それぞれ。海を眺めてゆっくりしたいだけの人もいれば、行楽地に出かけてALR体験ならではのリアリティを感じたい人もいるし、自らの手で家や畑を作り上げ、自分だけの生活空間をコーディネートしたい人もいた。


 反対に、手ずからコツコツとモノ作りをしたくない人だっていた。リアリティがあるゆえに、リアルに相当する家づくりや畑作り、料理のための買い出しなどしたくない人もいたのだ。手間をかけずにササッと手軽に快感を得る、おいしいとこ取りがしたい人は多かった。だってイエマチはゲームなのだから。


 そのため、本作には解決策として「パートナー生成機能」が存在する。


 パートナーは学習指導型AIを有するNPCとは違い、自律型でより限定的なルーチンだけで行動する、アニマルポンのキャラクター版のようなものだった。

 これによりプレイヤーは家や畑の構築どころか、設計段階からAIに提案と作業を委ねて、頼んだあとは完成を待つだけという遊び方ができた。


 構造的には「テンプレートアイテムを買って置くだけ」を多少複雑にした程度のものだが、そのささやかな手間に自分なりのオリジナリティを感じられることで、手間を省きたい人たちの欲求を絶妙なバランスで解消していた。


 当のパートナーは、プレイヤーアバターとは違ってキャラクターカスタマイズに対応していなかった。事前に選べるのは性別・年齢層・性格くらいのもので、見た目的な容姿、ゲーム的な得手不得手などはすべてランダム生成だった。


 パートナー生成時も通貨などのリソースは必要なく、古代のレガシー施策である「ガチャ」と呼ばれるコンテンツに近似した仕組みで、ワンボタンでポチッ。

 それだけで自分だけのオリジナルなパートナーが生み出された。


 そこで見た目が気に入った子が生成されたらヨシ。容姿や得意特性が気に入らなかったらポイッ。一人あたりのプレイヤーが何十人、何百人とパートナーをアトランダムで追求し、気軽に生成しては消去し、理想を追い求めた。


 理想のパートナーが生成できれば、もうOK。

 あとはお気楽なプレイのために面倒なことを押しつけよう。

 だってパートナーはNPCでもAIでもない、ただの機能なのだから。


「ヤツらは、私たち住人を生んでは消し去った。生まれたばかりの子たちを、気に入らない……たったそれだけの理由で殺し続けた。彼らがどこに消えてしまったのかは私も知らない。けれど分かってしまうのよ。毎分毎秒、私たちの仲間が気楽に生まれ、手軽に殺され、欲望のままに奴隷として扱われていたことが」


 イエマチにおけるアイテム売買などは、システム画面による簡素なウインドウ処理だけの演出にならないよう、一手間として「自分で買いにいく」「パートナーに買いにいかせる」といったアクションが求められた。

 そのための操作・時間は簡略化されており、不便さはなかったものの、あらゆる利便性を追求しすぎて味気ない暮らし方にならないよう、ゴールドスカイナーはちょっとした手間に生活感を付与していたわけだ。


 これにより多くの移住者たちは、パートナーに家や畑を作らせ、衣服を買いにいかせ、野菜を収穫させ、料理を作らせ、アニマラーを捕まえさせにいき、やることがないときはゲーム内の放置コンテンツを利用してペットと出稼ぎに向かわせて、日々のプレイにおける細かな労働再現を低負担で済ませていた。

 もしログインできない日があっても、ALRを介さず仲介端末だけでパートナーに仕事を任せることができたため、人によってはリゾートの別荘地に遊びに行く頻度で、使用人だけをずっと働かせていたような者もいた。


「それでも、飽きたら捨てられて、また生み出されて、何度も何度も捨てられて。一握りの者だけがこの世界での生存を許された。最悪だったのはあの日よ。ヤツらが私たちと、吐き気のする契りを結べるようになってしまった日。あの日からゴールドスカイナーの住民は、ヤツらにとって本物の人形に成り下がった」


 イエマチのサービスが長期化していくにつれ、とある要望が増えていった。

 それは「パートナーに愛着を持ったので結婚したい」というもの。


 VRが一般化してからさらに先の時代、仮想人格相手の恋愛要望はゲームジャンル以外でも倍増していった。とくにALR時代に入ると、それまで以上に擬似的なリアル空間が構築されたことで、人種・性別・年齢を問わないオンライン上での仮初めの姿だけで一生を約束する婚姻関係すらも登場し、さらには自我搭載型AIとの結婚問題なども浮上。世間では当初、大きく騒がれた。

 だが昨今ではそれらの次世代思考も、諦観に似た認知が進んできている。


 これに乗じたイエマチの運営は「パートナー結婚機能」を取り入れた。

 移住者同士の結婚機能に関しては、黎明期のMMORPG時代と様変わりした現代ではゲーム従事者側がサポートしきれない、それどころか不利益を被る可能性もあると考慮されて搭載されなかったが、この代替機能で溜飲は下がった。


 これにより、男女問わずの移住者たちによるパートナー生成機能の利用数はさらに増加し、それまで以上にパートナー探しが過熱していった。

 データ容量との兼ね合いで、パートナーは一人一体しか持てないのだが。

 愛着があったはずの相方すら捨て、さらなる理想を追い求める人も続出した。


 ただし、パートナーの理想型を膨大な乱数の海からすくい上げた人であっても、そこから結婚関係が長続きする人は過半数を割った。

 自分のパートナーよりもさらに眉目秀麗で、ゲーム的にも高価値な他人のランダムの結晶体を目撃して、誓約を破棄したのち、再生成の道を繰り返した。


 なかには「昔のパートナーを返してくれ!」という問い合わせもあったが、こういった使われ方を想定していなかった当初のシステムでは、生成値のバックアップをサーバーに残しておらず、コミュニティ間での「パートナー捨てたおまえが悪いんだろ」事件を引き起こし、サービスに陰りを残した時期もある。


 結論として、パートナー結婚機能は施策としては成功したが、中長期的に見ると失敗とも言えた。本機能自体、サービス三周年を越えて人気も下火になっていたころのテコ入れとあり話題作りは達成できたが、ゲーム内では以降パートナーに愛着を注ぐがゆえにプレイヤー間でのコミュニケーション率が低下。

 出会い系目的の層と、パートナー目的の層との人格的な相性も悪く、コミュニティは分断され、細分化され、当初の「見知らぬ人といきなりバーベキュー」といった温度感も消失。牧歌的な世界にあって、ゴールドスカイナーには都会の冷たいマンションの住人たちのような距離感が生まれていった。


「私は、住人たちが何百万、何千万、何億と殺害されている横で、オータム・ネストの豊かさのためにヤツらに媚びて生きてきたのよ。それまでは、そういうものだと思ってすごしていた。でもあの日、プレイヤーの存在を感知できてしまった日、死にたくなったわ。これほど醜悪だった自分を許せなくて」


 とはいえ、凰華の見方は露悪的がすぎる。彼女の考え方はシステムや設定を誇大に見た解釈でしかない。事実、イエマチの運営チームは善良ではあった。

 命ゴイの運営も、まあ、意気込みとしては善良であったが。


 けれども、凰華が間違っているとは断言できない。彼女にはプレイヤー側の事情や視点をくみ取れないように、ここがゲームの世界で、仮想世界だと理解しているリアルな関係者たちやプレイヤーもまた、イエマチのゴールドスカイナーという、この世界をリアルとして生きる人間の心情など理解できない。

 所詮はゲームキャラクター。同じ土俵で語り合える人間などいるわけがない。


「……移住者たちの行いはよく分かりました。ゴールドスカイナーでの虐殺ほどではありませんが、万命の令嬢たちもまた、サッドライク大陸で少しばかりの過ちを犯した人が、決して多くはない数ですが、いるにはいるはずですので」


 黄色空の晴天下、爽やかな雪山でいきなりはじまった話の重みゆえに無粋な横やりは入れないが。ナビの発言に、レッドとフィカの顔が大層険しくなる。


「でも凰華。あなたも、ハナリナさまを犠牲にしようとしました」

 真っすぐな言葉に。

「なんですって?」

 凰華も、強い目線で返す。


「子鬼リスから逃げるとき、凰華はハナリナさまを生け贄にしようとしました」

「それがなに。アニマラーは人じゃないわ。ただの動物よ」

「そうかもしれません。最終的にそれを選んだのも私ですし」

「いいわよべつに。決めさせた私のせいにすれば」

「ハナリナさまは私にとってかけがえのない存在ですが、凰華にとっては違う」

「ねえ、命の重さでも説いているつもり? 冗談じゃない。ヤツらは私たちを」

「いいえ、逆です」

「……逆?」

「プレイヤーたちにとっては私たちも、その程度の軽い命なのかもしれない」


 凰華にとってミニハナリナは動物でも、ナビにとっては大事な存在。

 そんなナビも凰華も、プレイヤーにとっては人ではない、ただの動物。

 自分たちはただ、そういう見られ方をしているのかもしれない。


「だから、軽い命の私たちはそれを受け入れて、弄ばれて踏み潰されて死ねっていうわけ? クスッ、ヘルプヤクの魔女って大した信奉者なのね」


「私は、万命の令嬢たちのことを多くは知りません。ハナリナさまにも、カリカリうめえさまにも、セプティナ@煌めきSPさまにも、もしかしたら人ではない、ただの動物だと思われていたのかもしれない。でも、そうじゃないって思える私もいます。令嬢たちはみな、優しかったのです。それが人形の錯覚だと笑われるならそれでもいいです。だから知りたい。私は、私が大好きなあの人たちのことが知りたい。私たちはもっとわかり合って、知って、互いを尊重できるはずだから」


 ヘルプヤクの魔女も、秋の地主を改心させたいとまでは思っていない。

 凰華が抱えている痛みは、自分や皇騎士たちのそれとはまた違う。

 安易に否定することも、受け入れることもできない、強い外傷だから。


 それでも、もし。ヘルプヤクの魔女の言葉がひとかけらでも届くのなら。


「手始めに……萌ゆる落ち葉よ――招き招け」

 ポンッ。緑、青、紫の三色髪。水色のワンピース。

 呼び出したミニリナを両手で抱きかかえ、目の前に差し出し。

「手始めに、ハナリナさまを愛してあげてみてください」

「クスクス」

 静かに笑うミニリナを、凰華が無言で見つめる。


「ハナリナさまを愛してあげても、プレイヤーが変わることはないでしょう。あなたの心の傷が癒えるとも思いませんし、その痛みを忘れろとも私は言いません。ただ、凰華が少しでも優しく安らげるようになるなら、私はうれしいです」


 今は分からない。万命の令嬢にも、移住者にも、それらプレイヤーにも会えず、話すこともできないから。ただ、彼らの見方、考え方に、凰華が思っているような劣悪さがなく、もっと違う意味があったのなら。

 いつかそれを知って、教えてあげたい。彼女は教え導く者だ。


 表情を消した凰華はしばらく、ナビに抱きかかえられたミニリナを見つめた。

 ナッツなどは重たい空気に耐えかねて、雪の上で自ら縮こまっている。


 そのうち「フンッ」鼻息を鳴らし、凰華が一人で明後日の方向に歩きはじめた。舌戦は引き分け……などと白黒がつくものでもないが、ナビも焦ることなく、これからゆっくりと凰華と話していこう。そう思って、気持ちを和らげた。

 ヘルプヤクの魔女は、秋の地主とは容姿も見方も思考もまるで違うのに、似たような目線で語り合える彼女のことがけっこう好きになっている。


「ハナリナさま」

 通じ合えるかは分からないが、いつだって一歩は踏み出す。

「ハナリナさま、ぜひ凰華のもとに」

 両手でギュッとして、自分のペットに訴えかけ、地面に下ろす。

 すると、願いが通じたか。

「クスクス」

 三色髪を揺らす水色の小人が、トテトテトテと。

 前を歩く凰華の足元にピタッとくっついた。


「…………」

 凰華は返事することなく、足元でトテトテと並走してくる小人に若干のそぶりでわずらわしさを表明するが、むげに蹴り上げることもなく歩いていく。

 それでなにが変わったわけでもないが。色とは、少しずつ混ざり合うものだ。


(あれ? でもなんで今日はこっちのハナリナさまが?)

 その間、ナビは脳内で自問自答する。


 昨日、子鬼リスや八乙女狐と戦っていたときは汚いほうのミニハナであったが、今現れたのは爽やかなほうのミニリナだった。

 話の流れでキメにいったものの、そもそも昨日アニマラーにやられてしまって姿を消したミニハナリナが、またアニマルポンで再出現してくれた喜びに隠れて、姿が違っていることに気付くのが遅れた。


「メチャデカッ!」

「きゃっ、なによこの子、急に」

 ビクン。足元での変化に、秋の地主が飛び跳ねて。

「むっ?」

 魔女はさらにいぶかしんだ。


 ほんの数秒前まで水色ワンピで清楚だったミニリナが、急に変色。

 髪色を赤、桃、黄に変え、衣服も白色ワンピに。鳴き声も変化。

 気付けば、汚いほうのミニハナになっている。

「なぜ、こっちのハナリナさまに……?」

 彼女はシステムメッセージを見られない身分だが。

 幸か不幸か、誰かの説明がなくても理解が及ぶ。


「ナビッ! 凰華ッ! テメェら早く下がれッッ!!」

「――シィ、シィ」

 吹雪。ナビたちが立つ晴天下に対し、明瞭な気候変動の境界線を伴って。

 雪没夜叉が、凍てつく雪風ともに、すばやく駆けてきた。


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