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サ終世界から逃げ魔女っ!  作者: 手遊花
■命ゴイ編
24/81

最長の最短(21)

 ナビの目の前で起きている光景は、これまで知識でしか知らなかったものだ。

 もっと言えば、言葉で痛めつけるだけでド派手とは言いがたかった命ゴイの世界において、非情に珍しいハイパワーバトル。だがイマイチ気が乗らない。


 衝撃が大地を揺るがす、轟音鳴り響く剣戟。宙に舞う土埃。

 知的好奇心から目では追っているが。

 自らの目的を前にして、ほかのことで盛り上がられても煩わしい。


「といっても、レッドがいないことにはこの先もっと……むむむ」

 この場で自分の悩みを優先できるのもまた、彼女の未熟さだ。

 ただし、事態はナビにとって、そううまく転びそうにはなかった。


 皇束開放で真価を発揮しはじめたフィカが、重たい斬撃をレッドに与える。

 レッドもレッドで、直撃を避けてボロボロの皇騎士刀で受け止めてはいるが、ティア・フロトゥピスの貫通ダメージと衝撃の付加ダメージが一方的に蓄積する。対してレッドの斬撃には付加特性がないため、次第に押されはじめる。


 二人ともこの世界においては血反吐を吐くことも、身体を欠損することもない。リアルにするとレーティング以前に、ターゲット層が逃げてしまうから。

 究極、万命の令嬢たちのように「オラァ! かかってこいよオラァ!」と堂々と腕を組みながら近づいて攻撃されたところで、人外のモンスターを除けば、花護のシールドがない皇騎士たちの身も真っ二つに表現されることはない。


 しかし、ダメージを痛みと捉え、体をかばって動く「痛覚のある人間」としての意識はインプットされている。それだけに攻防は不自然ではない。


 ゆえに体をかばい、痛みに顔をしかめて、それぞれの剣技をぶつける。

 命ゴイではよっぽど、誰かさんらよりも彼らのほうが人間らしくもある。

 エンタメとしてもそう。最も目にする敵に力が入っているのはいいことだ。


 なお、このあたりの基礎設計や学習指導型AI、ALR対応といった高度なゲームシステムの構築は、なにも開発陣が手ずから作り上げたものではない。

 命ゴイのスゴい部分はだいたい、共通規格の高性能ゲームエンジンとセル型統合ネットワークが提供・共有されることで、制作工数の削減と一定以上の高品質を約束する、新世代ゲームコアプロジェクトに参画していることの恩恵である。


「おそいぞ皇騎士十三皇ッ! いまだに守護の型のクセを直せていないッ!」

「グゥッ! うっせんだよ外騎士風情が! 死ねやこらッ!!」


 フィカの袈裟斬りから切り上げ、流れるような突きまでのコンビネーションをうまくかわせず、レッドが初めて直撃の痛手を受けてしまう。

 同時に、身体周辺の赤黒い電気が明滅。鮮烈な色合いを深めていき。


「皇束解除ォ……弐式ッ! 浚え、赤雷蛇ァァ!!」


 皇騎士十三皇の背後で、赤黒い電流が暴れ回った。

 それらが次第に、宙をのたうち回る「三匹の赤い蛇」のように変貌すると、背後からフィカを狙い定め、獲物を狩る危険生物のように揺れ動きはじめる。


 「皇束解除・弐式:赤雷蛇」。残りHP50%時、壱式の効果に加え、攻撃者に対してダメージ15%分の反射ダメージを与えるようになる。ステータス類も1.2倍から1.3倍に上昇するが、最大の強みは、彼の背後でうごめく「赤雷蛇(せきらいだ)」。

 赤黒い三匹の電流ヘビが、敵に自動で追加攻撃を与えるようになる。


 ここから先は、たとえ万命の令嬢であっても油断ならない……が、レッドをめでるお騎士見のときは、彼に皇束解除をさせない前提でやるため、これらが披露されるのは令嬢たちが真っ向から勝負しにいくときだけ。


 また最盛期の舌打ち女王、うぇ先生の芸術的な秒間最速四連舌打ちをくらったときは、一発目で残りHPが半分以下になり、一歩も動かないうちに壱式が強制発動され、その演出中に続く二発目をくらい、次の弐式を発動するテキストメッセージを垂れ流しながら地面に片膝をつき、一度も動けないまま亡くなったものだ。


「臭え餌で悪りぃがよ、食らえッ! 赤雷蛇ァッ!」

「シャビャァァァァ!!!」

 三匹の赤ヘビが、レッドの背面から躍り出てフィカを襲う。けれども。

「それがどうしたッッ!!」


 さらなるステータス強化と反射ダメージの獲得により、一時的な有利に立ったかに見えたレッドと赤雷蛇が、フィカに簡単にあしらわれ、攻撃も届かない。


「レッド、もうやめておけ。今のキミでは、終式に入っても相手にならない」

「バカが。そこまでいきゃあ、地に伏すのはオマエだ」

「無理だよ。それに僕は――キミに()()()()()()()()つもりなどない」

「ッ!?」

「キミが終式を発動する前に、ギルティ・カレスの一撃で仕留める」

 その意味を、レッドは正確に理解できた。


 生かさず殺さずの戦局。レッドは最初から決め手を「皇束解除・終式」に賭けていたが、終式の発動条件は、彼にとっては体感であるが、HP20%以下。

 それをフィカは、発動前に一撃で狩り殺すといっている。


「やってみろよ、フィカ。俺が死ななきゃ、俺の勝ちだ」

 だからといって、赤髪の侍騎士は退くつもりなどない。

「無理だ。仮に生き延びたところで染め紅のない紅血吸など、蚊に等しい」

「オマエも人様のもんを先に言うなよな。格好付けらんねえだろ、クソがよ」


 二人は互いに、手の内をすべて知り合ってしまっている仲。

 レッドもそれは承知しており、自身の不利を誰よりも悟っている。

 だからといって、双方ともにまざまざと引き下がれる相手ではない。

 レッドにとってのフィカは、フィカにとってレッドは。

 命ゴイの世界で、誰よりも意識し合っているライバルだ。


「これがキミの最期だ。遺言はあるか、レッド」

 怜悧な顔つき。フィカはもう、レッドを殺す覚悟を決めた。

「クックク。お優しいじゃねえか、皇女殺しの一派のくせによ」

 強気に余裕ぶる。レッドは最初から、命を賭けていた。


「……その考えこそ、キミら皇騎士が、醜悪な皇女を見誤った皇国最大の悲劇だ」

「ほざけ。オマエこそ、なぜクヴァルスについた。ヤツはシーラ皇女を害した」

 それぞれの敵意が、各々のイケメン顔を憎悪に染め上げる。


 フィカの実兄、長男ディアルスと次男クヴァルスは幼少期からともに皇騎士を、サッドライク皇国の王たる座「一皇」を目指し、切磋琢磨していた。

 その関係は、世を疎む孤児であったところを皇女に拾われたレッドと、早くから才能を発揮した兄たちに気後れする弱気なフィカも同様で、二人は対照的な未熟さを持つ幼なじみな男の子同士、という設定を強力な武器としている。


 が、大型アップデート「闇の六皇:外騎士の反旗」で追加されたレッドの背景、フィカやクヴァルスたち外騎士の存在は、未実装時は臭わせ情報すら一つとしてなかったもので、「じ~つ~は~?」といったノリだけで、無からポンッと加えられていったものである。少なくとも、万命の令嬢たちは全員そう思った。


 そして明かされる、命ゴイの悲劇の物語は。

 実は、一皇ディアルスに昔、許嫁の女性がいて。

 実は、お相手は先代の皇騎士一皇の妻の一人娘で。

 実は、ビジュアルすら存在しないけど「花詠みの皇女」で。

 実は、急に登場した実弟クヴァルスに「殺されていた」んだ。


 という話を大型アップデート後の導入シーンで、ラスボスとしてボコされて弱気になっている一皇ディアルスに変わり、万命の令嬢たちに足で踏まれるのが大好きな皇国の策士こと、皇騎士二皇エディスより聞かされる。


 令嬢たちはその真相を、ウワサ話にたかるハエのような姿勢で探るべく、皇国を裏切ったイケメン「外騎士」に成り下がったクヴァルスをはじめ、長兄ではなく次男についたフィカ、そのほか衣装が色違いなコンパチでしかない同じ顔をした四人の皇騎士候補たちが逃げ込んだという、追放棄路へと踏み入れていく。


 追放棄路では、レッドがたびたび「フィカは皇女殺害に加担した悪だ」と罵り、フィカもたびたび「皇女は一皇になびいた尻軽だ」と罵り、それぞれが信奉する皇騎士一皇と外騎士一皇の正当性をアピールし合う。

 そして真相のことよりも、クエストの導線が悪く、見た目もかわいくない追放棄路を歩かされてばかりになることで、いろいろとどうでもよくなったプレイヤーは最終的に「外騎士の崩れ拠点」でクヴァルスと対峙し、倒したらエンド。


 そこで明かされる、真の悲劇の事件の真相は。

 実は、皇女はディアルスともクヴァルスとも幼なじみで。

 実は、皇女は裏でクヴァルスと誠実な蜜月をかわしていて。

 実は、隠し子までもうけているラブラブさで。

 実は、皇騎士一皇に選ばれて自信を持ったディアルスが、幼少時から好いていた皇女に「ずっと好きだった!」と就任式典で大胆な告白をし、誰もが皇女とクヴァルスの裏での蜜月を知らなかったがために皇国全体でお祝いムードになり、でも意外とまんざらでもなかった皇女がクヴァルスに「私、皇妃になるわ。さよなら」と言い放ってクヴァルスと口論になり、逆ギレした皇女が階段を踏み外して死亡したのを目撃者が「クヴァルスが殺した!」と騒ぎ、彼もまた愛しい人のために否定せず外騎士に身をやつし、隠し子も捨てられ、レッドは「敬愛する皇女を殺したやつを許せない!」と叛徒狩りに勤しみ、フィカはその修羅場を影で見ていた設定で「あのクソ女がいかにクソか!」を皇国に弁解する機会をうかがっていた。


 という、誰も悪くなかった悲劇(?)だったことが明かされる。

 それらに強いて挙げられた、聡明な万命の令嬢たちの感想は。


『皇女は死んでいいクソ女だけど、物語のオチが弱すぎて寒い。凍えるわ』

『クヴァルスもフィカもどこから生えてきた? 皇騎士のほうがいらんけど』

『そもそも物語とかどうでもいいから男キャラにもっと注力しろよ』

『なんだよこの外騎士の三から六はよぉ。四つ子か? 消費者なめてんの?』


 一度嫌いになったヤツにはもうなにを言われても嫌い、といったメンタルの法則により、運営にたくさんお届けされたメッセージはさておき。


 無条件で女性優位、というテーマだけは命ゴイの一貫性なのかもしれないし。

 単に、お客さまではあるものの粗雑な蛮族じみた万命の令嬢たちへの当てつけのようなメッセージ性が込められた真エンディングだったのかもしれない。


「そろそろ終わりだ、レッドォ!」

「死ぬのはオマエだ、フィカァ!」


 レッドもフィカも、HPやパラメータの類いはプレイヤー側のシステムに乗っかれない以上、視認できない。それでもシステムに即したAIパターンが、体感覚とも言うべき気付きで、それぞれの体力状況を分からせている。


「まずいですね。このままレッドが倒されてしまったら、どうしましょう……」

 ナビも間接的にだが、レッドへの心配が強くなる。


 皇束解除・弐式から先、レッドはフィカに大きな反撃を与えられていないが、諸刃の剣とばかりの反射ダメージで相手を削っていた。それが逆に危険を招く。


「皇束開放ォ……セカンドッ! ギルティ・カレスッッ!!」

 宣言は、フィカがHP50%に達した合図。


 さらなる強化は攻撃力15%の追加ダメージと、ステータス基底値1.3倍に加え。

 ここまでの時間経過で威力が充填される大技「ギルティ・カレス」の使用開放。


 レッドの体力がHP20%以下に達すれば、彼は最後の皇束解除に入れる。

 しかし、その前に大きすぎる一発でレッドを倒してしまえばいい。

 フィカが狙っていたのは、そのための一撃だった。


「レッド、あの世で皇女に伝えてくれ……どぐされ女が、死に続けて恥を知れと」

 フィカのティア・フロトゥピスがひときわ大きく発光し、電流を蓄える。

「ざけんなよッ……!」

 死を意識せざるを得ない、窮地のなか。

「レッドーっ! 倒れられては困りますーっ! ふんばりなさーーーいっ!」

 ナビが必死にエールを送った。

 それがあまり意外だったのか。レッドはつい、笑ってしまう。


「ぷっ……クックク。気が抜けること言うんじゃねえぞ、ナビがよ」

 場違いなエールに安らいだか、彼の陰気は払われた。

 じっくりと時間を充填していたフィカを見定めて、言い放つ。


「おい、フィカ」

「なんだ」

「ヘルプヤクの魔女は……ナビは、皇国を害する存在じゃない。命は許してやれ」

「……皇騎士であるキミが、最後に言いたいことが、魔女の命乞いなのか?」

「クックク、オマエにゃ、それくらいしか言いたいことがねぇだけだよ」

「そうか、分かった…………なら死ね。レッド」

 ティア・フロトゥピスの蓄電が、臨界点を超える。

「ああ、いっちょ死んでやるよッッ」

 ボロボロの皇騎士刀を振り上げ、激しく地に打ち立てる。


「我は輝かしきサッドライク皇国の皇騎士が十三皇、レッド=フォン=プリンシュヴァリエ! 皇騎士の誇りにかけてッ、死んでも外騎士には屈服せんッ!!」


 運命を悟った男の剛気な名乗りに、フィカは、親友との別れがよぎったか。

 少しだけ顔を伏せたあと、意を決し、十三皇に引導を渡そうと剣を振り上げ。


「ッ!? カハッ!?!?」

 急に、よろめいた。


 フィカは血を吐くような動きをしたが、吐血は仕様外。まるで、見えない鈍器でぶたれたかのように、一人で勝手に踊っているようにすら映った。

 不可思議な事態。名誉の死を受け入れようとしていたレッドがポカンとした顔で立ち止まる一方、ナビはハッと気付き、フィカは怒りの相貌で問う。


「レッド、まさか、そんな、今のは……蛮女の、隷属にまで堕ちたかァッ!!!」

 ヘルプヤクの魔女の目から見ても、間違いなかった。


 レッドはこの土壇場で、万命の令嬢だけが紡げる、言の葉の精神暴力。

 万命術を、その口で発揮させていた。


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