マヌケな珍客、賢しい主人(2)
「なっ!? フィカァ! オマエここでなにしてやがるッ!」
「わめくなレッド。不浄な魔女をアニマラーと見間違えただけだ」
すぐさま感づいた元親友が、フィカに険悪な声を飛ばす。
見目麗しいツヤのある中髪の黒髪を、秋の風に柔らかになびかせ、レッドよりも大きく切れ長の紫色の両目で、うとましそうな目つきをぶつけてくる青年。
肩がけの白き外套、深青鉱石で装飾された純白のサーコート、銀色の手甲に足甲も、花々がギザギザに切り裂かれた装飾の愛剣ティア・フロトゥピスも、十字架蛮女を横目に、赤い空の追放棄路で別れたときのまま姿だ。
命ゴイの皇騎士&外騎士人気投票、堂々の第二位。
外騎士二皇「フィカ=フォン=アウトシュヴァリエ」が。
なぜかイエマチで、ヘルプヤクの魔女に剣を突きつけていた。
「オマエ、まさか生きてやがったのか」
「キミたちもな。あの永久鋼土を渡りきったか」
「ケッ、あの程度の場所を恐れるたぁ格が知れるぜ」
「フッ、おおかたヘルプヤクの魔女の呪文にでもすがりついたんだろうさ」
二人のイケメンが、険悪な言葉を交わすかたわらで。
「う、うわああぁぁぁああ新しいイケメンだ~~~!!!」
ミーハーな海ガールのテンションが爆上がりする。
「オマエがいるってことは、外騎士の崩れ拠点にも黒い渦巻きがあったのか」
「黒? いや白だ。天塔の色と同じで僕は白い渦巻きだった。キミたちは黒か」
「それで命惜しさに、無様に逃げ延びたってワケか。外騎士風情がよ」
「よく言う。ならキミはどうだ? 魔女のフンが知った風に語るな」
落ち葉がヒラヒラと舞うなか、男たちはヒートアップしていき。
「私のフンって……メチャデカすぎます。相変わらず失礼な人です」
「うわあぁぁあぁぁあぁ……レッドくんより好みかもぉぉ……!!!」
女性陣も別々の意味で熱くなる。
「外騎士二皇」
「フィカと呼べ。殺すぞ魔女」
「外騎士の崩れ拠点で、白い天塔にたどり着いたのですね」
「ああ」
「それで、外騎士一皇は」
「……ああ」
敵対する気はないのか、フィカはナビの首元に当てていたティア・フロトゥピスを静かに下ろし、腰の鞘のなかにスマートに収める。
そして無言。「ケッ」と鳴くレッドと、かなりの圧力でキラキラとなめ回すように見てくる、万命の令嬢たちのやり口を思い出させてくるナッツを視界に入れながらも、彼はここに至るまでの顛末を語りはじめた。
フィカは追放廃棄で二人と別れたあと、目的どおりサッドライク大陸の北東にある、外騎士の崩れ拠点へと向かったという。
道中は十字架蛮女こと、ナビによってT字姿でフリーズした壊れた令嬢たちに再度襲われることもなく、嫌に殺風景な道のりであったらしい。
崩れ拠点に到着後は、頑丈で無骨な鉄板を貼りつけただけに見える鉄城門にて、ナビから辛酸をなめさせられつつも譲られた廃棄路の鉄鍵を使うと、地震災害後は何人も受け入れなかった崩れ拠点がたやすく胸襟を開いた。
拠点内部はラストダンジョンとあり、本来ならMOB相当の赤騎士と、色違いコンパチの外騎士三皇から六皇までの四騎士連続襲来、フィカとのボスバトル、最後に外騎士一皇クヴァルスとのラスボスバトルなどが発生するが。
「拠点内部には、一人を除いて、誰もいなかった」
フィカは誰とも出会うことなく、最奥まで進んだ。そこで。
「その一人というのは」
ナビが無遠慮に尋ねる。
「クヴァルス兄さんだ」
「ッッ……おい、クヴァルスの兄貴が、生きてたってのか……?」
「いいや、キミが言っていたディアルス兄さんと同じ。指先一つ動かなかったよ」
「……そうか……ったく、あのクヴァルスがな……クソがよ」
設定上、ディアルスがまだ皇騎士一皇ディアルス=フォン=キングシュバリエではなく、フィカたちもまた外騎士になっていなかったころ。
レッドは、皇騎士一皇候補であったクヴァルスを兄貴と慕い。
フィカも、皇騎士一皇候補であったディアルスを長兄として慕っていた。だが。
『そこだっ! そこさあ反転させたらオモシロそーじゃん!』
と発言したのは、失言ばかりで炎上気質な命ゴイのディレクターであった。
それぞれが男として慕う兄的存在、旧来の親友や親類と敵対してしまう。
それが大型アップデート「闇の六皇:外騎士の反旗」のキモだった。
まあ、ストーリー的には後付けにしか聞こえない設定の山盛りとあって、内容も含め、聡明なる万命の令嬢たちの怒りを買うばかりであったものの。
「外騎士一皇については、ご愁傷さまです」
「心にもないことを言うな、ヘルプヤクの魔女」
「それで、あなたはどうやってこのゴールドスカイナーに?」
「さっき言った。拠点の先に白い鉄扉があって、そこが白い天塔の内部だった」
「白の鉄扉……なるほど」
壊れたハナリナが消してくれた扉も、黒だった。
「そのタイミングで碧い波が押し寄せてきた。クヴァルス兄さんが飲み込まれていくのを間近で目にしたが……あれには反吐が出る。生命と倫理、我々サッドライク皇国民の誇りを踏みにじる、最低最悪の外法にしか見えなかった。もし、あれを生んだ存在がいるのなら、僕は神であっても許すつもりはない。だから、はじめは碧い波に相打ち覚悟で一撃を加えようと思ったが……部屋の先にあった白い渦巻きが急に鳴動をはじめた。それに近づいて、触れてみたら、このザマだ」
話の道筋はナビにも納得できた。
しかし、納得できないところもある。
「外騎士二皇は、鉄扉をどうやって開けたのです」
「どう、とは? 鍵もいらず、手で押し開けられたが」
「ならば、渦巻きのほうは」
「知らない。あれも勝手に動きはじめた」
「でも……うーんと、うんしょ。こういう石は使わなかったんですか」
ナビが黒絹のローブの内側をあさり、黒い渦巻きこと、コネックのセルF群・コネクトゾーン「綿花天路」を起動したときに使った鍵。
タンポポの綿毛を緻密に象ったような綿花輝石を取り出し、フィカに見せる。
「なんだ、それは。僕はなにも用いていないぞ」
「むー……それだと、なんだか不公平です」
ブスーッとする。私たちはあんなに必死だったのに、と。
そうしてフィカの話と、お返しのナビたちのこれまでの経緯も一段落したころ。
「ねえねえねえ~~~!!! ナビナビナビ~~~!!!」
秋の風景に囲まれた海ガールが、べったりとすり寄ってくる。
「わっ、なんですかナッツ。すみません、存在を忘れていました」
「ひっどーい! ねえねえねえ、このイケメンさん紹介してよー!」
「ああ、そうでしたね」
それぐらいの礼節は私にもあると、フィカに向き直って一言。
「ほら、外騎士二皇。彼女に名乗りなさい」
「……クッ、キミは本当に」
何重かの意味合いで、黒髪イケメンからため息が漏れる。
命ゴイでの初登場シーンのプログラムに従い、目の前で仰々しくあいさつしたフィカに、ナッツのハートがズキュンとされたあと。
それまでブスッとして会話に耳を傾けていた、レッドが口を開く。
「おい、フィカ」
「なんだ、レッド」
「おまえさっき、アニマラーって言ったな」
「そうだ。もしかして知らないのか?」
「知らないわけあるか。ついでだ、ここはどこだ」
「ゴールドスカイナーのオータム・ネストで、凰華の――」
そこまで口にすると、フィカはハッとして我を取り戻す。
「そうだ、キミたちに構っているヒマなどない。三人の官女を見なかったか!?」
その声色には、若干の焦り。
「三人の官女……? 女性ということですか?」
「当たり前だ。知性もなければ知識もないか、魔女め」
「むっ! あなたの態度はメチャデカふがっ」
怒りの抗議は、相棒の右手に塞がれてフェードアウト。
「黙ってろドンクサ女。それでフィカ、なにを探してやがる」
「凰華の……僕が身を寄せている秋の地主の官女が、害獣に追われている」
「そうか。オマエ、そいつにこの世界のことを聞いたか」
「いい、これ以上はもう絡むな。僕はまず彼女らを探しに――」
フィカが宣言するより前に、黄緑の林が騒がしく揺れ、かすかに震える。
それを成したのは、絹を裂いたような女性の声。それも一つではない。
二つか、三つか。不出来な悲鳴の輪唱が重なるようにして連続する。
「なっ、なんですか今の声はっ!?」
「ッッ……間に合わなかったか……!!」




