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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■命ゴイ編
38/81

ある日の二人(1)

「ふごー、ふごー、ふごー……」

「先輩」

「ふごー、ふごー、ふごー……」

「イケルさん!」

「ふごー、ふごー、ずびびー……ふごぉー」

「イ・ケ・ル・さんっ!!!」

「ふごっ!? あわわっ! 働いてます働いてます誠心誠意はらたいてますっ!」

「お腹は炊くものじゃありません」

「ひゅひひっ、しゃーせんしゃーせん、良美っちさま~」

「まったくもう、いい年した女がデスクにヨダレこぼさないでくれません?」

「あー、良美っち! パァゥワァゥハゥラァー! ついでにセクハラー!」

「年上のダラしないダメ女上司にそれ、適用されます?」

「はいはいはいっ! きましたっ! 追撃のモォゥワァゥハゥラァー!」

「コイツまじ……」


「で、イケルさん。実の子供はちゃんとコロしましたか」

「そりゃあも~、えっと~……あ、うん。切り捨てバッチリ0biteです、はい」

「ならよし。けっこう時間かかりましたね」

「ハァー!? こっちゃあ命込めて作る時間のがよっぽどかかったんですけどー!」

「母親が自分の趣味で、生まれつき愛されない子を生んでちゃ世話ないですよ」

「今のセリフ、私がICレコーダーで音源ばらまいたら倫理で一発懲戒よ?」

「持ってんですか? ICレコーダー」

「……イエ」

「私は持ってますけど」

「……ナンデ?」

「これまで何度もダメ女が汚したお尻、拭かされてるもんで」

「ハハハ。私の部下が気安く下剋上をプランニングしてくる件」

「安心してください。命ゴイの紫安張イケルにはもう、国も席も必要ないですし」

「んだとテメェー! おもてでろー!」

「いいんですか? お姉さんとメスガキくらい体格差ありますけど?」

「……お姉さん的にはパウンド・フォー・パウンドをしょもーしまーす」

「いいからさっさと仕事しろ、メスガキ」


「あー、サッドライク大陸、なんもなくなってますね」

「皇城とかアセットのテクスチャ替えだったし、べつにいいっしょ」

「グッディフルパレスはフルビルドだったんですよ」

「良美っちって、そういうとこ自分出したがりで悪趣味だよね~」

「出たがりに関しては、ケルイス=ヴァリアンシーにだけは言われたくない」

「いいじゃん。ディレクターなんて神さまみたいなもんよ、神さま」

「じゃあプロデューサーは?」

「……お母さん」

「神さまの?」

「……神さまのお母さん」

「まあそのお母さんも、ダメ娘のせいでイヴゲームスとは離婚しましたけど」

「言うんじゃねー! 私のせいみたいに聞こえるっしょ!」

「イケルさんのせいですし。企画立案のときの良心責めもエグかったですもん」

「私って、悲しい過去は心の奥底にだけ秘めて前を向いて歩くタイプだから」

「よく言う。それ令嬢たちに言ったら、また殺害予告級ありえますよ」

「あいつらお気持ちが過激なんよ~……」


「命ゴイ消すだけで三日かかりましたし、このままだと二週間仕事ですね」

「コネックが悪いんだよコネックが。便利なセル構想が不便ってこれいかに」

「うちのセルF群、近年ダメダメだったせいですし」

「ハァー!? 良美っちあんた私の命ゴイに」

「その下り、寒いんでもういいです」

「ハイ」

「しかし、あれ大丈夫でしたかね」

「どれ?」

「イケルさん、消去手順すっ飛ばして物理的にLAN引っこ抜いたじゃないですか」

「あ~、ま~大丈夫っしょ。どうせ全消去なんだし。データバグっても」

「おまけにそのあと、プレイヤーデータに無理にコネックフラグつけたりして」

「いやだって、ギリできそうだったじゃん? コネクトゾーンの開通だけなら」

「ないです。アバターだけ移管するにも個人情報取り扱いでお縄ですよ」

「そーゆーとこがよ~。コネックエンジンの制作物は不自由なんよー」

「ゲームデータ、なに一つ持ち出せませんでしたしね」

「せめて皇騎士のデータだけでも素材化できればワンチャンだったのに」

「犬の餌代くらいにはなったかもですね」

「んでだよー! いいじゃん皇騎士! 売れるよ! みんな好きだったじゃん!」

「いずれにせよ、LANぶち抜き、サーバー共有なしにフラグ付け……」

「うっ」

「無理にゾーン開いてデータ逃がそうとした荒技で、中身ぐちゃぐちゃですって」

「ううぅ……」

「うち以外のセル群ともギリつながってるんですから。最悪、訴訟されますよ」

「うぅぅ……うっせえ! バグっても消してるから問題ないっての!」

「令嬢たちが遊んでたころと、どっちがバグだらけの世界になってたでしょうね」

「ジャンクデータのまんまのリオスがゾンビで復活してたり?」

「よりにもよって最大の炎上例ださないの。あれもイケルさんのせいでしょ」

「いやいやいや、ゲーム作りはチームワーク! みんなのせいだよっ!」

「コイツまじで……」


「せめて全部コネックエンジンで作ってたら、一部許可は出たんでしょうが」

「だって飽きるじゃん。もう何作、出来がいいだけのエンジンで作ってんのさ」

「まあ、そろそろグラフィックスも褒められ慣れして、市場が飽和しましたしね」

「そこに手作り愛妻弁当エンジンで命ゴイをドドン! ってなわけよ!」

「微妙さが浮き彫りになっただけという事実は、なかなかいい経験でした」

「うっせー! こちとら右にならってゲーム作ってんじゃねえ!」

「学習指導型AIにFAQひも付けたのも致命的でしたし。コネックブチ切れで」

「だってヘルプ役だし……」

「AIにデータベース吸わせるの、いまだに反応が過敏なんですから」

「みんないいって言ったじゃん。酔ってたから」

「先輩のケーキプログラミングだって、プログラムチームから大不評でしたよ」

「……だってかわいいし、オリジナリティだし……」

「それに万命術がダメです。システム的に強すぎて絶対許可おりません」

「いいじゃん。コアホームの闘技場で、人気ゲーのプロを罵声でぶっ殺す令嬢」

「だからですって。距離制限なしの広範囲必中、なにより見た目が最悪ですもん」

「そりゃ中身が最悪だからでしょ?」

「そこは同意ですが、令嬢を別ゲーにコネクトさせると弊害がすごいんですよ」

「威力を1/100くらいにしたらよくない? 範囲攻撃と必中は特性として」

「その値でも、主流のリアル系な近接ゲーでは令嬢に刃が立ちません」

「ん。なら、HPダメージじゃなくてMPダメージにするとか?」

「んー、まあ、それなら。コネックってMP気絶が共通システムですしね」

「ほら、汚言で精神が参って戦闘不能。やっぱ命ゴイってリアルじゃん!」

「再現してはいけないほうのリアリティですけど。それになにより」

「なにさ」

「……終わったゲームのブラッシュアップは不毛なのでやめましょ」

「……異議なーし」


「イケルさん、週明けも出社しますよね」

「もちろん、今の私はイヴゲームスさまに心より仕える社員の鑑ですんで!」

「ゲーム業界的には、辞めたほうがサクセスストーリーもありそうですけど」

「いやその、実はあったけど……他社さんもほとぼりが冷めるまではって……」

「SNSがクッソヘタクソ。サ終したゲームでよく炎上できますよね。尊敬します」

「してる顔して言えや! で、次はイエマチ?」

「ええ。まずはセルF群の冗長性を確保したいんで、大きなイエマチからで」

「イエマチはまあ、いい往生の部類だったね」

「結局、最後までセルF1でしたね。F4もF3もF2も全部ゴミゲーだったせいで」

「それ言ったら良美っちだって全部担当じゃん。命ゴイもケツブラも――」

「だぁから! 女性がケツブラ言わない!」

「ひぃっ! 机叩きは暴力だ! やめろっ!」

「イケルさんって幼女みたいにビビってくれるんで、クセになるんですよ」

「ほーら! 私の周りがこんなやつばっかだから命ゴイ作ってやったんだぞ!」

「分かってます。いっぱい言われましたけど、命ゴイは愛されてましたよ」

「……ん」

「また、いいゲーム作りましょ? 紫安張イケルを継いだんですもの」

「……ね」

「じゃ、さっきの居眠り込みで、お姉さんが奢られてあげるんで飲み行きましょ」

「ハァー!? こっちゃあディレクターのお給金すら危うくて困ってんだぞ!」

「資料とか言って買い込んだフィギュアが経費で落ちなかっただけでしょ」

「それが致命的なの!」

「いいからいいから。愚痴らせてあげるから泣いて払え」

「……もー!」


「そういや、マップデータってどこから消えたのかな」

「? 地面からとか天井からとか、そういう話ですか?」

「あ、三次元的にはそっか。オブジェクト番号の若い順ってのもあり得るけど」

「空から消える世界だなんて、怖そうですけど滅亡チックでなんかロマン」

「ゲームで空見ない派だしな~。見上げる天井はガチャだけで十分だっての~」

「最悪。だから追放棄路も知らずのうちに真っ赤で出しちゃうんですよ」

「ワタシ、ディレクター、チームノミンナ、イチレンタクショー」

「てゆうか、Y軸から消えるんじゃないんですか」

「ん?」

「マップデータの話。プリンタが端から白塗りしていくみたいに」

「おっ、到達した発想が同じで安心する~」

「後出しの同調キモいんでやめてくれます?」

「それかあれかな、Windowsの削除バーみたいなのに飲まれるとか」

「私、心の宗教的に窓は使えない派なので」

「さいですか。てーかさ、となるとやっぱ一番最初に消えたのってナビかな~」

「ああ。かもしれませんね」

「苦しんでないといいね」

「ですね」

「正直、もし素材としてデータを抜き取れてたらさ、皇騎士は商材だけど」

「はい」

「ナビだったらイヴゲームスのマスコットとかで、いくらでも生かせたよね」

「今さらですけど、悪くないアイデアですね」

「そりゃまあ、こちとら? 叩き上げのプランナー上がりですから!」

「イケルさんの叩かれ慣れしてるところは、本当に尊敬してますよ」

「お、してる顔してんじゃん」

「良き心で美しく生きろ、親にそう名付けられたもので」

「顔にステ振りしすぎで、心にパラメータ振れてないんですが」

「おかげさまで、当初のコンセプトよりはリアルがぬるゲーです」

「くっふー。大学時代も男に恐れられ、女に慕われる人生がぬるいとかカワイソ」

「ぶっ飛ばしますよ? 昔から駄作しか作れないクソザコメスガキが」

「はい! 良美っちのコンプラ即通報発言いただきましたー! 覚えてやがれ!」

「はいはい」

「あっ、やっう゛ぁ、神さま閃いちゃった」

「聞きませんけど、言ってどうぞ」

「消えゆく世界を必死に旅する乙女系脱出ゲームとかどー? やう゛ぁくない?」

「いいんじゃないです? 最高のエンディングありきなら」

「……それ致命的ぃー」

「ぶっ飛んだなにかがないと、確定でバッドエンディングですし」

「湿っぽいの大好き勢も多いし、いいじゃんいいじゃん」

「なによりコネックじゃ、エンディングはサービス終了以外ありえません」

「うっへ……窮屈になったもんだよ、ゲーム作り」

「学生時代は自由でしたしね」

「しゃあない。とりま来週はイエマチのエンディングをがんばろっ」

「賛成。ほら飲み行きますよ、イケルさん」


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