表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■命ゴイ編
30/81

最長の最短(27)

 永久鋼土の入口は大きな洞穴のように開いており、侵入すること自体に問題はない。けれども、その前面には蛮女、蛮女、蛮女、蛮女、蛮女。

 サッドライク皇城の城門前に陣取っていた、動かない皇国民たちの数が繁盛店のにぎわいだとすれば。永久鋼土の前はさながら大型イベントの盛況だ。


「……おいおいおい、おい。これじゃあどうしようもねえぞ」

 そう言いつつもレッドは、人混みをすり抜けて進む余地を探している。

 しかし相手は壊れた令嬢。不意に触れられてしまうだけで、一瞬で消滅する。


「……ふふっ、清廉セイレーンさまは今でもクソジョーシコロースのうたを歌っておられるのですね。檻子さまも、チキッテンダーさまも、クロイルカさまも、力こそマサヨシ@愛好嵐さまも、ああ瞳月桜さまにMAKKOさまに……」


 背後から、魔女が浮かれるようにつぶやくのを耳にして、レッドは反射的に怒りを覚えた。この最悪の状況下で、壊れた相手を前にして、懐かしんでいる女。


 楽しそうに蛮女たちの名を口にする、ノンキなナビを思い浮かべてしまい。

 「テんメ……」引っぱたいてやろうかと、後ろを振り向くと。

 想像とは違った彼女の顔色に、腕を振り上げることはできなかった。


「――万命の令嬢の皆さま、こんなところにいらしたんですね」

 それは楽しそうな笑顔……にも見えなくないが。


 光をなくして歪んだ両目も、陶磁器のように澄んだ肌の青白さも。

 諦めと絶望を受け入れながら、強制された笑みを浮かべる人形のようで。

 レッドは責めることができず、拳を握りしめて踏みとどまる。


 あたり一面でうろついている壊れた令嬢たちは、洋風なパーティドレスから現代風のカジュアルファッション、奇抜に発光するピカピカスーツに季節感皆無の水着とパレオ、なかには上半身・下半身ともにミニスカートを着用した者もいる。

 そして命ゴイの現状を表すがごとし、頭部が肥大化した者、体の半分が薄透明になっている者、両腕が激しく粗ぶっている者、腰の関節が異常な者、直立不動の逆さで頭から浮いてスーッと移動している者など、形容しがたい者ばかり。


 彼女らは意思も目的もないせいか、少し歩いては令嬢同士でぶつかり、立ち止まり、また歩き直して、ぶつかる。どうも壊れた令嬢同士は触れ合ったところで互いに消滅しないらしい。その事実に「クソがよ……」とぼやきが上がる。


 永久鋼土入口の一帯は、ミチミチに詰まっているわけではない。

 レッドの見立てでは、歩いて抜けられるくらいの隙間がいくらでもある。

 ただそれは、毒沼を素手でかき分けて進むのと同じくらい危険な行為だ。


 壊れた令嬢が、ゲーム最終盤の僻地に集まってしまっているのには理由がある。万命の令嬢は現時点で、全プレイヤーキャラクターがこの世界に顕現しているわけではない。個人情報の削除施策により総数はスリムになっているが、たび重なる運営不況で規模を縮小してきたサーバー内、つまりナビたちがいるここサッドライク大陸にはもう、全プレイヤーをログインさせられる許容量がない。

 ゆえにナビたちが発見しなかった壊れた令嬢たちも含め、彼女らが人知れず碧い波に飲み込まれるたびに隙間が生まれ、新たな令嬢がおかわりされていた。


 この世界はオフラインではない。サービスを閉じた今でもまだ、便宜上はオンラインネットワークにつながり、サーバー上で出力されている。それが良くも悪くも命ゴイを提供していたセル型統合ネットワークゲームコアの特徴なのだ。


 そして命ゴイはゲームの中断後、プレイヤーの現在座標の位置を保存しつつも、ログイン演出の都合でナビの隠れ家からの強制再開となる。

 しかし、肝心のゲーム開始時の座標情報が碧い波に飲み込まれたことで、追加参加の令嬢たちが最後のログアウト地点で出現する異常事態となった。


 サービス終了の直前、ナビに最後のお別れにやってきたプレイヤーの多くや、すでに碧い波によって中断時の座標情報が飲み込まれてしまっている者たちは、保存座標をさらにさかのぼって、ここにいる。

 つまり、大陸の残り箇所もわずかで、万令術での遊びをのぞけば“もうここくらいしか遊ぶところがなかった場所”、永久鋼土に集まってしまっていた。


「ナビ」

「分かっています」

「だったらいい、さっさとやれ」

「……分かっています」

 主語のない会話で、レッドは言葉少なにナビをせき立てた。

 言外に伝えたのは「万命令を使え」だ。


 十字架蛮女のときは、フィカのたき付けがうまかっただけなのか。

 先ほどから乗り気にならない彼女のウジウジに、彼の虫の居所もよくない。


 次にヘルプヤクの魔女が口を開いたのも、無言の数分が経ってからだ。


「万命の令嬢の皆さまっ!!」

「おい、テメェッ!?」


 急に張り上げられた女の声に、壊れた令嬢たちが一斉に反応し、顔を向ける。

 ホラーはそれだけに収まらず、ゆっくりと歩き出す者、勢いよく走り出す者。

 この場のすべての令嬢が、森の切れ目に立つナビめがけて動き出した。


「ざっけんなよ! おい蛮女ども、テメェは俺が殺してや――」

 誰に対しての憤りか、レッドが前目に躍り出て、護衛を買って出るが。


「――――」

「――――」

「だから言ったでしょ。だから言ったでしょ。だから言ったでしょ。だから言」

「クソジョーシコロースクソジョーシコロースクソジョーシコロース」

 壊れているせいなのか、レッドに見向きする者は誰一人おらず。

 ただただ一斉に、ナビに群がろうとしている。


「んなッ……!? 蛮女どもッ! 俺を無視してんじゃねえぞ、クソがよッ!」

 自分がまるで関心をもらえなかったことに驚きつつ、とっさに判断する。

 次のアクションを諦め、ナビの腕を引っぱって逃げ出そうとした直前。

 ギリギリのタイミングで、相方が再度、口を開いた。


「――イフ・ケイク・トゥ(もし、あなたがフォンダンショコラなら……)」

 大きくはないが、あたり一面を覆う、透きとおった空気に溶ける声。

「【魔女は教えなかった】」

 魔女は一言で、壊れた令嬢たちから歩く権利を奪った。


「――――」

「びゅ! ギュ! アぺbはえcy!」

「――――」

「――――」

「――――」

「だから言ったでしょ。だから言ったでしょ。だから言ったでしょ。だから言」

「――――」

「――――」

「クソジョーシコロースクソジョーシコロースクソジョーシコロース」


 壊れた令嬢たちはみな、一様にナビを見つめながら、二人の前で同じ文言をわめき散らした。けれど、その両足は地に張った根のように動かず、ギリギリまで引きつけたおかげで、ちょうどいい具合に、永久鋼土前に空白地帯が生まれた。


「クッ、クックク……テんメェ、脅かしやがってよぉ……」

 今にも走って逃げだそうとしていたレッドがハシゴを外され、怒り笑い。

 ぎこちない顔だが、矜持のためにみっともなさをカバーしようとしている。


「――行きましょう、皇騎士十三皇。旅のゴールはすぐそこです」

 止まって動かず、同じ言葉を吐き続ける令嬢たちを横目に歩き出す。


 テクスチャの破損により、おもしろおかしく、見方によっては気持ち悪い剥製のような令嬢たちが立ち並ぶなか、レッドが二歩先に出て、細心の注意を払い、決して触れてはならない壊れた令嬢たちが壁の迷路をじっくりと進んでいく。

 その間、ナビは顔を上げては令嬢たちを目視し、顔を伏せてを繰り返した。


 コツン。土肌の地面から、やがて群青色の岩塊と色とりどりの鉱石が散りばめられた永久鋼土に踏み入れると、足音が硬質なものへと変わった。


 ここ永久鋼土は単純明快なエンドコンテンツのダンジョンであり、皇騎士と読みを同じくする「鋼騎士」がMOBおよびボスエネミーで徘徊している。

 それらの姿は草騎士や赤騎士のような「どう見たって戦闘する格好に見えないイケメンたち」とはまた違い、鋼鉄や宝玉の全身鎧で身を固めた、見かけからして強そうなビジュアル性を有しており、なかには顔すら隠す人外もいる。


 鋼騎士の強さは、大型アップデート後もイケメンたちを好き放題に蹂躙していた万命の令嬢とて手こずるほどで、基本ステータスの高さとノリで盛られたに違いない強力な耐性には、だいたいのプレイヤーが運営をお気持ちでぶん殴った。


「深紅宝玉に深青宝玉、深緑も深黄も深銀も深金も、なんでもござれだな、おい」

 群青色の壁面や天井、それ自体が高価な鉱石作りに映る洞窟内。

 深紫宝玉で仕立てられた廃棄迷宮よりも、リッチで荘厳な雰囲気が漂う。


 永久鋼土のゲーム的なうまみは、あらゆる鋼騎士がランダムドロップする、ドレスおよびアクセサリー制作用の布類と宝玉類だ。これらは品質も色彩もすべてランダムで生成される仕組みで、お目当てのものを探すのにイラ立ちつつも、ゲームをそこまで知らぬ女性たちにハック&スラッシュの楽しさを教えた。

 命ゴイにおいては珍しく、この点だけは純粋にゲームとして面白いと評価されたものだ。もちろん、出てくる敵のすべてがうっとうしい強さなのを除いて。


「こんなにも宝玉があるもんなのか。エディスの野郎が知ったら腰抜かすな」

 コツン、コツン。茜色の具足で硬い足音を立てながら、壁を指でなぞる。


 プレイヤーには拾えないものの、今の彼らなら、器具を使って掘って取ろうとすればアイテムとして確保できるが。レッドもわざわざしようとは思わない。

 単に、先ほどから口を開かないナビへの気まずさから、独りごちている。


 コツン、コツン。

 永久鋼土にはしばらく、硬質な足音だけが反響した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ