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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■イエマチ編
63/81

マヌケな珍客、賢しい主人(13)

「クォーン」「クォーン」

 狐のコミュニケーションは、主に鳴き声と言われている。

 遠くの仲間と鳴き合ってコンタクトし、危険などを伝達するというのだ。

 ただしこの場合は、食べきれない量の餌を共有する意図だったのかもしれない。


「どうするレッド。さすがに、二体を前に体をさらして引きつけるのは危険だ」

 ミニハナもノックダウンされてしまい、今や敵の動きも制限できない。

「仮に一体を引きつけたところで、もう一匹が魔女たちに襲いかかるぞ」

「……ケッ、分かってるっての」

 赤髪をガシガシとかき、レッドが思考をめぐらせる。


 一匹でも手をあぐねていた八乙女狐が、ここに来てもう一匹増えた。

 落ち葉の乱射は基本、狐の視界から直線で飛んできていたが、二体同時であれば投射角度も増して死角を潰されてしまい、被弾する可能性が増大する。


 たとえ持久戦を仕掛けたところで、もしまた増援を呼ばれたら。

 三匹目が呼び込まれようものなら、もはや抑えようもない。


「フィカ」

「なんだ」

「一つだけ思いついた。問題はあるが、聞くか」

「言え」

「もしかしたら、俺たちのどっちかは死ぬ。最悪両方だな」

「勝算は」

「気合が足りりゃ、死なねぇってくらいはある」

「上等だ。教えろレッド」

「策なんてもんじゃねえぞ。とにかくよ――」


 クールタイムでもあるのか、追撃の落ち葉の乱射こそないが、二体の八乙女狐が八本の尻尾を扇のように広げて紫色の鬼火を生み出し、射出する。


 落ち葉と同様、木の裏に隠れているレッドとフィカが被撃することはなかったものの、ゆらゆらと飛んでくる鬼火を受けた木がミシミシと音を鳴らす。

 落ち葉の乱射で削れてしまった木は、そろそろ限界が近い。


「……とんでもない力技だ。よく考えついたな」

「……んなら、ほかに代替案はあんのかよ」

「ない。それでいく」

「クックク。いつの間にか、らしくねえこともやるようになったじゃねえか」

「仇敵の魔女をお守りする皇騎士ほどじゃないさ」

 打ち合わせを終えた二人が、一斉に木々の裏から飛び出した。


「クォーン!」「クォーン!」

 姿をさらした敵に、二体の八乙女狐が威嚇するように尻尾を広げた。

 そしてまた鬼火が生成され、早くはないが的確に、二人のもとに投射される。


「わっ、レッドっ! 外騎士二皇っ! 隠れてないと危険ですっ!」

 状況を眺めていたナビが、木の裏から顔を出して叫ぶ。

「グッ!? あの火は予定外だ、ヤベえぞッ」

「どうするッ、また隠れるかッ!?」

「んな余裕は――へっ、ちょうどいいのがありやがった!」


 並走して八乙女狐に接近していた二人が、急角度で進路を変更する。

 鬼火は着々と迫っており、身体にたどり着くまであと数歩のところで。


「どッ、りゃあぁぁぁッッ!」

 レッドが地面から、なにかを持ち上げた。それは大きい袋。

 ここまで彼が背負ってきた、荷物満載の背負い袋。

 それを体の前に持ち上げて、鬼火を受ける盾にした。


 ボッ。大木に着火するほどの火力はなかった鬼火だが、質感からして可燃性な生地で作られていた背負い袋は簡単に燃え上がった。


 だが、大きな物体の裏に身を隠していたレッドとフィカは鬼火をやりすごして、燃えはじめた背負い袋をそのまま盾とし、接敵しようと走る。


「クォーーーン!!」「クォーーーン!!!」

 八乙女狐はさらに鬼火を飛ばし、近づいてくる背負い袋人間に直撃させた。

 すると袋は一気に炎上し、跡形もなく焼き尽くされた。

「ッツ、グゥゥッ!」

 前面で背負い袋を持っていたレッドが、炎上の余波でわずかに焼かれる。

 けれども二人は、一つの背負い袋を代償に、八乙女狐へと肉迫し。


「オゥラァァァーーー!!!」一匹と。

「トリャァァァーーー!!!」二匹を。

「クォン!?」「クォン!?」――持った。


 皇騎士と外騎士がそれぞれ一匹ずつ。

 八乙女狐を、ガシッと、両手でつかんで抱え上げた。


「なっ、なにしてるんですか二人ともぉ!?」

「うわうわうわヤバヤバヤバあれ死んだよ死んだーーー!!!」

「やけになった? いえ、違うわね。そういうこと」

 後方で眺めている三つの知性も混乱するなか。


「さっさと走れッッ!! フィカァ!!」

「言われなくともッッ!! レッドォ!!」

「クォーン!?」「クォーン!?」

 とまどい暴れる八乙女狐を抱えたまま、二人が紅葉林の外に駆ける。

 後ろで見ていた三人も、その背中を思わず追いかける。

 木の出っ張りで転びそうになったナビは、ナッツがフォローした。


 見た目は人間の子供くらいの大きさだが、肉や毛が詰まっている八乙女狐の重量は大人相当。野生の力強い暴れ方も相まって、生身で抑えるにはこたえる。

 それでも二人は渡り橋のほうに全速力でダッシュし、まずはフィカが。


「これで、終わりだぁッッ!!!」

 両腕で抱えていた八乙女狐を、投げた。

 投げた方向は渡り橋……ではなく、その左側。

 おそらく垂直に切り立っているであろう、崖下に向かってぶん投げた。


 クォーーーンと。とてもせつない鳴き声が次第に遠くなっていく。

 しばらくすると、ボシャン! と液体に落ちた落下音がした。


「クォーン!!!」

「グワッ……クソ、狐がッ……!」


 フィカに次いで、レッドも両腕でひっ捕まえた八乙女狐を投げようとしたが、彼はキャラクター的にフィカよりも筋力パラメータが低く設定されており、崖までの距離をもう少し詰めなければ届きそうになかった。


 その間、もがき暴れる八乙女狐が反撃。レッドは右側の首筋に噛みつかれてしまい、大きな傷を負ったか、膝がガクッと折れそうになる。

 フィカから安否の声が、林から出てきたナビからは悲鳴があげられるなか。


「…………皇束解除ォ……終式ッ! 嗤え、紅血吸ゥゥゥ!!!」

 背中から真っ赤な水蒸気が立ち上り、爆発と轟音。赤黒の粒子を舞わせると。

「こっちも、しまいだぁッ! 落ちろ狐風情ッッ!!!」

 皇束解除のステータス補正に身を任せ、思いっきりぶん投げると。

「クォーン!?」

 もう一匹の八乙女狐もまた、崖下へと落下していき、間もなくボシャン!

 確認のため、フィカがいち早く崖際に近づき、下を眺めると。


「クォーーーン!」「クォーーーン!」

 大した生命力、あるいは本物の不死である証明だろうか。


 八乙女狐らは数十メートル下の海面に落ちてなお生存していた。そしてプカプカと水に浮かびながら、真っ赤な八尾を優雅に広げて動かし、海とは逆方向。

 潮の動きに力強く逆らって、大陸中央のほうへスイスイ泳いでいた。


 その光景は、動物の生態としてみればあまりにほほ笑ましく。

 とてもじゃないが、死ぬ気で勝ち取った勝利の光景には見えない。


「グッ、ゲハッッ!」大仕事を終えたレッドが、くずおれた。

「レッドっ!? 大丈夫ですか!?」ナビが焦って近づく。


 敵に接近するまでに鬼火の余波を受け、投てきの直前で首筋を噛まれてしまったことで、彼は皇束解除・終式を使わされた。つまり残りHPは20%以下。

 おかげで最後のふんばりが効いたのは幸いしたが、ことイエマチのシステムにおいて皇束解除・終式の発動は、HPの値以上の問題も発生する。


「チィッ、クソがよ……終式の反動が重てぇ」

 体に、重しがついたかのような重量感。

「でも、みんな助かりました。ありがとうレッド。さすが皇騎士です」

「……ケッ」


 皇束解除・終式は発動後、レッドの勝利で戦闘が終わると、万命の令嬢の再戦が楽になるようペナルティがかけられ、圧倒的な弱体化が適用される。

 命ゴイの永久鋼土では不規則処理が重なり、HPもミリ残しであったあのときと比べると身体制限は軽いが。今後、先ほどのように戦うのは難しい。


 皇束解除にせよ、この瞬間に効力が切れた。

 彼はここゴールドスカイナーにおいて、いち早く切り札を失ってしまった。


「終式まで使わされてしまったか……しかし最善ではあった。仕方ないだろう」

 フィカは素直に、勝利の立役者をねぎらうが。

「クスッ。皇騎士十三皇さまって、意外とブザマな姿が似合うのね」

「ん~、助かったけど、レッドくん最後ちょっとダサかったねー」

「グッ……クソ女どもがよッ」


 皇束解除・終式のことなど知らず、フィカと違って疲れきってるように見える彼に対し、いろんなことの事情を知らない凰華とナッツの判定は厳しい。


 先ほど荷物を焼いてしまったレッドをよそに、フィカが紅葉林に置いていった背負い袋を取ってくるまでの間、ナビは二匹の八乙女狐が崖下でスイスイと泳いでいる姿を眺めた。敵対さえしなければ、美しいアニマラーにしか見えない。


「待たせたな。行こうか」

 背中に山盛りの荷物を提げたフィカが合流し、歩みを再開する。


 季節の変わり目の表現だろうか。周囲一帯の地面をカサカサに枯れきった落ち葉が支配している、オータム・ネストの紅葉色の渡り橋に踏み入れていく。


「皇騎士十三皇の荷物がなくなったのは痛いわね。私はいいけれど」

 頬に手を当てる姿は可憐な憂いだが、意地悪さもこもっている。

「ぁん? そもそもおまえ、俺らになに担がせてたんだよ」

「そのうち分かるわ」

「もったいぶりやがって。胸くそわりぃ」


 構造・規模ともにサマー・ネストの端にあったものと限りなく同様の渡り橋は、幅広かつ頑丈な作りで、大陸プレート間を隔てる天空にかかっている。


 崖下の景観は、海側も大陸中央側も変わりない。ただ、大陸側に進むほど崖際が狭まっており、右側では真紅の紅葉が、左側では雪化粧された枯れ木群が広がり、秋と冬の二色を一緒くたに目にできる物珍しい対比となっていた。


「この先がウィンター・ネストかぁ……夏に秋に冬って、なんか感動かも~」

 サマー・ネストっ子のナッツには、ナビたちとは違う感慨がある。

「ちなみに、ウィンター・ネストとはどんなところなんでしょう」

「ん~、なんか寒いってゆーよー?」

 軽快なナッツの所感を聞いたあと、詳しそうな凰華に目を向ける。

「すぐに分かるわ」

「む」相変わらずそっけない。


 感傷的に橋を横断していると、中央部分で渡り橋の色が変化した。

 オータム・ネスト側は紅葉色であったが、ウィンター・ネスト側は白色。

 汚れ一つない、潔癖のホワイトカラーに染まっている。


 同時に、ここの渡り橋にも中央右手側にグレー色の分岐路があり、その先にはプレイヤー専用のシーズンズ・スクエアへの転送台が設置されていた。


「凰華は、あの謎の台を使ったことはあるのですか」

「ええ、ときどきね。移住者たちの催しに呼び出されていたわ」

「たとえば?」

「ネスト対抗野菜品評会、季節の彩りアイテムショー、イエローパーティとかよ」

「はぁ、つまり万令広場みたいなものでしょうか」

 同意を求めるため、青年二人に目を向けるも。

「あそこを思い出させるな。殺すぞ」

「あのおぞましさを知らない魔女め」

 敵意だけが返ってくる。これはナビが悪い。


 五人の雰囲気がイマイチなまま、白の渡り橋を歩く。レッドは皇束解除・終式のペナルティを抱えているが、一般的な身体動作は問題ないようで歩みも遅くない。あの背負い袋があったらなんでもなく歩けていたかは怪しいが。


 そうして歩んでいると、視界にずっと見えていた次の世界に近づく。

 橋の先に広がっているのは、渡り橋の色と同じ。白染めの世界。


 季節が存在しなかった命ゴイにも、クリスマスシーズンのサッドライク大陸に降っていたので、命ゴイの住人たちも"それ"がなんなのか知っている。

 ナビは当時、万命の令嬢たちに何着も無理やり着せられた赤白のフワフワな謎の衣装のことを思い出しつつ、目の前に広がる白い光景に降り立った。


「真っ白な雪……ここが、ウィンター・ネスト」

 冬の世界。ウィンター・ネスト。そこは率直に言って。

「さ……さささ、寒いっっ!!!」

 気温を感じるこの世界では、めっちゃ寒かった。


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