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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■イエマチ編
61/81

マヌケな珍客、賢しい主人(11)

「メチャデカッ!」鳴く。

「グッ……よりにもよって、最低最悪のクズ蛮女が出てきやがった……」

「やはり、表裏一体だったか蛮女の長め……水色服よりマシだが……」


「メチャデカッ!」すごく鳴く。

「予想外の展開だったけれど、ともかく助かったわ。うるさいけど」

「もーーー! ほんとに食べられちゃうかと思ったーーー!!!」


「メチャデカッ!」とにかく鳴く。

「ハナリナさまっ! かわいいっ! ちっちゃいっ! かわいいっ!」

「メチャデカッ!」ひたすら鳴く。

「……ほんとうるさいわね」

「うるさくありませんっ! 万命の令嬢に失礼ですっ! ステキなんですっ!」

 ヘルプヤクの魔女は、どこにいようが万命の令嬢の敬虔な信者だ。


 アニマルポンでやってきたアニマラーは、命ゴイでナビがとくにお世話になった万命の令嬢「ハナリナ」を模した、二頭身サイズの小人だった。


 ミニハナリナもとい、白ワンピースのミニハナは子鬼リスを追い払ったあとも、物に当たり散らす幼児のように、怒り顔でひたすらメチャデカメチャデカと鳴きわめき続けて、短い両腕をなにかに威嚇するようにあげている。

 そこに加虐の意図はないようで、ナビたちを攻撃しているわけではない。ただの習性らしい。まあ、個人的な心の深手で傷つく皇騎士と外騎士は除いてだが。


「メチャデカッ!」

「大したものね。この子、アニマラーを驚かせる音波でも放っているのかしら」

「いえ、今のはおそらく万命術です」

「万命術……ああ、フィカの言っていた。そう、これが万命の令嬢の声の力」

 凰華が地面にかがみ、小人の三色髪に優しくそっと触れる。

 ミニハナは撫でられた猫のように気持ちよさそうにするが、返事は変わらず。


「メチャデカッ!」

「あー! ずるいっ! 私もっ! あぁハナリナさま、なんてかわいらしい……」

「んぅ、昨日の子と違って、なんか元気な感じだね~」

 ナビとナッツも、猫をじゃらすようにミニハナをかわいがる。

「メチャデカッ!」

 怒り顔で両腕を天に上げるが「イヤッ!」のポーズではないらしい。


 ミニハナの声は子鬼リスを驚かせただけではなく、相手のメンタルに横暴な外傷を負わせる言葉の暴力「万命術」の力が宿っていた。


 イエマチでは当然、ゲームタイトルとして後発であり、コネクト機能自体が搭載されなかった命ゴイのプレイヤーアバター「万命の令嬢」の特殊なアクションなどシステム側でフォローしているわけがないのだが。

 イレギュラーな存在であるナビを経由して召喚されたペットアニマラーは、この世界に適合しないはずの不条理さえも押し通してきた。


 唯一の欠点は、そばにいる因縁深き青年二人がその体でよく知る万命術を発されたとき、敵対状態でないにも関わらず、勝手にわずかな自傷ダメージを受けていることだ。ミニハナはオリジナル同様、イエマチに現れた蛮族だった。


「メチャデカッ!」

「グゥッ……ナビ、こいつを早く消せ。腐った猛毒に蝕まれてるみてぇだ……!」

「やはり、蛮女は僕らを傷つけることに特化している……水色服よりマシだが」

「メチャデカッ!」

 本当にわずかだが、ひと鳴きごとに、二人のHPは反射的に減少している。


「ナビのアニマルポンはなかなか有用ね。この先の安全性が高まるわ」

「たしかにたしかにー。この子いれば、もうアニマラーも怖くないかもー」

「メチャデカッ!」


 精神的優位性は人間社会においてもあらゆる面で効果的だが、それは常に危険を避けて生き延びねばならない野生生物のほうが身に染みている。

 野生動物は一般的に、命のやり取り以前に、威嚇や自己顕示で精神的勝敗を分かつ。どんな状況であれ戦いによってケガを負ったものなら、彼らには治療の術がなく、その時点で狩りにも支障が出て、最悪自らが獲物に格落ちしかねない。ゆえにケガを負う可能性がある戦いそのものをできる限り避けなければならない。


 それだけに、メンタルをヘコませて威圧するミニハナの万命術は、野生に生きるアニマラー相手だからこそ、より効果的に機能するとすら言える。


「むしろ、レッドや外騎士二皇より、ハナリナさまのほうが強いのでは?」

 自分を守ってくれていると分かっている皇騎士への悪気はないが。

 ハナリナは信仰じみた敬愛の対象とあり、未熟者は軽はずみに口にする。

「テ、テんメェッ! ざけたこと抜かしてんじゃねえぞッ!」

 赤髪の侍騎士も怒ってみせる。だが、強めには出られない。


 その姿を見て、ヘルプヤクの魔女はニンマリほくそ笑んだ。

 ここまでの道中、無力であった自分とその扱いを思い返し、調子に乗る。


「ふふっ、これまでのお礼です。今度はハナリナさまで守ってあげます、レッド」

「グッ……テメェ、貧弱女のくせして図に乗りやがって……」

「ふっふーん!」これぞ蛮女スタイルだ。


 現実問題、レッドやフィカの物理攻撃ではアニマラーを退けるにも手を焼いた。たとえ子鬼リスだろうと、野生生物の優れたフィジカルやバイタリティは、極薄の皮膚下に致命的な弱点しか詰め込んでいない人間の比ではない。


 なにより、壊れたアニマラーたちがフィカの言うように実質不死じみた耐久性である以上、ミニハナの存在は今後の最大の打撃力となる。


「メチャデカッ!」

「穢らわしい蛮女め。蛮女はどこにいても蛮女なんだな……水色服よりマシだが」

 ペット相当の愛らしい小人を前にしても、男たちの態度は軟化しない。

 ナビはブーたれるが、仕方ないのだ。

 彼らはそれほどまでに、悲惨で凄惨な扱いをされてきたのだから。


「それにしても、なぜ昨日と今日とで雰囲気が変わったのかしら」

「ふむ、たしかに。なぜこちらのハナリナさまになったのでしょう」

「ナビが危なかったとか、敵がいたからとか――わっ!」

「メチャデカッ!!!」


 ナッツがうりうり撫でているとき、ミニハナがひときわ大きく鳴いた。

 もみくちゃにされたのがお気に召さなかった、という風ではない。

 なにも見えないが、ミニハナは明確に、紅葉林の一点を向いて鳴いていた。


「メチャデカッ!!!」

「……理解はしかねますが、凰華」

「……ええ。この子なりの虫の知らせと見るべきね。急ぐわよナビ」

 パーティの右脳と左脳の意見が合致する。


 ミニハナは落ち葉の絨毯のうえで、進行方向とは別の向き。紅葉がヒラヒラと舞い落ちるだけの林に威嚇し続ける。それは虫の知らせ、いや花の知らせか。

 そっちに、なにかがいる。それを察知している。ミニハナはレーダーのようなものだった。仮に違っていても、願掛けするに値する動きではある。


「レッド、ナッツ、外騎士二皇。先を急ぎましょう」

「おい、こいつの鳴いてる方角は無視すんのか」

「メチャデカッ!!!」

「ええ。もしなにかがいても、それは敵にほかなりません」

「つっても、こんだけ大声で鳴いてんだ。もう遅えだろうがな」

「メチャデカッ!!!」

「……つーかコイツ、早くかかってこいとでも鳴いてんじゃねえだろな?」

「……それはそれで、ハナリナさまらしいと言えますので……」

「メチャデカッ!!!」


 ミニハナが、ヘルプヤクの魔女たちに敵性生物の存在を知らせているのか、ただただ「おんどりゃかかってこいやデカケツがぁ!!!」とサッドライク大陸によく響いていたケンカ口上を誰彼構わず売っているだけなのかは現状不明だが。


 ナビたちは怒鳴りながらもポテポテと歩いて着いてきてくれる、やかましいメチャデカ警報器を足元に据えながら、すぐに紅葉林での移動を再開した。


 一行の足音も、先ほどまでの行楽気分とは違って少々力んでおり、落ち葉を踏みしめる音が明らかに強くなっている。とはいうものの戦力にして厄介な諸刃の剣、メチャデカ連呼のミニハナと比べればずいぶんささいな物音だ。

 ミニハナの大きな鳴き声は、静かな森林において絶対の存在感を主張しており、場合によってはよくないものを引きつけかねなかった。


「メチャデカッ!!!」


 ナビは一度、ミニハナのアニマルポン解除を提言したが、凰華がこれを却下。「ここで帰したのなら、またしばらく招けなくなるわよ」。極軽微だが実被害のダメージを受け続けているレッドやフィカにせよ、「もう遅い、このまま行くぞ」「今は戦力の維持のほうが大切だ」と自傷の痛みを受け入れる。


 そうして重装な背負い袋を両肩に提げたフィカを先頭に、ナッツ、ミニハナを足元に連れているナビ、凰華が続き、最後尾にまた重装なレッドがつく。

 前からでも後ろからでも即応するための並び。横合いの奇襲については、どこまで機敏かは把握できていないがミニハナの万命術に託す。


 すでに紅葉林の喧騒には、子鬼リスであろう甲高い鳴き声がどこからか混じっており、ときおり草場がガサガサと揺れる気配もある。

 現状はもう、どこでそれらと会敵するか。その段階と見ておくべきだった。


「フィカ、その先は右にそれず、真っすぐ進みなさい」

 先頭に向かって凰華の指示が飛ぶ。

「いいのか? 道外れはアニマラーに出会いやすいと言っていたはずだが」

「今さらよ。私たちはすでに手放せない誘蛾灯を手にしたの。最短で行くわ」

「メチャデカッ!」


 凰華が示したのは、これまで茶色い落ち葉の絨毯が道なりになっていたハイキング向けの主要ルートではなく、木々が雑然と乱立する林のなか。

 ウィンター・ネストへの渡り橋までの道のりは、行楽歩道が迂回するように曲がりくねっているらしく、そこを大胆にショートカットする作戦であった。


 紅葉に囲まれた道なき道を突き進む。移住者であればシステム補正とマッピング精度でそれほど気にならない足場も、NPCたちにはリアルな障害になる。


「あ、わ、わわっ」

 地を這う樹木の出っ張りに、どんくさ魔女が転びそうになる。

「ボケが。ちゃんと足元を見ろ」

 後ろから即座に近づいてきたレッドが、黒絹のローブの首根っこを引っぱる。

「す、すみません。ありがとうレッド」

 彼の最後尾位置は後方警戒と同じくらい、どんくさ補助が目的である。


 道なき道も紅葉風景は華やかなものの、焦燥に駆られている今は、見通しも足場も悪いロケーションと化している。身体能力の低いナビにはとくにだ。


 一方でレッド、フィカ、ナッツの身体能力はすでに知るところだったが、万命の令嬢たちよりも深窓のご令嬢然とした凰華も、意外と体の動きがいい。

 膝丈で揺れるレースが折り重なったドレス風の和服を器用に着こなし、戦闘こそこなせないようだが、軽やかな足取りで森林を早歩きしていく。


 その動きはナビには少々難しいことであったが、とやかく言う者はいない。

 どんくさい一面も仲間として受け入れているのはレッドとナッツだけだが、フィカと凰華も「ナビがいると、ミニハナが敵を呼び寄せるが、彼女がいないと抗戦しづらい」と、この場における魔女の重要性をちゃんと理解している。


 そうしてオータム・ネストのルート外での行軍は、意外なほど時間を縮めることができ、正規ルートよりも圧倒的に早く目的地にたどり着いた。


「見えた。着いたわよ。あれがウィンター・ネストへの渡り橋」

「ハァ、ハァ、ヒュー……ど、どれですか」

「見えてから聞きなさい」


 紅葉舞う林の隙間に、同色のため視認しづらいが、かすかに紅葉色に染まった構造体が見えた。それはサマー・ネストにかかっていた水色の渡り橋の後ろ半分と同じ色で、オータム・ネストの橋の色。ウィンター・ネストへの入口。

 橋の両脇にはなにもあらず、また崖になっているのだろうと推測できる。


「凰華、このまま突っ切るぞ」

 フィカも目標を見定めて、進路を修正。

 渡り橋に向かって直線で駆ける。その瞬間。

「メチャデカッ!!!」

 ナビの足元で、ミニハナが後方を振り向く。

「メチャデカッ!!!!!」

 徐々に体を右回りさせる。まるで、なにかを目で捉えているかのように。

「メチャデカッ!!!!!!!」

 ミニハナの視線に沿って、なにかが紅葉林を俊敏に駆ける足音もする。


 それは五人が身構える間もなく、フィカが進もうとしていた前方のスペースにすばやく回り込んできて、オータム・ネストによく似合う美麗な姿を現した。


「――クォーン」

 見た目は狐。四つ足の生物。

 大きさは子鬼リスと大差なく、中型動物の部類。

 細長い耳に、華麗なオモテ。純白のシルクのような体表。

 お尻からは真っ赤な衣のように、豊かな毛を蓄えた八本の尻尾が伸びている。


 野生には見えない、神々しさすら感じる造形。色合いともども繊細な美しさを備えたそれは……惜しむらくは、耳から目にかけた頭部右側や首元、胴体や尻尾の1/3がまだら模様の桃紫色に発光し、毒々しさを感じさせる。


「クッ、最後の最後でッ」

「きっと泳がされていただけね。最初から狙っていたのよ、昨日と同じで」

 ミニハナが不自然な方角に鳴いたときから、凰華は予想していた。

「……となると、あのアニマラーが例の」


 恐れよりも、怒りが上回るか。

 凰華が隠せない怒気を孕んだ声色で、その名を呼ぶ。


「あれが私の鹿ノ江、葉ノ江、小ノ江を食い殺した――八乙女狐よ」


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