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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■命ゴイ編
28/81

最長の最短(25)

 止まった十字架蛮女たちから目を離したフィカが、ナビに告げた。


「僕は崩れ拠点に向かう。キミたちは早く、永久鋼土の惨状でも見てくるんだな」

 お礼一つない爽やか黒髪イケメンの態度に、ナビはムッとして。

「待ちなさい――魔女が問いかけに応じよ。『外騎士の崩れ拠点』」


 ヘルプヤクの魔女が右手の指先を宙に向けると、汚れた金装丁、ファアキュウの万命書が浮かび上がり、小柄で肉厚なページを自動でめくりはじめる。


「……それは、まさか、ヘルプヤクの魔女の、ファアキュウの万命書ッ……」

「そうですが、それがなにか?」

 涼しげな態度に見えて、自慢げな声色がまるで隠せていない。

 彼女はもはや、失礼なフィカにマウントを取りたいだけなのである。


「……次から次へと、今日は皇国の禁忌ばかりだ。もっと早くに見つけていれば」

「クックク。オマエもこいつがどこに隠れてたか知ったら、死にたくなるぜ」

「……なら、聞くのはよしておくよ」

 男二人の軽快な会話の間に、ファアキュウの万命書が止まった。


――FAQ:外騎士の崩れ拠点。関連:追放棄路、永久鋼土、外騎士一皇クヴァルス

――大型アップデート「闇の六皇:外騎士の反旗」追加エリア

――追加メインストーリー。進入制限あり。「廃棄路の鉄鍵」が必要

――備考:拠点前にファストトラベル用のポイントあり


 ナビがふむふむと読み進めるなか、レッドとフィカが後ろからのぞき込み、目をこらす。ただし文字は読めず、書に記されていることを理解できない。


 まもなくナビが涼しい顔で――パタンっと。

 ファアキュウの万命書を閉じて、振り返った。


「外騎士二皇。あなた、廃棄路の鉄鍵を持っていますか」

「鉄鍵……? 聞いたこともないな」

 味方ではないからか、彼がレッドに目配せすると「知るかボケ」と返される。


「どうも鉄鍵がないと、崩れ拠点には進入できないようですが?」

「そうか、あの鉄城門……そうだな、崩れ拠点の入口はたしかに閉じている」


 外騎士の崩れ拠点は、追加ストーリーのいわばラストダンジョンである。

 そこは、尻軽な皇女殺害の罪を着せられ、フィカと外騎士三皇から六皇のコンパチイケメンを除く、全方位から糾弾された外騎士一皇クヴァルスが逃げ込んだとされる場所。天井が崩れて吹き抜けになった最上階の王座の間では、追放棄路ならではの赤い空の下、彼が真っ当に強いラスボスとして待ち構えている。


 クヴァルスの強さは、令嬢たちによる命ゴイ番付において上から三番目。

 フィカが四番目、レッドが五番目と続くところからも強大さがうかがえる。


 以前のサービス中はフィカも、不定期だが崩れ拠点で就寝するルーチンを備えていた。そのため外騎士の崩れ拠点に近づけなかった現状でも、勝手知ったる場所ではある。当然だが「今日の夜中フィカいるって!」と万令広場のお遊びで共有されたもんなら、彼は無防備な就寝中、万鍵でたくさんの蛮女に襲われた。


「ならば、鉄鍵がない身でどうするおつもりですか」

「知れたこと。力尽くだ。僕のティア・フロトゥピスでなんとでも――」

「あれ~? ローブのなかが、なにやらゴツゴツします~」


 そもそもフィカの返事を聞くつもりはなかったのか。めちゃくちゃわざとらしいイントネーションで、食い気味に話を進めたナビが黒絹のローブをあさりはじめ、右胸元の内側ポケットにしまっていた、古い鉄鍵を取り出す。

 それは追放棄路にやってくる途中、廃棄迷宮にいた三体目のメイズシュヴァリエがドロップした、謎の置き土産のアイテムであったが。


「おいナビ。そりゃメイズシュヴァリエのだろが」

 最初に拾った張本人、レッドが口を挟む。

 同時に、わざとらしいナビの所作でフィカが察する。


「……まさかだが、それが廃棄路の鉄鍵だとでも言うのか、ヘルプヤクの魔女」

「さあ~? けれど廃棄された路上にあった鉄鍵となれば確度は高いでしょ~」

 うっとうしい声色。

「もしも、それで開けなかったらどうする」

「あら~? そもそもご自分のティアなんとかでどうにかするのでは~?」

 うっとうしい視線。


 ここまでされて、フィカもレッドも魔女の思惑に気付く。

 こいつ、餌を取り上げて嫌がらせをしたいだけだ。


 なお、外騎士の崩れ拠点には廃棄路の鉄鍵が必要であるが、「定命の令嬢パス」の購入者は無条件で入れた。一方、レベル80および万鍵経由で門壁をくぐって追放棄路までやってきた者は結局、廃棄迷宮が攻略必須ルートであり、例の花渡しクエスト「棄て花の隠されごと」が要求された。その結果のイザコザが「愛のない令嬢には見つけられん。一生迷ってろザコ女が」であったと注記しておこう。


「蛮女め……それで、見返りはなんだ。キミから施しを受けるつもりなどない」

 すでに十字架蛮女の件で施しを受けているフィカであるが。

 あれは自分なりの奸計に乗っからせただけで、別枠のようだ。


「施し~? いつ誰がどこで、あなたに施すって言いました~?」

「……幼稚なことを。だから、鉄鍵の見返りは――」


 フィカが外騎士になったのは、実兄クヴァルスの無実を信じてのこと。

 険のある雰囲気は体制派を憎む闇堕ち系といったところだが、彼は見た目からしてセンターにいそうな正統派黒髪イケメンであり、性格も誠実である。


 そんな総合人気投票二位の男は、憎き蛮女の総統、ヘルプヤクの魔女から意味深な施しを受けるつもりはない。しかし返事の催促よりも早く、世界は動いた。


「ッ!? ナビ! フィカもだ! 碧い波がまた動きはじめやがったぞッ!」

 赤髪の青年が横で怒鳴る。二人とも聞いたままに顔を向けると。

 碧い波は山嶺をあとわずかまで飲み込み、追放棄路を食らいはじめていた。


 速度は急激ではない。ゆっくりに見える。だが油断はできない。これまで何度も予測を外されてきたのだ。そもそも、彼女らに理解できる存在でもない。


「外騎士二皇」

 ノリノリであった児戯を中断したナビが、真面目な声で呼びかける。

「なんだ」

「あなたにはこれを使って、白い天塔へと行ってもらいたいのです」

 ムッとなったのは本当で、仕返しも目的であったが。

 それはナビが要求しようとしていた、鉄鍵を渡す条件だった。


「きっと、私たちが再会することはないでしょう。けれど、あの白い天塔になにがあるのか。サッドライク大陸を回復するなんらかの手立てが隠されているかもしれません。ですから私はあちらのほう、永久鋼土にあるであろう黒い天塔を見届けるつもりです。だから外騎士二皇、あなたには白をお願いしたいのです」


 平地ではないため構造物の根元を観測しづらいが、赤い空に届く白い天塔の直下は、ナビがもくろむように、外騎士の崩れ拠点につながっていた。

 そして、そこになにか秘密があったのなら。ただただ見届けろ。


 黒と白の天塔が現れたのは、約二週間前の地震災害以降。

 音もなく、前触れもなく、気付けば遠い空の先に建っていた。

 ナビが黒い天塔を目指すのは、あくまで自分のための冒険だが。


 もしも、そこに、世界の現状を変えるなにかが隠されていたのなら。

 万命の令嬢たちが帰ってこられるよう、サッドライク大陸を守りたい。

 その一心で、彼女はフィカに、白き天塔の調査を頼みたかった。


 世界を変えた地響きのあとに出現した二本の天塔の存在は、彼女にとって怪しむに値するものであり、ともすれば謎が隠されているのではないか。この世界が、万命の令嬢たちが、在りし日のころのように元どおりになるのではないか。

 わずかではあるが、そんな期待も込めていた。


 魔女の純粋な浅緑色の目に邪気を感じなかったのか、フィカが返答する。

「僕の最優先は、クヴァルス兄さんの安否の確認だ」

「はい」

「そもそも、この鍵が鉄条門を開けるものかも分からない」

「はい」

「そのうえで、行けるのかも不明だが……承った。ヘルプヤクの魔女よ」

「ええ、よろしくお願いします」

「それとキミ、僕を外騎士と呼ぶのはやめてくれ。その名は好きじゃないんだ」

「分かりました、外騎士二皇」

「蛮女め」

 外騎士は敬称でも自称でもなく、裏切り者の蔑称だ。


「では早く、その鍵をよこ――」

 ヒョイっ。ナビが鉄鍵を持つ右手を振り上げた。

 フィカの頭上にもハテナが浮かんだ。


「お礼は???」

「……なに?」

 シリアスな外騎士がすっとんきょうな素顔をさらす。

「お礼。言いなさい。あなたごときが、この私に、令嬢に手をかけさせたのです」

 フィカは軽く流していて、しめしめしていたことであったが。

 ナビは煽られ、自らの万命令を十字架蛮女にかけたことを恨んでいるらしく。


「……キミ、状況を分かっているのか? グダグダやってると永久鋼土にも」

「いいから、お礼。私にお礼を言いなさい」

 ガン攻めで礼儀を要求してくる。


「……図に乗るなよ、ヘルプヤクの魔女。蛮女に連なる者がなにを」

「い・い・か・らっ! さっさと、メチャデカ、お礼を言いなさいっ!!!」

「……く、くぅ!」


 なんとも言いがたい空気。フィカは逃げ道を求めてレッドをにらんだ。

 対して赤髪の侍騎士は「クックク」と小ばかに笑い、そっぽを向いた。


「お礼。早く。言いなさい。お礼。外騎士になるとお礼も言えないのですか?」

 背丈の低い、子供っぽい、無手で無防備な黒づくめの銀髪女。

 フィカが無理やり手を伸ばせば、鉄鍵なんて簡単に奪えるのだが。

 外騎士は、元皇騎士候補は、言うほど外道に手は染めない。そして。


「…………ありがとう」言った……が。

「もっと。ちゃんと。しっかり言いなさい」

「くぅ……ありがとう、ございますッ!!」

「もっと!」

「この恩義は一生忘れない! 感謝と敬愛を、ヘルプヤクの魔女よッ!!!」

「むっふふー! よろしい授けましょう!」

 ようやく右手の鉄鍵を差し出した。


「……蛮女め」

 ナビがムカッとて、また右手を上げるが。

 今度はそれよりも早く、フィカが奪い取った。


「あ~~~! 私の鍵ぃぃぃ!」

 両手を挙げ、威嚇のポーズで抗議するが、相手はすでに目を向けておらず。

「レッド、世界の終焉は近い。最後は皇騎士の手で、ヘルプヤクの魔女を罰しろ」「ケッ、うっせえぞフィカ。オマエも最後まで、精々あがいてから死んでけ」

 決して和解したわけではない青年たちが、同時に背を向け合う。


「皇騎士が暗路を、外騎士が光路を目指すたあ……クックク。ウケる皮肉だな」

 双方アベコベに背負った運命に、レッドが笑い声を漏らしていると。

 フィカの姿はすぐに、追放廃路の街道の先へと消えていった。



「おら、ガキかテメェ。ふて腐れてねぇでとっとと行くぞ」

「む~……私の鍵ぃ~……お礼ぃ~……」

 見送ったフィカとは反対方向。レッドが叱りながら歩き出すと、変わった礼儀にうるさいナビが口惜しそうに、しょぼしょぼとついていく。

 歩いていくのは、先ほどまで身を隠していた、ひしゃげた木々の森のほう。


 鬱蒼としているところは憂森林と同様だが、追放棄路の森林はそれに加え、景観の不気味さ、赤い空の禍々しさにより、恐怖というベクトルが生まれている。


「おい、ナビ。道はこっちでいいんだな」

「む~……ええ、そうです」

「ちゃんとファアキュウの万命書で調べたか?」

「いえ、べつに」

「だったらなんで――」

「レッドは察しが悪いですね。ほら、あそこあそこ」

「……あー、そりゃそうか」


 皇騎士十三皇が自分の考え足らずに立ち止まったところを、ヘルプヤクの魔女がズイズイと追い抜いて先頭に立つ。ナビの進路は実に堂々としたものだ。


 たしかに彼女は追放棄路の森林のことは知らないが、道なき道のところどころで途切れる森の上空には、大きすぎるがゆえに見える黒い天塔。

 それさえ見失わなければ目的地にたどり着けるだろうという寸法だった。


「今はもう、外騎士二皇とは仲がよくないのですか」

 前置きなしの質問。なかなか礼儀がなっていない。

「分かって言ってんのか? タチの悪りぃ女だな」

「ふふっ。私はこの旅で、知識と実情はけっこう違うんだなと知りましたので」

 顔は無表情だが、そこはかとなく誇らしげ。


「テメェの見たとおりだ。皇騎士は、皇国に反する外騎士の存在を許さねえ」

「万命の令嬢の皆さまだって、あなたと彼の距離感を憂いていましたよ」

「……ぁん? なんで蛮女ごときに母親面されねえといけねえんだ」

「ふふっ。もちろん愛情ですよ。皆さまは常日ごろから愛深き方々ですので」

「罪の深さを差し置くな、クソがよ」


 追放棄路の森林は例にもれず、フィールドの広さをかさ増しせんと無駄に広大に作られている。森林内には無人でたき火がたかれている名もなきキャンプ地点がいくつか点在しているほか、本来なら赤騎士も集団でうろついている。

 正規の攻略ルートである外騎士の崩れ拠点側と比べ、大型アップデート後のエンドコンテンツを担うエリアとあって、暗めに強めにのディレクションだ。


 ただ、二週間前の地震災害のせいか、もしくは十字架蛮女に食われ尽くしたか。二人の道中に闇落ち系MOBイケメンである赤騎士が現れることはなかった。

 代わりに、招かざる客だけは多めだった。


「……ケッ、蛮女がよ。ナビは動くな」

「……ハイ」


 突然、身をこわばらせたレッドが、前方を歩いていたナビの右ひじあたりを引っぱり、近くの大木の裏に引きずり込む。背中をあずけた木の裏には。


「――――」

「――――」

「……雨飴さま、ドツかれニャンニャンさま……」

 二体の壊れた令嬢たちが、悠々とお散歩していた。


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