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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■イエマチ編
42/81

とんでけ、イエマチ!(3)

 「とんでけ、イエローマーチ ~春夏秋冬のんびりライフ~」。

 通称「イエマチ」。万人向けの牧歌風リアルライフシミュレーター。

 コネックエンジンの全面採用で、ALR対応オール・リアリティ

 パブリッシングはイヴゲームス。開発はサイエンジーナス。


 サービス開始は、二〇五七年の十月。

 サービス終了は、二〇六三年の二月。約五年五か月の提供期間。


 コンセプトは"ゲームチックなリアルバケーションライフを"というもの。

 穏やかな黄色の空が広がる世界「ゴールドスカイナー」には、春・夏・秋・冬に分かれた四季の大陸プレート「ネスト」が存在し、プレイヤーたち「移住者」は、自分好みのロケーションで家作りや牧場作りなどのハウジングコンテンツ、お茶会に海遊びに山登りといったアクティビティを楽しむことができる。


 イエマチは、一つの「セル群」にさまざまなゲームタイトルをつなげ、コネクト(タイトル移動)してプレイヤーデータやキャラクター情報をコンバートできる、セル型統合ネットワークゲームコアおよびゲームプラットフォーム「コネック」内にイヴゲームスが送り込んだ処女作であり、同社の代表的作品だ。

 事実、ゲームは一か月も遊べばやりきったと言えたコンシューマ全盛期から先、長期運営型による継続的な収益モデルがメインストリームとなって長らくな昨今、過酷な競争下で五年以上も呼吸したイエマチは、正しく好まれた作品である。


 移住者たちはゴールドスカイナー内で擬似的な生活体験を楽しみつつ、多くの人と気軽にコミュニケーションをし、ここで知り合った人たちとリアル世界の時節に応じたイベントごとで盛り上がり、第二の生活空間を謳歌していた。


 しかし、ゲーム業界で実験的に先行していたALR機能が後発ジャンルにも搭載されるようになり、旅行やファッション、キャンプや天体観測などの趣味全般でよりリアルに、かつライフスタイルのみならず商品購入・提供にもひも付いた生活ジャンルが"本物の第二の生活空間"として盛り上がったことで、影が落ちる。

 端的に、ゲーム的な楽しみで作られたシミュレータ環境は、リアル活動とより密着した仮想生活空間の発達により、ゲーム部分が邪魔になっていった。


 衣服を作り、ペットを使役し、野菜を作っても、それはあくまでゲーム内アイテム。後発の生活専門コンテンツは有償販売と広告収益モデルを複雑に融合させ、ゲーム内で服を買えば、家に服が届く。野菜を育てれば、家に届いた。

 その際、さまざまなカスタマイズや取引体系にも応じるようになり、リアルでウィンドウショッピングをする体感や実感とまるで遜色のない、合理的で無駄のないシステムサービスを構築し、改良し、洗練させていった。


 ALR世界でのコミュニケーションにせよ、徐々にゲーム的な匿名性のフィルターは排除され、往年のSNSのように現実に即した人格が主流となる。仮想関係を楽しむ人はいても、あくまで少数派。世界は現実とほど近い距離感を好んだ。

 大昔の話、メタバースの理念が提唱されはじめたころ。あの日、あのとき、その言葉から想像させられた夢や理想が、ようやく現実になったせいである。


 ただ、それでもイエマチはふんばっていた。イヴゲームスの看板役として強めに押し出されていたこともそうだが、収支に関しても年々、右肩下がりの傾向にはなってしまったものの、赤字運営になったことは一度もない。

 少なくない数の移住者は、ゴールドスカイナーをちゃんと愛していた。


 ところがだ。イエマチの後発である新作群、つまるところ命ゴイたち後輩タイトルがどれもこれもふがいない働きのすえにクローズした結果、当初構想されていた「イヴゲームス専有のセルF群」はイエマチ以外、軒並み壊滅した。

 最初に生まれ、最後まで残ったイエマチはタイトル単位の収益は問題なかった。だが、コネックとのセル専有契約料金などを合算すると足が出てしまい、ついにイヴゲームスは大きな決断をする。継続コストをなくすために最終兵器のイエマチもサービスを打ち切り、コネックからの事業撤退に踏み切ったのだ。


 要はイエマチは、命ゴイたちとんがった意欲的な新世代の尻拭いのため。

 安定して勝ちながらも、ファンに惜しまれながらも、引退を余儀なくされた。

 それゆえ、イエマチを心から愛していた数多くの移住者たちは。


『イエマチを返せ! おまえらがいけないんだ!』

『命ゴイは生まれてくるべきではなかったんだ!』

『私はイエマチで知り合った人と結婚したのに、こんなのってない!』


 などと、ファンはイエマチの運営チームをはなから信用していなかったために、いくつかのタイトルのなかで、最も新しい戦犯に吹っかけた。

 つまり悲痛なメッセージの宛先の多くは、命ゴイ勢に向けられたわけだが。


『ハァ~??? なんか無理心中の化石さんが騒いでてウケル~ww』

『寄生虫に食い殺される程度の粗大ゴミのくせに笑わせないでほしい』

『後輩のウンチを受け止める役目を終えた先輩便器は、解体してどぞー』

『てーか、移住したきゃ金稼いで海外行きなよ。もっとリアルに生きなよ』

『あんたらもクラリエンスALRでダイヤ会員なればいいじゃん。農民かよ』

『ナチュラルボーン農奴なんだろうね。正直かわいそ。お恵みあげよっか?』

『へ~、今どきの野菜って日本語しゃべれんだ。えらいねえ』

『死体が死体にケンカ吹っかけるとか、アタマ紫安張イケルじゃん』

『つか、ウチらの葬式で笑っといて、自分らの葬式になったら謝れって、何様?』

『教育の敗北だ。敗北者なんだから、そりゃ仮想世界に移住したくなるよねー』


 などと、ケンカする相手を間違えた。


 当初は両陣営ともに燃え上がったが、形勢は次第に傾く。イエマチの善良寄りなプレイヤー層に比べ、粘着質でドギツい人格者が大多数だった命ゴイの悪質な蛮女たちは、相手が殴るのをやめてからも、それはもう延々とツバやタンを気楽に吐きかけ続け、イエマチコミュニティの意気を萎えさせ続けた。


 そのうち移住者らは嫌気が差して、オープンな場所では世間話すらできなくなった。それでもなお、蛮女らは意味も意義も大義もなく、延々と煽り続けた。


 ちょっかいをかけるときのアプローチや言葉選びも、実に緻密で陰湿であり、闇の現代女性たちは正しい意味で、相手をNPCではなくプレイヤーキャラクターたる人間として判別し、訴訟沙汰にするにも絶妙に開示請求すらしづらい言葉巧みさで、言質の取りづらい微妙に嫌なことをし続けた。

 例えば無関係な企業の匿名アンケートで、わざわざ何重ものプロキシサーバーを介して、「イエマチはこんなにもすばらしかった」の熱量の高い感想文をコピペではなく自作で用意し、ファンを装ってBtoB、BtoC問わず、善良だがズレている厄介ファンを演じるなどして無関係各位までをも理解に苦しめた。

 近々では「極めて悪質だが、訴えるには決め手に欠ける訴訟題材」として、司法を学ぶ大学生たちの一部教材として扱われることになったほどだ。


 といった内実など、当然知らないナッツであるが、ナビとレッドはゴールドスカイナーのこと、移住者たちのことを耳にして、ピンとくる。


「移住者……それはまさか、万命の令嬢の皆さまのような……?」

「かもしれねえが、決め手がねえな」

「ばんめーじょー?」

 サンバイザーをクイッと上げて不思議顔。聞いたことのない単語らしい。


「えっと、あなたの言う移住者のことを、サッドライク大陸ではそう呼ぶのです」

「さっどらいくー? どこそれどこそれ、聞いたことないけどぉ」

「私とレッドがいた世界です」

「ハ……? あっ! なんかあれか。ナビは不思議ちゃんな世界観の持ち主か」

「ええ、私は教え導く者、ヘルプヤクの魔女ですから」

 鼻を鳴らして威張るが、会話はかみ合っていない。


「おいナッツ、ここは……ゴールドスカイナーだったな。ここはどうなんだ」

「? どうって、なにがどー?」

「なんか変わったことはねえのかって話だ、察しろボケが」

「んもーぅ、顔はいいのに口のわっるいイケメンだなー、もーぅ」

 ケラケラと笑っていたナッツが、話しはじめようとして。

 少しだけ、落ち着いた顔をしてから、口を開いた。


「ほかのネストのことは分からないんだけどね。サマー・ネストは最近ね……だいぶ変になっちゃった。移住者のみんながいなくなってさ、しばらくは夏の地主たちと一緒にこないねー、こないねーって言ってたんだけど……アニマラーがさ」


 アニマラー。先ほど二人を襲った、オオカマキリのこと。


「アニマラーが、私たちのこと、食べはじめたの」

「食べ……っっ」

「……人を、捕食するってのか?」

 見解を促すと、彼女は静かにうなずいた。


「うん、そう。移住者がいたころはそんなことなくて、怖い子もいたけど、かわいい子たちばっかしだったのにさ。目や体がピンクに光るようになってから、みんな凶暴になった。友だちも、近所のベルおばさんも、漁師のバネットおじさんも、夏の地主バルールカンも……私以外みんな、みんな……食べられちゃった」


 命ゴイの世界は、真っ当にバグって壊れていたが。

 イエマチの世界もまた、なにかの歯車が外れていた。


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