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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■イエマチ編
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絶寒(3)

 恐怖の扉ドンという、開発者すらも想定していない暴漢じみた仕様外の演出による最後っ屁は、それぞれの学習指導型AIに雪山の恐怖のなんたるかを刻んだ。


「……く、くっだらねえことしやがって、クソ婆がッ……」

 それでもどうってことなく見せるのが、イケメンの使命だった。


 外に雪没夜叉の姿を視認できなかったレッドは、山小屋の入り口扉をイラつきから力いっぱいに閉めると、その衝撃で、精悍な顔をしかめた。


「グッ……相変わらず体の痛みが引かねえ」

「大丈夫ですかレッド……?」

「じゃねぇって言ってるが……ケッ。こんなん大したことねえ」

 強がりは男の子の武器である。


 彼らのスタミナは時間経過で回復するため、息切れしていたナビもまもなく平常時に戻った。だがHPが減少し、回復もしていないレッドとフィカはずっと、ケガを抱えて動いているようなものだった。恒常的な痛みも引かない。

 リアルの人体なら当然だが、そんな体で生きてきた経験がない彼らには、その苦しみがとてつもなく大きい。でも、わめかないのが意地の見せどころ。


 小屋のなかには、囲炉裏鍋をぶら下げた、チリチリと炭焼きの音が聞こえる灰を敷き詰めた四角いスペースがあるが、家具の類はいっさいなかった。

 それ以外にある物といえば、部屋の片隅に置かれた木箱くらいのもの。


 そこでさらに……グゥ~~~~~~。


 環境音としては吹雪と炭焼きの音が聞こえているが、どちらかと言えば穏やかな小屋でひときわ大きく鳴いた音。空腹を告げる、腹の虫の長ったらしい悲鳴。

 その飼い主はもちろんと言うか。


「お、おなか減りました……」

 地べたに両足を伸ばし、両手でお腹を抱える、最近イイところのない魔女だ。

「つっても……おいナッツ、なんか持ってるか」

「ちょっとー? 水着姿の女の子にそれ聞くぅ? あるわけないじゃ~ん」

 ほかの四人も多少の耐性があるとはいえ、空腹を感じはじめている。

「私たちの食料はすべて、皇騎士十三皇の背負い袋に詰めていたの」

「ハ? なんでそれを先に言わねえ!」

「なら、なんでそれを先に聞かなかったの? 命令は聞くくせにね。クスッ」

「……クソ女が」


 凰華の準備は完璧だった。彼女は屋敷を出立する前、防寒具三着の背負い袋と、防寒具二着+食料の背負い袋を、召使いと化したナッツに用意させた。

 しかし、先の八乙女狐との戦闘時、レッドの背負い袋が焼失してしまったことで男性用の防寒具と食料を失った。命を失うよりはマシだったにせよ。


「ぅぅぅ……苦しぃ……おなかがぁ……わたしのおなかぁ……」

「んぅ、なんかないかなぁ……って、あんじゃん! お芋さんがっ!」

 フラッと屋内を調べていたナッツが、部屋の片隅で食べ物を発見した。


 部屋隅に置かれていた木箱のなかには、それなりの量のジャガイモと、知識がなければ草にしか見えない高山植物が詰められていた。

 ここは本来、ホラーな雪山の中継スポットとして移住者がひとときの時間をすごす場で、隅の木箱には一定周期で野菜類がランダム補充されていた。


 今回のケースであれば、怖い状況を「じゃがバター」でホッと安らぐなどして、ささやかな味覚処理をとおしてグループ内のコミュニケーションを高める、といった使い方だ。イエマチでは衣食住がそのままエンタメ体験になるゆえに。


「お芋さんがあって、鍋もあって、火もついてるし……よーっし!」


 気分をアゲたナッツが人数分のジャガイモを抱え、中央の囲炉裏に持ってくる。ナビが死体のような格好で這いつくばって目を輝かせているなか、海ガールあらためウサ耳ファーガールは、火付けせずとも燃焼中の便利な炭の上に囲炉裏鍋を直置きし、外から両手でひとつかみしてきた雪とジャガイモを豪快に放り込む。

 ついでに名も知らぬ高山植物もひとつかみ加えて、木蓋で閉じた。


 通気口がまるでない丸太小屋だが、ゲームの世界では問題にならない。


「んー、塩気ないから味しないかもだけど。凰華さまはだいじょーぶ?」

「十分よ。口にさえできれば、なんでも構わないわ」

 秋の地主は外見に反し、内面はワイルドだ。


 しばらくして、グツグツと鍋が煮える音がしてくると、ナビが「もう食べれる? もう食べれる?」と知性の低い眼差しでナッツを見つめはじめたが、彼女はそれを厳格な姉のように無視して、年上の魔女に待ったを言い渡す。


 それから待つこと十分弱。屋内に温かなふかし芋の素朴な匂いが立ちこめはじめ、「アチチ!」ナッツがファーコートの袖を使い、器用に木蓋を開ける。


「も、もう食べてもぉ?」

「待ちなさーい。食器がないんだって。熱いからまだ触っちゃダメだよ、ナビ」

「で、でも、もう食べれるならぁ」

「だ~から! 熱いから触っちゃダメ! メっだよ!!」

「ひっ……ぅぅ、はい……」


 囲炉裏鍋を炭から外し、灰のうえへと移動させる。涙目になったナビを待たせること、約三分。あまり衛生観念のない、というより必要がない潔癖な作りのゲーム住人であるナッツが、ファーコートの袖のうえで「アチッ、まだアッチ!」と慌てつつも、素手でほかの四人に蒸かしたジャガイモを配っていく。


「ほら、あっついから気をつけるんだよ」

「はい、あっ、あっつ! あっつつ!」

 身をもって知る熱さ。ナビの小さな手から、ジャガイモがコロリ。

「もー、だから言ったのにー。ほらほらほら、しばらくコートの袖で持ってて」

 ほかの面子は手の皮が厚いのか、落とすことなく握っている。

「あつっ、フー! フー! フーーー! よ、ようやく食事が」

「ナビ、いただきますよ」

「あっ、はい。そうでした……いただきます」


 銀色の一本髪を背中側に放り、しつけに厳しいお母さんらに囲まれながら、蒸かしたジャガイモをパクリと一口。ハフハフしながら咀嚼する。

 塩気がいっさいないため味気なく、味覚への刺激も薄いものの、雪どけ水に溶けた高山植物のほのかな滋味が芋の味わいに一役買っている。


 現代人からすれば草の匂いつきジャガイモという、なんとも言えない夕食であるため、凰華とナッツは顔にシワを作りながら口を動かす。

 けれど、四季の味覚や塩分過多なジャンクフードなどで舌を鍛えていない命ゴイ出身の三人は、まるで肉団子を頬張るようにガツガツと口に入れていく。

 レッドとフィカの表情にも、若干の幸せが張りついている。


「くっふ~~~……ごちそうさまでした」

「言えるじゃない」

「おかげさまで」

 満面の笑みで食事を終えたナビは、じゃがいも一個でお腹いっぱいに。

 空腹はあくまでONかOFFか。厳密なカロリー計算などもなされない。


「それで、おまえはなんでこんな雪山にきやがったんだ」

 食事後、レッドが凰華に突っかかった。

「言う必要はないわ。イヤならここで別れて」

「今さらほざくな、言え。ここにいる全員の命がかかってる」

「…………」

「言え。全員で生きるためだ」

 付け加えた一言が響いたか、凰華は渋々と口を開く。


「私がウィンター・ネストに来たのは冬ヌシ……霜割りの君の安否を確かめるためよ。オータム・ネストの住民はもうアニマラーに食べつくされてしまった。だから鹿ノ江たちと一緒に、厳冬を生き抜く彼のもとに逃げ込もうとしていた」


 その最中、紅葉林でさまよっていたフィカと出会った。

 けれど三人の官女は、八乙女狐に捕食された。


「凰華さまぁ、サマー・ネストじゃダメだったのー?」

「夏は嫌いよ。バルールカンに頼るのも嫌。暑苦しくて隣にいるだけで死ねるわ」

「あはは、私は好きだったけど。まあ、凰華さまの性格なら分からなくもない」

 夏の地主は、社交性の高い人にほど好かれていたものだ。


「霜割りの君はゴールドスカイナーで唯一、アニマラーとの生存競争に勝ち抜いてきた男よ。すでに理の崩れたこの世界で生き抜くには、彼が必要だった」

「霜割りの君はお強いのですか」

「そうね。飢に餓える者と対峙して生き残ってきたのは、彼だけだもの」


 そんな冬の地主だが、やはり戦闘システムの存在しないイエマチにおいて戦う力を有していたわけではない。これもあくまで、過酷な雪山でのシリアスな生存競争という背景をアニマラーともども抱えていただけのこと。


 それだけに、事情が好転している可能性はある。変化した現状における物理法則でなら、住人が戦うための力を覚醒させている可能性も大いにある。


「それで冬の地主と協力して、官女たちとどうにか生き抜こうとしていたと」

「ええ。そのために私は冬の地主の屋敷を目指している。だからナビ、あなたは」

「ふふっ、さっきレッドも言いました。今さらです。一緒に行きましょう」

 右手を差し出し、握手を求める。

「面倒な子ね、ほんと」

「お互いさまです」

 差し出した手は無視され、顔もそっけなく背けられた。

 でも今はその横顔に、少しだけ愛らしさを感じる。


「ってことは、凰華は霜割りの君とお知り合いなのですね」

「地主同士ってだけ。ただの顔見知りよ………………ずっと、昔からだけど」

 ボソッとつぶやかれた一言は炭焼きの音にかき消され、誰の耳にも届かない。


「もう気が済んだでしょ。今日は早く寝ましょう」

 自身の余裕さが欠けたのを嫌ってか、凰華がまた場を主導しはじめる。

「えー、でもここベッドないですよー? すっごい寒いですしー」

 不満を述べたナッツへの対応は、実に鮮やかだ。

「なら寄りなさい」「わっ」


 凰華が片腕でグイッと、ナッツのファーコートの袖を引っぱり体を寄せた。

 最初は驚いたナッツだが、ことのほか心地よさを感じたのか、すぐにナビのほうを見て「ナビナビぃ、ナビもこっちきな~」と呼び込む。


 つまり、女三人で体を寄せて寝ようということだ。

 それに対する、ヘルプヤクの魔女の返答は。


「い、いやですっ! そんな破廉恥なこと、私はしませんっ!!」

 誰が見ても顔真っ赤。久々に恥ずかし魔女の汚名挽回だ。


 もっとも、ナビの抵抗は物理的にも精神的にもむなしく、ナッツが強引に腕をグイーッと引っぱると、彼女はいともたやすく寄せられてしまう。ついでに。


「ナビちっちゃいから真ん中ね~」

 ナッツと凰華の間に、人間抱き枕のようにして押し込まれる。

「や、やややっ、やめなさいナッツっ! この淫乱売女っ!!!」

 万命の令嬢たちの英才教育で詰め込まれたワードが冴えわたる。

「うるさいわよ。寒いのはあなただけじゃないの、役目を果たしなさい」

 相互的な温め合いに反して、言い分は一方通行。

「だ、抱きつかないでください凰華っ! この尻軽メス豚っ!!!」」

 蛮女同士の爽やかトークで炸裂していた語録を必死にばらまき抵抗する。


 ナビは真っ赤な顔と涙目で抵抗したが、貧弱な魔女は簡単に押し込められ、布団代わりにと手足を絡められる。人気の素肌スポットは露出している膝下。

 三人ともコートを着込んでいるので人肌には遠いが、ほどよい湯たんぽを見つけたとばかりに、川の字ではさまれたナビはいいように使われる。


 そうして恥ずかし魔女が絶叫するなかで、残された者たちは。


「…………こっち見んな」

「…………僕のセリフだ」


 レッドとフィカは、プイッと顔と体を背け、距離を取って寝転んだ。


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